NEAR Protocolは処理能力が高く、ユーザーにとって使い勝手がよいスマートコントラクトプラットフォームです。
レイヤー1のメインチェーンであり、イーサリアムの時価総額を抜く可能性があるブロックチェーン、通称「イーサリアムキラー」の1つとしても知られています。
この記事では、スマートコントラクトプラットフォームの利用者増加に伴って浮き彫りになった課題を最初に解説します。
その後、NEAR Protocolの独自の特徴や、NEAR Protocolがそれらの課題にどのように対応していくのかを説明します。
ぜひ最後までお読みください。
この記事の構成
NEAR Protocolとは?
引用元:NEAR
まずはNEAR Protocolの基本情報について解説します。
NEAR Protocol自体の解説に加えて、NEAR Protocolが生まれた背景にある「既存のスマートコントラクトプラットフォームが抱える課題」についても言及します。
NEAR Protocolが生まれた背景
NEAR Protocolは、イーサリアムを中心とした既存のスマートコントラクトプラットフォームが抱える2つの課題を解決することを目指しています。
それは「スケーラビリティ」と「ユーザーエクスペリエンス(UX)」の問題です。
スケーラビリティの問題
ブロックチェーンの利用者が増えるに連れて、トランザクションの数も増大し、処理が追いつかなくなっています。
その結果、これは特にユーザー数が多いブロックチェーンであるイーサリアムにとって、手数料(ガス代)が高騰するなどの事例が増加しており、今後克服すべき重要な課題であるとされてきました。
ユーザーエクスペリエンス(UX)の問題
もう1つの問題は、既存のスマートコントラクトプラットフォームは必ずしも使い勝手がよいとは言えない点です。
今後、web3の様々な技術をマス層のユーザーにまで広げていくには、より使いやすいUX設計のプラットフォームの誕生が望まれています。
NEAR Protocolの特徴
NEAR Protocolはスマートコントラクトプラットフォームとして「より多くのトランザクションを処理すること」、そして「設計を根本から見直し、幅広いユーザーが利用しやすいUXを構築すること」を目指しています。
具体的には「シャーディング」と「ブリッジ」の2つの要素によって上記の実現を図っています。
ここからは、この2つの特徴について解説します。
シャーディング
引用元:NEAR
シャーディングとは、メインヂェーン上でのトランザクション処理を複数に分割し、最終的にそれらを集約することで、メインヂェーン上でのデータ処理の負荷を軽減する手法を指します。
シャーディングとは
シャーディングはブロックチェーン業界特有の技術ではなく、従来からデータベースの負荷分散の手法として知られているものです。
一般的な意味でのシャーディングは、以下のような処理方式を取ることでデータ処理の負荷を分散しています。
- 1つの表(テーブル)に管理されているデータを行(レコード)単位に分割する
- 分割したデータを複数のデータベースサーバーに分散して処理をする
これにより、全体としては1つのまとまったデータであるにも関わらず、その処理自体は複数のサーバーに分割して行うことができます。
その結果、1つ1つのサーバーが処理すべきデータの量は減り、処理速度も向上します。
NEAR Protocolも、原理的には従来のシャーディングと同じような仕組みで構築されており、分割処理したトランザクションを最終的に集約して、メインチェーンに反映するという形をとっています。
Nightshade
NEAR Protocolのシャーディングのシステムは「Nightshade(ナイトシャード)」と呼ばれています。
ここではNEAR Protocolのホワイトペーパーに掲載されている図を用いて、Nightshadeの構造について解説します。
引用元:NEAR ホワイトペーパー
上記の図の左側はイーサリアムが目指すシャーディングのデザイン、右側はNEAR Protocolが目指すNightshadeのデザインです。
イーサリアムのシャーディングでは、メインとなるBeacon Chainと分割されたShard Chainが連携し、一度分割して行った処理を全体で1つのものとして扱うことでスケーラビリティの向上を図っています。
一方、NEAR ProtocolのNightshadeでは、1つ1つのブロック自体をChunk(チャンク)という塊に分割してシャーディングを行う設計になっています。
つまり、イーサリアムではチェーンそのものをシャーディングしているのに対し、NEAR Protocolではブロックをシャーディングしている点が大きく異なっていると言えます。
Dynamic Resharding
Nightshadeに加えてNEAR Protocolの特徴的な技術として挙げられるのがDynamic Reshardingです。
Dynamic Reshardingとは、リソースの使用率に基づいてシャードを動的に分割する機能を指します。
