Googleと言えば、GAFAMの一角を担い、しかもWeb3やブロックチェーン界隈からすると敬遠されがちな大企業です。
しかし、このGoogleは早くからWeb3について注視しており、2022年に入ってからはその取り組みの加速度が増してきました。
今回は、Googleの暗号資産やWeb3への取組を紹介しながら、その注力度の高さを解説していきます。
この記事の構成
Google(Google Cloud)におけるブロックチェーンへの取り組みの歴史
Googleでの暗号資産への取組は、クラウドサービスを提供するGoogle Cloudが行っています。
まずは2021年までに発表されたブロックチェーンプロジェクトとの提携や社内取組について紹介していきます。
ブロックチェーンアプリの開発を可能に
ITmediaによると2018年7月23日、GoogleはアメリカでDLT(Distributed Ledger Technology:分散型台帳技術)を手掛ける「Digital Asset」と連携し、Google Cloudにてブロックチェーンアプリの開発が可能になったことを発表しました。
Digital Assetは、Google Cloudに自社のSDK(Soft Development Kitの略で、ソフトウェアを開発する際に必要となるプログラムやAPIなどの様々なツールをパッケージ化したもの)を提供します。
これにより、Google CloudではDigital Assetが開発したスマートコントラクト開発言語であるDAML(Digital Asset Modeling Languag)を利用できるようになり、ブロックチェーンアプリの開発が可能になりました。
デジタル部門を設立
2022年1月20日のBloombergの記事によると、Googleがブロックチェーンと関連技術を専門的に取り組むチームを設立したとの発表がありました。
責任者にはShivakumar Venkataraman氏が指名され、ブロックチェーンや他の次世代分散コンピューティング、及びデータストレージ技術を開発する部門を統括する役割を担うとされています。
Venkataraman氏は、Googleの中核事業である「検索広告」の分野で約10年にわたり幹部として携わってきており、同社の分散ネットワーク技術に関する研究も発表しており、今回の任命は適任であると期待されています。
ChainlinkでGoogle Cloudの天気データを利用可能に
2021年8月6日、暗号資産のオラクルプロジェクトである「Chainlink」で、Google Cloudが提供する天気データが利用可能になったことを発表しました。
Chainlinkはオラクルと言って、スマートコントラクトに外部データを繋げて提供させるサービスを手掛けている最も有名なプロジェクトです。
気象による甚大な被害は世界中で発生しており、一般の家屋などの他、農業を始めとするあらゆるインフラストラクチャに多大な損害を与えています。
残念ながらこれらの気象状況を制御する技術はまだ存在しませんが、予測の制度をあげることにより軽減できる可能性があります。
そこで、Google Cloudが持っている気候に関する膨大なデータをChainlinkに提供し、イーサリアムブロックチェーンでの活用を目指します。
具体的には、Google Cloudが世界中の9,000を超える地点の天気データを、Chainlinkを経由しイーサリアムブロックチェーンのスマートコントラクトへ提供され、DeFi(分散型金融)にて利用できるようにすることです。
このデータは世界中のどこからでも、また誰でも利用することが可能になり、持続可能な農業事業の開発や気象保険などにおいて最適な利用を提供できることを目指しています。
2022年からの動き
2022年からは社内での専門チームの設置や、プロジェクトとの提携が増えてきて、ブロックチェーンと暗号資産への取り組みが、より積極的になってきます。
デジタルアセットチームを立ち上げ
2022年1月27日、Google Cloudのブログにてデジタルアセットチームの立ち上げを発表しました。
ブロックチェーン技術の活用が広がるにつれ、企業などでは安全で持続可能なインフラストラクチャーを必要としています。
Google Cloudはこれらの進化において、重要な役割を果たすことができると考えており、様々な場面で企業のニーズをサポートするために、デジタルアセットチームを設立するに至ったとしています。
このチームのパートナーになるメリットとして以下の項目を挙げています。
