2021年8月28日、6秒動画Vineの創始者の一人であったドム・ホフマン氏によって、NFT Lootがローンチされました。この記事ではこのプロジェクトを詳しくみていきましょう。
この記事の構成
NFT Lootとは?
正式名はLoot for AdventuresというNFTゲームプロジェクトですが、これまでの企業側がゲーム開発を行うというスタイルとは真逆の形式であることから業界の話題をさらいました。ここではそのLootがいったいどういうものかについて見ていきます。
LootはテキストのNFT
NFTと言うとクリエーターによって創作された画像を思い浮かべる人が多いと思いますが、NFT Lootは黒い背景に白地で8列に表記された8つのテキストが提供されるのみです。
Lootを和訳すると「戦利品」という意味で、それらのテキストはゲームのキャラクターが所持する下記のような8種類の戦利品をイメージしています。
実際のNFT Lootの例をあげると下記のようなものです。この例では一行目の戦利品であるweaponsが「Katana」というアイテムで定義されていますが、weaponsには「Katana」以外にも約20種類のアイテムがありその内の一つが表示されています。
chestArmorなど他の戦利品も同様に、そのイメージに合ったいくつかのアイテムから一つが表示されています。つまり、各戦利品のアイテムの組み合わせによって、すべて異なる種類のNFT Lootが作られることになります。
このような8つのアイテムのセットはバッグ(Bag)と呼ばれ、NFT Lootとして8,000種類のバッグが配布されました。最初は無償でしたがそれ以降はマーケットプレイスで高値で取引されており、上記のバッグは安い方ですが2022年6月上旬時点で、0.88ETH(約21万5,000円)で販売されています。
中に入っているアイテムのレア度によって、バックの価値(販売価格)に差が出ます。レア度はあらかじめ決められているアイテムの表示頻度によって、「Common」「Uncommon」「Rare」「Epic」「Legendary」「Mythic」の6段階に分かれています。
アイテムのレア度を知るのに便利な「Inventory」というサイトがあり、マーケットプレイスで出品されているLoot IDで検索することにより判明するサービスです。
Inventoryではバッグ内のアイテムのレア度が一目でわかるように、アイテムのテキストが段階に応じたカラーで表示されています。(下記参照)
試しにLoot ID ♯1279と♯1283の二つを検索すると、それぞれ下のように表示されました。画像下部を見ると分かる通り、Inventory ではアイテムのレア度以外にも、そのLoot自体のランキングや上位何%に位置しているか、アイテムスコアといった情報を知ることが可能です。この2例で比較すると、右の♯1283の方が価値が高いと分かりますね。
参照サイト:Inventory
8つのアイテムにより創作される世界
「なぜ文字だけのセットがこんなに高く取引されるのか」と不思議に思う方も多いかも知れません。その秘密は提供される8つアイテムをもとに、ゲームを作成する過程のほとんどがコミュニティに委ねられるプロジェクト形式にあります。
アイテムに対する画像やスタッツ(強さのスコア)などの情報は意図的に省略されており、創作者が自由に解釈してロールプレイングゲームを作り上げていくスタイルです。
最初にあげたNFT Lootの例では武器として刀が定義されていましたが、刀にもいろいろな種類があるため、クリエーターによってイラストの形や色・設定する強さや利用できる場面などイメージや発想が異なります。
その異なる部分をクリエーターの裁量によって決め、8つのアイテムを自由にゲームに組み込むことができるというところが彼らの想像力を掻き立てているのでしょう。
そのうえ創作ロールプレイングゲームなので、ゲームストーリーや登場するキャラ、時代背景、場所などにも制限はありません。8アイテムに与えられた文字以外は余白であることから、世界中のクリエーターの遊び心が揺さぶられ爆発的にヒットしていきました。
NFT Loot創作者の意図
このように、Loot創作者のドム氏はゲームの世界の基礎を8つのテキストで作っただけで、それらのアイテムの具現化や派生プロジェクトのルールなどのすべての意思決定を、それぞれのLootのコミュニティに任せました。
コミュニティはLootホルダーやファンで形成されており、議論はLoot Community DiscordやLoot Builder Discordなどの専用チャットサイトで行われています。
