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未来のはんこと期待される「NFT印鑑」について解説

解説系記事

「印鑑」に対して抱くイメージは、多くの場合において前時代的な古いものとされることが多いかもしれません。

実際、昨今は「脱ハンコ」が呼びかけられるなど、ハンコ文化による生産性の低下などが日本社会において指摘されています。

そんな中、印章やスタンプを中心に製造販売を行っているシヤチハタ株式会社は、株式会社ケンタウロスワークスとの共同開発を進め、日本初の電子印鑑である「NFT印鑑」を開発しました。

シヤチハタ株式会社は従来の印鑑だけではなく、「Shachihata Cloud(シヤチハタクラウド)」と呼ばれる電子印鑑のノウハウを豊富に蓄積しています。

そして、株式会社ケンタウロスワークスは、弁護士が多数所属する早稲田リーガルコモンズ法律事務所を母体とする、ブロックチェーンの社会実装に取り組む企業です。

上記の2社が共同で開発を進めることで印鑑の印影データをNFT化し、印鑑保有者情報と印影情報を結びつけた固有性を持った新しい電子印鑑が誕生したのです。

今回の記事ではそんなNFT印鑑についての概要から開発に至った背景、さらにNFTを実社会に実装するハードルと課題を解説していきます。

ぜひ最後までご覧ください。

NFT印鑑とはどのようなものなのか?

2020年頃より話題になり始めたNFTですが、一般的にはアート分野での高額落札などのニュースへの注目度が高く、実際はどのようなものか理解している人は少ないかもしれません。

NFTは、「Non-Fungible Token(ノン-ファンジブル トークン)」の頭文字を取ったものであり、日本語へ訳すなら「非代替性トークン」といった意味となります。

少し難しく感じるかもしれませんが、日本語訳の単語をそれぞれ言い換えれば以下のようなイメージとなります。

  • 非代替性 = 他と取り替えが利かないもの
  • トークン = 何かの証や印となるデータや器具などを指す

つまり「代替できない唯一のデータ」と思っていただければ、分かりやすいのではないでしょうか。

これまで代替できないこの世に唯一のものと言えば、芸術家の絵画や有名人のサインといった現実世界における物質でしか存在できませんでした。

そしてデジタル上におけるデータである画像や動画などは、無限にコピーすることが可能でありそれら自体に価値を見出すことは不可能だったのです。

しかしこのデジタル上のデータに関して現実世界の物質同様に、唯一無二の価値を付けられる技術がNFTなのです。

このような特徴をもつNFT技術を印鑑に流用することで、どのようなことが可能になるのでしょうか。

ここからはNFT印鑑ができることについて、以下の3点に分けて解説していきます。

  • 利用者本人の識別や証明ができる
  • 信頼性が高い
  • 複数の電子決済サービスで使用できる

利用者本人の識別や証明ができる

2022年以前においても、デジタル上での押印が可能な電子印鑑は存在していました。

電子印鑑自体は、ワード書面などの電子ファイルにデジタル印影を付けることで、実際の紙面に押印したようなイメージを作り出すことが可能です。

しかしデジタルデータであるため、PDFなどに変換していない限り誰でもその印影をコピーして利用することができます。

その結果、誰が押印したのか分からないといった偽造リスクも含んでいました。

この偽造リスクについては現実世界の印鑑も同様であり、通帳と印鑑が盗まれるといった事件も度々発生しています。

一方で電子印鑑のデジタル印影をNFT化することで、その電子印鑑の利用者本人の識別及び証明が可能となるのです。

つまり現実世界における「印鑑証明」と同様の効力を、デジタル上において再現できたということになります。

信頼性が高い

従来の電子印鑑については誰でも容易にコピーが可能であることは前述しましたが、NFT印鑑は違います。

デジタル印影に紐付けられた情報から、実際の押印権限を持つ本人であることを証明することが可能となるのです。

実際にNFT印鑑によって押印された印影をクリックした際には、以下のような画像が表示されます。

画像参照:ITmediaNEWS

このように、万が一同じ印影データであったとしても、NFT情報によりその違いを区別することが可能となるのです。

印影の偽造防止が可能となることから、押印された書面についての信頼性は高いものとなるでしょう。

複数の電子決済サービスで使用できる

シヤチハタは今後、異なる電子印鑑や電子契約のサービスにおいても共通して使用できるサービスを予定しています。

複数サービスにおいて利用できることで、企業間で別々の電子契約システムを利用している場合であっても、スムーズに取引を成立させることが可能となります。

さらに民間企業向けだけではなく、官公庁向けへのサービス展開も想定しており、より幅広い層への普及を目標としています。

現在は役所関連の手続きにおける印鑑の使用は、一昔前より少なくなっていますがまだまだ必要とする場面はあります。

NTF印鑑の使用が一般的になれば、年金受給や婚姻届といった手続きについてもインターネット上のやりとりで完結するかもしれません。

NFT印鑑開発の背景

実際はNFT化した印影を使用せずとも、本人認証システムや電子契約システムを作ることは可能です。

しかし現状の電子契約システムは、本当に多くの使用者に受け入れられているのかという点に関して、シヤチハタ株式会社は疑問を持っていました。

そこで現実世界での契約の証である、押印という慣習的な体験をデジタルの世界に移行させることで、長年使用してきた安心感を得られるのではと考えNFT印鑑の開発に着手しました。

