暗号資産(仮想通貨)に触れた経験がある人ならば、一度はその名前を聞いたことがあるだろう銘柄の1つがEthereum(ETH|イーサリアム)です。
暗号資産の取引をしている人の多くが利用している暗号資産の価格追跡サイトCoinMarketCapにおける時価総額はBitcoin(BTC|ビットコイン)についで世界第2位です。
また、EthereumとBitcoinはその特性が異なっており、暗号資産を活用した様々なサービスを展開していくにあたってはBitcoin以上に大きな期待が寄せられる銘柄でもあります。
この記事ではEthereumの基本的な特徴に加え、世界中の投資家や開発者から価値が認められている理由について解説します。
この記事の構成
EthereumとETHの違い
詳細な解説に入る前に、EthereumおよびETHの表記が持つ意味と読み方について確認しておきましょう。
Ethereum(イーサリアム)は、ブロックチェーンの名称そのものを指します。
本記事では、ブロックチェーンとしての意味合いで記述する際はEthereumと表記します。
次にETH(イーサ)です。
ETHはEthereum上で流通している暗号資産であり、Ethereumを用いて開発された分散型アプリケーション(dApps)を使用する際に用いられる通貨でもあります。
暗号資産を普段扱っている人たちの会話の中では、暗号資産(つまりETH)自体をさして「イーサリアム」と呼ぶこともありますが、厳密にはブロックチェーンの名称=Ethereum、暗号資産の名称=ETHであることを覚えておきましょう。
以下、本記事ではこの2者の表記を使い分けて解説します。
Ethereum(ブロックチェーン)について
Ethereumは、多様なWebサービスやアプリケーションを開発できるブロックチェーンの代表格です。
Ethereumには、インターネット上で複数の当事者間の契約を自動的に履行するためのプログラムであるスマートコントラクトや、Ethereumと互換性があるトークンを作ることができる規格であるERC-20など、非常に重要な機能があります。
これらの機能を活用することで、Ethereumブロックチェーンは誰もが利用できるグローバルな決済機能や銀行口座を開設できない人でも使える分散型金融(DeFi)システムの提供、あるいはNFT(非代替性トークン)として多様なデジタル資産を保有・利用することを可能にしています。
また、Ethereumはオープンソースとなっており、誰でもEthereumのコードを用いてアプリ開発を行ったり、他人がすでに作った機能を再利用したりすることができます。
新しいプログラミング言語を学ばずとも、JavaScriptなど既存の言語を使うことで開発ができるため、非常に汎用性の高いブロックチェーンであると言えます。
ETH(トークン)について
ETHはアルトコイン(BTC以外の暗号資産の総称)として最大の規模を誇る暗号資産です。
Ethereum上で開発されたサービスにおいて様々な形で利用されており、ガス代の支払いからDeFiでの運用、NFTの売買まで用途は多岐に渡ります。
BTCが強固なセキュリティに重点を置いた設計になっているのに対し、ETHはある程度のセキュリティを担保しつつブロックチェーン上の各種サービスで利用しやすい暗号資産として設計されています。
Ethereumの歴史
引用元:Forbes JAPAN
Ethereumは、創設者の1人であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏により2013年に初めてホワイトペーパーが公開されたところからその歴史が始まります。
創設者
Ethereumには合計8人の共同創設者がいます。彼らは2014年6月7日、スイスのツークで初めて顔を合わせました。
創設者の中でも特に著名なのがロシア系カナダ人のVitalik Buterin氏でしょう。
Vitalik氏は2013年にEthereumを紹介したホワイトペーパーを著し、現在に至るまでプラットフォームの改善に取り組んでいます。
2022年現在でも28歳と年若いVitalik氏は、2017年にブルームバーグの「世界に一番影響力を与えた人物50人」のうちの1人に選ばれ、2018年にはフォーブス誌の「30アンダー30(※)」にも選ばれています。
※フォーブス誌が毎年発表している30歳未満の特筆すべき人物の一覧。分野ごとに30人を選出することからこの名前がついており、 アメリカ版と一部の地域版でそれぞれ発表されている。
Vitalik氏の次に名前が知られているのはイギリス人プログラマーGavin Wood(ギャビン・ウッド)氏だと言われています。
Gavin氏はC++言語によってEthereumの最初の技術実装をコーディングした人物です。
その後、Ethereumのネイティブプログラミング言語であるSolidityを提案・開発し、Ethereum財団の最初のCTOも務めました。
Ethereum財団の退職後は、分散型インターネットインフラの推進と開発を行う非営利団体「Web3財団」を立ち上げると同時に、異なるブロックチェーン同士の相互運用を目指すマルチチェーンPolkadot(ポルカドット)の開発にも従事しています。