- Google Cloudは2030年までに全てのデータセンターを24時間365日、カーボンフリーで稼働させることを目指しているため、企業のビジネスとデベロッパーのエコシステムを業界で最もクリーンなクラウド上に構築できる。
- ブロックチェーン上のソフトウェアやデータの配信を高速化させることが可能になり、ユーザーのアプリケーションへの高速アクセスが実現できる。
- NFTのようなデジタルアセットの他、ゲームやアプリケーションなど、あらゆるデータを、安全で安定性の高いグローバルなネットワーク上に提供できるようになる。
Web3の専門チーム設立
2022年5月6日、アメリカのCNBCがGoogle CloudがWeb3の専門チームを設立したと発表しました。
CNBCが行ったGoogle Cloudの幹部であるAmit Zavery氏へのインタビューにおいて、Zavery氏は
「Web3の普及は世界的にまだ初期段階だが、多くの顧客がWeb3や暗号関連技術のサポートを強く求めており、すでに途方もない可能性を示している市場である。」
「私たちは暗号資産の波に直接参加しようしているわけではなく、企業が現在のビジネスでWeb3の分散型の性質を使用し、活用するためのテクノロジーを提供していきます。」
このように述べて、Google CloudのプラットフォームがWeb3の開発者にとって最善の選択肢になるように取り組んでいくと意欲を示しました。
BNBチェーンと提携
2022年9月14日、バイナンスのブロックチェーンであるBNBチェーンがGoogle Cloudと連携したことを発表しました。
(引用元:https://twitter.com/BNBCHAIN/status/1570061321881763840?s=20&t=Zs_a-ftQW4zhUbwJA8VIhA)
この提携によりBNB上のスタートアップは「Google for Startups クラウドプログラム」へのアクセスが可能になります。
このプログラムは、初期段階のスタートアップ企業がビジネスを確立し成長させるのを支援するために、2年間で最大20万ドル(約2,800万円)のGoogle Cloudクレジットが付与されます。
さらに、以下についての参加が可能になります。
- Google Cloud Startup Successチームのメンバーや、データ管理、データ分析、AI、機械学習、セロトラスト、セキュリティなどに関する専門技術者と連携が可能
- Web3開発者ワークショップに参加できるようになる
- Google Cloud Skills Boostのトレーニングと認定された資格を利用できる
- Google Cloudのグローバルカスタマーコミュニティへの参加が可能
NEARプロトコルと提携
2022年10月4日、レイヤー1チェーンで、イーサリアムキラーとも呼ばれるNEARプロトコルがGoogle Cloudとパートナーシップを締結したことを発表しました。
(引用元:https://twitter.com/NEARProtocol/status/1577597503968509953?s=20&t=F6NOgqLytMz06JVPgpXgrA)
NEARプロトコルは、高速処理とスケーラブルを実現し、しかも低手数料で利用できるスマートコントラクト機能を備えているレイヤー1のメインチェーンです。
公式サイトによると、この発表時時点で、NEARプロトコル2,000万を超えるアカウント、そして2億のトランザクションがあり、NEARに構築されたプロジェクトは800に到達しているとしています。
今回の提携により、Pagodaと呼ばれるNEARのWeb3スタートアッププラットフォームに、Google Cloudのインフラストラクチャを提供し、開発者は速くて安全に、そしてシームレスにデプロイ(配備・展開などの意)することを可能にします。
Coinbaseと提携
2022年10月11日、米大手暗号資産取引所であるCoinbaseとの提携を発表し、2023年の早々からクラウドサービスでの暗号資産決済を開始するとしました。
暗号資産決済はCoinbaseのカストディサービスであるCoinbase Primeを利用し、Web3業界での一部の顧客のみへの提供から開始する見込みです。
Google CloudのCEOであるThomas Kurian氏は
「我々はWeb3での開発を速く、簡単にしたいと考えている。Coinbaseとの提携によりその目標に一歩近づくことができる」
と述べています。
