Menu

【譲渡不可能なNFT】SBT(ソウルバウンドトークン)を徹底解説

解説系記事

SBT(Soul Bound Token)という、今日のWeb3のあり方を大きく変える可能性を持つ画期的なテクノロジーをご存じでしょうか?

SBTは「譲渡不可能なNFT」を指し、現状のNFT(Non Fungible Token / 代替不可能なトークン)のように譲渡可能なトークンとは異なる仕様です。

イーサリアム(Ethereum)創始者の1人、ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏が中心となりSBTの構想が明かされ、2022年内には実現すると言われています。

本記事では、ブテリン氏らの発表した論文を元に、初心者の方にも理解できるよう専門用語なども要約しつつ、SBTを解説していきます。

今後、SBTはビッグトレンドになっていく可能性が高いため、Web3プレイヤーやNFTに関心を抱いている方、この領域における今後の展望を知りたい方は必読の内容となっていますので、是非最後までお読み下さい。

SBT(Soul Bound Token)とは

SBT(Soul Bound Token)は直訳すると「魂に繋がれたトークン」であり、その名の通り持ち主と魂で繋がれ引き離すことのできない「譲渡不可能なNFT」を指します。

現状のNFTやトークンはすべて譲渡可能なため、SBTが誕生すれば以前には無かった新しい仕組みが実現していくでしょう。

例えば以下の事例が挙げられます。

  • 実績や資格など個人の証明がデジタル上で可能になる
  • DeFi(Decentralized Finance / 分散型金融)で無担保ローンの利用が解禁される
  • シビルアタックなどトークン悪用へのセキュリティが飛躍的に高まる

SBTの構想が最初に発表されたのは、ブテリン氏のブログ記事でした。

参考:Soulbound

この記事が投稿されたのは2022年1月26日、5月11日には30ページ超に及ぶ論文形式のPDFが発表され、より詳細な内容が記載されています。

SBT専用ウォレット「ソウル(Soul)」とは

ソウル(Soul)とはSBTを格納するウォレットを指します。

SBTの発行元はブロックチェーンに記録されるため、ソウル内のSBTをチェックすれば、過去に従事してきた活動を確認でき、履歴書として利用できます。

また、ソウルから(譲渡可能な)NFTが発行できる点も大きな特徴です。

ソウルに様々なSBTを保有すればするほど、アーティスト自身の情報が増え、NFT発行元として信頼性担保に繋がります。

さらに、アーティストは以下の様な作品の情報をSBTにリンクさせて発行可能です。

  • 作成者の情報
  • 作品がカテゴライズされたNFTコレクションの情報
  • 作品のレアリティ(希少性)の設定情報

これらはNFTの出所証明となり、盗品やディープフェイクに対するセキュリティ対策になります。

つまり、SBTはNFTの真贋(しんがん)検証として機能するのです。

SBT再発行システム「ソーシャルリカバリーモデル」

画像引用元:Decentralized Society: Finding Web3’s Soul

ソーシャルリカバリーモデルとは、SBTの焼却や再発行に伴う仕組みです。

現状のNFTは、一度でも秘密鍵を紛失すると二度と再発行できませんが、SBTは重要な個人情報を含む可能性があるため、焼却と再発行が可能です。

具体的なプロセスは、ユーザーと強い信頼関係がある複数人のメンバーを「後見人」として選び、自分のソウルへのアクセス権を付与し、紛失や盗難があれば焼却・再発行などができます。

ただ後見人が共謀して悪巧みをしたり、あるいは脱退したり連絡不通になるなどの可能性は否めないため、不測の事態に備えるさらなる仕組みづくりが課題です。

現状のNFT / Web3の問題点とSBTの必要性

Web2の象徴とされる「富の一極集中」「中央集権主義」を脱却し、権力を分散させ、より個人にフォーカスした民主的な分散型社会を「DeSoc(Decentlized Society)」と呼びます。

