日本のアニメは今や世界で高い人気があります。鬼滅の刃、呪術廻戦、スパイファミリーなど、シーズンごとの話題作は必ず世界でも注目を集めます。
ところが、アニメの制作にたずさわる人たちへの還元が充分でないという大きな問題を業界は抱えています。改善の兆しはありますが、薄給のアニメーターや貧乏暇なしの制作進行担当者などの「ヘルプメッセージ」はたびたび話題になっています。
アニメ業界の構造的問題の解決にNFTを活用するという試みは数多くあります。とはいっても、実際に行動に出て結果を出しているプロジェクトはほぼないという状態です。
「ANIM.JP」はアニメ業界に新しいスタイルを持ち込もうという意欲的なプロジェクトです。この記事では、「ANIM.JP」が公式に発表しているメッセージを読み解き、プロジェクトの概要を解説します。
この記事の構成
web3アニメスタジオ「ANIM.JP」とは
引用元:OpenSea
アニメの世界的人気はすでに決定的で、シーズンごとに「日本で人気の作品は世界でも人気」という状態が当たり前になっています。「クールジャパン」を代表するジャンルで、日本とアニメは不可分というくらいに世界で認められているジャンルです。
制作現場が基本的に個人作業なので「コロナ禍でも強い」という大きなメリットがあることも証明されました。ところが、アニメ制作に従事する人の苛酷な労働環境は今でも解決できない問題として残っています。
「世界で人気なのに薄給」というアニメ業界の明らかな矛盾を解決するためにANIM.JPプロジェクトは立ち上げられました。
多くの課題を抱えるアニメ業界
アニメ制作に関わる人たちが「薄給」であったり「労働環境が苛酷」であったりするのは、アニメ制作会社が「儲からない」体質になっているからです。アニメ会社は、たとえば映画製作会社とは構造がまったく違います。
映画なら東映や松竹などがお金を出してプロデュースし、自社の映画館で上映して資金回収をします。ところが、アニメ制作会社には「自社上映」が不可能です。テレビでの放送が基本のフォーマットだからです。
そのため、アニメ制作では出版社やグッズ制作会社などの企業が「製作委員会」を形成して出資して、その後の広告収入やグッズ販売などで制作費を回収するシステムになっています。アニメがヒットしても、ヒットの原動力となったアニメ制作会社には利益がもたらされません。ANIMが発表しているホワイトペーパーでも、「アニメ制作会社に還元されないビジネスモデル」を問題視しており、「アニメがヒットしたとしても、アニメ制作会社は版権ビジネス等による二次利用収入を得ることができないのが現状」(ANIM WHITEPAPER p.4)と報告しています。
アニメ制作者は、あくまで「製作委員会からの受注」でのみ利益を得られます。版権ビジネスによる収益は製作委員会に入り、アニメーターには還元されません。
引用元:JAniCA
アニメーターの厳しい労働環境は以下のように厳しいものになっています。
- 20代前半の平均年収:約150万円
- 月の平均作業時間:230時間
- 月の平均休日:5.4日
かなり苦しいなか生活していることがうかがえます。
アニメーターたちの課題
苛酷な労働環境なのに、なぜアニメーターたちは働くのでしょうか。それは「アニメを作ることが好き」だからです。
JAniCAのアンケート調査には仕事の継続の理由として「お金を得るため」という回答も多いですが、「アニメの仕事が好き」「アニメを作るのが楽しい」「クールジャパンの一角を担っているアニメーションという文化を大切にしたい」「「この国の文化のため、子どもたちの未来のためにがんばりたい」という声が寄せられています。
「ANIM」のホワイトペーパーでも、アニメーターたちは「お金を得るため」だけでなく、「この仕事が楽しいから」仕事を続けていると報告されています。また、今後の仕事計画として「働ける限り、アニメ制作者として仕事を続けたい」と答えているアニメーターが多いことも報告されています。(ANIM WHITEPAPER p.7)
アニメ制作は複雑な工程を経ます。デジタル化しているとはいえ、まだまだ「アニメーターが手描きする原画」に頼っている現状です。フリーランスが多い業界では工程が複雑化しているために、現場は大変な作業量になっています。
また、アニメ制作会社の経営が厳しい、人材がいないといった理由で「新しい人材の育成」がままならないという意見も数多くあります。大手の会社でも、年間で2人か3人育てれば良いほうという報告もあります。
NFTの登場がもたらした危機感とは
日本のアニメーターたちの労働環境にはある程度の改善の傾向が見られるのも事実で、現在は「拘束方式」「正社員化」などの対応で待遇を改善する会社も出てきました。
ところが2022年、一部のアニメ関係者を驚かす事態が発生します。それが「日本風アニメの絵柄を使ったNFT作品が高額で取引されている」という事実です。
