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NFTにおける「パラメータ」とは?〜ゲームとアートでの違いを知ろう〜

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2021年に取引量が劇的に増加したことで話題となった「NFT(非代替性トークン)」は様々なジャンルに応用されています。2022年現在で注目されているのは「画像などの電子データに唯一性を与えるもの」で、アートNFTは「画像に唯一性を与えたNFT」の代表的な事例として知られています。

アート系作品には「パラメータのついたNFT作品」があり、デジタルアートならではの画期的な試みが行われています。ただ、一般的に「パラメータ」は「NFTゲーム」や「ブロックチェーンゲーム」と呼ばれるジャンルで使われます。

この記事では、NFTにおける「パラメータ」の意味の違いを確認し、アート系作品での「パラメータ付きNFT」が持つ可能性について解説します。

ゲームとアートでは「パラメータ」の意味に違いがある

「パラメータ」を辞書で引くと「変数」という意味が記載されています。IT用語として使われるのが一般的で、「ソフトウェアに影響を与える外部からのデータ」をパラメータと言います。この言葉は元の意味から派生して、ゲームとアートの2つの分野で若干違う意味で使われています。

ここでは両者での意味の違いを確認しましょう。

ゲームでのパラメータ

ゲームでの「パラメータ」は一般に「キャラクターが持っている能力値」を意味します。キャラクターのパラメータはゲームでの勝利や目的達成に影響します。

キャラクターは複数の「能力値」をパラメータとして持っていて、どれを伸ばすかで強さや使いやすさが変わります。パラメータの内容はゲームによって様々で、攻撃力や俊敏さ、体力、生命力など、多種多様です。

NFTゲームでも同様に、個別のアイテムの強さや能力をパラメータで表します。

「Move to Earn」のブームを巻き起こしたプロジェクトとして知られる「STEPN」も、「スニーカー」にパラメータが付与されています。

STEPNはNFTであるスニーカーをアプリで購入して、ポケモンGOのように現実世界で歩いたり走ったりすることで暗号資産(仮想通貨)を稼げるゲームです。

STEPNではスニーカーに5つの品質と4タイプの対応速度が設定されており、さらに個々のスニーカーに4種類のパラメータが存在します。

「Efficiency(効率)」「Luck(運)」「Comfort(快適さ)」「Resilience(耐久性)」から好みの特徴をユーザーが決めて最終的にどのようなスニーカーにするか決定します。

STEPNでは「走る・歩く」を継続しているとスニーカーもそれに伴って傷むようになっていて、必要に応じてトークンを使って補修する必要があります。「Resilience」が高ければスニーカーの傷みが遅くなるので支出を減らせます。

このように、NFTゲームでは個別のアイテムやキャラクターでの能力値を「パラメータ」で表します。

アートでのパラメータ

アートの世界で言うパラメータは、「作品内容に影響を与えるデータ」という意味で使われています。

アートのジャンルのひとつに「ジェネラティブアート」と呼ばれるものがあります。コンピュータソフトウェアのアルゴリズム・数学的手法・機械的で無作為的な自律過程によって生成される芸術作品です。

「コンピュータプログラムが生み出す芸術」がイメージとしては近く、コンピュータが計算して生み出す作品は、人工と自然の中間のような不思議な統一感をもったものとなります。

たとえば、「Worleyノイズ」という描画アルゴリズムがあります。1996年にスティーブン・ワーリーという芸術家が発表したコンピュータグラフィックスのプログラムで、アルゴリズムによって空間内にランダムにポイントを散乱させて、細胞のようなパターンを生成します。

引用元:Youtube

Worleyノイズを使うと円や正方形を描くだけでも人工的で統一感のあるアート作品を作ることができ、さらにパラメータを動かせばまた異なる作品を作り出すこともできます。たとえばパーリンノイズのパラメータにWorlyノイズの距離関数を入れると図形が変化します。

引用元:改造して遊ぼう!距離関数とノイズで作るジェネラティブアート

このようにジェネラティブアートでは、座標・距離・明度・彩度・広がりなどを含む「人工知能の振る舞い」をパラメータで指示することによって新しい作品を生み出すことができます。

パラメータとジェネラティブアートの関係

NFTの世界に触れた経験がある人なら、「ジェネラティブNFT」という用語を聞いたことがあるでしょう。NFTのジャンルでは「大量生産」の仕組みとして良く利用されており、パラメータを使って次々に作品を生み出します。この章では、先程のジェネラティブアートと「ジェネラティブNFT」の違いについて解説します。

