NFTアートでは日本のアニメ風デザインの作品が多くの支持を集めています。AzukiやLove Addicted Girlsなどのコレクションは世界的に幅広く人気があります。
日本文化をコンセプトにしたNFTは評価される可能性が常にあり、日本人発のNFTには大きな期待がかけられています。
2022年7月16日にプレセールが実施された「MEGAMI」というジェネラティブNFTのコレクションは大きな成功を収めており、ユニークなコンセプトが話題となっています。
引用元:MEGAMI
「ポケモンカード」や「デュエルマスターズ」などのイラストを手掛ける人気イラストレーターの「さいとうなおき」氏が牽引するプロジェクトで、1万枚という膨大な供給数やロイヤリティーフリーなども大きく販売を伸ばす要因となっています。
この記事では、MEGAMIの特徴や戦略を解説します。
この記事の構成
NFTプロジェクト「MEGAMI」の特徴
「MEGAMI」は日本発のNFTプロジェクトで、2022年7月に開催された初期セールで完売するというデビューを飾りました。パブリックセール前に用意したNFTがすべて売り切れています。
これはロックバンドやアイドルでたとえると、「デビューイベントでのチケットが先行予約だけで完売して一般発売の分が余らなかった」ようなもので、事前の準備や告知、仕込みなどの戦略が功を奏したことを意味します。
初期セール終了時点の利益は1,000ETH以上と推測されており、日本発のNFTプロジェクトとしては大成功の部類に入ります。
この記事では、初期セール段階から多くのファンを抱えることになった「MEGAMI」プロジェクトの概要や巧みな戦略について紹介します。
さいとうなおき氏が牽引する「MEGAMI」
MEGAMIの主宰は「さいとうなおき」氏です。
さいとう氏は「ポケモンカードゲーム」「デュエルマスターズ」などのイラストを手掛ける著名なイラストレーターで、YouTubeでの発信にも注力しており、2022年6月にはチャンネル登録者数が100万人を超えるほどの人気を博しています。英語での発信にも力を入れており、Twitterのフォロワー数は40万人を超えています(2022年10月現在)。
「MEGAMI」はさいとう氏にとって3つ目のNFTプロジェクトで、数十枚のイラストをパーツごとに分解してプログラムの自動生成で作成する「ジェネラティブアート」のスタイルを採っています。
引用元:OpenSea
公式YouTubeチャンネルでの発信によると、「MEGAMI」コレクションは自動プログラムによって「全1万枚」を発行するとされています。
NFTホルダーが商用目的に利用できる
「MEGAMI」プロジェクトの最大の特徴は「商用目的」に利用できる点です。通常のNFTでは、購入・入手した人はSNSのプロフィール画像に利用したりアートとしてディスプレイして楽しんだりすることは可能ですが、そのNFTを利用してお金を稼ぐことはできません。
ところが、MEGAMIではNFTホルダーが「NFTの画像を利用して利益を得ること」を公式に許可しています。この点で、他のNFTプロジェクトにはない価値があります。
引用元:MEGAMI
日本語版の「MEGAMI」ホームページの「Art License」には、「MEGAMIに関連する創作活動に参加する人たちの権利と保護を明確に定義して奨励する」としています。
この戦略のユニークな点は、単に「NFTを購入した人は、自分の保有するNFTを商用利用して良い」としただけでなく、持っていない人も「二次創作を許可」している点です。
NFTの保有者でなくても二次利用を認めるというのは、いかにも「二次創作が活発な日本」らしいアイデアです。
MEGAMIのキャラクターを利用した二次創作のマンガを描いて販売しても良いですし、オリジナルアニメを作っても良いということで、単なるNFTプロジェクトを超えた広がりを獲得できる可能性があります。
すでにMEGAMIのNFTをモチーフとして二次創作も活発に行われています。
引用元:Twitter
二次創作の許可により、MEGAMIの制作側だけでなく、MEGAMIのファンであるクリエイターにも恩恵が得られる仕組みになっているのがユニークと言えます。
販売前にすべてのデザインが公開
MEGAMIプロジェクトで特徴的なのが「NFT販売前にすべてのデザインを公開した」ことです。
通常、NFTプロジェクトではNFTの発行権限を得られるメンバーをホワイトリストなどの「先行予約」で集めます。ホワイトリストでメンバーとなった人は新規発行のときに「mint」して新しいNFTを獲得しますが、このとき獲得できるNFTのデザインは「ランダムに設定」されることがほとんどです。
ランダム設定であるため、「何が出るか」を楽しめる一方で、入手した後に「気に入らない」「思っていたのと違う」などといったときに手放すこともあります。
MEGAMIの場合には、販売前にすべてのNFTのデザインが公開されました。「自分が好きなデザイン」を選ぶことができたということです。1つのNFTに複数の人がmintしてしまうということが起こらないように、先着順に発行しました。
