2022年11月24日、ApeCoin DAOがBAYC(Bored Ape Yacht Club)専用のNFTマーケットプレイスをローンチしたことを発表しました。
(引用元:https://twitter.com/ZHeerwagen/status/1595462169419603968?s=20&t=-PJdAxhha5ryKcaU0vvyKw)
ApeCoinマーケットプレイス誕生までの経緯を中心に、その特徴を紹介していきます。
この記事の構成
ApeCoin とApeCoin DAOについて
2022年3月18日、ApeCoin DAOからBAYCのホルダーにApeCoinが配付されました。
この配付はBAYCを運営しているYuga Labsが前日に突然アナウンスしたため、ホルダーたちは騒然となりました。
また、今回の配布は運営のYuga Labsからではなく、このタイミングに合わせて発足させたコミュニティであるApeCoin DAOによってなされています。
ApeCoinの主な役割はガバナンストークンで、ApeCoin DAO内で行う投票のためのトークンとして機能し、ApeCoin1枚が投票券1枚に相当します。
ApeCoin DAOのメンバーの中心となるボードメンバー(役員に相当)は、下記の企業から1人づつ選出された5人で構成されており、運営会社であるYuga Labsのメンバーは1人も参加していません。
- 先日NFTの発行で大きく話題になった世界最大規模のコミュニティグループであり、ニュースサイトでもある「Reddit」
- 大手取引所「FTX」(2022年12月に倒産)
- 投資ファンド「SoundVentures」
- アニモカブランズ
- ブロックチェーン開発企業「HorizenLabs」
FTXが倒産したことにより現在は4社になっていると思われますが、一社で独占的な運営を行うのではなく、Web3企業と連携することによりアートだけではなく、ゲームやエンターテインメントなどにも活動を広げていくことを目指しています。
マーケットプレイス誕生まで
ApeCoinマーケットプレイスの作成を手掛けるプロバイダーの選出には、コンペ(コンペティション)方式が採用され3つのプロバイダーが参加しました。
参加プロバイダーによるプレゼンテーション
今回のコンペには以下の3つのプロバイダーが応募しました。
- Magic Eden
- Rarible
- Snag Solutions
Magic EdenとRaribleはとても有名な大手NFTマーケットプレイスですが、唯一、Snag Solutionsが知名度の低いプロバイダーで、この名前だけ見ると大手2社が有利であると予想されます。
しかし、このコンペを勝ち取りマーケットプレイスの開発を手掛けたのが、知名度の低いSnag Solutionsとなりました。
では、どのようにして大手を退けてコミュニティから多くの支持を得たのか、その経緯などを解説していきます。
各プロバイダーのプレゼンテーションの内容について
2022年9月に行われた各プロバイダーのプレゼンテーションの内容を簡単に紹介します。
尚、実際のプレゼンテーションは技術的な側面など多岐にわたっていますので、ここでは手数料などに絞って紹介します。
他の技術的な詳細については各セクションのリンクをご参照ください。
MagicEden(AIP-93提案)
- 前払い料金なしでの構築
- リスティング手数料は1.5%でApeCoinでの取引は0.5%がディスカウントされる
- さらに、BAYC、MAYC、BAKCなどのホルダーによる取引の場合はさらに0.25%のディスカウントが適用され、全てのディスカウントが適用されると0.75%の手数料になる
- 二次販売については、売り手が0.75%の手数料を必要とする
- 専用のeコマースを立ち上げグッズ販売を行うチャンネルも設置する
(提案詳細:https://forum.apecoin.com/t/aip-93-a-marketplace-for-apes-by-apes-built-by-magic-eden/7949)
Rarible(AIP-97提案)
- 前払料金なしでの構築
- ApeCoinによる取引では手数料は無料、イーサリアムでは0.5%の手数料
- Rarible Protocolを利用し、OpenseaやLooksRareなど、他のマーケットプレイスからのリストも集約して流動性を高める
(提案詳細:https://forum.apecoin.com/t/aip-97-apecoin-marketplace-with-0-fees-built-by-rarible/8074)
Snag Solutions(AIP-98提案)
- 当初は5万ドルの前払いを要求し、手数料も他2者より高めの設定
- その後、前払い料金を撤廃、手数料は以下のように再設定
- 販売:ApeCoinのみで手数料無料
- リスティング:ApeCoinで0.25%、イーサリアムで0.5%
