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暗号資産に迫るマネーロンダリング規制とは?ミキシングサービスの問題点や今後を解説

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世界各国の政府が、暗号資産(仮想通貨)に対する規制強化に乗り出しています。特に問題視されている仕組みが、暗号資産の「ミキシングサービス」です。ミキシングサービスは利用者のプライバシーを保護できる一方で、テロや犯罪の温床として問題視されています。

この記事では、ミキシングサービスの問題点や今後の動向について紹介します。

暗号資産のミキシングサービスとは?

ミキシングサービスは、暗号資産の送り手と受け手を仲介する機能です。送金における中継地点の役割を果たし、取引記録を非公開にできます。具体的には、以下の特徴を持ちます。

匿名での送金を可能にするサービス

一般的なブロックチェーンによる取引では、取引日時や送金先、金額といった情報がすべてのユーザーに対して公表されます。この取引における透明性の高さこそが、ブロックチェーンの公正さを担保しています。しかし、すべての取引記録が公開されているため、銀行取引のようなプライバシー保護はできません。

そこで登場した仕組みが、「ミキシングサービス」です。ミキシングサービスは、送金の際に中継地点の役割を果たします。ミキシングサービスを経由して送られた暗号資産は、送り先や送金額が不透明に。取引内容を誰にも明かさずに送金ができるため、プライバシーを確保する手段として有効です。

複数の取引をまとめて処理できる

ミキシングサービスでは複数の利用者から寄せられた取引を一旦集約して、送付先に分配します。そのため、送金者からミキシングサービス宛てに暗号資産が送られた形跡は残るものの、最終的にどのアドレスに向けて送金したのかは特定できません。

ミキシングサービスの内部では常に膨大なトランザクションが繰り返されており、送金者から集められた資金が循環しています。ミキシングサービスに送られた暗号資産は細分化され、取引の経路をたどることは不可能です。

中央集権型と分散型のサービスが存在する

ミキシングサービスには、中央集権型と分散型の2種類が存在します。中央集権的なサービスの特徴は、運営者が存在する点です。運営者が依頼主の送金を取りまとめ、個々のアドレスへの分配を行います。人為的なトランザクションが介在しており、運営者は資金の流れを把握できます。また、運営者による資金持ち逃げの懸念も否めません。

これに対して分散型のミキシングサービスでは、プログラムのみが送金を実行するため、人間による仲介を必要としません。「ゼロ知識証明」という技術を活用し、送金内容を誰にも開示することなく、自動で取引を実行できるからです。さらに匿名性を強化するために、複数の分散型ミキシングサービスを経由して送金する手法も存在します。

一定時間の経過により取引履歴が削除される

一部のミキシングサービスでは、一定時間の経過によって取引履歴を自動で削除する機能が組み込まれています。データが抹消されると一切の追跡が不可能になるため、高い匿名性を維持できます。データが消去された後は、たとえ運営者だとしても取引内容の復元はできません。

プライバシーコインと呼ぶ銘柄も存在する

ミキシングサービスの運営組織は、暗号資産の開発者とは無関係です。しかし一方で、暗号資産の開発者がミキシングサービスの機能を設計段階から組み込む場合もあります。この匿名性の高い銘柄を「プライバシーコイン」と呼びます。このプライバシーコインは、その名の通り利用者の個人情報を重視するコインです。

プライバシーコインでは、ブロックチェーン上の取引において自動的に匿名化が実行されます。複数のトランザクションを経由した送金などがプログラムで規定されているため、第三者による送金記録の特定が困難です。

ミキシングサービスの問題点

ブロックチェーン上の取引でありながらプライバシーを確保できるため、ミキシングサービスは画期的な仕組みです。しかし現状は、犯罪組織によるマネー・ロンダリングの手段として悪用されており、大きな問題になっています。具体的には、以下の懸念事項が存在します。

マネーロンダリングの温床になっている

ミキシングサービスにおける最大の懸念事項は、マネーロンダリングの手口として悪用されている点。テロや犯罪組織による不正利用が絶えず、各国政府がミキシングサービスの存在を問題視しています。

詐欺や犯罪で不正に得た暗号資産であっても、ミキシングサービスを介しただけで追跡が困難になります。実際に過去の事例でも、DeFiへのハッキング攻撃で流出した資金の多くは、ミキシングサービスへと送られてきました。第三国への送金も容易であり、各国政府の制裁や規制を掻い潜るための抜け穴として機能しているのが実態です。

送金の正当性を誰も検証できない

ミキシングサービスにおける懸念は、捜査機関であっても送金の正当性を検証できない点です。従来の金融機関では、捜査機関からの要請が合った場合には顧客の取引データを開示する義務がありました。これにより、テロや犯罪における資金の流れを把握できていました。

一方でミキシングサービスの場合は、捜査機関であっても取引内容を確認できません。特に分散型のミキシングサービスは運営組織の実態も分からず、捜査は不可能です。犯罪組織だけでなく、健全な利用者も自身の取引の正当性を証明できないため、今後大きな問題が発生する懸念もあります。

また、ミキシングサービス自体による横領のリスクも否定できません。ミキシングサービスが保有する資金量や資金の流れは外部から確認できず、資金の中抜きが行われている可能性も。たとえ不正が疑われる場合でも、捜査機関による立証は困難です。

健全な利用者の預金も封鎖される

ミキシングサービスでは、一般の利用者も資金を凍結されるリスクがあります。複数の取引を一括して処理する性質上、健全な取引に犯罪組織の資金が紛れ込む可能性も否定できないからです。もしマネーロンダリングの形跡が見つかった際には、健全な利用者の資金も区別なく凍結の対象になります。