日本のアニメは世界で人気があります。日本アニメ風の絵柄は世界の人にお馴染みで、アメリカやヨーロッパなどで高い人気があります。NFTにはアート系NFTやゲームNFTなどもありますが、オジリナルキャラクターを使ったNFTも高い価格で販売されており、そのなかには明らかに日本のアニメに影響を受けたと思われるものが多くあります。
引用元:OpenSea
日本アニメに登場する「殺し屋の女の子」のようなコレクションで人気の「Killer GF」は、まるで日本人が描いたように見えますが、アーティストは「Zeronis」という人で日本人ではありません。
販売されている価格は「30ETH」前後のものが多くあります。1ETHを約20万円とすると、1体600万円です。これなら2体も販売すればテレビアニメの1話程度の制作費なら充分にまかなえます。
日本のアニメ関係者は「自分たちが必死で積み重ねてきた歴史と文化の表面の輝かしい部分だけを持っていかれた。大きな資金を得たプロジェクトから日本のアニメスタジオが買収される可能性もある」と考えています。
それよりも、「なぜこのやり方をいち早く日本のアニメ関係者が採用できなかったのか」という思いを持っている人が数多くいます。このままでは、世界にIPを発信してきた文化が終わって「日本は単なる下請け工場になってしまう」という危機感を持っている人もいます。
ANIMはホワイトペーパーで、「積み重ねた歴史と文化を、根こそぎ表面のキラキラした部分だけ持っていかれてしまったような感覚を覚えました」と危機感を表明しています。(ANIM WHITEPAPER p.9)
「ANIM.JP」が目指す新しいアニメスタジオの姿
「ANIM.JP」は、「NFTを販売して、それを制作費にする」というシンプルながら困難な命題にチャレンジする組織です。
これまでのプロダクションIGグループや、カドカワなどがアニメ作品をNFT化するという動きはありましたが、「最初にNFTありき」で始まったプロジェクトはまだ少ない状態です。
ANIM.JPは活発に活動しており、ファンも徐々に増えつつあります。成功すれば日本アニメにとって画期的です。
NFT発行による資金確保
アニメ業界には「三重構造」と呼ばれる収益構造があります。製作委員会が出資し、版権ビジネスなどでの売上を集めます。アニメの制作会社は製作委員会から出資を受けてアニメを制作します。製作委員会から受けた制作費の一部がアニメーターの給与となるというのが三重構造です。
ホワイトペーパーによると、ANIM.JPは三重構造そのものに手を付けようと考えています。まずは応援するファンからNFTを購入するという形で出資を受けます。NFTによって得た収益をアニメの制作現場に流します。ファンを重視し、透明性のある報酬設計を目指しています。
そのために発行されるのが「ANIM PFP」という9999体のジェネラティブNFTです。ANIM PFPを所有することで、ファンは様々なプロジェクトに参加できます。「PFP画像」ですので、SNS上のプロフィール画像として使うことができます。
引用元:OpenSea
PFPには「頑張る人すべてに新しい価値を提供する」という願いが込められています。2022年8月現在、主に「1ETH」程度が価格帯としては多めです。約20万円強といったところです。最も安価なもので「0.02ETH」で4000円から5000円程度です。
NFTプロジェクトには良くあることですが、「ANIM PFP」は「ANIM.JPを応援するファン」の証明となります。ホルダーとなればプロジェクトに参加できます。ANIM.JPが成功すればPFPの価値も向上するのでホルダーにもメリットが生まれます。
「ANIM.JP」ホルダーへの還元
ANIM.JPのPFP画像NFTを購入したユーザーには、様々な特典が用意されています。
公式に発表されているのは以下のような特典です。(ANIM WHITEPAPER p.24)
- エンドクレジットに掲載
- 制作現場への参加や交流
- コラボNFTのホワイトリスト(先行予約)獲得
- アニメ制作過程を公開
- アニメの先行配信
- ANIMトークンの発行
- 声優オーディションの参加
- 版権の商用利用
今の日本のアニメ業界を良く知っているプロジェクトらしい、具体的で魅力のある特典です。
また、制作したアニメの原画をNFT化してコレクションとして届けるという企画も予定されています。「アニメ原画のNFT化」はすでに成功事例もあり、確実に資金回収が見込めます。
ロードマップ
ANIM.JPの目標は、自分たちの資金力と技術でアニメ作品を創造することです。NFTの売上を元にショートアニメから始めて、2024年には「長尺の作品」を制作することをロードマップでうたっています。
・2022年:60~120ETHで予算を立ててショートアニメを制作する。「NFTコミュニティが主導で作品を制作する」フローを確立させる。