- さらに各トランザクションの0.25%がApeCoin DAOのマルチシグウォレット(複数の秘密鍵で管理されている高セキュリティなウォレット)に送られ、コミュニティで使用できるようにする
- OpenseaやLooksRare、X2Y2など、他のマーケットプレイスのリストからの集約を行う
- さらに、二次流通時のロイヤリティを徴収しない別のマーケットプレイスから出品されたNFTについてもロイヤリティを支払う機能を備える
(提案詳細:https://forum.apecoin.com/t/aip-98-a-community-first-apecoin-dao-marketplace-proposal/8079)
勝者となった「Snag Solutions」とは
2022年7月にNFTのマーケットプレイスを手掛ける、創業したばかりのスタートアップ企業で、従業員はわずか2名です。
起業間もないスタートアップとは言え、goblintown.wtf(@Goblintown)、Genuine Undead(@GenuineUndead)など、約10プロジェクトのマーケットプレイスを手掛けています。
さらに、solidity.io(スマートコントラクトソリューションやスマートコントラクトにおけるセキュリティ監査を手掛けるプロバイダー)の監査も通っており、その信頼性と実力は注目に値します。
投票結果の分析とコンペに勝った理由
まず、最初にMagicEdenがこのコンペから脱落しますが、その理由としてMagiEdenはSolanaを支配しているという意見に対する懸念のようです。
実際、NFTを取り扱う市場では、MagicEdenの管理市場モデルとクローズドソースの技術はWeb3の本質とは相容れないという批判があります。
その理由として、MagiEdenはSolanaで全取引量の90%以上を支配しており、2022年のわずか9か月で約16億ドルの評価額を達成していることなどについて問題提起されています。
Snag Solutionはこの点を指摘し、MagiEdenの豊富な機能性は認めるが市場を独占しているプロバイダーはWeb3では機能しないと主張し、完全にオンチェーンで、かつオープンソースで展開する自らの技術を提案しました。
Raribleの提案は残りましたが、Snag Solutionとの最終投票の結果、わずか14%の支持しか得られず敗退となりました。
Snag Solutionが選ばれた理由は、技術的な側面ももちろんありますが、最大の理由は「ApeCoin DAOのコミュニティに寄り添った提案であったかどうか」にあったようです。
実際Snag Solutionは、BAYC/MAYCのメンバーと関わりのあるアドバイザーを3名抱えていることもあり、ApeCoin DAOコミュニティから意見聴取していました。
その中でも、前述したロイヤリティに関する
「二次流通時のロイヤリティを徴収しない別のマーケットプレイスから出品されたNFTについてもロイヤリティを支払う機能を備える」
という提案はとてもインパクトを与えました。
これらの提案について、コミュニティの反応はとても好意的なものが多く、高評価となっていますのでその一部を紹介します。
(引用元:https://forum.apecoin.com/t/aip-98-a-community-first-apecoin-dao-marketplace-proposal/8079/3)
要約
「コミュニティのフィードバックを分析した提案となっており、特に手数料などの料金体系はとても魅力的です。
そして、Web3の第一原則である分散性に優れていている点が一番気に入りました。」
(引用元:https://forum.apecoin.com/t/aip-98-a-community-first-apecoin-dao-marketplace-proposal/8079/5)
要約
「コミュニティの声を聴いてもらい、その声を提案に反映してくれて本当にありがとう。Web3の特徴を見事に取り入れているし、他のマーケットプレイスからの注文を集約している点はとても気に入ってます。
特にコンポーザビリティ(構成可能性:オープンソースにより他のものとの互換性を良くし、自身のプロジェクトの価値をあげていくことができるシステム)について、Raribleはよくわからないが、MagiEdenに実現できるとは思わない。唯一Snag Solutionの提案がこれを解決してくれた。」
他にも同様な意見が多数寄せられています。
そして最終投票の結果、88%以上の賛成を得てSnag Solutionが採用されました。
まとめ
今回の件は、「Web3らしいマーケットプレイスは何か」ということについて問われた投票となり、それを見事に反映した提案を行ったSnag Solutionの圧倒的な勝利でした。
大手だから安心という考え方は既に古く、Web3の世界では通用しなくなってきたことが証明された形となりました。
また、NFT界隈で議論が交わされているロイヤリティについても、更なる議論のきっかけになり得るかもしれません。
今後、世界中で巻き起こるWeb3の新しいビジネスがどのように展開されるかとても注目されます。