2023年3月、フォートナイトがオープン化をして話題になりました。UEFN(Unreal Editor for Fortnite)で出力された現実と見紛うような3Dグラフィックスに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。
本記事ではメタバースにリアリティを追求する上で重要なファクターとなっている「GPU」にスポットを当て、その重要性を解説させて頂きます。
この記事の構成
GPUとは?
GPU(Graphics Processing Unit)はPCやサーバーに搭載される半導体です。高度な3Dグラフィックス描画を可能にします。メタバースに高品質のリアリティを追求する上でGPUの役割は重要です。
GPUの役割
- レンダリング※1
- 並列計算
GPUの主な役割は画像処理と効率的な計算タスクの実行です。GPUの並列計算能力はAIにも活用できます。
※1 コンピューターの計算結果を人間に分かりやすいコンテンツ(画像など)にすることです。
レンダリング
GPUは3Dゲームや映像編集ソフトなど、高度なグラフィックス処理が必要なアプリケーションで重要な役割を果たします。リアルタイムで複雑な3Dシーンを描画し、テクスチャマッピング※2し、シェーディング※3を行い、仮想空間でのリアリティを追求します。
※2 テクスチャマッピングは3Dモデル表面に質感を与える手法です。
※3 シェーディングは3Dグラフィクスで物体表面に陰影や色の変化をつけ、立体感や質感を与える手法です。
並列計算
GPUは画像レンダリング以外の目的でも広く使用されます。並列計算能力を活用して、科学的なシミュレーション、ディープラーニング、金融モデルの構築など、大規模で複雑な計算を高速で処理します。このような用途のGPUは特にGPGPU※4と呼ばれます。
※4 GPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)は画像処理以外の用途でも使用されるGPU一般を指します。
GPUの種類
一般的なPCにはGPUが内蔵されています。ただし、高度なグラフィックス処理には専門のGPUが必要です。GPUを大きく2つに分けて解説します。
統合型GPU(内臓GPU)
統合型GPUはCPU※5と組み合わさったGPUです。一般的なコンピューターやラップトップに採用されています。
統合型GPUは独立したビデオメモリ※6を持たず、代わりにRAM※7を共有します。このシステムは基本的なグラフィックスタスクを実行するのに十分ですが、3Dゲームや高度なビデオ編集など、より要求の厳しいタスクには向いていません。
※5 CPU(Central Processing Unit)はコンピューターの中央処理装置です。GPUは多数のタスクを処理することに長けていますが、CPUは1つのタスクに特化して処理する能力が高いです。
※6 ビデオメモリはグラフィック処理に必要なデータや画像を保存するために使われるメモリです。
※7 RAM(Random Access Memory)はコンピューターの作業用メモリです。コンピューターの電源を切ると記録内容は消えます。
ディスクリートGPU(単体GPU)
ディスクリートGPUはマザーボードに個別で追加接続されるGPUです。GPU自体が高速で使えるメモリを実装しています。
ディスクリートGPUは高度なグラフィックスタスクに対して高いパフォーマンスを発揮し、リアリティを追求した3Dゲーム、様々なエフェクトを加えたビデオ編集、またはGPUを利用した計算(AIやディープラーニングなど)に使用されます。
GPUの重要性
GPUは一般消費者向けに販売されており、戦略物資※8ではありません。しかし、GPUは国際経済競争の観点から非常に重要な工業製品として認識されています。
※8 戦略物資とは国家安全保障において不可欠な物資、資源です。
テクノロジー産業の推進
GPUはゲームや映画制作、AI、メタバース構築、科学的シミュレーションなど、様々な分野で中心的な役割を果たします。これらの産業は高い利益が見込まれます。GPUに対する期待も大きいものになります。
国際競争力の強化
GPU技術のリーダーは米国のNVIDIAとAMD、および台湾のTSMCなどの企業です。これらの企業の成功は、国際的な経済競争におけるそれぞれの国/地域の立場を強化しています。
広範囲の経済活動に貢献
GPUは多くの製品とサービスの生産に活用されています。GPUの供給は広範囲の経済活動に貢献しています。GPUの供給が滞った場合、メディア・コンテンツ製作、コンピューター販売、自動運転技術開発などに大きな影響を与えます。
メタバース構築のためのリソース
- 開発人材
- ハードウェア
- ソフトウェア
- ネットワークインフラストラクチャ
- セキュリティ
- 法律・規制の知識
メタバース構築のリソースはGPUだけではありません。人材やネットワークインフラなども含めて、包括的に評価する必要があります。
人材
メタバース構築を進める上で人材の確保は大切です。3Dモデリング、アニメーション、UI/UXデザイン※9、ネットワーキング、AI、XR※10技術など、様々なスキルを持ったエンジニアが必要になります。
※9 UI(User Interface)はユーザーがコンテンツと接する際の要素です。UX(User Experience)は製品やサービスを使用することで得られるユーザー体験です。
※10 XR(Extended RealityまたはCross Reality)はVR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)、SR(Substitutional Reality:代替現実)の総称です。