実際に、2022年8月にはアメリカ財務省がTronado Cashに対して制裁を発動し、アメリカ人による利用を禁止しました。この制裁を受けて、暗号資産取引所もTronado Cashと取引した形跡のあるアカウントを凍結しています。突如として制限がかかったため、健全な投資家も資金を引き出せなくなる事態に。ミキシングサービスのリスクが表面化しました。

匿名性を高めた暗号資産サービスの代表例

ミキシングサービスやプライバシーコインには、さまざまな種類が存在します。ここでは、代表的なサービスを紹介します。なお当サイトおよび運営者は、これらのミキシングサービスの利用を推奨するわけではありません。

Tronado Cash(トルネードキャッシュ)

Tronado Cashはミキシングサービスの中でも大きなシェアを占めたため、広く注目を集めてきました。Tronado Cashには特定の運営者が存在せず、分散型自律組織(DAO)によって管理されています。このDAOのガバナンストークンが、「TORN」です。

Tronado CashはイーサリアムやBinanceスマートチェーンなど、複数のブロックチェーンに対応しており、多くの投資家から利用されてきました。しかし同時に、テロや犯罪組織によるマネーロンダリングにも悪用されてしまいます。結果として、アメリカ財務省から制裁対象に指定され、Tronado Cashは勢いを失いました。

Blender.io(ブレンダー)

Blender.ioは、2017年に誕生した中央集権型のミキシングサービスです。古くから存在するミキシングサービスであり、広く利用されてきました。しかし、NFTゲーム「Axie Infinity」がハッキング被害を受けた際に、資金洗浄の場として利用されてしまいました。このハッキング事件には、北朝鮮のハッカー集団「Lazarus(ラザルス)」も関与しているとされています。結果として、Blender.ioはアメリカ財務省によって制裁対象に指定されました。

XMR(モネロ)

XMRは、プライバシーコインの一種です。取引のたびに生成されるワンタイムアドレス「ステルスアドレス」を駆使して、送金先を秘匿化しています。加えて「リング署名」という技術により取引の署名を第三者の取引に紛れ込ませて、送金内容の特定を困難にします。

かつては日本の暗号資産取引所でも入手できたものの、XMRの匿名性の高さが問題視されたため、日本市場から姿を消しました。

ZEC(ジーキャッシュ)

トランザクションを明かさずに送金できるプライバシーコインが、ZECです。ゼロ知識証明を用いた暗号化技術「zk-SNARKs」によって、取引内容を公開せずに送金を実行できます。ビットコインをモデルに設計されているため、ビットコインと同様に約4年に1度の半減期が設定されています。

DASH(ダッシュ)

DASHは、ビットコインのソースコードを基盤に作られた暗号資産銘柄です。「PrivateSend」という技術が用いられており、送金された資金は一度同じアドレスにプールされます。一つのアドレスに集約された後に個々のアドレスに送金されるため、送金記録を秘匿化できる仕組みです。

世界各国のミキシングサービスに対する対応

マネーロンダリングの代表的な手法としてミキシングサービスがたびたび悪用されるようになったため、各国政府も規制強化に乗り出しています。

アメリカ

アメリカ財務省OFAC(外国資産管理室)は、ミキシングサービスに対する制裁を積極的に発動しています。具体例として2022年8月には「Tronado Cash」と「Blender.io」が制裁対象に指定されました。制裁によってアメリカ国内にあるミキシングサービスの資産が凍結される上に、アメリカ人による利用が禁止されます。

財務省OFACの決定を受けて、民間の暗号資産業者も対応を迫られました。ミキシングサービスとの取引履歴が確認されたアカウントを凍結しており、資金の流れを封殺しています。このほかにもプログラミング情報サイトでは、ミキシングに関係するプログラミングデータが非公開になったりと、官民を挙げた追放が進んでいます。

EU

2019年にEUの欧州刑事警察機構は、大手のミキシングサービス「Bestmixer.io(ベストミキサー)」をマネーロンダリングの容疑で検挙しています。結果として、Bestmixer.ioは閉鎖に追い込まれました。

このほかにも、EUはミキシングサービスへの締め付けに注力しています。その具体的な規制が、「第6次アンチマネーロンダリング指令(AMLD6)」です。AMLD6によって、マネーロンダリングの疑われるサーバーへの監視が強化されています。捜査範囲も拡大され、EU全体でのミキシングサービスへの締め付けが強まっています。

日本

日本では、ミキシングサービスに対する規制や制裁は発動されていません。しかし、ミキシングサービスの利用が公的に認められているわけでもありません。そのためアメリカやEUでの規制強化に追従して、ミキシングサービスへの締め付けが強まる可能性もあります。

このような背景から、国内の暗号資産取引所はプライバシーコインの自主的な排除を進めています。実際に、大手取引所からはXRMやDASHが姿を消しました。今後も、ミキシングサービスやプライバシーコインが正式に認可される可能性はないと考えられます。

ミキシングサービスの今後の動向

ミキシングサービスはプライバシー確保の手段として期待される一方で、マネーロンダリングの抜け穴となっているのが実態です。実際に、詐欺やハッキングによって奪われたトークンの多くは、ミキシングサービスへと流れています。そのため、今後もミキシングサービスに対する規制強化は続くと考えられます。安全性が担保されていないサービスであるため、利用は避けたほうが賢明でしょう。

段巴亜

dan

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