NFTにおける著作権の扱いがクローズアップされるようになり、CC0というワードを目にする機会が増えてきました。
CC0とはどういったもので、どのような意味を持つのか解説していきます。
この記事の構成
CC0とは
CC0(シーシーゼロ)とは、「Creative Commons Zero」の略称で、日本語で言うと「いかなる権利も保有しない」との説明になります。
アート業界において以前から使用されている用語ですが、最近になってNFTでも採用されるようになりました。
Creative Commonzとは
Creative Commonz(以後クリエイティブ・コモンズと表記)とは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以後CCライセンスと表記)を提供している国際的非営利組織です。
CCライセンスとは、「インターネット時代のための新しい著作権ルール」で、アーティストやクリエイターが作成した作品に「この条件を守れば私の作品を自由に使用することを許可します」という意思表示をするためのツールのことを言います。
このCCライセンスを使用することで、作者は著作権を維持したまま自らの作品を流通させることができ、使用者は一定の条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることが可能になります。
CCライセンスは細かい条件が定められております。
詳細の説明は省きますが、大きく分けて以下の4種類がありそれぞれのマークが用意されています。
- 表示:作品のクレジットを表示すること
- 非営利:営利目的での利用をしないこと
- 改変禁止:オリジナルの作品を改変しないこと
- 継承:オリジナルの作品と同じ組み合わせのCCライセンスで公開すること
(引用元:https://creativecommons.jp/licenses/)
さらにこの4種類を組み合わせた以下の6種類のライセンスがあります。
- 表示
- 表示+継承
- 表示+改変禁止
- 表示+非営利
- 表示+非営利+継承
- 表示+非営利+改変禁止
(引用元:https://creativecommons.jp/licenses/)
この中で最も自由度が高いのは「表示」のみのライセンスであることがわかりますが、CC0はこの「表示」さえも不要にしたライセンスで「いかなる権利も保有しない」となり、ライセンスを完全に放棄した内容になっています。
ここで改めてCC0を説明すると
「アーティスト側は全ての著作権と占有権を放棄し、二次利用者側は著作権による制限を受けずにオリジナル作品を自由に再利用することができる」
となります。
パブリックドメインとの違い
CC0と同じような意味合いで「パブリックドメイン」という言葉が使用されることがあります。
パブリックドメインとは、著作物において知的財産権(知的所有権)が発生していない状態で、誰でも自由に使用できることを意味しており、日本語では「公有」などと表現されることがあります。
この説明の通り、CC0とパブリックドメインは同意語として使用されることがありますが、大まかに言うと以下の点で大きな違いがあります。
マークによる意思表示 | 法的な機能 | |
CC0 | あり | あり |
パブリックドメイン | なし | なし |
しかし具体的な内容はとても専門的で複雑ですので、詳細はクリエイティブ・コモンズの公式サイトに掲載されている下記の表をご参照ください。
(引用元:https://wiki.creativecommons.org/wiki/CC0_PDM_comparison_chart)
著作権法の問題点
一番の問題点は各国における「著作権の法律」にあります。
日本も含めた多くの国において、作品が作られた時点で「自動的」に付与され、著作権の発生について行政庁などへの登録は一切必要がありません。
著作権を守りたい著作者の場合は申請などの手間がかからず便利と言えます。
しかし著作物の著作権を放棄し二次利用などを許可したい場合が生じたとき、複雑な法律が壁となり困難を極めます。
日本の場合のフローを紹介します。
(引用元:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/93726501.html)
図で見るかぎり簡単に見えますが、それぞれの項目を確認するにはとても大変な作業になります。
解決方法
そこで、クリエイティブ・コモンズが2009年に全ての著作権に関する権利を徹底的に放棄するための方法としてCC0というライセンス規格を発行しました。
CC0は司法制度において完全に著作権放棄を約束するものではありませんが、著作権は「私権」であることから、どのように扱うかの「意思表示」をすることが大切です。
日本の文化庁でもそのツールとしてCCライセンスの利用を紹介しており、著作権放棄の利用許可においてCC0はとても有効な手段であることがわかります。
CC0の使用方法
CC0は著作物を保有している著作者であれば誰でも申請することが可能ですが、一度CC0の申請をすると取り消すことができないため、二度と著作権を取り戻せなくなるので注意が必要です。
詳細の確認や申請方法などはクリエイティブ・コモンズの公式サイト上でご確認ください。
なお申請は下記の通りです。全ての項目への入力は必須ではないようですが、メタデータに残るので入力を推奨しています。
