暗号資産に対する規制強化の議論が進む中、個人のKYC(Konw Your Customerの略。日本語訳:本人確認)の取扱いが見直しされつつあります。
今回は個人情報を「NFTパスポート」として発行するサービスがローンチされたので、dApps側とユーザー側の両方から見た特徴を紹介していきます。
この記事の構成
NFTパスポート「Quadrata NFT Passport」とは
Quadrata NFT Passport(以下NFTパスポートと表記)は、dApps(分散型アプリケーション)にIDとコンプライアンスレイヤーを提供する「Quadrata」というWeb3企業により開発されたサービスです。
ブロックチェーン上にユーザーのKYCの他、AML(マネーロンダリング対策)やコンプライアンススコアなど、ID情報が記録されたパスポートを「譲渡できないNFT」として発行します。
一般的なパスポートと同じように、ブロックチェーン上に個人の身分証明書となるNFTパスポートを保存することにより、dAppsのサービスを利用する際に身分を証明することを可能にしました。
ERC-1155での発行
NFTはERC-721とERC-1155のどちらかの規格を使用しますが、NFTパスポートはERC-1155を使用しています。
ERC-721は一つのトークンIDに対して一つのアセットしか取扱いすることができません。
一方、ERC-1155は一つのトークンIDに対して複数のアセットを取り扱うことができます。
このことにより、先述した通りKYCやAMLのコンプライアンススコアなど複数の情報が記録できるほか、将来的には信用評価や投資家としての適格性なども記録できるようになっています。
使用ブロックチェーン
2022年7月のローンチ時にはイーサリアムブロックチェーン上のみでの発行でしたが、2022年10月3日時点ではPolygonでの発行も可能になっており、将来的にはマルチチェーンの対応も予定されています。
dApps側とユーザー側から見た特徴の紹介
Quadrataは、NFTパスポートについてユーザーには「プライバシーの保護」を、dApps側には「シビル耐性」を主な特徴としてあげていますので、それぞれを解説していきます。
dApps側から見た特徴を紹介
dApps側から見た特徴を以下の2点について紹介していきます。
シビル耐性
属性のチェック(ユーザーのKYC/AMLステータスなどの確認)
シビル耐性
一般的なネットワークへの攻撃として「シビル攻撃」というものがあります。
これはネットワーク上に、複数のアカウントやコンピューターを使ってネットワークを支配してしまう攻撃のこと。身近な例をあげると、SNSなどのアカウントを複数作成しネットワーク内における多数の意見を支配するような攻撃です。
NFTパスポートはこのシビル攻撃への耐性を備えていることが特徴の一つとしてあげられています。
ブロックチェーンにおけるシビル攻撃は、複数ノードを稼働させることにより、管理者が不在で支配されないはずのネットワークを支配し、自分たちの都合の良いように動かしてしまいます。
これを防ぐために、PoWやPoSなどのコンセンサスアルゴリズムと呼ばれる手法が取られていますが、NFTパスポートによりシビル攻撃につながるなりすましや偽IDの発行を防ぐシビル耐性が構築され、より安全なサービスの維持が可能になります。
属性のチェック
dAppsはNFTパスポートと統合することによりパスポートの属性を確認することができます。
- 発行者が個人か、事業体か
- AMLスコアリスク
- 複数ウォレットを所有しているか
- 発行国
これらの確認結果により、dApps側はよりリスクを最小限に抑えることができるだけではなく、botによる操作を防ぎユーザーが人間であることを確認することも可能になります。
ユーザー側から見た特徴と作成方法
ユーザー側から見た特徴と、NFTパスポートの作成方法を紹介します。
NFTパスポートの特徴とメリット
NFTパスポートにより、dAppsに対して自分がリスクのない人間であることをいつでも簡単に証明することが可能になります。
また、NFTパスポート発行にあたっては自らのプライバシーもしっかり保護されているので、個人情報が外部に漏れたり盗まれたりなどの心配はありません。
今後dAppsごとにKYCなどを行う必要が出てきた場合、都度その作業を行うのはとても不便でWeb3のサービスにはそぐわない手間のかかる作業となります。
NFTパスポートが各Dappsで採用され始めると、一度作成したNFTパスポートをあらゆるDappsで自分の証明が簡単に行えることができ、さらにDapps側でリスクの高いユーザーを排除するなどの動きが出てくれば、Dappsの安全性が高まりより安心して利用することが可能になります。
NFTパスポートの作成方法
公式サイトのTOP画面の作成画面から開始します。
現状ではイーサリアムとPolygonが用意されていますので、どちらか好きな方を選択してください。
尚、マルチチェーンの画面が表示されていますがまだ実行できません。
今回はPolygonで作成しますので「Claim on Polygon」をクリック。
ウォレットへの接続画面が表示されるので、ウォレットを該当チェーンにして接続させます。
下記の画面になったら「KYCの詳細を読む」をクリックして内容を確認することをお勧めします。
詳細を確認したら、「検証を開始」をクリックします。
利用規約を確認したら「承認」をクリックします。
ウォレットへの署名になりますので「署名メッセージ」をクリックします。
ウォレット(MetaMask)が起動するので「署名」をクリックします。
ウォレットを接続すると下記の画面になります。
❶有効な身分証明書はパスポートが必要になります。
(運転免許書や健康保険書は日本国内のみで有効なのでこの場合は使用できません)
❷スマートフォンでQRコードを読み取るか、SMSで認証作業を行います。
本人確認が完了すると下記の画面になるので「次へ進む」をクリックします。
個人情報の入力画面になるので、氏名、住所を入力し、「SUBMIT INFORMATION(情報を送信)」をクリックします。
NFTパスポート発行画面になります。
Polygonの場合は手数料が10MATICかかります。
利用規約を確認し、チェックボックスにチェックを入れたら「パスポートの請求」をクリックします。
今回は実際にパスポートの発行までは行いませんでしたが、すべて完了するとNFTパスポートが発行されます。
まとめ
金融全般において、AML/CFT(マネーロンダリング対策及びテロ資金供与対策)が強化されつつある中で、とりわけ暗号資産に関しての強化はより一層厳しくなっています。
2022年8月には「トルネードキャッシュ」という、送受信先が特定されないミキシングサービスが米財務所の制裁対象となり注目を集めました。
このようなことから、DappsなどのWeb3サービスに規制が強化されることが予想されるなか、今回のNFTパスポートはとても有効な対策となることが期待できます。