NFTとは「Non-Fungible token」の略称であり、日本語では「非代替性トークン」と翻訳されます。
ブロックチェーン技術をベースとして発行されており、これまで無限にコピーが可能であったデジタルデータに唯一無二性を付与し、それ自体に価値を持たせることが可能となりました。
一般的には「Open Sea」に代表されるNFTマーケットプレイスと呼ばれるサイトで購入することで、NFTの所有権を得ることができます。
つまり「デジタルデータを唯一無二のものとして所有する」という、これまで存在しなかった価値観が生まれたのです。
またNFTの根幹であるブロックチェーン技術は、暗号資産(仮想通貨)にも使われているように偽造や改ざんが難しいという特徴を持っています。
このように唯一無二のデジタルデータであるNFTですが、中には多くの「偽物」が紛れ込んでいることをご存知でしょうか。
本記事ではそんな偽NFTへの対策としておこなわれている、「正規品NFT認定事業」について解説していきます。
また、本来偽造や改ざんが難しいはずのNFTにおいて、なぜ偽物が存在しているのかについても言及します。
ぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
正規品NFT認定事業とは?
多くのファンが楽しめるコンテンツの全ては、作家やチームが多額のお金と膨大な時間を投資し、価値のある作品を創造することで生み出されます。
このことは映画やアニメといった、映像作品の制作現場を思い浮かべていただければ良く分かるはずです。
映像作品であれば監督から俳優、脚本家から美術やメイクといった裏方など、多くの仕事が総合的に働いた上で制作されます。
もちろん作家一人の力で制作されるアート作品や、ネットで配布される漫画などの作品においても、作家の時間と経験を元に作り出されていることには変わりありません。
このようなコンテンツビジネスを運営する上で、重要な権利となるものが「著作権」をはじめとした各種の権利です。
近年ではYou Tube上において、映画内容を要約したチャンネルに対し賠償命令が下ったことや、ネット上に漫画を違法アップロードした管理人が逮捕される事件もありました。
これらの事件は制作者が保有する著作権を侵害したことが原因であり、他人の著作物を使用して対価を得ることは法的に厳禁されているのです。
著作権の侵害は上記の例のように、現実世界において度々刑事事件として取り上げられますが、実はNFT界隈でも同様のことが現在進行形で横行しています。
このような状況への対策として運営されている事業こそが、「正規品NFT認定事業」なのです。
一般社団法人「JCBI」が運営
「正規品NFT認定事業」は2020年2月に発足した、一般社団法人「JCBI(Japan Contents Blockchain Initiative)」が運営しています。
JCBIはブロックチェーン技術を活用し、著作権情報を安全管理できるシステムを共同運用することを目的としたコンソーシアム(共同企業体)です。
2022年11月現在では、コンテンツ業界に関連する企業を中心に約40社が加入しており、日本のメディアやコンテンツ業界のDX化を加速させるために活動しています。
代表的な加入企業は以下の通りです。
- 朝日新聞
- エイベックス・テクノロジーズ
- NTTデータ
- ソフトバンク
- 電通グループ
- 博報堂
- 吉本興業
- 三井住友海上
これまで自民党のWeb3PTや消費者庁のインターネット消費者取引連絡会にて、安全な日本のNFT取引に関する発表をおこなうなどの活動を続けています。
正規品NFTの判別が可能に
マーケットプレイス上に流通しているNFTの中には、発行主体が不明確なものが高額で販売されていることが多々あります。
さらには著作権を侵害していながらも、第三者が作成した違法なNFTが販売されているなど、様々な消費者被害が懸念されている状況です。
しかしながら適正に作成し運営しているコレクションであっても、その他の盗用されたNFTと差別化して消費者へアピールすることもできないという課題を抱えているのです。
この状況を打開するべく、JCBIは認定申請情報の提出を受けた法人に対して、所定の審査をおこない、正規品であることを示すべくウォレットアドレスなどの情報を公示するサービスを開始しました。
つまり、発行元の正確な情報を消費者が確認することで、盗用ではない正式なNFTであることを広く認知させることができるのです。
認定事業について
それでは実際に認定を行う際に必要な作業や、方法についてはどのような流れを踏む必要があるのでしょうか。
こちらでは認定を受ける方法から、既に認定を受けNFTを流通させている企業について解説していきます。
認定を受ける方法
認定審査については、以下の手順に沿って進行します。
- 認定審査申し込み窓口へ連絡
- 審査手続き、申請提出書類の詳細の連絡が来る
- 提出書類をJCBIが確認し、審査開始
- 法人登記簿謄本に記載されている住所へ「郵送」にて結果通知
- 認定後は年間認定料を振り込む
- 振り込み完了後、郵送物に同封されている認証コードを指定のメールアドレスへ送付
- 振り込み、認証コードをJCBIが確認
- JCBI公式HPの「認定を受けた企業一覧」へ企業名、ウォレットアドレスを公示
消費者はJCBIの情報と照らし合わせた上で、購入を検討しているNFTが正規品なのか盗用されたものなのかを判別できるのです。
認定を受けた企業
2022年11月時点において、「認定を受けた企業一覧」に記載されている企業は以下の通りです。
- SingulaNet株式会社
- 原本株式会社
- 株式会社イージェーワークス
- 株式会社ケンタウロスワークス
JCBIの公式HP上には、各企業の会社法人等番号からウォレットアドレス、コントラクトアドレス、認定期間などの情報が記載されています。
今後、NFTに本格参入する企業が増加することで、この一覧に記載される企業はさらに増加することが考えられるでしょう。
NFTになぜ認定が必要なのか?