量産型のジェネラティブアートNFT

NFTの世界には「ジェネラティブNFT」というジャンルがあり、高い人気があります。

ジェネラティブ(ジェネレーティブ)NFTは「あらかじめコンピュータに組み込まれたアルゴリズムによってランダムに画像を生成する」という方法で作られたNFTです。事前にいくつかのパーツを用意しておき、コンピュータが自動で組み合わせてNFT作品を生成します。

代表的なのが「Crypto Punks」で、ドット絵をジェネラティブNFT化した作品を発表しています。

引用元:Crypto Punks

どれも似たような絵になっているのは元の絵が同じだからです。元絵を作っておいて帽子や髪型、眼鏡などの装飾をコンピュータのアルゴリズムで自動的に付与するという手法が用いられています。

Crypto Punksの作品は「5つの元になる顔」と「92種類のアクセサリー」を組み合わせて作られており、希少な組み合わせほど高値で取引されます。

制作側から見たジェネラティブNFTのメリットは「大量生産が可能」という点です。Crypto Punksは最大発行数が1万枚もありますが、この枚数を人間がいちいち手で描くのは大変な手間です。画像生成のデータをパラメータ化することで初めて大量のNFTを生成することが可能になります。

実際に、プログラミングの知識がなくても自動生成ツールをダウンロードすればジェネラティブNFTを作成できます。骨格やパーツを用意して色味や装飾などのパラメータを設定すれば誰にでも作成できますし、自動的に大量のNFT作品を生み出せます。

人間が1枚ずつ手で描くのではなく、自動的に大量に生成される点で量産型と言えます。

デジタルアートとしてのジェネラティブアート

一方、ジェネラティブアートにおける「パラメータ」は大量生産のために使うものではありません。パラメータを設定して生成される作品である点ではジェネラティブNFTと同じですが、ジェネラティブアートでは「1回しか実現しないこと」を重視しています。

20世紀のアートにとって幾何学的・抽象化・偶然性は主要なテーマでした。

現代美術ではデタラメに絵の具を巻き散らかしたような抽象画が多く存在しますが、これはアーティストが意図的に偶然性を取り入れて制作されたものです。

ジェネラティブアートでは、コンピュータのプログラムが偶然に生み出す幾何学的模様を作品とします。

引用元:Sumally

初期のジェネラティブアートの代表作品とされるゲオルグ・ネースの1968年の作品『Schotter』(砂利)では、12個の正方形が下の列に向かうにつれて徐々に向きと位置が不規則に変わっていきます。そのような変化をするようにコンピュータのプログラムにパラメータを入力して生成された作品です。

ジェネラティブアートでも「パラメータ」は使われますが、コンピュータのプログラムが生み出す「偶発性・抽象性の重視」という思想が根底にあるという点でジェネラティブNFTとの違いがあります。

アーティスト志向のジェネラティブアートNFT

コンピュータのプログラムが偶然に生み出す抽象的な模様を作品化するというジェネラティブアートもNFTとして発行されています。

発表された作品そのものもNFT化されて出品されていますが、ジェネラティブアートの特性を活かしたユニークな試みも行われています。

ジェネラティブアートでは、アーティストはキャンパスに絵を描くのではありません。どのような線や図形を生み出すのかをプログラムのパラメータで指定します。

この性質を利用して「NFTアートが発行されるタイミングでプログラムを実行する」という作品が発表されています。アートを購入するときにプログラムが実行されて最終的なデザインが決まります。

NFT作品を描くのがアーティスト本人ではなく、コンピュータのプログラムであるという点がユニークと言えます。

たとえば、takawoというアーティストが作成している「Sintered Memories」という作品があります。

引用元:Opensea

出品されているNFTにパラメータが表示されていて、この値が変動することで画像が変化します。

NFTが発行される時点ではこのパラメータがランダムに入力されているため、ユーザーは「発行されるまでどのような画像が生成されるのか分からない」まま作品を購入します。ジェネラティブアートらしい偶然性を利用した試みです。

体験型アートとしてのジェネラティブアートNFT

ジェネラティブアートでは、パラメータを使って偶然性・抽象性を重視した作品が作られていることを確認しました。この章ではさらに進んだ考え方として、「パラメータをユーザーが動かせるアート」という新しい形態のNFTアートについて解説します。

ユーザーがパラメータを動かせるアートNFT

ジェネラティブアートでは、パラメータを変動させることで作品の内容が変動します。

パラメータをアーティストが設定できる「Worleyノイズ」というグラフィックスのプログラムもあれば、takawo氏が発表している作品のような「アートが発行されるタイミングでプログラムを実行する」という作品もあることを紹介しました。

