Menu

Terra(LUNA)とは何だったのか?アルゴリズム型ステーブルコインの仕組みとリスクについて徹底解説

解説系記事

2022年の暗号資産(仮想通貨)市場は大幅な下落を見せています。

7月〜8月にかけてやや底を打った感はあるものの、大きく反転していく期待感もなく、方向感の無い相場が続いています。

このような市場全体の大幅な下落の要因の1つは、間違いなく5月に起きたUST及びLUNAの歴史的大暴落にあります。USTはアルゴリズム型ステーブルコインと呼ばれる暗号資産の1種で、LUNAはUSTの価格維持に利用されている暗号資産です。

この記事ではLUNAの大暴落を題材とし、アルゴリズム型ステーブルコインの価格維持の仕組みやリスクについて解説します。

LUNAとUSTが大暴落

2022年5月、ステーブルコインのUSTと、USTの価格維持に用いられる暗号資産であるLUNAの価格が大暴落しました。

暴落後にこれらの通貨の名称は変更されましたが、本記事では当時の名称であるUSTとLUNAを用います。

特にLUNAの大暴落ぶりは凄まじいものがありました。暴落直前までは全暗号資産の時価総額ランキングでTOP10に入っていたにもかかわらず、瞬く間に「1LUNA=1円未満のほぼ無価値な通貨」になったのです。

引用元:CoinMarketCap

上記のチャートはLUNAの直近1年間の価格推移です。名称がTerra Classicとなっていますが、これはTerra(LUNA)の変更後の名称です。

2022年4月上旬には1LUNA=約1万4,000円を記録しており、この頃は世界でも有数の優良銘柄として認められていました。

ところが、5月に入ってから目を疑うほどの急落を見せています。グラフの縮尺上、横ばいにしか見えませんが、実際の価格は2022年8月現在で1LUNA=約0.012円です。

ピーク時と比較して「約120万分の1」にまで下落している価格を見れば、この出来事が明らかな異常事態であることは誰でも気づくはずです。

このような歴史的大暴落はなぜ起きたのでしょうか。

その理由を理解するために、まずはUSTとLUNAがどのような暗号資産なのかを解説します。

USTとは

引用元:Terra

USTはステーブルコインの1種です。

ステーブルコインは安定した価格を維持できるように設計された暗号資産です。

ステーブルコインに関する詳細は後ほど解説しますが、基本的な性質として、多くのステーブルコインは価格が1米ドルと連動するように作られています。

USTもこの条件に該当しており「1UST=1米ドル」で価格が維持されるようになっていました。

そして、この価格維持のメカニズムを実現するために用いられていた暗号資産がLUNAです。

LUNAとは

LUNAの最も重要な役割は、上記の通り「1UST=1米ドル」の価格を維持することです。

一言でいえば「USTの価格が1ドルから外れて上下した際に、LUNAを売買することによってUSTの価格を1ドルに引き戻す」ことが可能な仕組みになっていました。

その他にもLUNAは、Anchor(アンカー)という高利回りを実現していたDeFiプロトコルでも利用されるなど、非常に注目を集めていた銘柄でもありました。

ステーブルコインについて

LUNAの大暴落の要因は、ステーブルコインであるUSTの価格維持のためにLUNAが用いられていたという仕組みにあります。

そこでまずは、どのようにしてステーブルコインの価格が維持されているのかを理解しておきましょう。

ステーブルコインとは

引用元:コインテレグラフ

ステーブルコインは価格が安定的に維持されるように設計された暗号資産です。

「安定的に維持」とは、暴落や暴騰が決して起こらないという意味ではありません。ステーブルコインの価格も、他の暗号資産と同様に常に変化しています。

ビットコインやイーサリアムなどの代表的な暗号資産からいわゆる草コインまで、暗号資産の価格変動は非常に振れ幅(ボラティリティ)が大きいのが一般的です。

最大の時価総額を誇るビットコインでさえ、1日で数%価格が上下することはごく普通に起こりえます。ちなみに、もし株式投資で価格が1日数%上下するようなことがあれば、それはかなり大きな出来事です。

