ブロックチェーンの世界において、口座番号の役割を果たすのがウォレットアドレス。文字と数字の組み合わせによって構成されており、ウォレットアドレスさえ分かれば世界中への送金が可能です。
このウォレットアドレスはWeb3の世界において欠かせない仕組みですが、人間にとっては扱いにくいことも事実です。そこで、ウォレットアドレスを意味のある文字列に変換できるサービスが登場しました。それが、イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)。イーサリアム・ネーム・サービスは、Web3を一般ユーザーへ浸透させる上で重要な役割を果たします。
この記事ではイーサリアム・ネーム・サービスの特徴や使い方について紹介します。
この記事の構成
イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)とは?
イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)は、ウェブサイトにおけるURLと同様の役割を果たします。
我々が日常的に目にしているウェブサイトのURLは、IPアドレスという数字の羅列を文字に置き換えたものです。ウェブサイトが格納されているサーバーの保管場所は、数字の組み合わせで記録されています。しかし人間にとって使いづらいため、文字列であるURLに変換する仕組みが生まれました。
Web3の世界でも同様に、ウォレットアドレスの使いにくさが問題となっています。そこで、ENS財団という組織によってウォレットアドレスを文字列に置き換えるサービスが開発されました。このサービスが、イーサリアム・ネーム・サービスです。
イーサリアム・ネーム・サービスはブロックチェーンの世界においてメジャーなサービスとなっており、多くの技術者や投資家が導入しています。このイーサリアム・ネーム・サービスには、以下の特徴があります。
ウォレットアドレスに名前を紐付けできるサービス
イーサリアム・ネーム・サービスならば、ウォレットアドレスへのユーザー名の紐付けが可能です。つまり、人間にとって読みやすい文字列を用いてアドレスを表記できるようになります。
イーサリアムにおける通常のアドレスは、42桁に及ぶ英数字です。42桁のうち、どこか一か所でも入力に誤りがあると送金は失敗してしまいます。加えてランダムに配置された英数字は、人間にとって容易に記憶できるものではありません。
そこで、イーサリアム・ネーム・サービスが真価を発揮します。英単語のつづりなどを簡易な文字列のアドレスとして利用できるようになり、入力ミスの低減に。また意味のある文字列が表示されるため、アドレスの判別も容易です。アドレスも短くなり、従来のようなコピー&ペーストだけでなく直接入力も可能となりました。
イーサリアム・ネーム・サービスを導入すると、【.eth】を末尾とするアドレスが利用できます。有名な投資家の間で広く普及しているため、どこかで【.eth】のアドレスを見たことがあるかもしれません。この【.eth】がついた文字列が、Web3時代のドメインです。
ENS DAOによって運営されている
イーサリアム・ネーム・サービスの運営を担うのが、ENS DAOというコミュニティです。DAO形式で運営されており、ガバナンストークン「ENS」を発行しています。このENSの保有者は、投票によって組織の意思決定に関与できます。
サービスの改善策や今後の方向性を決めるのも、ENS保有者の役割です。DAOメンバーからの提案によって、新機能やイベントが登場する仕組みになっています。
イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)のメリット
Web3に精通する技術者や投資家たちの多くは、イーサリアム・ネーム・サービスを導入しています。なぜなら、以下のメリットを享受できるからです。
ユーザーの識別が容易になる
イーサリアム・ネーム・サービスを導入する最大のメリットは、ユーザーの識別が容易になる点です。通常のアドレスでは、第三者から見てウォレットの所有者を判別できません。一方でイーサリアム・ネーム・サービスを導入すれば、名前や愛称を表記できるようになり、所有者が一目瞭然にすることができます。
このような所有者名の表示は、NFT売買やコミュニティ内での交流に役立ちます。例えばOpenSeaでは、NFTの所有を対外的に示せるように。これによりNFTコミュニティでも参加者の特定が容易となるため、活発な交流が生まれるでしょう。
Web3の魅力はその匿名性にあるものの、あえて名前を表記することでユーザー同士のやり取りをスムーズにしています。
複数のウォレットアドレスを統合できる
イーサリアム・ネーム・サービスでは、異なるブロックチェーンの複数のアドレスを一つのドメインへ紐付けできます。例えば、イーサリアムとビットコインといった二つのアドレスも、一つのドメインで管理が可能です。