これがドム氏が考え作り出した「ボトムアップのアプローチでNFTゲームを作り上げていく」という新しい概念であり、彼が意図したNFTゲームの方向性でした。
- ゲームのストーリーを作る
- キャラクターのアバターを作る
- 装備を作る
- ゲームのルールを作る
- ゲームの音楽を作る
- ゲームを動かすメタバースを作る
ひとつのLootをもとにして、上記のような作業を分担し話し合いながらゲームを創作することは、制作を含めたゲームの世界の主権がユーザーに与えられたという画期的な出来事に間違いありません。
NFT Lootの特徴
NFT Lootがどういうものであるかが分かったところで、その主な特徴を見ていきましょう。
ボトムアップ型プロジェクトであること
前述の通り、NFT Lootはボトムアップのアプローチを初めて採用したNFTゲームプロジェクトです。
NFTの登場はデジタルアイテムに唯一無二の価値を与える革新的な出来事でしたが、トップダウンのアプローチで展開されることが殆どでした。NFTゲームでも企業側が中央集権的に開発し、ユーザーが参加できるのはリリースされた商品の運営方針決定に携わるケースが限界でした。
そのようにNFTゲームが完成品を提供していたところに、組み立て自由なゲームの部品だけを提供する形をとったNFT Lootは、NFT界にパラダイムシフトを起こしたと言えるでしょう。
オープンソースで著作権が存在しない
NFT Lootは誰も著作権を持たないオープンソースのプラットフォームです。これが通常のNFTゲームとの大きな違いです。
イーサリアムブロックチェーン上のトークンであり、非代替性を保持しているので誰でも参加が可能でありながら不正が行われることはありません。
ガバナンストークンのAGLDによりLoot運営への参加が可能
AGDLはNFT Lootのガバナンストークンであり、それを所有することによってLoot運営方針を決定する投票に参加できます。
Lootローンチ時に8,000個のバッグ(NFT)が無償で配られた際、同時に1NFTにつき10,000AGLDが配布され、保有数に応じて投票権が与えられました。また、将来NFT Lootをもとに作成されたPRGゲームがリリースを迎えるときには、ゲーム通貨として利用される予定です。
AGLDはすでにBinance(バイナンス)やCoinbase(コインベース)といった、大手海外取引所においてもすでに上場されており、厳しい審査を通過していることにより注目を集めました。
Loot NFTの購入方法
NFT Lootに興味を持たれた方の為に、購入方法を解説します。
NFT Lootは世界最大手のマーケットプレイス・OpenSeaにて購入可能です。OpenSeaでLootを取引する際は暗号資産イーサ(ETH)が利用されていますので、下記の手続きとなります。
- 暗号資産取引所でのイーサ(ETH)の購入
- ウォレットへの送金(入金)
- OpenSeaでのウォレット登録
- NFT Loot購入
ここではその一般的な流れを説明します。
暗号資産取引所でのイーサ(ETH)の購入
お目当てのLootをあらかじめ決めておくと、その購入に必要なイーサ(ETH)がわかり便利です。Lootを探すときは下図のようにOpenSeaの検索欄へ赤丸印の通りLootと入力し、赤矢印で示しているプルダウンメニューにあるLoot(for Adventures)をクリックします。
下図のようなLootが出品されている画面に切り替わりますので、その中から購入するLootを決めて金額を確認します。その際、前述のInventoryを利用するといいでしょう。
暗号資産イーサ(ETH)をお持ちでない場合は、まず国内の暗号資産取引所で口座開設を行い、日本円を入金してイーサ(ETH)を購入します。イーサ(ETH)を取扱う取引所は多いですが、Coincheck(コインチェック)やbitFlye(ビットフライヤー)といった大手は、サービスが充実しているのでおススメです。
ウォレットへの送金
暗号資産取引所で購入したイーサ(ETH)をウォレットへ送金(入金)します。
ウォレットは暗号資産を利用する取引に必要なバーチャル財布というイメージですが、まだ利用経験がない場合は世界で最も利用されているMetaMask(メタマスク)がおススメです。PCの場合はGoogle Chromeのプラグインが、スマートフォンの場合はアプリが提供されているため、取り扱いに困ることがありません。
OpenSeaでのウォレット登録からLoot購入へ