まして草コインとよばれるマイナーな銘柄であれば、わずか数時間で50%上昇したかと思えば、逆に80%下落することもあります。

これに対してステーブルコインの多くは、先ほども述べた通り1米ドルの価格と連動するように設計されています。

代表的なステーブルコインにUSDCがあります。USDCの価格も米ドルと連動するように設計されており、本記事の執筆時点では1USDC=1ドル=約138円です。

つまり、日本に住むわたしたちの視点から見れば、ドルと円の為替レートが変動することによりUSDCの価値も変動することになります。

ドル円の為替レートは決して不変なものではなく、昨今のように急激な円安が進めば、ドルの価値が上がり、それに伴いUSDCの価値も急激に上昇することは起こりえます。

しかしながらステーブルコインの本質は「価格の安定的な維持」であるため、ドルの価格にしっかりと連動する機能が働いている限りは、そのステーブルコインは名前の通り「安定的(ステーブル)」であると言えます。

そして、1ドルとの連動が外れた(=安定的でなくなった)ことにより価格が崩壊したのが、本記事のテーマであるLUNAによって価格維持を図っていたUSTです。USTの価格維持の仕組みは後ほど解説します。

ステーブルコインの種類

ステーブルコインは、その価値を担保する手法によって大きく以下の4つに分類されます。

  • 法定通貨担保型
  • 暗号資産担保型
  • コモディティ担保型
  • 無担保型(アルゴリズム担保型)

法定通貨担保型は、ドルや円などの法定通貨を裏付け資産に持つことで価値を担保しているステーブルコインです。

USDCやUSDTなど、代表的なステーブルコインの多くは法定通貨担保型になっています。

暗号資産担保型は、他の暗号資産を担保にして価値を維持しており、DAIなどが該当します。

コモディティ担保型は、原油や金などの商品を担保にしています。

そして最後に無担保型(アルゴリズム担保型)のステーブルコインです。USTはこれに該当しており、担保となる資産を持ちません。

担保資産がない代わりに、特殊なアルゴリズムによって価格を維持しています。

価格維持のアルゴリズムの細かい部分は、ステーブルコインの種類毎に異なります。ここからは、USTの価格維持アルゴリズムの仕組みと、その中でLUNAがどのように用いられていたのかを解説します。

LUNAによるUST価格維持のアルゴリズム

USTは価格維持のための担保資産がありません。

代わりに、USTとLUNAの売買によって価格の維持を実現しています。

1UST=1ドル分のLUNAと交換可能

重要な前提として「1USTは1ドル分のLUNAと必ず交換できる」というものがありました。

この交換はテラステーションと呼ばれる分散型システムにおいて約束されていました。

たとえば、テラステーションに1,000USTを投入すると、1,000ドル相当のLUNAと交換できます。

ここで重要なのは「1,000ドル相当のLUNA=1,000枚のLUNA」であるとは限らない点です。

これは逆も然りで、1,000USTがほしい場合は「1,000ドル相当のLUNA」を差し出す必要があります。1,000枚のLUNAを投入しても、1,000USTが必ずしも得られるわけではありません。

UST価格が上昇した場合に働く価格維持メカニズム

ここからは、UST価格が1ドルから外れた際に働く価格維持メカニズムの仕組みを見てみましょう。

まずはUST価格が1ドルよりも上昇した場合です。

今、手元に100ドルがあると仮定し、1USTの価格は通常の2倍(1UST=2ドル)まで上昇したとします。

この時、以下の手順を踏むことで手元の100ドルを200ドルに増やすことができます。

  1. 100ドルで「100ドル分のLUNA」を購入する
  2. 「100ドル分のLUNA」を100USTと交換する(1UST=1ドル相当のLUNAの原則)
  3. 100USTを売却することで200ドルを手にする(1UST=2ドル)

1UST=1ドル分のLUNAと交換できる前提と、1UST=2ドルの条件により、このような取引が成立します。

この時、手順2で差し出したLUNAはburn(焼却)され、USTは新規発行されます。

通貨は流通量が減ると価格が上昇し、流通量が増えると価格が下落します。

このケースではburn(流通量減少)したLUNAの価格は上昇、新規発行(流通量増加)したUSTの価格は下落するため、USTの価格は1UST=2ドルから1ドルになるまで下落し続けます。