しかしDeSocの実現には多くの課題が残されています。

  • 富める者だけが得をする仕組み
  • Web2型プラットフォームへの依存
  • シビルアタックの危険性

それぞれの問題点を再確認し、解決にはSBTが不可欠な理由を解説していきます。

富める者だけが得をする仕組み

今日のWeb3において、重要視されるのは圧倒的に「富」です。

  • どれだけ暗号資産(仮想通貨)を持っているか
  • どれほど高価なNFTを持っているか

リアルな社会でいくら輝かしい経歴を持ち、素晴らしい交友関係を育んでいようと、上記の条件を満たさないのでれば、ほぼ意味を成しません。

CryptoPunksやBAYC(Bored Ape Yacht Club)に代表されるブルーチップNFTと呼ばれる超高額なNFTを持っていれば注目され、他人に自慢でき、またそれを助長するようなツール(例えばTwitterのNFTアイコン機能など)も増えています。

NFTを保有すればコミュニティにおける発言権などを得られるケースも多いため、資金力のあるWeb3プレイヤーが自然と力を持つのです。

すると富める者がより富を得る構造となり、中央集権的な社会構造からの脱却はますます難しくなります。

DeSocの実現には、一人ひとりのコミュニティに貢献したいと思う意思と、それを平等に社会へ反映する仕組みが欠かせません。

自己の証明ができるSBTは、強権的プラットフォームから個人へ力を戻すきっかけとなり、DeSoc実現へ向け不可欠な要素となるでしょう。

Web2型プラットフォームへの依存

現状のWeb3におけるエコシステムは、Web2型プラットフォームに大きく依存しています。

  • NFTアーティストの活動はOpenSeaやTwitterなどWeb2型プラットフォームの利用が必須
  • 多くのユーザーは個人の分散型ウォレットではなく、CoinbaseやBinanceなどWeb2型プラットフォームに実装されているカストーディアルウォレットに依存している
  • 分散型自立組織であるはずのDAO(Decentralized Autonomous Organization)の活動はWeb2型プラットフォームのDiscordに依存している

挙げればきりがありません。

問題の原因は、デジタル上において個人の確かな身分を証明するシステムがないことです。

web3はそのような社会的アイデンティティを表現するプリミティブを欠いているため、超越を目指すweb2の中央集権的構造に根本的に依存し、その限界を再現してしまっているのです。