ハードウェア
メタバースの構築・運用には高性能なコンピューティングリソースが必要です。本記事で解説しているGPUはもちろん、コンピューターの基本性能を上げるCPU、デジタル作業を効率化するメモリも重要となってきます。XRデバイスもメタバースを映し出す有力なハードウェアとして注目されています。
ソフトウェア
Unreal EngineやUnityなどのゲームエンジン、BlenderやMayaなどの3Dモデリングツール、NPC※11生成のためのAI開発ツールなどはメタバース構築における重要なソフトウェアリソースです。
※11 NPC(Non Player Character)はプレイヤーが操作しないキャラクターです。
ネットワークインフラストラクチャ
3Dグラフィクスで構築されたメタバースはリアルタイムで大量のデータを送受信する必要があります。リアリティを追求したメタバースには高速で安定したネットワーク接続が不可欠です。
セキュリティ
メタバースプロジェクトでは暗号資産によるエコシステムを採用する場合があります。ユーザーのデータ保護とシステムの安全性を確保するためのセキュリティ対策は重要です。ブロックチェーン自体が破られる可能性は低いかもしれませんが、オフチェーンの情報を紐づける際にはセキュアな認証システムなどが求められます。
法律・規制の知識
メタバース内における法治について理解を深める必要があります。メタバースにおける法規制の議論は始まったばかりですが、法律・規制に対応する備えは大切です。ユーザーのプライバシー保護、知的財産権の管理、地域や国による規制などの情報/認識はプロジェクトチーム内で共有を図りましょう。
GPUがメタバース構築で果たす役割
- 3Dグラフィックスのレンダリング
- AIと機械学習
- XRの支援
ここではGPUがメタバース構築で果たす役割にフォーカスして解説します。
3Dグラフィックスのレンダリング
メタバースは3Dとして構築されることが多く、その視覚的な表現には高度なグラフィックス処理能力が求められます。GPUは大量のデータを並行して処理する能力があるため、複雑な3Dシーンのレンダリングやリアルタイムでのグラフィックス処理において非常に有用です。
AIと機械学習
メタバースにおいてAIはユーザーとの対話、ゲーム内NPC、視覚や音声認識などで活用されます。AIはメタバース体験をより豊かでリアルなものにします。AIや機械学習を利用する上で、GPUの高速な並列計算能力は重要な役割を果たします。
XRの支援
XRはメタバースを体験するために注目されている技術です。XRの出力には高度なグラフィックス処理能力を必要とします。GPUはXRヘッドセットが生成する高解像度のリアルタイム3D環境を支援します。
GPUの需要と供給
GPUはイーサリアムのマイニングによって需要の高止まりが続きました。しかし、2022年9月のThe Merge※12によってマイニングが不可能になります。GPUの市場価値は一時的に下がりましたが、2023年に入りAI開発による需要が顕著となります。
ここではGPUの需要元、主要なサプライヤーについて解説します。
※12 The Mergeは2022年9月に行われたイーサリアムの大型アップデートです。マイニング方式がProof of Work(PoW)からProof of Stake(PoS)に変更されました。
GPUの需要
- ゲーム産業
- AIアプリケーション
- ロボット工学
GPUはメタバース構築以外にも様々な産業、分野でニーズがあります。
ゲーム産業
ゲームは高品質なグラフィックスを必要とします。PlayStation、Xbox、Nintendo SwitchはNVIDIAやAMD製の高性能なGPUを使用しています。
AIアプリケーション
ChatGPTやDall-Eなどの新しいAIアプリケーションへの関心が高まり、高性能なGPUを組み込んだサーバーに大きな需要が発生しています。
ロボット工学
GPUはロボットのイノベーションにも貢献します。車両の自律走行や工業用ロボットアームの制御でGPUの高い演算能力は活用されます。
GPUの主要サプライヤー
- NVIDIA
- AMD
- Intel
NVIDIA
参照画像URL:https://www.nvidia.com/ja-jp/
公式サイト | https://www.nvidia.com/ja-jp/ |
CEO | Jensen Huang(2023年現在) |
創業 | 1993年 |
創業者 | Jensen Huang, Chris Malachowsky, Curtis Priem |
拠点 | アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ |
NVIDIAは主にGPUとAI関連の製品を開発する企業として知られています。ディスクリートGPUのサプライヤーとしては世界最大です。
NVIDIAの最も有名な製品はGeForceシリーズで、これは主にゲーミング向けに設計されたGPUです。Quadroシリーズはプロフェッショナル向け、TeslaシリーズとAmpereベースのA100はAIと高性能計算(HPC)向けに開発されています。
AMD(Advanced Micro Devices)
参考画像URL:https://www.amd.com/ja.html
公式サイト | https://www.amd.com/ja.html |
CEO | Lisa Su(2023年現在) |
創業 | 1969年 |
創業者 | Jerry Sanders, Edwin Turney |