この販売方法にも「ファンを大事にする」という姿勢が現れています。
MEGAMIの独自戦略とは
「MEGAMI」がNFTプロジェクトとして優れているのは、日本のアニメ・マンガ・ゲームが今まで育ててきた「創作文化」に対する理解が深いという点です。
いわゆる「サブカルチャー」と呼ばれるジャンルでは、1つの作品を様々なメディアで展開するメディアミックスが行われます。また、二次創作が活発というのも大きな特徴です。受け手は一方的に作品を楽しむ側となるだけでなく、キャラクターを使った作品を自分で創作して発表します。
ここでは、MEGAMIプロジェクトが日本のサブカルチャーを理解したうえで展開している戦略を紹介します。
「MEGAMIX」という考え方
引用元:MEGAMI
MEGAMIプロジェクトのコンセプトになっているのは「MEGAMIX」という考え方です。
MEGAMIXとは
- クリエイターアライアンス
- MEGAMIスタンダードワークス
- メタMEGAMI
クリエイターアライアンスとは、NFTの販売で得た収益の一部を次の制作に運用していくという考え方です。暗号資産(仮想通貨)の力で、クリエイターに自由な環境と大きな裁量を与え、正当な報酬を実現すると公式で語っています。
MEGAMIXを通して、関わるクリエイターには報酬を与えてホルダーもメリットを感じられる活動を行っていく計画です。
MEGAMIスタンダードワークスとは、「多くの人と協力するMEGAMIをより多くの人たちが楽しめるコンテンツとして充実させる」ことです。イラスト作品としてのNFTアートだけでなく、ゲームやアニメなど様々なコンテンツとして充実させていくという考え方です。
さいとう氏は「MEGAMIのホルダーもクリエイターの一員だ」と語っています。ホルダーなら所持しているMEGAMIをそのまま二次創作などで商用利用して良いことになっています。
メタMEGAMIとは、二次創作として商用利用を認める考え方で、一定限度までは自由にキャラクターを使ったビジネスを展開して良いとする提案です。
クリエイターとしての思想が現れている
「MEGAMI」コレクションには、主宰のさいとうなおき氏のクリエイターとしての思想が現れています。
さいとう氏はMEGAMI以前にもNFTのシリーズを手掛けており高額で取引されていますが、それらは「一点物」のコレクションでした。一点物ですので、個々の作品には貴重な価値があります。
ところが、MEGAMIは基本となるデザインに各種パーツを組み合わせた「ジェネラティブアート」のスタイルです。こういったシリーズをNFT業界では「コレクティブ」と呼びます。コレクティブの強みは「数が多い」ことです。
さいとう氏は、MEGAMIコレクションによって、「NFTを多くの人が所有できて、多くの人が利用できるものにしたい」と考えていることを、Twitterなどで発信しています。
引用元:Twitter
たくさんの「MEGAMI」たちのなかから自分の好みを探しているとき、「それはあなたがあなた自身を探していること」であり、「自分の個人的な女神を見つけて、自分の価値を再発見することをプロジェクトで目指したい」とさいとう氏は語っています。
公式に「二次創作OK」
「MEGAMI」の戦略として特徴的なのが「二次創作OK」というルールです。NFTホルダーだけでなく、保有していない人でも二次創作をして良いと公式に発表しています。
日本のアニメやマンガの分野では、二次創作が活発に行われています。ところが、原作側が公式に「二次創作をして良いですよ」としているわけではありません。
近年では「二次創作のルール」を公式に発表するコンテンツもありますが、実はいままでは「著作権侵害が親告罪である」ということを隠れ蓑にして「公式が見て見ぬ振りをしてきた」だけです。
二次創作では悪質にも取れるほどにエロティックな表現も散見されます。原作側と二次創作側とで意見が別れるようなこともあり、いくつかのコンテンツでは問題化したこともあります。
現在、アニメやマンガの分野では、公式にルールを発表して二次創作を許容しているものもあります。ルールを守って二次創作をしてもらい、コンテンツを盛り上げていくという取り組みです。
引用元:ウマ娘プリティーダービー
MEGAMIプロジェクトもこうした動きを受けて、ホルダーやファンと協力してコンテンツを盛り上げていくため、公式にルールを設定して二次創作を後押しするというスタンスを採っています。今までのNFTプロジェクトにはない画期的な試みと言っていいでしょう。
MEGAMIの二次創作について
「MEGAMI」プロジェクトは二次創作を許可してコンテンツとして盛り上げていこうという思想があります。ただ、無制限に誰でも何でもして良いというわけではありません。
「MEGAMI」プロジェクトのユニークな点である「二次創作OK」について、詳しく解説していきます。
なぜ公式に認めているのか
引用元:Twitter
「MEGAMI」がなぜ公式に二次創作を認めているかについては、ホームページの「Art License」に詳しく記載されています。
