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L2スケーリングへの移行とは?イーサリアムのネットワーク負荷対策を解説

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イーサリアムは人気の高まりと共にネットワーク負荷の増大という課題に直面しています。そこで注目されているのがL2(Layer2)スケーリングへの移行です。

本記事ではL2スケーリングの概要、L2移行の狙い、具体的なL2プロジェクトを分かりやすく解説いたします。

イーサリアムの概要

イーサリアムは2015年にヴィタリック・ブテリン※1を中心に開発されたオープンソースのブロックチェーンプラットフォームです。

イーサリアムはビットコインに次ぐ市場規模※2を持ち、世界中の主要な暗号資産取引所でトレードが可能です。

※1 ヴィタリック・ブテリン(1994年-)はロシア系カナダ人のプログラマーです。
※2 イーサリアムの市場規模は2023年6月時点で30兆円以上です。

イーサリアム特徴

  • スマートコントラクト
  • DAppsのプラットフォーム
  • ETHによるエコシステム

スマートコントラクト

イーサリアムの主な特徴はスマートコントラクトの実装です。スマートコントラクトはインターネット上で自動的に実行される契約です。プログラムされた条件に基づいて中間取次業者などを排除し、取引の効率性と信頼性を高めます。

DAppsのプラットフォーム

イーサリアムはDApps※3のプラットフォームとして機能します。ブロックチェーン技術によって使用データの透明性とセキュリティを確保します。

※3 DApps(Decentralized Applications)はブロックチェーン技術を利用した分散型のアプリケーションです。

ETHによるエコシステム

ETHはイーサリアムのネイティブトークンです。プラットフォーム内の取引手数料(ガス代)の支払いやスマートコントラクトの実行に用いられます。ETHによるエコシステムはイーサリアムのネットワークを活性化させ、バリデーター※4へのインセンティブを提供します。

※4 イーサリアムネットワークの保全とトランザクションの承認を行う人々です。バリデーターソフトウェアのインストールと32ETHのステーキングが参加条件となります。

イーサリアムへのニーズ

イーサリアムは様々なビジネス分野での活用が期待されています。フィンテック業界ではスマートコントラクトによって自動化された金融サービスが可能となります。

また、イーサリアムはNFTの主要なプラットフォームです。NFTトレードにおいてイーサリアムの存在感は非常に大きいといえます。

スケーリング

ブロックチェーンのスケーリング問題はトランザクション処理能力に起因しています。イーサリアムやビットコインのようなブロックチェーンは一定のブロック生成時間とブロックサイズがあります。このため、一度に処理できるトランザクション数には上限があります。

スケーリングがブロックチェーンにもたらす影響

イーサリアムネットワークの利用者が増えるとトランザクションの処理時間が多くかかるようになり、手数料が上昇するという問題が生じます。ネットワークの使用時間によってガス代や処理速度が変化するのはこのためです。

スケーリング問題のソリューション

  • オンチェーンスケーリング
  • オフチェーンスケーリング

オンチェーンスケーリング

スケーリング問題を解決するためのアプローチは大きく分けて2つあります。一つ目は「オンチェーンスケーリング」です。ブロックサイズやブロック生成時間を調整してトランザクションの処理能力を向上させる方法です。ビットコインキャッシュはこのアプローチを採用しています。

オフチェーンスケーリング

二つ目は「オフチェーンスケーリング」です。主要なブロックチェーンから一部のトランザクションを別のレイヤーで処理する方法になります。イーサリアムのL2スケーリングや、ビットコインのライトニングネットワークがこれに該当します。

L2スケーリングへの移行とは?

L2スケーリングはイーサリアムの基礎となるブロックチェーン(L1:Layer1)の上に追加レイヤーを構築し、処理できるトランザクション数を増加させるソリューションです。

「L2スケーリングへの移行」はL1主軸のネットワーク処理をL2主軸にすることを意味します。

L2スケーリングの狙い

L2スケーリング移行の狙いはトランザクションのスピードとスループットの向上、ガス代の削減によるユーザビリティ向上です。

トランザクションはL1から分離されたL2で処理されます。処理結果をL1に戻すことで全体のトランザクション処理能力を向上させます。このようなオフチェーンスケーリングはロールアップと呼ばれています。

ロールアップ

  • Optimistic Rollups
  • ZK Rollups

ロールアップは「巻き上げた状態」を意味します。L1のトランザクションをL2に巻き上げて処理してから戻すというプロセスをイメージアップしたワードです。

ロールアップにはL1にデータを戻す際に正当性を検証する方法としてOptimistic RollupsとZK Rollupsがあります。

Optimistic Rollups(オプティミスティック・ロールアップ)

