暗号資産の中で秘匿性が高い「Monero」という通貨がありますが、秘匿性が高いとはどういうことなのでしょうか。
今回は一般的な暗号資産における送金の仕組みと比較しながら、「Monero」の特徴を解説していきます。
この記事の構成
Moneroの概要について
- 通貨名:Monero(モネロ)
- ティッカーシンボル:「XMR」と表記します。
- 暗号資産ランキング:29位(2022年8月10日時点)
(引用元:https://coinmarketcap.com/ja/coins/)
価格(ドル):$158.78(2022年8月10日時点)
(引用元:https://coinmarketcap.com/ja/currencies/monero/)
取扱い取引所:Binance、KuCoin、Huobi、Kraken、Bitfinex、MEXC、OKXなど(日本での取扱いなし)
名前の由来と歴史
Moneroとはエスペラント語で「コイン」や「通貨」を意味する言葉で、「Bytecoin(バイトコイン)」という暗号資産をベースに開発され、2014年4月に販売開始された暗号資産です。
Bytecoinは「秘匿性の高さ」を特徴に持ち、Moneroはこの特徴を引き継いで開発され誕生しました。
暗号資産の中には同じように秘匿性が高い通貨がいくつかあり、これらの他、「Zcash」や「Dash」も秘匿性の高さを特徴に持っています。
尚、Moneroは2018年に「Monero Classic(XMC):モネロクラシック」、2020年に「MoneroV(XMV):モネロV」の二つの暗号資産がハードフォークにより誕生しています。
暗号資産の送金の仕組みについて
Moneroの特徴を解説するには暗号資産の送金方法の仕組みを知る必要がありますので、法定通貨の送金方法と比較しながら説明します。
法定通貨(銀行など)の送金方法について
法定通貨は私たちが日常的に行っている送金方法ですので、難しい部分は有りませんが暗号資産と比較するために説明いたします。
AさんがBさんへお金を振り込む場合の流れを説明します。
ATMでもほぼ同じですが、今回はインターネットでの場合を説明します。
- Aさんが自分の銀行のネット口座にログイン
- 金額を指定
- 振込先であるBさんの銀行、支店、口座番号を指定
- 該当する振込先名が正しいか確認
- 間違いなければ承認し、振込完了
当たり前のことではありますが、Aさん、Bさん、そしてそれぞれの銀行も、AさんからBさんへお金が振り込まれたことを把握しています。
暗号資産の送金方法について解説
暗号資産を送金する場合、実際に私たちが行う操作としては取引所から送付先のアドレス(Metamaskなどのウォレットアドレスや暗号資産取引所のアドレスなど)を指定して認証するだけですので、見た目は法定通貨とほとんど同じです。
では、その裏側でどのような事が行われているのかを説明します。
公開鍵暗号方式
暗号資産では、法定通貨で紹介した1〜5までのプロセスを「公開鍵暗号方式」という仕組みで送金します。
公開鍵暗号方式は暗号資産に限った使用方法ではなく、インターネットでデータをやり取りする際、送ったデータが第三者に見られてしまうことを防ぐためにデータを暗号化して送る技術です。
つまり、データに鍵をかけて送るということです。
この鍵として使用されるのが「秘密鍵」と「公開鍵」です。
「秘密鍵」は第三者に絶対に知られてはいけない鍵で、「公開鍵」は第三者に見られても問題がないオープンな鍵です。
これらを法定通貨に例えると、
- 「秘密鍵」は暗証番号
- 「公開鍵」は口座番号
となります。
公開鍵と秘密鍵は必ずペアである必要があり、送信先の「秘密鍵」から「公開鍵」が生成されます。
その他に暗号資産を送金する際、送金先の「アドレス」も必要になりますが、このアドレスも「秘密鍵」から生成されます。
送金例
具体的にAさんからBさんへ、公開鍵暗号方式で1BTCを送る方法を説明します。
- 送付先であるBさんから、Bさんの「秘密鍵」から生成された「公開鍵」がAさんへ送られる
- AさんはBさんの公開鍵を使用して1BTCを送付
- BさんはAさんから送られた1BTCを自分の秘密鍵で開けて1BTCを受取る
これが公開鍵暗号方式です。
署名について
暗号資産の送金ではさらに「署名」というプロセスが追加されます。
法定通貨の場合、口座番号と個人情報が紐づいているので送付元と送付先の個人情報が明確になっています。
しかし、暗号資産の場合はアドレスに個人情報は紐づいていませんのでなりすましなどのリスクが高くなります。
そこで使用されるのが「署名」です。
Aさんから送られた1BTCは本当にAさんから送られたもので、本当にBさん宛に送ったものであるかを証明するための技術です。
これは送信元の秘密鍵を使用して生成されるもので、上記であればAさんが1BTCを送る際に、Aさんの秘密鍵から生成された署名をつけてBさんへ送ります。
この署名により、受け取ったBさん側では、この1BTCは間違いなくAさんから送られたものであることを確認できます。
ここで、暗号資産の送金における特徴をあげると
- 暗号資産も法定通貨のように、送付元と送付先の個人情報までの特定は不可能だがアドレスの特定ができる。
- 通貨の送金履歴が半永久的にブロックチェーンに残るので追跡ができる。
この二点がMoneroを説明する前提としてとても大事なポイントになります。
Moneroの特徴
Moneroは「秘匿性が高い」と紹介しましたが、その特徴は一言で説明すると「送金元がわからないようにして送金することができる」ということで、「匿名通貨」などとも呼ばれます。
その仕組みに使用されているのが「リング署名」と「ステルスアドレス」と呼ばれる技術です。
