NOT A HOTEL DAO株式会社は2024年12月、日本初となる不動産裏付け型のRWAトークン「NOT A HOTEL COIN(NAC)」のIEOを実施し、20億円を超える資金調達に成功しました。
既存の不動産事業を基盤としながら、Web3技術を活用して新たな価値を創出する同プロジェクトは、暗号資産(仮想通貨)業界からも大きな注目を集めています。本記事では、NACが示す新たなビジネスモデルとその可能性について詳しく解説していきます。
この記事の構成
NOT A HOTELが描くWeb3時代の不動産活用モデル
高級不動産の分野で革新的なビジネスモデルを展開してきたNOT A HOTELは、Web3技術を活用し、より多くの人々に価値を提供するエコシステムの構築を目指しています。ここでは、プロジェクトの背景から現在の展開まで、その歩みを詳しく見ていきましょう。
プロジェクトの背景と目的
NOT A HOTELは「世界中にあなたの家を」というビジョンのもと、2020年の設立以来、世界的な建築家やクリエイターが手がけるデザイン性の高い物件を提供してきました。
IoTなどのテクノロジーを活用した快適性と、ラグジュアリーな空間設計を両立させることで、新しい不動産活用の形を提案しています。
従来は一部の富裕層にしか手の届かなかった高級物件を、より多くの人々が利用できる仕組みを作ることで、不動産業界に新たな価値を創出することを目指しています。
さらに、物件を自宅としても別荘としても、またホテルとしても活用できる柔軟な運用モデルを確立し、資産としての価値と実用性を両立させています。
NFTからトークンへの展開
NOT A HOTELは2022年、業界に先駆けてNFTを活用したメンバーシップ制度を導入しました。販売開始からわずか20分で3億円分のNFTが完売し、その後8ヶ月間で累計7億4,300万円の販売実績を上げるなど、画期的な成功を収めています。
このNFTでの成功体験を基に、より多くのユーザーが参加できる仕組みとして、今回のNACトークンの発行に至りました。メンバーシップNFTと異なり、NACトークンのIEOは1万円という少額から参加でき、より幅広い層へのアプローチが可能となっています。
さらに、NFTとトークンを組み合わせることで、より柔軟な権利の移転や取引が可能になり、エコシステムの拡大にもつながっています。
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成功を支えるマーケティング戦略
NOT A HOTELの成長を支えているのが、段階的な市場拡大戦略です。当初は富裕層向けの高級不動産として展開し、ブランド価値を確立しました。
次にNFTを導入することで、富裕層以外の関心も集め、コミュニティの形成に成功しています。そして現在は、NACトークンによって参入障壁を大幅に下げることで、より広い層へのアプローチを実現しています。
また、オンライン・オフライン両方でのコミュニティ活動を展開し、メンバー同士の交流を促進することで、ブランドへの信頼性と愛着を高めています。
さらに、地域との連携や各種イベントの開催など、多角的なマーケティング施策を展開することで、持続的な成長を実現してきました。
NACが示すRWAトークンの革新性
実物資産を基盤とした暗号資産の活用は、Web3技術の新たな活用法として注目を集めています。NACは、日本初の不動産裏付け型RWAトークンとして、その実用性と将来性を体現するプロジェクトだと言えます。
実体経済との結びつき
NACは、NOT A HOTELが実際に保有・運営する不動産物件を基盤としています。
調達資金は新規不動産物件の購入に充てられ、2025年夏頃までに新たに2つの拠点を開業するようです。このように、トークンの価値が実体のある資産に裏付けられていることで、プロジェクトの信頼性が担保されています。
また、NACはホテル利用時の付帯費用の支払いや物件管理費の決済にも使用できるため、実体経済との結びつきが明確です。さらに、土地の提供や建築プランの作成など、プロジェクトへの貢献に対する報酬としてもNACは活用されるようです。
トークンエコノミクスの特徴
NACの初期総発行枚数は250万枚で、ユーザーに80%、NOT A HOTEL DAO社に18%、システム開発・マーケティングに2%が割り当てられています。
この分配比率は、既存のトークンプロジェクトと比較して、ユーザーへの配分が極めて高い点が特徴的です。
IEOでの販売価格は1枚1,000円で、最小購入単位は10枚に設定され、幅広い層が参加しやすい設計となっています。
また、今後のプロジェクト拡大に応じて追加発行の可能性がありますが、それは過去のIEOで調達した資金が現物資産に置き換わった段階で実施される予定です。
長期的価格維持のための3つの施策
NOT A HOTELは、NACの長期的な価値維持のために複数の施策を導入しています。
まず、IEOでの購入者に対して、購入額にかかわらず一律90%のロックアップを設定しています。その後、6ヶ月かけて15%ずつ段階的に解放することで、急激な売り圧力を防いでいます。
トークン保有者に対する宿泊権の付与やNACの追加配布など、長期保有のインセンティブも用意しているようです。
また、ホテル運用収益の一部を使用してNACを市場から買い戻し、その一部をバーン(焼却)することで、トークンの希少性を高める仕組みも導入されました。これらの施策は国内のIEOとしては初めての試みとなり、投資家保護の観点からも注目を集めています。
トークン設計に見る投資家保護の取り組み
暗号資産プロジェクトにおいて、投資家保護は最も重要な要素の一つです。NACは、これまでの国内IEOの課題を踏まえ、複数の独自の施策を実装しています。
フェアな初期分布の実現