拠点 | アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ |
AMDはIntelと並ぶ世界的なCPU、GPUメーカーです。同社の製品はPC、サーバー、ゲームコンソールなど、様々なデバイスで使用されています。
AMDのGPUはRadeonブランドとして有名です。PCゲーム向けの高性能GPUとしてRadeon RX6000シリーズがあります。
AMDのCPUはRyzenシリーズとして広く知られています。Ryzenシリーズは性能とエネルギー効率の両方で高い評価を受けています。
Intel
参照画像URL:https://www.intel.co.jp/content/www/jp/ja/homepage.html
公式サイト | https://www.intel.co.jp/ |
CEO | Pat Gelsinger(2023年現在) |
創業 | 1968年 |
創業者 | Robert Noyce, Gordon Moore |
拠点 | アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララ |
Intelは半導体の設計と製造で最も知名度のある企業です。Intelの製品はPC、サーバー、データセンター、クラウドプラットフォーム、スマートフォン、自動車、産業用システムなど、様々な分野で使用されています。
GPUの分野では主に統合型GPUを提供してきました。そして、統合型GPUでは世界一のシェアを誇ります。一方で、2020年にディスクリートGPU「Intel Iris Xe」をリリースし、デスクトップやハイエンドゲーム機向けの市場にも参入しています。
GPU供給に向けた各国の取り組み
GPUの安定供給は国際競争において非常に重要です。GPU製造は特殊な材料、高度に専門化された機器、最新の技術を必要とする複雑なプロセスです。安定的かつ持続的なGPU供給を果たすために、国や企業間での協調も視野に入れる必要があります。
アメリカ
アメリカはGPUの開発と製造の中心地であり、NVIDIAとAMDのような世界をリードする企業を抱えています。
技術革新と製品開発の強みを持つ一方で、製造は主にアジアに依存しています。商業的な紛争(特に対中国)はGPU供給網に影響を与える可能性があります。
米国はGPUサプライチェーンを自国で完結させるために韓国や台湾の半導体製造工場を誘致するとともに、補助金などで自国メーカーへのサポートもしています。
中国
中国は世界最大の半導体市場であり、国内外から多くのGPUの供給を受けています。国内ではSMIC、Ingenic Semiconductor、UNISOCがGPUの製造に挑戦しています。
高性能なGPUの製造に関しては、技術的な制約と外国(米国や日本など)からの輸出規制の影響を受けています。諸外国の輸出規制は「国内の半導体産業を育成し、自給自足を目指す」という中国政府の目標に対し不利に働きます。
台湾
台湾は半導体製造の世界的なサプライヤーです。TSMC(台湾半導体製造会社)は世界最大の半導体メーカーであり、世界最先端の製造技術を持っています。
TSMCは世界中の多くの企業(NVIDIAやAMDなど)のGPUを受注製造しています。製造拠点は台湾内や中国に集中していましたが、地政学的な緊張感の高まり(対中関係)で日本や米国、欧州などへ分散化を進めています。
韓国
韓国のSamsungとSK HynixはDRAM※13とNAND型フラッシュメモリ※14の世界最大の供給元です。これらのメモリはGPUに不可欠なものです。
一方で、高度なプロセッサの製造では台湾やアメリカに後れを取っています。これは韓国の弱点であり、GPU市場での競争力を制限しています。
※13 DRAM(Dynamic Random Access Memory)は通電時のみに記録を保持できるメモリです。
※14 NAND型フラッシュメモリは電源を切ってもデータを保持することができるメモリです。
日本は?
2023年時点で日本産GPUはありません。しかし、GPUサプライチェーンの一部を担うことができています。東京エレクトロンは半導体製造装置の世界的なメーカーです。さらに、ルネサスエレクトロニクスや東芝メモリはGPUに必要なDRAMの製造が可能です。
日本でGPUサプライチェーンを完結させるには、2つの問題をクリアにする必要があります。1つ目は材料調達です。半導体製造に使用されるレアメタルは海外から調達しなければなりません。中国などはレアメタルの輸出制限などをすることがあります。2つ目はGPU設計/製造というプロセスです。一番重要なプロセスですが、技術の蓄積と国際的なコンセンサスが必要です。GPU設計/製造では米国のNVIDIAとAMDが独占的なポジションにいます。
国産GPUにこだわらず、国内で受注製造を目指すという戦略も進められています。日本政府はTSMCの日本進出を支援しています。熊本のTSMC半導体工場建設には日本政府から4,000億円以上が補助されています。
まとめ
GPUは高品質の3Dグラフィクスを出力させるために非常に重要です。メタバースのリアリティを追求するためには欠かせないものになっています。Unreal Engineで生成されるメタバースはすでに現実世界と見紛うほどです。また、GPUの並列処理能力はAIの開発で注目されており、NPCの進化にも大きな貢献をするでしょう。
本記事ではGPUの概要、種類、メタバース構築で果たす役割を解説させて頂きました。メタバース、ひいてはAIやXR技術を活用したWeb3.0の進化に備える情報となれば幸いです。