実は海外のマーケットプレイスでは、日本のクリエイターや企業作品を無断使用した作品が、数多く販売されています。
実際、2022年1月にOpen Seaは「自社が提供する無料ツールで発行されたNFTの8割以上が盗用、偽物、スパムであった」と公表している状況です。
一例として、世界で最も有名なコレクションである「CryptoPanks」を検索したとしましょう。
結果画面には以下のように似たような作品が並ぶこととなり、正式な「CryptoPanks」の判別が難しい状況となります。
ここで表示されている多くは「CryptoPanks」人気にあやかりたいが為に作成した盗作、偽のコレクションの可能性があると言えます。
そのため知識の乏しい消費者は、偽物と気がつくことなく購入してしまう場合も考えられるのです。
このようにNFT作品の中には偽物も多く存在していますが、その種類は大きく3つに分けられるでしょう。
- 公式コレクションに類似した作品、限りなく似せた作品で本物であると勘違いさせるもの(「CryptoPanks」の事例)
- 既に人気のあるNFTコレクションの「画像」のみをコピーして、公式作品であるかのように思わせるもの(画像自体は本物同様ではあるが公式ではない)
- まだNFTとして流通していない作品やキャラクターを、公式の許可を得ることなくNFTとして勝手に販売しているもの
現実世界の商品においても類似した事例はいくらでもあげられるはずです。
残念ながらNFTにおいても同様のことが横行してしまう理由については、ブロックチェーンが抱える「オラクル問題」と呼ばれる内容に原因があります。
以降でその内容を詳しく確認していきましょう。
ブロックチェーン技術の「オラクル問題」
「オラクル(oracle)」とは宗教上における「神官」や「巫女」、または神から預かった神託などを指す単語です。
そして、ブロックチェーン技術におけるオラクル問題とは、端的に解説すると以下のような内容となります。
「ブロックチェーン上に記録された情報が改ざんされていないことは、管理主体が存在しなくとも保証できる。しかし、ブロックチェーンに記録されたデータに連動するサーバデータが正しいのかについては、信頼の置ける管理主体がいなければ保証できない。」
つまりNFT作品であるデータの正当性を担保するためには、「中立公平な第三者=信頼のおける管理主体」を必要とするのです。
通常、NFTに連動するコンテンツデータ自体は外部のWebサーバに記録されます。
なぜなら、ブロックチェーン自体には少ない文字数のデータしか記録できず、NFT作品の多くである画像や音楽、動画といったデータは許容量を遥かに超えてしまうからです。
容量の小さいドット絵であれば、ブロックチェーン上へ直接記録する方法はありますが、現在のNFTではそのような作品はほとんど存在していません。
そして、NFTのコンテンツデータが外部サーバに記録されているということは、第三者が著作権を侵害して人気作品のデータと連動させることで、容易にNFT作品の盗用が可能となります。
このような理由があることから、特定のNFT作品が正式なものであるのか否かを証明するためには、データ自体が保存されている外部サーバの管理主体に対して絶対の信頼を必要とする訳なのです。
JCBIがおこなっている認定事業は、この「中立公平な第三者=信頼のおける管理主体」の役割を果たします。
Open Sea自体も正式なコレクションに対して、「青色チェックマーク」と呼ばれる公式認定マークを付けるなどの対策を講じています。
また消費者自身もコレクションのオーナー数や、取引量などから正規のコレクションと偽物を判別する方法はあるでしょう。
しかしながらこの「オラクル問題」が存在している以上、JCBIが担おうとしている信頼できる管理主体という立ち位置はこれからより一層必要となることが考えられます。
NFT詐欺の手段となっている可能性
偽のコレクションを間違えて購入してしまうことは、単に価値のないNFTを買ってしまうだけでは済まない可能性があります。
例えばフィッシング詐欺と呼ばれるものでは、偽NFTを購入する際に入力した情報を元に、保有しているNFTや暗号資産を引き出します。
万が一被害にあってしまえば、多額の資産を失うことにも繋がりかねません。
相手の顔が分からず、全てがネット上で完結されるNFT取引ですので、入念に購入対象が正規品であるのかどうか、少しでも怪しい点がないかの確認は必須です。
まとめ
一般社団法人「JCBI」が運営する、「正規品NFT認定事業」について解説しました。
2020年を境として日本国内でも急激に注目を浴びたNFTですが、中には著作権を侵害した悪質なコレクションも多く存在しています。
取引に慣れている方であれば、マーケットプレイスの情報から正規品であるか否かの判断はある程度可能かもしれません。
しかし初めての取引の場合や有名でないコレクションを購入する場合には、盗用や詐欺の可能性といった不安がつきまとうはずです。
「正規品NFT認定事業」が広がることで、国内のクリエイターの活動を保護すると同時に、購入者の数が増加することも期待できます。
JCBIのこれからの活動に注目すべきと言えるでしょう。