Ethereumの目標
Ethereumが目指しているもの、それは「分散型アプリケーションのグローバルプラットフォームになること」です。
検閲、ダウンタイム、不正等に強く、なおかつ世界中のユーザーが高度なプログラミングスキルを持たずともソフトウェアを開発・作成・実行できるようにすることを目指しています。
より具体的には、Ethereumは単なる暗号資産の送受信のみを目的としておらず、dAppsの開発プラットフォームになることを主な目的としています。
そして、この目的を果たすための重要な要素が、スマートコントラクトをはじめとしたEthereumが持つ技術的な特徴です。
Ethereumの技術的特徴
ここからは、Ethereumの技術面について解説します。
Ethereumが誕生から長きに渡ってアルトコインとして世界最大の規模を維持し続けているのは、その技術面・機能面が優れているからに他なりません。
ここでは、Ethereumを知る上で重要な要素として、以下の項目について解説します。
- スマートコントラクト
- ERC-20規格
- EVM(イーサリアム仮想マシン)
- コンセンサス・アルゴリズム(PoWからPoSへ)
- The Merge
スマートコントラクト
スマートコントラクトとは、事前に当事者の間で定めた条件が満たされることで、自動的に契約内容を実行するプログラムのことを指します。
スマートコントラクトの概念自体は、1994年にニック・スザボというコンピューター科学者/法律学者/暗号学者によって提唱されました。
条件を満たすことで契約内容が自動的に履行されることから、スマートコントラクトにおいては取引における仲介者を必要とせず、当事者だけで取引を行うことができます。
よりわかりやすくイメージするために、スマートコントラクトを活用した契約とその履行の事例を見てみましょう。
たとえば、「自分の口座にある10ETHを1年後にAさんに支払う」という契約が存在するとします。
もしこの契約が、スマートコントラクトを用いない既存の経済システムにおける契約であれば、1年後に自分がAさんへの支払いを忘れていた場合、10ETHの支払いはもちろん履行されません。
その後、支払いを受ける側のAさん、あるいは一連の支払い行為の中で仲介に入る銀行やカード会社から支払いの督促が届くことでようやく未払いに気づき、支払いを行うというのが一般的な流れです。
では、スマートコントラクトを用いた契約の場合はどうでしょうか。
スマートコントラクトを用いた契約の場合、1年後の決められた日時になると、自分の暗号資産ウォレットから勝手にAさんの暗号資産ウォレットに支払いが行われます。
先ほどの例では、自分が支払いを忘れてしまった場合には、仲介者である第三者からの注意を受けてようやく支払いが完遂されるというケースが想定されますが、スマートコントラクトを用いた契約の場合は、そもそも「支払いを忘れる」という事象が起こりません。
期日が来れば、自分のウォレットから勝手に支払いが行われます。
このスマートコントラクトを用いるメリットには、以下のようなものがあります。
まず、すでに述べた通り、一度結んだ契約は自動的に履行される点です。
取引内容さえ決めておけば、契約の履行にあたって人間が意思決定や作業をする必要がなくなるため、業務効率は格段に上がります。
次に、仲介業者が入らずとも当事者間で自動的に契約の履行まで完結するため、第三者に余計な手数料を支払う必要がなくなり、取引がスリム化します。
また、スマートコントラクトで実行した取引の履歴はすべてネットワーク全体に公開されるため、取引の透明性や安全性も担保されます。
このような特性を活かし、相手の素性がわからないインターネット上でもトラストレスでスムーズな取引を実現できることが、スマートコントラクトの特徴です。
ERC-20規格
ERC-20は、Ethereumブロックチェーンと互換性を持つ暗号資産を作るための規格です。
現在、ERC-20規格は暗号資産のエコシステムのほぼすべての領域に広がっています。
ステーブルコインのUSDTやUSDC、あるいはBNBやLINKなど、人気の暗号資産の多くはERC-20規格で作られた「ERC-20トークン」に該当します。
多数の暗号資産が同じ規格で発行されていることは、Ethereumのエコシステムに大きなメリットをもたらします。
たとえば、ERC-20規格を使用した暗号資産は相互運用可能であることが挙げられます。
すなわち、ERC-20に対応したコントラクト、取引所、マーケットプレイス、ウォレットの相互運用が可能であることを意味します。
ERC-20規格を用いた暗号資産が増えることで、Ethereumの既存のシステムにより多くの開発者や参加者が引き寄せられることになり、それによりEthereumの機能がより補強されていく好循環サイクルを生み出しています。
EVM(イーサリアム仮想マシン)
EVM(イーサリアム仮想マシン|Ethereum Virtual Machine)とは、Ethereumのスマートコントラクトを実行するためのプログラム環境です。
一言で言えば、スマートコントラクトのコントラクトコードを実行するための「翻訳機」のようなものとして機能します。
