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ユニークなプロジェクトを生み出す「フリーミントNFT」とは?

解説系記事

2022年の5月頃から「フリーミントNFT」が注目されるようになっています。文字通り「無料で配布されるNFT」のことで、イーサリアムのネットワークを利用するための手数料「ガス代」を支払うだけでNFTを入手できます。

フリーミントは「存在をアピールしたい」と考えるクリエイターがシリーズを開始するときに宣伝効果を狙って実施することがあり、コレクターのなかには「フリーミント狙い」でディスコードやTwitterをチェックしている人も多く存在します。

5月からコレクターの間で話題となっている「フリーミントNFT」は、クリエイターの参入戦略という以外に共通の特徴を多く持っています。

この記事では、独特な世界を提示するフリーミントNFTを紹介し、無料で配布することの意味合いを解説していきます。

フリーミントNFTとは

NFTの世界では、新規発行のことを「mint(ミント)」と呼びます。

英語の辞書で「mint」を引くと動詞の意味として「貨幣を鋳造する」が出てきます。この場合の「mint」がNFTでいう新規発行を指します。

NFTを発行しようとする人は、取引市場である「マーケットプレイス」に自分が作成したデータを「ミントする」ことによってブロックチェーン上にNFTを表示させます。そのうえでNFTを販売するというのが通常の流れです。

この章では、ミントの言葉の定義を明らかにしたうえで、戦略的に無料で配布するプロジェクトを紹介します。

NFTのmintの仕組み

まず、NFTにおける「ミント」という言葉の定義を紹介します。

ミントは文脈によって多少の意味の違いはありますが、おおむね「NFTを作り出す」という意味でとらえておけば問題ありません。

ミントできるNFTにはデジタルアートもあれば音楽やゲーム内アイテムなどがあります。NFTは誰にでも作ることができ、市場で販売も可能です。他の人が作ったNFTを入手することもできます。

NFTで重要なのは「スマートコントラクト」によって作られるという点です。スマートコントラクトはNFTを作るための設計図のようなもので、条件を満たせば契約内容が自動的に実行されるシステムです。スマートコントラクトを利用すると、NFT作成のプロセスで発生する手間を省略することができ、効率よくNFTを発行できます。

NFTを製造・発行する場所であるコントラクトは、独自コントラクトと共用コントラクトの2つがあります。独自コントラクトは自分で最初からNFTを発行する方法で、共用コントラクトはすでに存在し多くの人が共同で利用しているコントラクトによってNFTを発行する方法です。

良く知られている「OpenSea」は共用コントラクトです。OpenSeaの利用者は、コントラクトやNFTに関する知識があまりなくてもOpenSeaが持っている共用コントラクトを利用することで簡単にNFTを生み出すことができます。

OpenSeaでフォルダを作成し、自分が作成したNFTをアップロードすれば作品を発表できます。このアップロードのことを「ミント」と呼びます。

NFT業界に衝撃を与えた「Free to mint」とは

NFTアートはそれぞれ独自の価値を有しています。ユーザーはミントされたNFTに価値を見出し、イーサリアムを支払って入手していきます。もし、特定のNFTを欲しがる人が複数いた場合にはオークションを実施して最高入札額を提示した人が所有権を得ます。

NFTのなかには最初から「無料」で提供されるものもあります。多くの場合、新しいプロジェクトの「宣伝」の意味合いがあります。プロジェクト開始記念でコレクションのうち数点を無料で配布するものです。

ところが、この「無料配布」を戦略的に使って高い人気を獲得するプロジェクトが2022年に入って増えつつあります。

「Free to mint」と呼ばれるタイプのNFTですが、2022年5月に突如として大きな話題を生み出したプロジェクトがあります。それが「Goblintown.wft」というプロジェクトです。

引用元:OpenSea

「Goblintown.wft」は可愛いとか愛らしいという言葉とは無縁の醜悪なキャラクターながら、5月中旬に無料で配布を始めてから急激に人気が高まり、6月に入ると最低価格で5.58ETH(約135万円)にまで高騰しました。

プロモーションや事前の告知などがほとんどなく、コレクションはすべて無料で発行され、通常ならNFTプロジェクトに欠かせないはずのDiscordもないという状態です。

「ロードマップはない。Discordもない。実用性もない」とプロジェクトのウェブサイトに書かれています。Goblintown.wftの挑戦的な姿勢は、今までのNFTになかったタイプのプロジェクトとして業界に衝撃を与えました。