(引用元:https://creativecommons.org/choose/zero/waiver)
NFTやWeb3におけるCC0の役割
では、CC0がNFTやWeb3においてどのような役割を果たすのか説明していきます。
ブロックチェーンとアート
アートについて、著作権法が誕生するに至るまでの時代経過を紹介します。
- インターネットが普及する以前
- 絵画や写真などは、雑誌や本を購入するか博物館などで鑑賞する。
- 音楽や演劇についても、テレビやラジオにて一部を体験することはできるが、レコードを購入する他コンサートなどで鑑賞・観劇する。
- インターネット
- インターネットの出現により絵画や音楽などのジャンルに関わらずより身近になり、いつでも触れることが可能になった。
- これによりユーザーの満足度は高まったものの、絵画や写真であれば用意に複製されるようになり、音楽であればCDなどの販売が減ってしまうなど、アーティストが犠牲になった。
このインターネットの時代での問題を解決するために生まれたのが「著作権法」です。
ブロックチェーンの登場
ブロックチェーンの誕生後、Web3と言われる時代が到来しNFTが登場すると、アートの世界に大きな変化が起き始めました。
アートの真贋を証明することが可能になるだけでなく二次流通時に収益も得られるようになるNFTの到来により、著作者にとって画期的な時代をむかえることになります。
NFTとCC0
NFTの登場により、アートの世界が激変したとはいえ問題点は存在します。
日本の文化庁でNFTに関する記事を掲載しているので紹介します。
(引用元:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/93726501.html)
NFTを購入したホルダーは、本来であれば自分が保有している作品であるにも関わらず、NFT発行者の制限によりデジタル世界から現実世界の市場に拡大する権利を有していません。
有名な例では、NFT老舗のCryptoPunksの制作スタジオであるLarva Labsは、ライセンス供与や商業利用について明確なガイダンスを提供していませんでした。
やがてこのことがNFTのホルダーのコミュニティで問題提起されるようになり、一部のホルダーは作品を売り出し、コミュニティから撤退してしまうということがおきます。
その後、商業的権利を付与してきたBAYCの制作スタジオであるYuga Labsが、2022年3月にLarva LabsのCryptoPunksとMeebitsのIP(知的財産権)を取得すると、この2つのプロジェクトのホルダーにも商用利用権が付与されることになりました。
(引用元:https://twitter.com/yugalabs/status/1502420714527334406?s=20&t=JYqdQyyF68h1tgoewT4rfg)
また、日本のNFTプロジェクトであるMEGAMIも商用利用権などを幅広く認めています。
これらの商用利用権の付与は制限の範囲であり、CC0のように全ての権利を放棄しているわけではありませんが、トークンエコノミーで形成されるWeb3の概念からすると必要不可欠な対応になっているとの考え方があり、ホルダーやコミュニティにとっては歓迎できる対応です。
CC0 NFTプロジェクトの紹介
ここからは実際にCC0を宣言しているNFTプロジェクトをいくつかを例にあげ、CC0についての取組などを紹介していきます。
Nouns DAO
Nouns DAOは、Nounと呼ばれるピクセルアバターが24時間ごとに一体ずつ、自動的にオークションにかけられるジェネレーティブNFTプロジェクトです。
Nouns DAOはローンチ当初よりCC0ライセンスを宣言しており、ホルダー、非ホルダーに限らずNounsの文字を使用して派生商品を作成することができます。
Nounsの共同制作者であるpunk4156はDecryptにて「著作権はもう必要ない。学術的な引用が元の論文をより重要なものにすると同じように、Nounsの引用した作品が、それがどのような形式であろうと元のNounsがより重要で価値のあるものにするでしょう」と語っています。
ここからNounsから派生したプロジェクトをいくつか紹介します。
Visualize Value
Visualize Value(https://visualizevalue.com/)という、オペレーティングシステムを提供しているサイトの中でグッズ販売を行っています。
その中で「Nouns Cap」という帽子を販売していますが、これを運営しているのはNounsの非ホルダーのユーザーです。
(引用元:https://visualizevalue.com/collections/merch/products/noun-cap)
公式サイトによると、このサイトを運営しているジャック・ブッチャーはCC0を宣言しているNouns DAOに興味を持ち、誰にも許可を得ることなく「Nouns Cap」を販売し69分間で167個のCapが販売されたとのことです。
引用元:https://visualizevalue.com/blogs/feed/crypto-and-cc0-case-study
Noundles