Ethereumのスマートコントラクトの開発には、主にSolidityと呼ばれるJavaScriptやC++と似たプログラミング言語が使用されています。
Solodityは人間が理解しやすい言語ですが、コンピューターはこれを読み取ることができません。
したがって、Solodityで書かれたコードをコンピュータが読み取れるように翻訳する必要があり、その役割を担うのがEVMです。
また、ブロックチェーンにおいて使用される言語は各ブロックチェーンのプラットフォーム固有のものであることが多く、異なるブロックチェーン上でスマートコントラクトを実行するには、ある言語で書かれたスマートコントラクトを別のブロックチェーンで実行できるように翻訳する必要があります。
この翻訳にあたる行為も、EVMによって行われます。
EVMのおかげで、異なるブロックチェーン上でのスマートコントラクトの書き直しや動作テストにかかる時間、あるいは開発者が新しいプログラミング言語を習得するのにかかる時間やコストを削減できます。
コンセンサス・アルゴリズム(PoWからPoSへ)
Ethereumのコンセンサス・アルゴリズムにはPoW(Proof of Work)が採用されていました。
コンセンサス・アルゴリズムとは、ブロックチェーンにおける取引の承認方法の仕組みです。
ブロックチェーンの取引には特定の管理者にあたる存在がいないため、複数のマイナーと呼ばれる存在によって取引の承認が行われています。
PoWでは、最も速く計算処理を行ったマイナーが出した答えを正しいものとして処理する仕組みになっています。
Ethereumも当初はこのPoWを採用していましたが、次に述べる「The Merge」と呼ばれる大型アップデートにより、PoS(Proof of Stake)への移行が完了しました。
The Merge
引用元:coindesk JAPAN
2022年9月に実施された「The Merge」にて、EthereumはPoWからPoSへの移行が完了しました。
このThe MergeはEthereum誕生以来、最も大きなアップデートとされていましたが、アップデートを終えた直後の2022年9月下旬時点では、特に大きな問題はなく無事にアップデートは完了したとされています。
PoSに移行したことで、Ethereumにおける取引の承認方法が「ステーキング」になりました。
PoW採用時は先述の通り、速く計算をしたマイナーの答えが採用されていましたが、この方式は計算をするための強力なマシンパワーが必要と多くのマシン台数が必要であること、それに伴い電力消費が激しく、環境負荷がかかることが批判されていました。
これがPoSに移行し、取引の承認方法がステーキングになったことで、マシンパワーなどには関係なく32ETH以上を持つ保有者の中からランダムに取引の承認者を選び、取引の承認を行う仕組みになりました。
この移行によって、これまで計算にかかっていた電力量の約99%がカットできると言われており、暗号資産が環境的に持続可能であることが示されたとされています。
世界中に認められるEthereumの価値とは
引用元:DMM Bitcoin
Ethereumが価値を認められている最大の理由は、分散型アプリケーション(dApps)の開発ができることにあります。
ここからはdAppsとEthereumの関係について解説します。
分散型アプリケーション(dApps)が開発できる
分散型アプリケーション(dApps)とは、ブロックチェーンの仕組みを利用して実行されるアプリケーションの総称です。
dAppsはこれまでに述べてきたEthereumブロックチェーンの特性を活かした開発が可能であるため、「不正や改ざんが起こりにくい」「ERC-20規格を利用し、他のブロックチェーンと互換性のある暗号資産を用いたサービスが構築できる」「EVMの特性を活かし、低コストで多くの開発者が参入できる環境が整っている」といった特徴があります。
Ethereumを用いた代表的なdApps
上記の特徴を持つことから、Ethereumのプラットフォームを用いて立ち上がったdAppsは数多く存在し、世界中で幅広く利用されているものも少なくありません。
Ethereumを用いた代表的なdAppsには以下のようなものがあります。
- Aave:Ethereum上の流動性を提供する分散型レンディングプロトコル
- Compound:Aaveと同様の分散型レンディングプロトコル
- Chainlink:Ethereum上に構築された分散型オラクルネットワーク
- Polygon:Ethereumのレイヤー2ソリューション
- Uniswap:ETHやERC-20規格にて設計された暗号資産の交換に利用されるDeFiプロトコル
EthereumとBitcoinの違い
世界最大の時価総額を誇るBitcoin、そして世界第二位の時価総額であり、アルトコインの中では最大のEthereum。
最も有名な2つの暗号資産ですが、その特性は大きく異なります。
Ethereumと比較した際のBitcoinの特徴
Bitcoinの用途は主に送金や価値の保存です。