・2023年:600ETHで予算を立てて、20分程度のアニメを制作する。アニメキャラを活用したゲームを作る。「ANIM PFP」を3D化してメタバースで活用する。
・2024年:2,400ETH規模の作品を実現する。
ANIM.JPは、今までの「製作委員会から制作会社へ資金が流れる」方法で作られていたアニメを「NFTから制作会社へ資金が流れる」というフローでアニメを制作することを目標としており、そういったアニメをどのように制作するのかを模索します。
2024年に長尺の作品を制作し、そのノウハウを活かした「効率化サービス」をローンチすることもロードマップに含まれています。
「ANIM.JP」の進捗をチェック
引用元:ANIM Park Guide
「ANIM.JP」は「アニメーション制作を民主化する」ことを目指しています。従来のアニメ制作は完全にトップダウンで、しかも資金の流れが悪くなっています。
ANIM PFPのユーザーはANIM.JPのDAOに参加でき、中央集権的でないアニメ制作を目の辺りにすることができます。
ここからは、2022年8月時点でのANIM.JPの進捗を解説します。
ステップ1・ステップ2まで完了
ANIM.JPは大きく3つのステップを踏んで目標に到達する計画ですが、すでにステップ1・ステップ2までは完了しています。
2022年6月にDiscordが開設されました。Discordを中心にコミュニティを形成し、プレセールに参加するメンバーを集めました。およそ500名ほどのメンバーが初期から参加しています。
7月22日、NFTがミントされました。NFTはコミュニティへの参加権を意味します。NFTが会員権となってコミュニティの方向性を決める議決権を持ちます。NFTの発行数9999枚は、イコール会員権の数でもあります。
NFTがミントされ、NFTを投票券としてアニメの制作がスタートします。どのようなテーマのアニメになるのか、主人公やジャンルなどをDAOのメンバーが投票して決めていきます。
AMAのまとめ
「AMA」はNFT界隈で使われる用語で、「Ask Me Anything」の略称です。NFTにおける「記者会見」「進捗報告」などのことで、運営側が主に口頭で発表するものです。
ANIM.JPでも定期的にAMAが開催されており、そのたびに様々な情報が出てきます。AMAは主に「Founder(創設者)」のLEG氏が行います。
AMAでの主な発表内容
- ANIMの名前の由来は「Animal」「Anime」「Animated New world In the Metaverse」のように色々な願いが込められている。
- タイアップ先の発表:CoolGirlNFT、Neo Samurai Monkeys、Kawaii Meta Callage、Tokyo Alternative Girls、NEO TOKYO PUNKSなど幅広くタイアップ。
- 「ANIM PFP」はクリエイターを象徴したアイコンで、日々現場で仕事に打ち込む人の姿。
引用元:OpenSea
- ANIMの世界にはネズミや猫などもいて、出現率が低い動物もいるが、どの動物が偉いわけでもなく、すべての動物に意味がある。
- ミント方式は「ERC721Upgradable」で、発行上限9999枚。
今後のプロジェクトの方針
ANIM.JPは、「日本のアニメーターの苦境をなんとかしたい」という願いから起こった「労働運動」の側面があります。
web3では個人が「P2P」でつながります。中央集権ではない分散型のエコシステムでアニメーションにかかわる人たちが能力をしっかり換金できる仕組みを作るのがANIM.JPの目標です。
FounderのLEG氏は今後のプロジェクトの方針として以下のような内容を語っています。
- web3上のアニメスタジオとして実際にアニメ制作の受注をする。
- ANIMのPFPの動物たちにバックストーリーを設定して、獣たちの物語をアニメ化する。
- LAGやTMAなどの国内コレクションのアニメ化を行って日本発のコレクションを世界に届ける。
- アニメプロダクション用のチャンネルを作成して、制作過程をフルオープンでコミュニティに公開する。
まとめ
新しいアニメ制作のスタイルをweb3を通じて確立しようというのが、ANIM.JPのコンセプトです。
最後にこの記事をまとめます。
- 世界で人気な日本のアニメの労働環境は非常に厳しい
- アニメを作る人たちの思いだけで作られている
- NFTの登場は日本のアニメーターにとって衝撃だった
- ANIM.JPはアニメ業界の構造そのものを変えようとしている
- NFT発行を資金源としてアニメを制作する
- 多くのタイアップを得ている
コミュニティには、業界を変えていきたいという思いを共有したメンバーたちが集まっています。興味があれば、まずはDiscordをのぞいてみましょう。