Nouns NFTの派生プロジェクトとして有名なのが「Noundles」です。
(引用元:https://opensea.io/collection/noundles?tab=activity)
NoundlesはNouns DAOにインスパイアされたコミュニティ主導のPFPコレクションで、イーサリアムブロックチェーン上でゲームをすることにより、RAINBOWSトークンを取得できます。
このNoundlesもCC0を宣言しています。
Blitmap
(引用元:https://opensea.io/collection/blitmap)
17人のアーティストが作成した100個のピクセルアート作品から始まり、1,600個の生成を上限とするフルオンチェーンのNFTプロジェクトです。
Blitmapのローンチは2021年5月31日ですが、コレクションが完成した2021年7月3日時点でCC0は宣言していませんでした。
その後、8月13日にCC0にすることをTwitter上で発表しました。
(引用元:https://twitter.com/blitmap/status/1425875062842871811?s=20&t=iojTsEMhO58hDX9LPNA_2A)
BlitmapはCC0についてMEDIUMのサイトで次のように語っています。
「全ての二次創作物は元になったオリジナルの作品とその価値を共有しており、時間が経過するに従い、オリジナル作品のそれ自体がプラットフォーム、もしくはエコシステムになる能力を備えています」
また、CC0を採用するにあたって以下の長所と短所が注目されたと紹介しています。
- 長所
- オリジナル製品の価値の分散化
全ての派生品はトラストレスに作成することが可能で、全ての派生品は元のオリジナルの作品の注目度と価値を高める。 - 利害の一致
二次創作するクリエイターは自立(セルフサステナブル)した派生品を作ることができ、さらにより多くの、そしてより高品質の派生品を作成するよう推奨されている。 - クリプトネイティブである
暗号資産についてネイティブである。
- オリジナル製品の価値の分散化
- 短所
- 独占権なし
法主体もアーティストも独占する権利を持ち合わせていない。 - 悪者の存在
悪意のあるものにより悪用される可能性がある。 - 価値が低いととらえる人がいる
IPに価値をもっていることから、それを放置することにより価値がなくなったととらえるユーザーもいる。
- 独占権なし
以上の点もふまえて、コミュニティで投票をし満場一致でCC0の採用が決まったとのことです。
mfers
(引用元:https://opensea.io/collection/mfers)
「sartoshi」が制作する1万体のジェネレーティブNFTコレクションで、他のビッグプロジェクトとは異なるとても個性的な作品です。
OpenSeaの概要に下記の通り、CC0について記載があります。
「mfers are generated entirely from hand drawings by sartoshi. this project is in the public domain; feel free to use mfers any way you want.」
公式サイトによると、sartoshiはmfersの立ち上げ前より、CC0について興味をもっており、NounsやCrypToadzが採用したことに魅了されて、mfersでも採用することに決め、Web3という新しい世界への壮大な実験であるとしています。
CrypToadz
(引用元:https://opensea.io/collection/cryptoadz-by-gremplin)
(引用元:https://www.cryptoadz.io/)
匿名アーティストGremplinにより考案された6,969個のヒキガエルをテーマにしたNFTコレクションです。
GremplinがNounsに関わっていたこともあり、先述したNounsの共同制作者であるpunk4156はCrypToadzリリースの際にTwitterにて宣伝するほどこのコレクションを評価しました。
(引用元:https://twitter.com/punk4156/status/1435961997590470664?s=20&t=G2zWwPAlSyasqDkwnYsguA)
さらにpunk4156は、CrypToadzの成功の要因の一つはパブリックドメイン(CC0)にあると、同じくTwitterで紹介しています。
(引用元:https://twitter.com/punk4156/status/1444274080451080200?s=20&t=1sjPxs6k2dUfYbIduV1YdA)
まとめ
2022年8月27日に先述したpunk4156が下記のtweetをしました。
(引用元:https://twitter.com/punk4156/status/1563534601162608642?s=20&t=JYc8N1cxeACPXs-Tt4jLdQ)
日本の情熱大陸で紹介されたうどん職人のTシャツがNounsのデザインになっており、Nounsとは全く関係ないところでこのような場面に遭遇することはとても興味深いです。
NFTの人気が低迷してきていると言われている中で、今後は著作権に関しての取扱いに言及するプロジェクトが増えると予想されます。