決済手段として用いられることも多く、今後さらに暗号資産が浸透した際には、日常生活の中で「暗号資産として」より高頻度で利用することになるのはETHではなくBTCになる可能性があります。
コンセンサス・アルゴリズムにPoWを採用しており、仕組みの維持にコストはかかるものの、セキュリティにおいて堅牢さを確保したシステムになっています。
Bitcoinと比較した際のEthereumの特徴
一方、Bitcoinと比較した際のEthereumの特徴は「社会インフラをつくる基盤」であると言えます。
日常生活においてわたしたちは、「暗号資産としてETHを利用する」ことよりも「Ethereumを利用して作られたdAppsを利用する」機会が増えてくるでしょう。
Ethereumを用いたdAppsは広範囲に発展していく可能性があり、たとえばNFTを用いたゲームや分散型金融、分散型SNSなど多方面でサービスが展開することが考えられます。
このサービス展開の幅の広さこそが、BitcoinにはないEthereum独自の強みであると言えます。
時価総額から見るEthereum
引用元:CoinMarketCap
もはや社会インフラとしての価値も認められつつあるEthereumは、マーケットでも高い評価を得ています。
ここからは、暗号資産に対する評価とも言える時価総額について考察していきます。
流通量
暗号資産には、発行上限があるものとないものが存在します。
BTCは発行上限があり(約2,100万BTC)、ETHには発行上限がありません。
発行済の暗号資産のうち、市場で売買可能な数量を流通量と呼び、CoinMarketCapではこの流通量に暗号資産1単位あたりの価格を掛けることで時価総額を算出しています。
ETHにおいては発行上限はないものの、2022年9月下旬時点の流通量は約1億2,000万ETHとなっています。
この条件下で1ETH=約19万円として時価総額を計算すると、約23兆円となります。これはBTCの約53兆円に続き世界第二位の規模です。
BTCとETHの差は大きく見えますが、実は第三位のUSDTの時価総額は約9.7兆円であり、二位のETHと三位のUSDTの差もかなり大きなものとなっています。
現在に至るまでの時価総額の順位
現在では広く価値が認められ、アルトコインとしては盤石の時価総額を誇るETHですが、かつてはその地位から陥落したこともあります。
以下のチャートは、過去の全期間に渡るETHの対日本円の価格推移です。
引用元:CoinMarketCap
直近1年間を振り返ると、2021年11月に過去最高値をつけた後、2022年に入ってからは下落局面が続いています。この傾向はETHに限らず、主要な暗号資産銘柄のほぼすべてが似たような値動きをしているため、ETH固有の問題が考えづらいため、あまり心配する必要はありません。
そして、今日に至るまでのETHの時価総額、いわばETHに対する市場の評価ですが、常に暗号資産の時価総額ランキングの上位に位置しています。
Ethereumがプラットフォームとして最初のβ版をリリースしたのが2015年。そして、その年末の時価総額ランキングでETHはBTC、XRP、LTCに続く4位にランクインしています。
2016年には2位に上昇し、2017年も2位を維持しました。
しかし、翌2018年はCoincheckのハッキング事件やICO詐欺の多発により、各国の暗号資産規制取締が大幅に強化されるなど、暗号資産市場は大きな混乱を迎えました。
ETHの順位も1つ下がって3位、ちなみにこの年の2位はXRPでした。
これ以降、ETHは常にBTCに続く2位に位置し続けており、今では三位のUSDTとの差は大きく開いていることは先ほど述べた通りです。
ETHの取り扱いが可能な暗号資産取引所
世界第二位の銘柄であるため、国内外問わずほとんどの暗号資産取引所でETHは取り扱いがあります。
ここではETHの取り扱いがある取引所の中で代表的なものを取り上げますが、あまりメジャーとは言えない暗号資産取引所で口座を開設する際は、念の為ETHの取り扱いの有無は確認してください。
ETHの取り扱いがある国内取引所の例
- DMM Bitcoin
- Coincheck
- bitFlyer
- GMOコイン
- BITPoint
- bitbank
- Huobi Japan
- Zaif
ETHの取り扱いがある海外取引所の例
- Binance
- FTX
- Coinbase
- Kraken
- KuCoin
- Gate.io
- MEXC
- Bybit
Ethereumの今後の展望まとめ
EthereumはdApps開発に強みを持つオープンソースのブロックチェーンです。
スマートコントラクトやERC-20規格、EVMといった特徴により、他のブロックチェーンとの互換性を保ちながら、インターネット上における新しい取引の仕組みやサービスを構築しています。
Ethereum上で用いられている暗号資産ETHは世界第二位の時価総額を誇り、ローンチから現在まで常にランキング上位に位置しています。
これからの時代の新しいインフラと言っても過言ではないEthereum(ETH)に興味が湧いた方は、数多くの国内外暗号資産取引所で取り扱いがあるETHをぜひ一度手にしてみてください。