さらに進んで、購入したユーザー自身にパラメータ調整の機構を残している作品も登場しています。

たとえばcocoponというアーティストが発表した「Popping Jellies」という作品があります。

引用元:NFTとジェネラティブアートとパラメータ調整

3色のゼリーがはじけたりくっついたりする様子を眺めるという作品ですが、ゼリーの力やサイズ、動きの速さなどに関するパラメータをユーザーが動かせる余地を残しています。

「range」と「force」がゼリーの力に関するパラメータ、「size」はゼリーの大きさ、「t」「dt」が周期に関するパラメータなどとなっています。

ジェネラティブアートとパラメータの調整も含めて作品とするというプロジェクトです。

Async Artで販売されるアートNFT

Async Artというマーケットプレイスでは、デジタルアートを中心にNFT作品が販売されています。アート系のプラットフォームは数多くありますが、Async Artは独自の形態の作品を販売しています。

引用元:Twitter

Async Artで販売されているアート作品には「マスター」とそれに属する「レイヤー」があります。

Async Artで販売されているアート

  • マスターNFTが1枚
  • レイヤーNFTは最高22枚

マスターとレイヤーを組み合わせて「変化するNFTアート」を入手できます。

公式のギャラリーを見てみると、たとえば以下のような作品を見ることができます。

引用元:Async Art

作品に付属する「Explorer this artwrok」をクリックするとレイヤーのパラメータが変化して作品の内容が変わることを確認できます。

Async Artでは原図となる「マスター」と、作品内容に変化を与えるパラメータである「レイヤー」を組みあせてNFTアートとして販売しています。作品をデジタルデータとして販売するNFTならではの試みです。

体験型アートとしての可能性

現代の美術では「体感型アート」「体験型アート」がひとつの潮流となっています。これはアーティストの作品に鑑賞者の存在が影響を与えて完成させるというもので、従来の、アーティストが提示する「動かない作品」を受け身で鑑賞するというスタイルとは異なります。

引用:魔法の美術館

藤本直明というアーティストの作品は、鑑賞者が画像に入り込むことでバルーンのサイズが変わったり飛んだり跳ねたりする作品です。

デジタルアートでは鑑賞者が作品の内容に干渉・参加することが容易になります。

NFTアートにおいてアーティストとユーザーは一緒にプロジェクトを盛り上げていく仲間とも言えるため、このような参加型のアートは協力して作品を生み出すという手法との親和性が高いと言えるでしょう。

引用:Twitter

「MAcciNFT」というアーティストの作品には、「苗を植えて花を咲かせて、咲いた花から妖精を召喚する」という体験型NFTがあります。

引用:Tokyo Venture Conference

Tokyo Venture Conferenceが開催したイベントでは、来場者の顔データからデジタルアートを生成し、NFT化して購入することができます。

パラメータを持つアートNFTはこのように様々な応用が効くので、今後多くの実験が行われていくことが期待されます。

音楽NFTにも活用される可能性

音楽にはビートや楽器のエフェクトなど「パラメータ化」できるものが数多くあります。「ベース音のレゾナンスパラメータを動かしてビョンビョンと跳ねた音にしよう」というのは音楽制作の現場では当たり前に行われています。

三木道三さんが開発した音楽作成アプリ「mupic」は、画像データを音楽に変換するという実験的な試みをしています。

引用:Facebook

画像を音楽に変換した後、メロディーの作り方や楽器、ベースの演奏方法などを選択できます。まさに「パラメータ化された音楽」です。

権利関係の問題はありますが、楽器ができない人でもパラメータを動かして自分だけの音楽を生成できるため、NFT化できれば大きな話題になる可能性があります。

まとめ

パラメータの付いたNFTについて解説しました。

最後にもう一度、内容を振り返っておきましょう。

  • 「パラメータ」はゲームでは能力値のことだが、アートでは主にジェネラティブアートにおいて「作品内容に影響を与えるデータ」を指している。
  • ジェネラティブNFTではパラメータは大量生産のための手段だが、ジェネラティブアートでは偶然性を取り込むために使われる。
  • パラメータをユーザーが動かせるアートという新しい形態でNFTアートが発表されている。

NFTではアーティストとユーザーの関係が近いため、パラメータを動かせるアートは「アーティストとユーザーが一緒に作る作品」として盛り上がる可能性があります。

Spritz

Spritz

Web3領域を専門とするライター。DeFiやNFT分野への投資経験をもとに、クリプトに関する記事を発信しています。これまでに執筆した暗号資産に関する記事は70本以上。特に関心の強い分野は、セキュリティトークンです。ブロックチェーンによってもたらされる社会変革に焦点を当て、初心者にもわかりやすい記事を心がけています。
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