OpenSeaにおける二次流通について

「無料で配布すること」には、OpenSeaにおける「二次流通」が大きな意味を持っています。

今までのアートの世界では、「クリエイターは売ったらおしまい」でした。クリエイターは誰かに作品を買ってもらいますが、それ以外に収益をあげる手段はありません。

こういった収益構造は伝統的なアートの世界では普通のことで、画家が画商に絵を買ってもらい、画商はその絵を収集家・愛好家に売って商売にしてきました。

しかし、NFTを活用することで収益構造に変化が訪れます。NFTでは転売が繰り返される限り、手数料がクリエイターに継続して入ります。NFTは「いったん売ったらおしまい」なのではなく、作品が二次流通・三次・四次と繰り返されるたびに一定の手数料が還元され続けます。

Goblintown.wftが作品を発表しているマーケットプレイスのOpenSeaでは、NFTの売買が繰り返されるたびに「0%~10%」の手数料がもらえるシステムになっています。

Goblintown.wftはすべて無料配布でOpenSeaに作品を発表しましたが、二次流通・三次流通によって莫大な収益をあげていると推測されます。

引用元:OpenSea

たとえば、上記の作品「Goblintown#2046」ですが、フリーミントされた後に「0.44ETH」「0.58ETH」「1.8ETH」などの価格で9回も転売されています。転売されるたびにGoblintown.wftは手数料であるロイヤリティを得ています。

フリーミントNFT「goblintown.wtf」の成功が持つ意味

Goblintown.wftの大成功はNFT業界に大きな衝撃を与えました。今までは宣伝目的だった無料配布に新しい意味をもたらしたからです。ここでは、Goblintown.wftの成功の道のりをたどりながら、フリーミントNFTの持つ可能性について解説します。

どういう点が業界に衝撃を与えたのか

Goblintown.wftは、マーケットプレイスの流通システムを「ハックした」という点が画期的だったと言えます。

通常、NFTのプロジェクトはNFTの売上を資金としてユーザーサービスを開発したり、コラボを企画したり、マーケティングを行います。無料で配布してしまうと元手になる資金が得られません。そのため、フリーミントという方法は宣伝以外に使いみちはありませんでした。

ところが、Goblintown.wftは「クリエイター手数料」を収入源としています。手数料はOpenSeaでは10%まで任意に設定できます。Goblintown.wftは「無料でNFTを配布する代わりにロイヤリティ手数料を比較的高めの7.5%に設定する」ことによって、大きな収入を得ています。

Goblintown.wftはコレクションのローンチからわずか3週間程度で累計3.3万ETHの取引高を達成しました。このうち7.5%が手数料として運営に支払われています。無料配布したNFTから5億円以上もの金額が収入になっていると試算されています。

それに加えて運営チームはもとから1000個のGoblintown.wftのNFTを確保しています。それらを保有し続けていれば、現在約9億円相当の金額になります。

Goblintown.wftの成功は、「人気が出て取引高が増えれば最初はフリーミントで充分である」ことを市場に示しました。この意味は小さくありません。

「goblintown.wtf」にはロードマップもDiscordも利用用途もない

2022年5月末に約9億円を売り上げたGoblintown.wftには独自の戦略があります。

Goblintown.wftの公式サイトに行くと、「ロードマップなし、Discordなし、利用用途なし」と記載されています。つまり買ったゴブリンには今後の計画であるロードマップも存在しませんし、Discordのコミュニティもなく、他のNFTプロジェクトとのコラボもリアルのグッズ配布などの利用用途もまったくないNFTという意味です。

引用元:Goblintown.wft

通常のNFTには「グッズ展開を目指す」「アニメ化」といったロードマップがありますし、計画や進捗を報告するDiscordのコミュニティがあります。また、「PFP(プロフィール画像)」利用をオススメするといった用途が示されます。

Goblintown.wftには驚くほど「何の実用性」もありません。運営チームは11人いると言われていますが、全員が匿名で謎に包まれています。

6月4日からGoblintown.wftの保有者は「Mc Goblin Burger」のサイトで自分でカスタマイズしたハンバーガーを注文し、ハンバーガーのNFTをもらうことができるようになりましたが、このハンバーガーも気味悪いものに仕上がっていますし、その利用用途も不明です。

引用元:OpenSea

ミームとして流行

Goblintown.wftのプロジェクトから感じられるのは「品の悪いジョーク」です。何の計画もなくコミュニティもなく、利用用途もないNFTで、しかもどれも悪趣味としか思えない画像です。

Goblintown.wftには現代のNFTプロジェクトに対する皮肉な目線が感じられることから、一種のミームとして流行しました。

今のところ、Goblintown.wftのNFTの唯一といってもいい使いみちは、Twitterのプロフィール画像に設定して、保有者同士で「ゴブリン語」の集会を開くくらいです。