OpenSeaでの購入は事前にウォレットを登録(紐づけ)しておくことにより、商品を選択して購入へ進むとウォレットが開いて支払いを行う仕組みです。これで事前に決めておいたLootの購入ボタンを押すことによって、それを手に入れることができます。
NFT Lootの課題と将来
NFT Lootはまだ各コミュニティでRPGゲームの創作が続けられている段階で、2022年6月現在では完成されたものはありません。ボトムアップ方式の新しいプロジェクトですので、今後どのように発展していくのかは予想が難しい状況です。
NFT Lootの価値はコミュニティに依存
NFT Lootの人気は何といっても中央集権的な開発者が存在せず、コミュニティがゲーム開発の主導権を握っているという斬新なアイデアにあります。
つまり、これまでのNFTゲームが完成品として提供される形だったのに対し、単なる8つのテキストから自由に作品を創造していくところにLootの革新性がありました。
今後は、開発コミュニティに属する参加者たちがいかにそれぞれの能力を発揮し、全体として適切な意思決定を行いながら、いかにプロジェクトを進めていくかが重要になります。
自由度が高いだけに、将来、実用的で人気の高いゲームが実現される保証はなく、Lootの本当の価値はコミュニティ次第というところが課題です。
イーサリアムブロックチェーンのガス代
イーサリアムブロックチェーンは様々な機能を持っているために、世界中で利用が広がって巨大なネットワークへと成長を続けています。しかしそれゆえに、処理速度の低下やガス代の値上がり、電力消費量の増大という、いわゆるスケーラビリティ問題を解決するのが当面の課題となっています。
Lootもイーサリアムブロックチェーン上で稼働させるNFTゲームですので、手続きのたびにガス代が発生することになり、この影響を受けます。
現在、イーサリアム財団はETH2.0というアップデートによるスケーラビリティ問題の解決を指導しており、その完了は2022年以内とされています。
NFT価格の高騰
NFT Lootの最大の特徴かつ人気の秘密は、前述の通り誰でも参加できるコミュニティによるゲーム開発にあります。
しかし、その人気から需要が高まることによりNFT Lootの価格が高騰し、参加するためにはある程度の経済力が必要になる可能性も否めません。
その場合、限られた一部の人達によるコミュニティでのゲーム開発となり、結果的に広く普及するゲームではなく経済力のあるマニアの間での楽しみに終わる懸念があります。
派生Lootの拡大
Lootには前述のような課題もありますが、その斬新な仕組みが注目されていることから派生プロジェクトもいろいろ生まれています。
例えば、日本でも一般社団法人オタクコイン協会・CryptoGames株式会社が、Lootの仕組みを応用した実証実験プロジェクトとして「AnimeLoot」を2021年9月に発足させ、そのNFTを無料配布しました。
AnimeLootはアニメ版Lootとも呼ばれているように、コミュニティによる異世界転生アニメを創作するプロジェクトで、登場人物たちの設定が「種族」「性別」「出身」「性格」の4つでランダムに決定されるものです。
別の事例としてテキストではなく0から14までの15通りの数字によるLoot「The n project」がスタートし、その中から「Art For N」というGenerative Art (ジェネレーティブアート)が誕生しました。それは下図のようなアートワークで、nの数字配列をもとにアルゴリズム生成するNFTアートです。
参照サイト:The n project
NFT Loot まとめ
今回はボトムアップ型アプローチというこれまでなかった新しいNFTの形として「NFT Loot」を紹介しました。
現在のNFTゲームやアートなどは、有名なクリエーターや企業による完成品の提供が主流でした。
そんな中でNFT Lootはたった8つのテキストからコミュニティ主導で自由にNFTゲームを創作するという、中央集権的な要素が徹底的に排除された革新的なプロジェクトです。
作成過程ではすべてが分散化された自由度の高いNFTゲームプロジェクトなだけに、コミュニティの実力によっては最悪の場合、費やした時間に見合わない成果しか出なかったというようなLootも出るかも知れません。
しかし、まだまだ黎明期と言えるNFTの分野で、NFT Lootや派生Lootに参加している人達はある意味その最先端を進んでいると言え、NFTゲームの多様化に貢献することは間違いないでしょう。
結果を出すまでにはもう少し時間が必要だと思われますが、NFT Lootは今後も注目に値するプロジェクトです。