どのような技術なのか、それぞれ解説していきます。
リング署名
暗号資産で送金する際に行う「署名」技術は、送金元を証明する為の仕組みであることを説明しました。
リング署名は、署名する際に送金元である当人だけではなく、送金者の他に7人のユーザーからなるグループがあり、この8人が同時に署名する技術です。
8人が同時に署名をすると、8人のうちの誰か一人のアドレスが採用されます。
つまり、署名したユーザーのアドレスは確認はできますが、そのアドレスは送信者本人ではなく送信者も含めた8人のうちの誰かであり、送信者を特定することは事実上不可能になります。
ステルスアドレス
ステルスアドレスは、ネットバンキングなどで使用されるワンタイムパスワードのようなものです。
ワンタイムアドレスは都度発行されるランダムな数字をスマートフォンのSMSやメールに送り、本人確認ができるシステムで、今では頻繁に行われるのでとても身近な技術として使用されています。
ステルスアドレスも同じように送金する度に発行される一度しか使用できないアドレスで、しかも一定期間が過ぎるとアドレスが使用できなくなる(消えてしまう)という技術です。
そもそもリング署名により、送金元のアドレスが特定できないようになっているうえに、なぜステルスアドレスのようなものが必要なのでしょうか。
それは、リング署名により送金元のアドレスの特定は不可能ですが、偽物であってもアドレスそのものが残っていると、ブロックチェーンで追跡ができてしまいます。
そこで、そもそもアドレスを使用できないようにしてしまい、追跡を不可能にするために開発された技術です。
ここまでをまとめると
- リング署名により「送ったアドレスは誰のものか特定されない」
- ステルスアドレスにより「ブロックチェーンで追跡ができない」
この二つを実現した通貨で、まさに匿名通貨と言えます。
容易なマイニング
次はマイニングについてですが、これは秘匿性とは別の特徴になります。
Moneroのマイニングはビットコインと同じPoW(プルーフ・オブ・ワーク)を使用していますが、PoWは高度なマイニング装置を数多く持っている方が報酬を得る確率が高いマイニング方法です。
しかし、Moneroで採用しているPoWはASIC耐性を持つように設計されています。
ASIC耐性を簡単に説明すると、ASICと呼ばれるマイニングに特化した機器を使用したマイナーの独占を防ぐための措置で、イーサリアムのPoWもASIC耐性の設計がされています。
つまり、Moneroでは設備などに依存せず、自宅のPCで誰でもマイニングに参加できるようにし、公正な競争のもとで、多くのマイナーが公平な報酬がもらえる仕組みを開発しました。
Moneroの開発目的とデメリット
ここまでMenoroの特報を説明してきましたが、メリットとデメリットを紹介すると
- メリット:プライバシーが厳重に守られている
- デメリット:匿名なのでマネーロンダリングなどに使用される可能性が高い
の二つになります。
Moneroはデメリットな部分が注目されることが多いのですが、そもそもの開発目的はどのようなものだったでしょうか。
デメリットとして使用されている事例などとあわせて説明していきます。
開発目的
暗号資産は個人のウォレットアドレスは常にオープンな状況にあり、誰もがその取引内容を確認することができます。
NFTがブームになると一方的にスキャムNFTを送りつけてくるなど、プライバシーの問題が話題になることが増えてきました。
Moneroはこのようなブロックチェーンが抱える問題を解決し、自らのプライバシーを守り、安全な取引ができるように開発された技術なのです。
この理由から、Moneroの技術は自らのプライバシーを守りたいと考えているユーザーから多くの支持を得て、開発段階から今に至るまでその人気は衰えることはなく常に30位以内にランクしています。
しかし、秘匿性が高いメリットはその意に反した利用をされてしまうようになります。
デメリット
北朝鮮では2017年8月ごろからMoneroを利用していると言われており、2019年にはマイニングを強化し、Moneroの保有率はそれまでの10倍以上に増加していると見られています。
(参照元:https://www.coindeskjapan.com/39018/)
また、Moneroのマイニングは誰でも簡単に参加できることを説明しましたが、本来であれば公平な報酬を目的に開発したものですが、この容易さが仇となりハッカーの標的になってしまいます。
それがCryptojacking(クリプトジャッキング)と呼ばれるもので、モネロに特化したマイニング攻撃が多発してしまうようになりました。
2018年6月から出回っている「Crackonosh」と呼ばれるマルウェア(コンピュータウィルスの総称)は、ウィルスを仕込んだPCを乗っ取ると、Moneroのマイニングを行わせることを繰り返し、200万ドル以上のMoneroを手にしていると言われることも発生しています。
(参照元:https://www.coindeskjapan.com/114405/)
更に、世界的なFATFによるAML/CFT(マネー・ロンダリングとテロ資金供与対策)が強化されてきており、トラベルルールの採用が進む中、Moneroのような暗号資産の取扱いは難しくなっていると考えられます。
このようなことから、以前日本の暗号資産取引所では唯一、コインチェックが取扱いをしていましたが、2018年に取扱い中止になっています。
まとめ
Moneroのような秘匿性が高い暗号資産はデメリットの部分に注目が集まってしまいますが、開発目的はプライバシーの保護にあることがおわかりいただけたかと思います。
今後、プライバシーの観点からMoneroが注目されることがあるかもしれません。