異なるブロックチェーンにおいても共通のドメインを利用できる理由は、マルチチェーンに対応しているから。イーサリアムブロックチェーンに保管された情報を他のブロックチェーンでも参照できるため、ポルカドットやビットコインのアドレスも紐付けできます。
これにより、ブロックチェーンごとのアドレス管理が不要となります。対外的にひとつのアドレスを示しておけば、あらゆるブロックチェーンでトークンを受け取れるようになります。
NFT化されており第三者へ販売できる
イーサリアム・ネーム・サービスのドメインは、一つひとつがNFT化されています。このNFTの所有によって、ドメインを利用する権利が得られます。利用する予定がなくなった場合には、第三者への転売も可能です。
インターネットの世界では、簡潔な単語や珍しい配列のドメインが希少価値を持ちます。これらのドメインは、中古市場において高値で取引されています。イーサリアム・ネーム・サービスも例外ではありません。珍しいドメイン名のNFTは資産としての価値をもっており、投機目的で収集する人もいるほどです。
Web3が世間に広く浸透すれば、イーサリアム・ネーム・サービスのNFTも大きな価値を持つようになるでしょう。
分散型ウェブサイトのURLとして機能する
イーサリアム・ネーム・サービスのドメインは、分散型ウェブサイトとも紐付けが可能です。つまり、ウェブサイトのURLとしても機能します。
Web3の世界では、ブロックチェーン上で稼働する分散型ウェブサイトの開発が進められています。この分散型ウェブサイトは検閲やシステム障害に強い点が特徴です。今後、Web3が一般的になった場合に、広く普及すると考えられています。
イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)の利用方法
イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)の利用にあたっては、まずNFTの取得が必要です。ここでは、NFTの入手から登録までの手順を紹介します。
暗号資産を用意する
イーサリアム・ネーム・サービスではドメインの取得費用に加えて、毎年の利用料が発生します。この費用は、暗号資産(仮想通貨)イーサ(ETH)を用いて支払わなければなりません。そこで最初に、イーサが入ったMetaMaskを用意しましょう。
ドメインの継続利用にあたっては、1年ごとに利用料の支払いが必要です。利用料の設定は、以下の通りです。
- 5文字以上の場合、ドル換算で5ドル/年
- 4文字の場合、ドル換算で160ドル/年
- 3文字の場合、ドル換算で640ドル/年
文字数の少ないドメイン名ほど、利用料が高額です。そのためドメインを取得する際は、毎年の維持費も考慮しましょう。
ドメイン名のNFTを取得する
次にドメイン名のNFTを入手しましょう。NFTを入手する方法は、以下の2通り。
- OpenSeaで二次流通品を購入する
- ENSの公式サイトで新規発行する
OpenSeaでは、発行済みのNFTを購入できます。OpenSeaに並ぶのは、過去に利用されていたドメイン名や投機目的で発行されたもの。人気の高いドメイン名は高額で取引されています。
一方で未発行のドメイン名を希望する場合は、ENSのサイトからNFTを新規発行しなければなりません。まずはサイトにアクセスし、暗号資産ウォレットを接続。トップページにて自身が使いたいドメイン名を検索し、利用可否を確認しましょう。
未使用のドメイン名の場合、利用年数と金額が表示されます。MetaMaskが起動したら、トランザクションの承認を行います。
なおNFTの発行にあたっては、2回の承認が必要です。1回目のトランザクションでは購入の意思確認が行われ、購入の意思表示から1分間が経過すると2回目の正式な購入処理ができるようになります。この1分間の待ち時間は仕様であり、ダブルブッキングを防ぐための対策です。
購入が完了すると、ドメイン名のNFTが発行されます。
マイENSからウォレットアドレスを連携させる
ドメイン名のNFTを入手したら、ウォレットアドレスとの連携できるよう設定を行います。
マイENSという設定画面を開きましょう。設定画面では接続中のウォレットアドレスが表示されるため、このウォレットアドレスに紐付けするドメイン名を選択します。
次にMetaMaskによる承認が必要です。承認処理が完了すると、ドメイン名との紐付けが完了となります。
イーサリアム・ネーム・サービス(ENS)の特徴や注目される理由のまとめ
本記事では、イーサリアム・ネーム・サービスの特徴や注目の理由について解説しました。このイーサリアム・ネーム・サービスには、以下の特徴があります。
- 複雑なウォレットアドレスを簡単な文字列に置き換えられる
- 異なるブロックチェーンのアドレスを一つのドメインで管理できる
- ドメイン名がNFTとなっておりユーザー自身がドメインの所有権を持つ
イーサリアム・ネーム・サービスは、ブロックチェーン技術をスムーズに利用する上で欠かせません。特に、一般ユーザーにとって重要なサービスとなるでしょう。今後、暗号資産ウォレットを使う人が増えるにつれて、利用者が増えると見込まれるサービスです。