投機対象ではないNFTを目指す

ビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)は価値の変動幅が大きいため、「タイミングよく持っていれば儲けられるかもしれない」といった考えのもと購入した人々が普及率を高めたとも言えます。

そして、このことはNFTに関しても同様のことが言えるでしょう。

特定のNFTアートが高額落札されたニュースや、小学生が作成したNFTアートが高額で販売されているといった話題を元に注目を集めました。

もちろん暗号資産もNFTも価値が上昇する可能性を含んでいるため、投資対象として考えることは間違いではありません。

その一方でブロックチェーン技術の本質は、中央集権的なシステムでは実現できなかった信頼や信用を、非中央集権的な仕組みで担保することにあります。

このようなブロックチェーン技術の本質に基づき、投資や投機の対象ではないNFTを目指してNFT印鑑は開発されているのです。

現実の体験をそのままデジタルへ移行させる

前述したように、「押印」という体験は長年社会に浸透している慣習です。

デジタル上での本人認証システムや電子契約システムでは、現実世界で得てきたリアルな体験という価値を実感することは難しいでしょう。

そこで、「今までの体験をそのままデジタルの世界に移行する」ことにニーズがあるとシヤチハタ株式会社とケンタウロスワークスは考えました。

その結果「押印」をデジタル上に移行する手段として、NFT印鑑という発想が生まれたのです。

実社会にNFTを実装することは可能なのか?

現在のNFTはデジタル上のデータを所有するという部分が強く、収集や二次流通といったコレクション的な側面が強いと言えます。
しかしブロックチェーン技術が開発された当初から、所有権や著作権、特許権といった無体財産権の発生、帰属、消滅を記録するなどの社会実装が試みられてきました。

そしてNFT印鑑を使用した契約が実現できれば、ブロックチェーン技術は実社会に密接に繋がりますが、その実現には様々な難しい問題が立ちはだかっていることも事実でしょう。

日本社会では特にハードルが高い

日本は国や地方公共団体といった、中央集権に対する信頼感が非常に高い国です。

例えば、銀行預金が突然全額無くなってしまうことや、住んでいる土地や家の所有権が突然書き換えられるといったリスクを考える人は少ないはずです。

なぜなら日本の銀行や、不動産登録に対する信頼が高いからです。

このような理由から日本に住んでいながら、非中央集権的なシステムであるブロックチェーンを積極的に利用しようと考える人は少ないでしょう。

一方で社会情勢が悪く、中央集権的な社会に対する信頼感が乏しい国などの場合、状況は正反対となります。

なぜなら「管理者が信頼できないから、管理者のいないブロックチェーンの方が信頼できる」と考える人が大多数になるからです。

しかし中央集権が安定している日本社会においては、そのような心配は基本的に必要ありません。

そのため「NFT技術を積極的に利用する動機が生まれにくい状況にある」と言えるのです。

法解釈などのルール改正も求められる

NFT取引に関する法解釈やルールについても、同様に大きな課題と言えるでしょう。

現在の法律は「デジタルデータを所有する」という、新しい概念に対して対応できていない状態にあります。

つまり、NFTを購入しても「法的な概念として購入者に所有権は無い」のです。

数年後NFTが更に浸透した時に、この法解釈が様々な問題を生んでしまう可能性も考えられます。

万が一、社会的に大きな問題を生んでしまった場合には、NFT技術を社会実装する機会も激減してしまうかもしれません。

日本の法改正スピードは新しい技術に対して遅れてしまうことが多いですが、早急な対策が必要と言えるでしょう。

まとめ

印鑑というアナログな契約アイテムと、最新のブロックチェーン技術をかけ合わせた「NFT印鑑」の概要について解説してきました。

暗号資産はブロックチェーン技術を利用して、既存の通貨と並ぶ存在価値を確立しています。

暗号資産がここまでの地位を築いた要因には、より安心した通貨を利用したいという社会的な背景があったと考えられます。

同様に、社会的なニーズがある分野についてNFT技術を使用した新しい仕組みがこれから生まれてきても不思議ではありません。

NFT印鑑はそんな新しい仕組みが生まれるための第一歩として、注目すべき存在であると考えます。

まだ完全な実装には至っていませんが、これからの動向に期待しましょう。

May

May

ブロックチェーンを筆頭とする様々な技術が、今後世の中の仕組みを大きく変えるかもしれないという点に対し興味を持っているWebライター。 自身の経験を元にだれにでも分かりやすく、興味をもってもらえるような記事を執筆するように心がけて参ります。
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