引用元:Twitter

ゴブリン語は小さな文字のようなものを組み合わせた独特の表記になります。ゴブリン語専用の翻訳機があり、それで会話することができます。

利用目的の分からない気味悪いプロフィール画像のツイッタラーたちが、他の人たちにはまったく通用しない言語を使って会話するという異様な光景を目にすることができます。

このジョーク性とミステリアスな雰囲気がファンを惹きつけています。

なぜ「フリーミント」なのか

ここで、なぜGoblintown.wftがフリーミントという形で市場に参入したのか分析してみましょう。

なんといっても、Goblintown.wftから感じられるのは「高い自由度」です。NFTは無料ですので、運営側がユーザーの使い勝手などを考慮に入れることなくプロジェクトの方向性や発展を決めることができます。

Goblintown.wftにはロードマップはないのでユーザーに何かを約束する必要はありません。Discordがないのでユーザーの意見を聞く必要もありません。利用用途はないと言い切っているので、「買った人が勝手に使えばいい」という意味にもとれます。

Goblintown.wftは「ただそうしたかったから」という理由で、1万あるNFTのうち1000個のNFTを配布せずに手元に保管していますが、無料なので誰からも文句を言われることもありません。もし、これが有料のNFTならユーザーから「運営が理由もなしに1000個も確保しているのは問題がある」という不満を言われるでしょう。

しかしGoblintown.wftはフリーミントで、ユーザーの意見も聞かないという姿勢ですので、運営が好きなようにプロジェクトを動かすことができます。

フリーミントで「ロードマップなし・Discordなし・ユーティリティなし」はNFTプロジェクトとしては異常なやり方ですが、実によく考えられた戦略とも言えます。

流行しつつあるフリーミントNFTを紹介

Goblintown.wftに刺激を受けたのか、もしくは運営側に共通の人がいるのかは不明ですが、Goblintown.wftを真似たフリーミントNFTが流行しつつあります。

ここでは他のフリーミントNFTプロジェクトを紹介し、その共通点を解説します。

「We are all going to die」

2022年6月4日にフリーミントNFTとして発表された「We are all going to Die」は、Goblintown.wftと同様に「ロードマップなし・Discordなし・ウェブサイトなし」のプロジェクトです。

6月11日にはOpenSeaの24時間取引高ランキングで5位にランクインしました。6666体の死神をNFT作品にしています。

引用元:OpenSea

2022年8月現在の最低価格は「0.0637ETH(約1万4000円)で、2万4000人のホルダーがいます。クリエイター手数料は5.7%で、発表以来の取引高から計算すると、おおよそ2億円程度の手数料収入がクリエイターに入っていると推測されています。

We are all going to Dieの特徴は独特のデカダンスな雰囲気です。不健全で虚無的な世界観が感じられます。

運営は2022年6月7日に、Twitterのスペースで「死神の集会」のようなイベントを開催しています。ここでは21ETHで購入した高額NFTをBurnするという内容で、NFTを取り出すことのできないアドレスに送って今後一切の取引を不能にするというものです。

NFTがBurnされる際には、スペースでは火が燃える音や豚の鳴き声が聞こえるなか呪文と賛美歌が流されました。

NFTのBurnイベントのあと、We are all going to Dieの価格は急上昇しています。

「ill poop it nft」

「ill poop it nft」はさらに悪趣味で、「うんこ」をモチーフにしたNFTコレクションです。同じ運営チームから「ShitBeast」というコレクションも発表されており、こちらは「うんこをかぶった動物たち」がモチーフです。

「ill poop it nft」はOpenSeaの24時間取引高ランキングで18位まで上昇、「ShitBeast」は9位まで上昇しています。2つを合わせたOpenSeaの取引高は8400ETHで、クリエイターの手数料収入は1億5000万円程度と推測されています。

2022年6月1日にフリーミントで1万個発行された「ill poop it nft」には、既存のNFT業界への痛烈な皮肉が込められています。というのも、うんこに「著名なNFTプロジェクト」が埋まっているからです。

たとえば人気ゲームの「STEPN」の靴と思われる画像が埋まっています。

引用元:OpenSea

この他、「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」と思われるものや、ビットコインと思われるものがうんこの中に埋まっています。