また、Coinbaseの共同創業者兼CEOであるBraian Armstrong氏は
「Web3エコシステムに信頼性の高いブリッジを作るという我々のビジョンを実行するために、これ以上のパートナーはいない」
と発言しています。
ブロックチェーン・ノード・エンジンをリリース
2022年10月28日、ノードホスティングサービスである「ブロックチェーン・ノード・エンジン」のリリースを発表し、まず最初にイーサリアムブロックチェーンをサポートします。
ノードとは、ブロックチェーンのような分散型ネットワークを動かしているコンピューターのことを言います。
それぞれのノードはP2P(ピア・トゥ・ピア)で全て繋がっており、ブロックチェーン上にあるDappsのトランザクションの検証作業などを行い、全てのトランザクションは全てのノードの台帳に同期され記録として保存されます。
このノードに参加するには簡単なことではなく、デプロイが難しいだけでなく継続的な管理が必要になるなど多数の障壁があります。
ブロックチェーン・ノード・エンジンはこれらの問題を解決し、ノードに参加する困難を取り除くことを可能にしました。
その理由を問題点を提起しながら解説します。
合理化されたProvisioning(必要なものを準備すること)
現在、ノードを展開するまでの準備にある程度の時間が必要とされています。
例えば計算インスタントのProvisioning、イーサリアムクライアント(プログラミング言語で実装させたCUI(キャラクター・ユーザー・インターフェイス))のインストールなどの準備が必要です。
さらに、ノードがネットワークネットワークと同期するのを待つ時間も含めると、ジェネシスブロック(最初のブロック)から完全に同期を終えるまで数日かかります。
ブロックチェーン・ノード・エンジンを使用すると、1回の操作で迅速かつ簡単にノードをデプロイすることが実現します。
安全な開発
Google Cloudのセキュリティ対策を使用し、ブロックチェーンノードへの不正アクセスやDDos攻撃(複数のコンピューターから一斉に大量のデータ送付やアクセスを行いサーバーをダウンさせる攻撃)から保護することが可能になります。
完全に管理された運用
ノードを運用していくにあたり、正常な状態を維持するために、開発と運用の担当者を手元に置いてシステムを監視するなど、インフラストラクチャに気を配る必要があります。
しかし、ブロックチェーン・ノード・エンジンはフルマネージメントであるため可用性(Availability:システムを継続的に稼働させること)についての懸念を払拭させ、ノードの運用者はインフラストラクチャではなく、ユーザーに集中できるようになります。
イーサリアムメインネット上のホスティングISPの割合
ここでイーサリアムブロックチェーンにおけるノードの割り合いについての資料をいくつか紹介します。
ホスティングサービスの利用率
ethernodes.orgによると、イーサリアムメインネット上でホスティングサービスを利用しているノードは2022年11月27日現在で66.85%と半数以上を占めています。
(引用元:https://ethernodes.org/network-types)
ISP別の利用率
その中で、使用しているISPの割合は同時期でAmazonが62.4%を占めており、Google Cloudは5.6%に留まっています。
(引用元:https://ethernodes.org/networkType/Hosting)
ブロックチェーン・ノード・エンジンでSolanaのサポートを発表
2022年11月6日、Solanaブロックチェーンにてバリデーターを実行していることを発表し、2023年からグーグル・ノード・エンジンでSolanaをサポートすることも明らかにしました。
これにより、Solanaチェーン上で誰でも気軽にノードをクラウド上でホストすることが可能になります。
まとめ
ここまで紹介してきたように、GoogleがWeb3への取組に積極的に関わってきていることについて様々な意見があります。
Web3を目指す新規ユーザーの参入障壁を減らし、Web3への参入しやすくなると歓迎する声もあります。
一方、本来ブロックチェーンは非中央集権であるはずが、Googleが入ることにより中央集権が強くなり、Web2と変わらないとの意見もあがっています。
現在世界中でWeb3への取り組みが始まり、日本でも大手企業による参入の発表が相次いでいます。
今後も企業によるWeb3への参入が増えると予想されますが、どのようなWeb3の世界が構築されるのか、注目していきたいと思います。