このロールアップは全てのトランザクションが有効であると仮検証して処理を行います。トランザクション処理が高速化され、コストを抑えることができます。

一方で無効なトランザクションが検出された場合、ロールアップを巻き戻すために時間がかかる場合があります。

ZK Rollups(ZKロールアップ)

ZKロールアップはゼロ知識証明※5を使用してトランザクションの正当性を検証します。

ZK Rollupsにはzk-SNARKとzk-STARKの2種類があります。zk-SNARKは証明の規模が小さく、一定時間で検証が可能なため広く用いられています。zk-STARKは高いセキュリティを追求できますが、検証に時間がかかります。

※5 ゼロ知識証明は暗号学の証明技術です。情報自体を開示せずに検証者に情報所持を証明します。

L2スケーリングのリスク

  • オフチェーンリスク
  • 資金の引出リスク
  • 検証者リスク

オフチェーンリスク

Validium※6など一部のL2ソリューションではトランザクションデータがオフチェーンで管理されます。オフチェーンデータが何らかの理由で利用できなくなった場合、ユーザーは資産を回収できなくなる可能性があります。

※6 Validiumではトランザクションデータが外部レイヤーに保持され、L1には検証結果のみが送信されます。

資金の引出リスク

参照URL:https://l2beat.com/scaling/risk

L2へのデポジットだけでなく、ウィズドローがしっかり可能かを判断する必要があります。L2のリスク評価情報を提供するL2BEAT※7などを積極的に活用しましょう。

※7 L2BEATはイーサリアムのL2スケーリングソリューションに特化した分析情報を提供するウェブサイトです。

検証者リスク

L2ではトランザクションを処理するためのオペレーターや検証者を必要とします。検証者が不正な行動を取った場合、ユーザーの資産やトランザクション処理に影響を与える可能性があります。

L2スケーリング問題の解決を目指すプロジェクト

2023年時点でイーサリアムプロジェクト独自でL2スケーリングは開発していません。L2の開発はオープンであり、誰でもプロジェクトを開始することができます。すでに多くのL2プロジェクトが誕生しており、メインネットで使用できます。

ここではL2スケーリング問題の解決を目指す主なプロジェクトを紹介します。

Arbitrum

参照URL:https://arbitrum.io/

公式サイト https://arbitrum.io/
プロジェクト名 Arbitrum(アービトラム)
関連トークン ARB
スケーリング技術 Optimistic Rollups
開発/運営 Offchain Labs

Arbitrumは最大40,000トランザクション/秒のスループットを実現します。イーサリアムのメインネットよりもはるかに低いガス代で利用可能です。Arbitrumはイーサリアムのスマートコントラクトをサポートしており、メインネットによってセキュリティが保証されています。

Optimism

参照URL:https://www.optimism.io/

公式サイト https://www.optimism.io/ 
プロジェクト名 Optimism(オプティミズム)
関連トークン OP
スケーリング技術 Optimistic Rollups
開発/運営 Optimism Labs

OptimismはEVM※8と互換性があり、Solidityコンパイラ※9を有しています。開発者は既存のイーサリアムアプリケーションを最小限の変更でOptimismに移植することが可能です。

※8 EVM(Ethereum Virtual Machine)はイーサリアム上でスマートコントラクトを実行するための仮想マシンです。
※9 Solidityコンパイラはイーサリアムのスマートコントラクトを記述するSolidity言語をEVMが理解できるバイトコードに変換するツールです。

Boba Network

参照URL:https://boba.network/

公式サイト https://boba.network/
プロジェクト名 Boba Network(ボバネットワーク)
関連トークン BOBA
スケーリング技術 ZK Rollups
開発/運営 Enya,BOBA DAO

OMG Networkの強化版とも言えるBoba Networkは、Boba独自のガス費用最適化システムでトランザクションコストを最小限に抑えます。採用するスケーリング技術はZK Rollupsです。

Polygon zkEVM

参照URL:https://polygon.technology/polygon-zkevm

公式サイト https://polygon.technology/polygon-zkevm
プロジェクト名 Polygon zkEVM
関連トークン MATIC
スケーリング技術 ZK Rollups
開発/運営 Polygon Labs 

Polygon zkEVMはEVMと完全に互換性のあるスケーリングソリューションです。ユーザーはイーサリアムで使用するのと同じコード、ツール、アプリなどを使用できます。

ZKsync

参照URL:https://zksync.io/

公式サイト https://zksync.io/
プロジェクト名 ZKsync Era(ゼットケーシンクエラ)
関連トークン 未定
スケーリング技術 ZK Rollups
開発/運営 Matter Labs