ここで強調されているのは「NFTを保有することもまた創作活動である」という考え方です。
MEGAMIコレクションには数多くのMEGAMIたちが揃っています。「FaceType」だけでも、天使や女子高生、キューピット、ナースなど8パターンあり、着ているものやポージングも様々です。このなかから自分の好みのMEGAMIを選ぶことそのものも、「創作である」とするのがMEGAMIプロジェクトの考えです。
自分の好みのMEGAMIを見つけたら、その子を使ってポスターを作ってみたりアニメーションにして動かしてみたりしたくなるかもしれません。グッズを作って友人や知り合いと共有してみたくなるかもしれません。
MEGAMIプロジェクトでは、そういった活動を「自己表現」として許容し、自己表現した人たちをクリエイターとして認めて収益を上げることを許可しています。
イラストが描けない人でも、「自分はこういった子が好きなんだ。だからグッズにして誰かと共有したい」と言って活動していいとするのがMEGAMIプロジェクトです。
MEGAMIに関連した創作活動に参加する人たちの権利を保護することを通して、創作者とコミュニティが活性化することを目指しています。
二次創作のルール
MEGAMIの「Art License」の対象となるのは、「個人のクリエイター」または「個人が集まった概ね5人以内の小規模チーム」です。
企業や団体、5人以上のチームの活動については別のライセンスを適用します。
基本的なルールとして重要なのは「適切なクレジットを入れること」「NFTをどのように表現してほしいかという気持ちを尊重すること」です。
クレジットとして「MEGAMIのキャラクターを利用したこと」を明記し、NFTアート制作した人・NFTの保有者が不快な気持ちにならない表現をすることを重視しています。
そのうえでルールは以下のように定められています。
- NFTホルダー・非ホルダーともにあらゆる媒体でもコピーまたは共有を許可
- NFTホルダーは累計収入が500万ドルに到達するまでの商用利用での二次創作物の作成を許可
- NFT非ホルダーは累計収入が200万ドルに到達するまでの商用利用での二次創作物の作成を許可
二次創作として「イラスト・マンガ・小説・動画・同人誌」などが事例として挙げられています。フィギュア化や人形、コスプレなどの作成や展示、配布も二次創作として許可されています。
禁止事項
- MEGAMIのイメージを逸脱する内容
- MEGAMIのイメージを損なう内容
- 公序良俗に反する内容
- 差別的な内容
この他、MEGAMI公式と詐称することや、MEGAMIのArt Licenseの目的やルールに反する内容は禁止されています。
二次創作の事例
すでにMEGAMIの二次創作は活発に行われています。
引用元:Twitter
MEGAMI「#02902」のキャラクターを利用したアニメーションです。
引用元:Twitter
MEGAMI「#02759」を立体的なイラストに仕立てたものです。
この他、「男性化させたイラスト」や「ポーズから想像した下半身」、3Dモデリングなども創作されています。自分ではイラストを描く技術がないというホルダーは、イラストレーターに依頼して自分のキャラクターの全身像を描いてもらうということも行われています。
NFTの「概念」の浸透に貢献する
MEGAMIはNFT業界に大きな貢献を果たしていると言えます。というのも、NFTの普及や「NFTって何?」という疑問に答えているからです。
NFTに馴染みがない人にとっては「デジタルアートのイラストに具体的な金銭的価値が発生する」ということは受け入れにくいことです。今でも「NFTアートなんてコピペしたらいいじゃないか」とか「具体的な物質がないものに価値なんてない」と考えている人は大勢います。
確かにネット上にあるイラストですのでコピーするのは簡単です。「どれがオリジナルなのか」は問題ないと考えることもできるでしょう。
ところが、NFTは違います。今は様々なクリエイターが参加して、リアルな世界で絵画を販売するのと同様にNFTアートが販売されています。
MEGAMIは保有している人が二次創作をして商用利用することが可能ですし、保有していなくてもMEGAMIを利用した創作をして売ってもいいことになっています。
これまでNFTに関心がなかった人たちにもNFTを浸透させるきっかけになる可能性があります。
今までNFTを知らなかった人にも、「デジタルのイラストにお金を払って手に入れる」ことに面白さや楽しさを見いだせるようになるかもしれません。
この点で、MEGAMIプロジェクトには大きな意味合いが感じられます。
まとめ
さいとうなおき氏が発信したMEGAMIプロジェクトについて紹介しました。
最後にこの記事をまとめます。
- MEGAMIはさいとうなおき氏が手掛けたジェネラティブアートのコレクションである
- MEGAMIを商用目的に利用できる
- MEGAMIは「NFTを保有すること自体が創作活動である」という思想を持っている
- すでに多くの二次創作が発表されている
- NFTの概念の浸透に貢献する可能性がある
今後、どのような展開を見せるのか注目しましょう。