過去の暗号資産プロジェクトでは、プロジェクト関係者や初期投資家への過度な配分が問題視されてきました。NACはこの課題に対し、総発行枚数の80%をユーザーに配分するという、国内IEOでは最大規模のユーザーへの優先割当を実施しています。
また、社内外関係者への事前販売や配布を一切行わないことで、全ての投資家が同じスタートラインに立てる環境が整えられています。
トークン保有者へのユーティリティ提供
NACは単なる投機対象ではなく、実用的な価値を持つトークンとして設計されている点が特徴的です。
保有者は、トークンをレンディングすることでNOT A HOTELの宿泊権を得ることができます。これにより、通常は数十万円する宿泊費用を実質的に無料で利用できます。
また、施設内での付帯サービスの支払いにもNACを使用でき、日常的な利用価値も確保されていると言えます。さらに、保有者限定のイベントや特典も用意されており、コミュニティメンバーとしての付加価値も提供しています。
Web3技術による地方創生への挑戦
NACプロジェクトは、単なる不動産投資の枠を超え、地域活性化という社会的意義も持ち合わせています。Web3技術を活用することで、地域と投資家、そして利用者をつなぐ新しい経済圏の創出を目指しています。
「地方を共に創るDAO」というビジョン
NOT A HOTEL DAOは「地方を共に創るDAO」というコンセプトを掲げ、地域に根ざした価値創造を目指しています。
全国各地の遊休地や未活用資産を、高付加価値な滞在施設として再生することで、新たな観光資源を生み出すことを狙いとしているようです。また、地域住民や行政との連携を通じて、持続可能な観光開発のモデルケースを提示しています。
土地提供者や地域コミュニティの参画
NACエコシステムでは、土地の提供や建築プランの作成などの貢献に対して、トークンという形で対価を受け取ることができます。また、地域の土地所有者は、遊休地を提供することでプロジェクトへの参画と収益機会を得ることができます。
地域の建築家やデザイナーなども、プロジェクトに参加することで新たな活躍の場を得られます。さらに、地域住民向けの特別プログラムも用意されており、地域全体でプロジェクトの恩恵を享受できる仕組みとなっています。
マーケティング施策とエコシステムの拡大
NOT A HOTELは、Web3技術を活用した新しいマーケティング手法を展開しながら、持続的な成長を実現しています。富裕層向けの高級不動産という従来のイメージから、より幅広い層が参加できるエコシステムへと進化を遂げています。
コミュニティ形成戦略
NOT A HOTELは、NFTメンバーシップの展開を通じて、すでに強固なコミュニティ基盤を築いています。オンラインではDiscordを活用したコミュニティ運営を行い、メンバー同士の活発な交流を促進しています。
また、オフラインでも各地の施設でメンバー限定イベントを開催し、リアルな関係性の構築にも成功。さらに、コミュニティメンバーの声を積極的に取り入れ、新規施設の開発やサービス改善に活かす仕組みも確立されています。
事業成長に向けたマーケティングロードマップ
今後の展開として、NOT A HOTELは新たなマーケティング施策も計画しています。
具体例として、既存のNFTホルダーとNACトークン保有者の相互連携を強化し、コミュニティの一体感を高めていく動きがあります。また、地域との連携を深め、各施設での体験プログラムやイベントを充実させることで、リピーター率の向上を目指す取り組みもあるようです。
NAC上場後の展開と今後の展望
2024年12月13日のGMOコインへの上場を果たしたNACは、初日から活発な取引を記録し、市場からの高い関心を集めています。プロジェクトの今後の展開と、Web3×不動産の可能性について見ていきましょう。
IEO後の市場動向
引用元:GMOコイン
NACは上場初日、IEO価格である1,000円を大きく上回る水準でスタートし、約2,200円の高値を記録しました。その後も上昇を続け、約3,200円の最高値をつけています。
これは、国内で7例目となるIEOの中でも注目すべき市場デビューとなっています。また、IEOでの資金調達額も20億7,000万円と、国内最大規模を達成しました。
さらに取引開始後も、90%のロックアップ設計によって過度な売り圧力を抑制することに成功しています。
2025年に向けた事業拡大計画
NOT A HOTELは2025年夏頃までに、新たに2つの拠点開設を計画しています。これらの新規拠点は、IEOで調達した資金を活用して開発される予定です。また、既存施設の価値向上にも注力し、アクティビティの充実や付帯サービスの拡充を進めています。
さらに、自動車やクルーザー、ヘリコプターなどの移動手段をNACで利用できるようにする計画もあります。トークンの利用シーンの大幅な拡大を目指していることが伺えます。
Web3×不動産プロジェクトの課題と可能性
実物資産とWeb3技術を組み合わせたプロジェクトには、いくつかの課題も存在します。法規制の整備や、不動産価値の変動リスク、施設の老朽化対策など、長期的な視点での取り組みが必要です。
一方で、トークンを通じた新しい資産運用の形や、コミュニティベースの施設運営など、従来にない可能性も広がっています。また、地域活性化のモデルケースとしても期待され、今後の展開が注目されている領域だと言えるでしょう。
RWAトークンが切り拓く新たなビジネスモデル
NOT A HOTEL COINは、実物資産を基盤としながらWeb3技術を活用する新しいビジネスモデルを提示しています。初期の資金調達の成功や、市場での高い評価は、この方向性への期待の表れと言えるでしょう。
今後は、プロジェクトの持続的な成長と、地域社会への貢献が期待されます。Web3技術と実物資産を組み合わせた取り組みは、新しい価値創造の可能性を示すものとして、ビジネス界からも大きな注目を集めています。