こうした手法には「高額なNFTが流行しているが、果たしてその価格に見合う価値はあるのか?」という疑問を提示しているとも受け取れます。

高額NFTが話題となり、お金を持っている人たちが次々と高額NFTを探しては熱狂するという文化へのカウンターカルチャーと見ることもできます。

高いジョーク性という共通点

Goblintown.wftやWe are all going to Dieなどの話題の「フリーミントNFT」に共通するのは、「高いジョーク性」です。

日本では「人を傷つけないジョーク」が人気ですが、アメリカなどは「積極的に人を傷つけていく」スタイルのジョークのほうが人気があります。

わざと悪趣味で気味の悪いNFTを発行して、界隈の人たち以外には理解できない話題性を持たせることは「高度なジョーク」です。

Goblintown.wftは著作権を完全に放棄する「CC0」というNFTで、模倣したNFTも登場していますし、ジョーク画像も数多く制作されています。

We are all going to Dieの死神集会も高度なジョークの一種で、参加したユーザーたちはネットの向こうでニヤニヤと笑いながら見守ったのだろうと推測されます。

BAYCのコンセプトが「退屈な類人猿」とするなら、Goblintown.wftなどのフリーミントNFTは「何の役にも立たない」でしょう。同時に「役に立たないものに高いお金を支払う」ことへの疑問を内包しています。

既存の業界へのアンチテーゼ

もうひとつ、Goblintown.wftなどのフリーミントNFTから感じられるのは既存のNFT業界に対するアンチテーゼです。

2021年、NFTは1体が数千万円もするような高額なものが次々と売れていくという状況を迎えました。お金持ちがこれ見よがしにSNSのプロフィール画像に高額のNFTを使う様子は、まるで高額のブランド品や装飾品をジャラジャラと身につけて見せびらかすような醜悪さが感じられます。

フリーミントNFTには、「NFTは金持ちのマネーゲームじゃない」という主張が込められていると考えられます。無料で配ることは、直接的に「NFTのファン層を広げる」ことに役立ちます。

海外の有名NFTウォッチャーからは「Goblintown.wftはアンチNFTのプロジェクトだ。web3のパンクロックであり、スピーディな成功は独創的だ」という意見も寄せられています。

In a way, Goblin Town is the anti-NFT project. It’s the punk rock of web3 and its quick success is a testament to its originality. If this popularity continues, expect a slew of copycat projects that feign indifference and attempt to make a virtue out of apathy.

引用元:DappRadar

1970年代のロックは、巨大なビジネスとなって大衆に迎合し「売れ線」であることを求められるようになりました。このとき、「悪趣味」「暴力的」「野心的」「反体制的」なパンクロックが誕生しています。

フリーミントNFTに流れるスピリッツも、パンクロックの持っている攻撃性に通じるものがあります。

どうやって発見するのか?

「無料で配布されるNFTが業界で話題となって高額で取引されるようになる」と聞くと、「どうやったらそういうフリーミントNFTを手に入れることができるのか」と思う人も多いでしょう。

これはかなり困難ですが、無理でもありません。ただし、かなりNFTに通じている必要があります。

まず、Goblintown.wftなどのフリーミントNFTは事前の告知などはほぼありません。唯一頼りになるのはTwitterです。

確かにフリーミントNFTにはdiscordがないのでコミュニティもありません。ウェブサイトもないため、Twitterで突然流れてくる情報に素早く反応できたときのみ、無料配布の恩恵にあずかることができます。

しつこくネットに張り付いていないと見つかりにくいですが、たとえば「インフルエンサーになっている人をフォローしておく」ことは有効でしょう。

様々なコレクションのOpenSea履歴を見てみると、「有力なコレクションを最初に買った人」「流行に敏感に反応できた人」を探すことができます。そういった人をTwitterでフォローしておくと良いかもしれません。

たとえば、We are all going to Dieは販売直後に以下のようなツイートが投稿されています。

このとき、素早く反応できたらWe are all going to DieのNFTを安く入手できた可能性があります。

まとめ

新しいNFTの潮流を作りつつある「フリーミントNFT」について解説してきました。

以下にこの記事をまとめておきます。

  • 通常は宣伝目的で使われてきたフリーミントを戦略的に使うプロジェクトが登場している。
  • 代表的なコレクションにはGoblintown.wft、We are all going to Dieなどがある。
  • 「ロードマップなし・Discordなし・ユーティリティなし」という共通点がある。
  • 「悪趣味」「気持ち悪い」「高いジョーク性」という共通点がある。
  • 既存のNFT業界へのアンチという意味合いがある。
  • 見つけるのは困難だが不可能でもない。

今後も戦略的にフリーミントを使うNFTコレクションが発表される可能性があります。うまく見つけてコレクションを充実させましょう。投資としても魅力的です。

Spritz

Spritz

Web3領域を専門とするライター。DeFiやNFT分野への投資経験をもとに、クリプトに関する記事を発信しています。これまでに執筆した暗号資産に関する記事は70本以上。特に関心の強い分野は、セキュリティトークンです。ブロックチェーンによってもたらされる社会変革に焦点を当て、初心者にもわかりやすい記事を心がけています。
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