これにより、スケーラビリティ問題の原因となるトランザクションの量が増えたり減ったりする状況に合わせて、シャーディングの進行を動的に変えることができます。
例えば、短期間で急激にデータの処理量が増えたときにはシャーディングの強度を上げ、スケーラビリティを一時的に増強するといった対応を動的に行なえます。
ブリッジ
引用元:NEAR
NEAR Protocolが解決を図っているもう1つの課題である「UXの向上」の中心となる機能がブリッジです。
NEAR Protocolは早い段階から「Rainbow Bridge」と呼ばれるイーサリアムとのブリッジを構築しています。
Rainbow Bridge
Rainbow Bridgeの機能を示しているのが以下の図です。
引用元:NEAR
図にある通り、イーサリアムにある資産をRainbow Bridge経由でNEAR Protocolに移したり、逆にNEAR Protocolの資産をイーサリアムに移したりすることができます。
ただし、2つのチェーン間で資産のやりとりをする際にかかるコストが、現状は大きく異なっています。
イーサリアムからNEAR Protocolに資産を移動する際にかかる時間は約6分、ERC-20の場合には平均して約10ドルのコストがかかります。
一方、NEAR Protocolからイーサリアムに資産を移す際は最大16時間を要する可能性があり、かかるコストも約60ドルとやや高額になっています。
これはイーサリアムチェーン側のガス代が原因となっているため、イーサリアムのスケーラビリティが改善することによってこのコストも下がっていくことが期待されています。
Aurora
ブリッジと関連する技術に、Auroraと呼ばれるものがあります。
引用元:NEAR
AuroraはNEAR ProtocolのEVM(イーサリアム仮想マシン)を指し、これを利用することによって開発者はNEAR Protocolにおいてもイーサリアムと完全に互換性のある環境で開発ができます。
Auroraの環境は開発者にとって使いやすいものになっています。
例えば、AuroraでのERC-20トークンの送金コストは0.01ドル以下であること、秒間のトランザクション処理数は数千を超えることなどが挙げられます。
カーボンニュートラル
NEAR Protocolは環境への影響が少ないブロックチェーンであることが第三者機関によって認められています。
引用元:NEAR
具体的には、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)への取り組みが評価されており、2021年には環境問題に関する取り組みを世界規模でサポートしている組織「South Pole」から「Climate Neutral Product」という認証が与えられました。
これにより、NEAR Protocolは環境問題を重要視しているブロックチェーンであることが対外的にも示された形になります。
直近のニュース
引用元:NEAR
イーサリアムキラーの有望株であるNEAR Protocolについて、直近で明らかになったニュースをいくつか取り上げます。
いずれも、今後のNEAR Protocolの成長を期待できるものです。
USDTがNEAR上で発行
ステーブルコイン「USDT」を発行している米テザー社が、USDTのNEAR Protocol上での発行を開始したことが明らかになりました。
テザー社は、dAppsを開発するにあたりNEAR Protocolは理想的な環境が整っていると判断し、USDTの新しいバージョンを立ち上げる際にもNEAR Protocolは最適なエコシステムであるとしています。
NEAR財団、web3ラボ立ち上げ
NEAR Protocolのガバナンスと開発を支援するスイスの非営利団体「NEAR財団」が、web3に関連した1億ドル規模のベンチャーラボをVCファンドと共に立ち上げたことが発表されました。
このベンチャーラボは、web3に関連したカルチャーやメディア、エンターテインメントの進化に焦点を当てていくことを標榜しています。
GoogleCloudと提携
NEAR ProtocolはGoogleCloudとパートナーシップ契約を締結しました。
このパートナーシップにより、GoogleCloudはNEAR Protocolでのweb3プロジェクトやdAppsの開発・拡張を支援していくと公表しています。
NEAR Protocolの今後の展望まとめ
NEAR Protocolはイーサリアムキラーと呼ばれ、「スケーラビリティ」と「ユーザーエクスペリエンス」の2点におけるイーサリアムが抱える課題解決に取り組んでいるブロックチェーンです。
独自のシャーディング機能があることや、イーサリアムとの互換性を持った開発環境を作り上げていることなどから、今後の発展は十分に望めると言えるでしょう。
また、他のweb3関連企業やテクノロジー関連企業との連携も強めており、業界内での地位も徐々に確立しつつあります。
DeFiやNFTの領域におけるユースケースも増えることが予想されるため、興味が湧いた方はぜひNEAR Protocolに触れてみてください。