ユーザーはZKSyncを介してETHやERC20トークンを送受信することができます。イーサリアムのメインネットのコストとスピードの制約を軽減しつつ、ゼロ知識証明でセキュリティも確保します。

L2の使い方

L2に資金を移動させてネットワークを使用するまでのプロセスを分かりやすく解説します。

ウォレットの準備

まずはイーサリアムL2が使用できるウォレットを準備する必要があります。主要なL2対応ウォレットを紹介します。

MetaMask

参照URL:https://metamask.io/

MetaMaskは最もポピュラーなイーサリアムウォレットです。スマホアプリも用意されています。MetaMaskはArbitrum、Optimism、zkSyncなどの多くのL2ソリューションと互換性があります。

Trust Wallet

参照URL:https://trustwallet.com/ja/

Trust Walletは世界最大の暗号資産取引所であるBinanceが開発運営するマルチチェーンウォレットです。イーサリアムとL2ソリューションに対応します。

Argent

参照URL:https://www.argent.xyz/

Argentはガーディアンズ※10機能を持つスマートウォレットです。ユーザーがイーサリアムとそのL2ソリューションを簡単に使用できるように設計されています。Argentはデジタルアセットの管理、DeFiへのアクセス、NFTの取引など、さまざまな機能を提供します。

※10 他の信用できる人/デバイスに承認権限を与える機能です。

Gnosis Safe

参照URL:https://safe.global/

Gnosis Safeはスマートコントラクトを利用したマルチシグウォレット※11です。複数の人またはデバイスがトランザクションを承認することで、セキュリティの向上を目指します。

※11 マルチシグウォレットは複数の署名または承認が必要な暗号通貨ウォレットです。

L2への資金移動

  1. 送金元の選択
  2. L2ソリューションの選択
  3. ウォレットとの接続
  4. 資金のデポジット/ブリッジ
  5. トランザクションの確認

イーサリアムのL2ソリューションへの資金移動は一般に「デポジット」または「ブリッジ」を使用して行われます。ここでは一般的な手順を説明します。

送金元の選択

L2への送金はウォレット、もしくはCEX(Centralized Exchange:中央集権型取引所)から行います。ウォレットからであれば「ブリッジ」、CEXからであれば「デポジット」を選択します。ブリッジする場合はブリッジ元チェーンのガス代が必要です。

L2ソリューションの選択

利用したいL2ソリューションを選択します。L2ソリューションは開発中のものも多くあります。L2を実際に使用する前にホワイトペーパーなどから仕様情報を入手して理解を深めましょう。

ウォレットの設定

ウォレットでL2ネットワークを表示させるためにRPCなどを設定します。Chainlist※12に無い場合は手動で設定します。

※12 Chainlistはウォレットにネットワークを追加するためのサイトです。手動でネットワーク情報を入力する必要がなく、数クリックでウォレットにネットワークを追加できます。(公式サイト:https://chainlist.org/)

資金のデポジット/ブリッジ

ウォレット設定後、L2ソリューションへ資金を移動します。ブリッジの場合はHop ProtocolなどのDeFiで行います。デポジットはネットワーク対応済みのCEXから送金します。

トランザクションの確認

トランザクションが完了すると暗号資産はL2に移動されます。ネットワークの混雑状況に応じて資金移動に時間がかかる場合もあります。

DAppsの使用

資金の移動が完了するとL2で様々なDAppsが利用できます。Uniswap V3、1inchやAaveもL2に対応済みです。OpenSeaでもOptimismが選択できます。ウォレットのネットワークが自動で切り替わらない場合は手動で追加したL2を選択してください。

L2の特徴である高速/低コストを実感してみましょう。

まとめ

L2スケーリングはイーサリアムの今後の発展にとって非常に重要です。イーサリアムプロジェクトが公式に発表しているL2はありませんが、オープンで作成できることから多くのL2プロジェクトが誕生しています。L2プロジェクトはWeb3.0におけるユーザビリティを着実に向上させていきます。

以上、L2スケーリングへの移行について解説させて頂きました。本記事の情報がイーサリアムイノベーションに備える上で、皆様のお役に立てれば幸いです。

AMEHARE

AMEHARE

ITの最新トレンドを発信しはじめて十余年。Web2から3の時代の変革もいち早く察知し、2012年ごろから仮想通貨に注目をし始める。次世代の文化やテクノロジーを情報を掴みつつ、NFT・メタバース・DAOなどの領域であらゆる情報を発信中。
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