UST価格が下落した場合に働く価格維持メカニズム

逆の場合も同様です。

USTの価格が1ドルよりも下落した際は、価格が1ドルに戻るまでは価格上昇の圧力が働きます。そして今回、USTとLUNAに起きた暴落はこのパターンに当てはまります。

先ほどと同じ例で考えてみましょう。

手元には100ドルがあり、UST価格は1UST=0.5ドル(通常の半分)だとします。

この時は、以下の手順を踏むことで100ドルを200ドルに増やすことができます。

100ドルで200USTを購入する(1UST=0.5ドル)
200USTを「200ドル分のLUNA」と交換する(1UST=1ドル相当のLUNAの原則)
「200ドル分のLUNA」を売却して200ドルを得る

先ほどとは逆に、USTがburnされて流通量減少・価格上昇、LUNAが新規発行されて流通量増加・価格減少というメカニズムが働きます。

これが1UST=1ドルに上昇するまで続くことで、UST価格は担保なしでも1ドルと連動するように保たれていました。

暴落の直接的原因とその後のLUNAの動き

直前で確認したケースのように、USTの価格が下がる(上の例では1UST=0.5ドルまで下がっている)と、UST価格を上昇させようとした結果、LUNAの価格が下がります。

つまりLUNAが大暴落した背景には、それより先にUSTの暴落が起きたという事実があります。そして、このUSTの暴落こそがLUNA大暴落の引き金となりました。

USTが暴落した原因は?

ではなぜ、USTは1ドルとの連動を維持できずに価格が下落したのでしょうか。

最も大きな原因とされるのは、先ほども述べたDeFiプロトコル「Anchor」から多額の預り金(UST)が引き出されたことです。

5月6日から9日にかけて、約7,000億円ものUSTがプロトコルから引き出され、これによりUSTの信用リスクが急速に高まりました。

DeFiでは、プロトコルの預り金が極端に減少すると流動性が不足し、正常に機能しなくなる恐れがあります。そのため、巨額のUSTが引き出されたことを受けて一般のユーザーも次々とUSTを売却しました。

USTが売られて価格が下がれば、その身代わりとしてLUNAの価格が下落します。その後、下落は歯止めがかからなくなり、LUNAはほぼ無価値同然となるまで大暴落しました。

巨額のUSTの引き出し行為自体は、大口投資家による悪意を持った相場操縦であることが疑われています。

暗号資産は、売りから取引を行うショートポジションを持つことで、その通貨の価格が下落したときに利益を得られるという仕組みがあります。

今回のLUNA暴落の件は、あえてUST及びLUNA価格を下落させる動きを取ることでさらなる下落を誘発し、暴落によって逆に自分の利益を膨らませることを狙った、非常に悪質な行為に原因があると推測されています。

LUNAとアルゴリズム型ステーブルコインの今後の展望まとめ

今回の暴落の後、旧LUNAは名称を変えて存続、そして新しいLUNAも誕生しましたが、市場の信頼は取り戻せていません。事実上、LUNAはもはや復活は不可能と言わざるを得ないでしょう。

そして、この件を受けてアルゴリズム型ステーブルコインの仕組み自体にも厳しい視線が向けられています。

担保資産なしでも価格の維持を実現し得るステーブルコインの仕組み自体は革命的な技術ですが、大きな欠陥があることを露呈してしまったことは重く受け止めなければなりません。

ステーブルコインにまつわる今後の技術発展に期待しつつも、ユーザーとしては各銘柄の真価を正しく見定めていく必要がありそうです。

Sparrow

Sparrow

フリーランスのWebライター。ブロックチェーンの非中央集権的な世界観に惚れ込み、暗号資産・NFT・メタバースなどのWeb3領域に絞って記事を執筆。自らの暗号資産投資やNFT売買の経験をもとに、難しいと思われがちなブロックチェーンについて、初心者にもわかりやすい記事を書くことを心がけています。好きなNFTクリエイターは「おにぎりまん」氏。
Author