引用元:Decentralized Society: Finding Web3’s Soul

しかし譲渡不可能であり、個人と強く紐付けられたSBTを利用すれば、プラットフォームを介さずとも自己証明が可能です。

OpenSeaを介さなくてもNFTを発行でき、Twitterを使わなくても実績をアピールできるようになるのです。

シビルアタックの危険性

少数の人間が多数であるかのように見せかけ、コミュニティを支配・統制する行為をシビルアタックと言います。

現状、ウォレットはいくらでも作成でき、かつ個人の特定が難しいため、シビルアタックは割と頻繁に起きています。

DAOの意思決定の際に1人1票の投票権が与えられたとしても、個人が多数を装いアカウントを大量に作れば過半数の獲得は難しくありません。

しかし、ソウルは発行者との信頼関係の元に生み出されるため、いくつも生成するのは簡単ではありません。

さらに、共謀や談合といった不正を敏感に検知するプログラムが組み込まれる予定です。

よってSBTはシビルアタックの予防策として強力に機能するでしょう。

SBTの活用事例

実際にSBTがWeb3エコシステムにどのような変化をもたらすか、3つの観点から解説します。

SBTを証明書として利用

SBTによって、デジタル上でも個人に紐づいた情報の証明ができます。

例えば、

  • 教育機関の卒業証明
  • セミナーやカンファレンスへの出席証明
  • 取得した資格の証明

このようなものです。

より多様な機関から発行されたSBTを保持すればするほど、個人に紐づく情報が増え、信用力の強化に繋がります。

さらに、SBTはDeFiに代表される分散型金融サービスを拡張させ、無担保ローンや融資の利用を可能にします。

現状では、仮にローンを組んでも、物理的に個人を特定する方法がないため、ウォレットの乗り換えによって簡単に逃避可能です。

譲渡不可能なSBTなら、無担保ローンに必要となる「信用スコア」の担保になり得るのです。

SBTの投票券

コミュニティで多数決が実施される際、SBTを投票権として活用できます。

今日のDAOではNFTが投票権として使われていますが、NFTは譲渡可能なので買い占めやシビルアタックといったリスクは避けられません。

SBTを投票権として利用する際のユニークな点は、コミュニティへの関心の高さを参加者のソウルにあるSBTから割り出し「相関性スコア」として数値化する仕組みです。

スコアが高ければ投票権のウエイトを重くし、貢献の期待値が高い者は優遇されるシステムが示唆されています。

さらに、メンバー同士の関係性も各ソウルから数値化し、談合や共謀の可能性を検知してシビルアタックを未然に防ぐ点も画期的です。

SBT版エアドロップ「ソウルドロップ」

SBTによるエアドロップは「ソウルドロップ」と名付けられています。

NFTやトークンを無料配布するエアドロップ(無償配布)は、シビルアタックに対して脆弱性があり、これまで度々問題視されてきました。

例えば、イーサリアムレイヤー2ソリューション開発のオプティミズム(Optimism)が2022年5月に実施したエアドロップ不正利用調査では、1万7,000件もの偽アドレスを発見したとのことです。

参考:イーサリアムL2「Optimism」、エアドロップ不正利用のアドレスを調査

さらに、エアドロップ対象は既にトークンを一定数保有しているウォレットが選ばれやすいケースがあり、マシュー効果(富める者が恵まれますます裕福になる現象)に繋がります。

しかしソウルドロップは、配布するSBTと対象者の相関性を重視します。

つまり参加者のトークンが、配布されるSBTと関連性が高いとみなされれば選ばれやすくなる仕組みです。

例えば、以前に開催されたカンファレンスの出席証明SBTを保有していれば、コミュニティに強い関心を抱いていると判断され、選別されやすくなるでしょう。

あるいは環境保護のコミュニティによるソウルドロップの場合、他に環境保護にゆかりのあるSBTをソウル内に保有していれば、やはり当選確率アップに繋がります。

つまりコミュニティに対する情熱や、従事する意思のある者がソウルドロップ対象として重要視されるのです。

利益だけを目的とした参加者は淘汰されるため、コミュニティにとっても有益な仕組みが実現していくと予想できます。

SBTの問題点になりうるのは?

SBTの問題点として挙げられるのは以下です。

  • プライバシーの過度な露呈
  • なりすましソウルの出現

順番に解説します。

プライバシーの過度な露呈

SBTが多ければ多いほど、個人の証明を強化できる一方で、プライバシーは守られにくくなります。

SBTの種類によっては、公開するかどうかを持ち主が決定できますが、あまり非公開にしすぎると信用力に乏しくなるでしょう。

このジレンマを解決する手段として「ゼロ知識証明」の利用が示唆されています。

ゼロ知識証明とは「それは真実である」以外の情報を提示しなくても証明可能な暗号技術です。

つまりSBTの内容を公開しなくても証明としての機能は果たせます。

なりすましソウル

「なりすましソウル」とは、発行者に賄賂を送ってSBTを獲得し、他人を装って不正を働くソウルを指し、現状で考えられる対策は以下です。

  • 内部告発者を奨励するシステムの導入
  • 参加者同士の相関関係がスコアリングされ、談合や共謀といった可能性を取り除くプログラムの実装

基本的には、正直者が奨励される仕組み作りがなされる旨が論文に記載されています。

まとめ:SBTはDesoc実現への大きな一歩

ここまで注目の新テクノロジーであるSBTの解説をしてきました。

本記事で述べてきたような、Web3の長年における問題点を克服できれば「カンブリア爆発」を促進できるとブテリン氏は述べています。

カンブリア爆発とは、古生代カンブリア紀において、ある時期を境に動物の多様化が急激に進んだ現象を指します。

SBTがきっかけとなり、今正にWeb3の領域でカンブリア爆発が始まろうとしているのです。

しかしながら常に新しい情報を採り入れる姿勢がなければ、カンブリア爆発による急激な変化への対応は難しいですよね。

ブテリン氏らは今後もイノベーションの先頭に立って時代を先導していくと思われるので、引き続き彼らの動向に注目しましょう。

AMEHARE

AMEHARE

ITの最新トレンドを発信しはじめて十余年。Web2から3の時代の変革もいち早く察知し、2012年ごろから仮想通貨に注目をし始める。次世代の文化やテクノロジーを情報を掴みつつ、NFT・メタバース・DAOなどの領域であらゆる情報を発信中。
Author