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トラベルルールによる取引所間の送金制限や主要国内取引所の対応

解説系記事

2023年6月1日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が改正され、トラベルルールが本格的に導入されました。これにより、各取引所は暗号資産(仮想通貨)の送金人や受取人の個人情報を取得し、受取人側の取引所に通知しなければいけません。

また、入出金する取引所が異なる情報通知システムを採用している場合、取引所間での送金ができなくなるという問題も発生しています。

この記事では、トラベルルールの概要や取引所間の送金制限問題、主要国内取引所の対応などをご紹介します。また、トラベルルールを避けて暗号資産を送金する方法も解説していきます。

※本記事は2023年6月5日時点での情報を掲載しています。

トラベルルールとは?

トラベルルールとは、暗号資産の送金依頼を受けた取引所が、送金人と受取人の個人情報を取得し、受取先の取引所に通知しなければいけないルールのことです。

一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)では、トラベルルールを以下のように定義づけています。

トラベルルールとは何ですか?

トラベルルールとは、「利用者の依頼を受けて暗号資産の送付を行う暗号資産交換業者は、送付依頼人と受取人に関する一定の事項を、送付先となる受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない」というルールです。

引用元:【暗号資産の送付を会員にご依頼される利用者の皆様へ】

なお、受取先の取引所に通知する情報は、以下の通りです。

  • 送金人情報(氏名、住所又は顧客識別番号)
  • 受取人情報(氏名、送付先アドレス、住所に関する情報)
  • 受取先の暗号資産取引所の名称
  • 取引目的に関する情報

トラベルルールは、FATF(金融活動作業部会)が定めている国際的なルールです。マネーロンダリングやテロ活動資金供与対策のために進められている国際基準であり、各国政府に導入を促しています。

「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の改正により本格実施

2023年6月1日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」が改正されたことで、トラベルルールが本格的に実施されました。

2022年4月1日から、JVCEAが自主規制規程として「トラベルルール」を実施していたものの、今回の法改正で法的枠組みが整備された形となります。

各取引所の対応は後述しますが、今後国内取引所などを利用した暗号資産の送金は、基本的にトラベルルールに基づいた対応が行われます。

情報通知システムが異なる取引所間の送金が不可に

トラベルルールの実施により問題となっているのが、取引所間の送金制限です。

各取引所はトラベルルールに準拠するため、情報通知システムを利用しています。現在、この情報通知システムには「TRUST」と「Sygna Alliance」という2種類があります。

しかし、この2つの情報通知システムには互換性がないため、異なるシステムを使う取引所間では暗号資産の送金ができません。つまり、暗号資産取引所はTRUST派とSygna派の2つに分断されているといえるでしょう。

それぞれの情報通知システムの詳細や、採用する取引所は以下で解説します。

「TRUST」とは?

画像引用元:Coinbase

「TRUST」は、主にアメリカの暗号資産取引所や企業が採用している情報通知システムです。

正式名称は「Travel Rule Universal Solution Technology」となっており、Coinbase(コインベース)や、USDCを発行するCircle(サークル)が中心となり設計しました。略称の「TRUST」は、顧客からの信頼(英語ではTrust)を得るという意味も込められているとのことです。

2023年6月5日現在、TRUSTに加入する企業は56社存在しており、有名な取引所は以下の通りです。

【TRUSTを導入する主な取引所】

  • Coinbase
  • Binance US
  • BitMEX
  • Kraken
  • Crypto.com
  • GEMINI
  • Coincheck(コインチェック)
  • bitFlyer(ビットフライヤー)

「Sygna Alliance」とは?

画像引用元:Sygna Alliance

「Sygna Alliance」は、台湾系のブロックチェーンセキュリティ企業「CoolBitX」が開発した情報通知システムです。SBIグループから出資を受けるなど日本企業との関係があり、多くの日本国内の取引所がSygna Allianceを採用しています。

2023年6月5日現在、Sygna Alliance公式サイトでは提携する企業を36社掲載しています。その中でも、主要な暗号資産取引所は以下の通りです。

【Sygna Allianceを導入する主な取引所】

  • GMOコイン
  • DMM Bitcoin
  • bitbank(ビットバンク)
  • Zaif(ザイフ)
  • SBI VC Trade
  • LINE BITMAX(ラインビットマックス)
  • Rakuten Wallet(楽天ウォレット)
  • BitTrade(ビットトレード)
  • OKCOIN JAPAN(オーケーコインジャパン)
  • MEXC Global

トラベルルールに対する主要国内取引所の対応

前述の通り、異なる情報通知システムを採用する取引所間では、暗号資産の送金ができません。トラベルルールに関して、各取引所が今後の対応方針を公表しています。

ここでは、以下の主要な国内取引所の対応をご紹介していきます。

  • Coincheck
  • bitFlyer
  • GMOコイン
  • DMM Bitcoin
  • bitbank

Coincheck(コインチェック)

画像引用元:Coincheck

Coincheckのトラベルルールへの対応は、以下の通りです。

採用する情報通知システム

TRUST

トラベルルール対応開始日

2023年5月31日(水)〜

対象となるユーザー

Coincheckで暗号資産の送金・受取を行うすべての個人・法人

暗号資産を送金できる取引所

Coincheckでは、暗号資産を送金できる取引所の条件を以下のように記載しています。

・日本と通知対象国の暗号資産交換業者が提供するサービスのうち、「TRUST」を導入しているサービス
・通知対象国以外の暗号資産交換業者や、プライベートウォレット(例:Metamaskなど)

引用元:【重要】暗号資産の送金・受取に関するトラベルルール対応のお知らせ

つまり、日本もしくは通知対象国に拠点を置き「TRUST」を導入している取引所には、暗号資産を送金できるということになります。なお、通知対象国は以下の通りです。

アメリカ合衆国、 アルバニア、 イスラエル、 カナダ、 ケイマン諸島、 ジブラルタル、 シンガポール、スイス、 セルビア、 大韓民国、 ドイツ、 バハマ、 バミューダ諸島、 フィリピン、 ベネズエラ、 香港、マレーシア、 モーリシャス、 リヒテンシュタイン、 ルクセンブルク

引用元:【重要】暗号資産の送金・受取に関するトラベルルール対応のお知らせ

また、Coincheckでは通知対象国以外の取引所や、MetaMaskなどの個人ウォレットとの入出金も可能としています。通知対象国以外の取引所としては、Binance(バイナンス)やBybit(バイビット)などの取引所が挙げられるでしょう。

その他補足事項

Coincheckでは、「TRUST」を採用している取引所間であっても、一部の暗号資産の送金・受取を一定期間制限しています。ただし、送金の一時停止は5月31日〜6月下旬、受取は5月31日〜6月中旬までとなっており、あくまでも時限的な対応のようです。

なお、送金・受取を一時停止している暗号資産銘柄は、以下の通りです。

  • BAT
  • ENJ
  • OMG
  • SAND
  • CHZ
  • LINK
  • PLT
  • FNCT

参照1:【重要】暗号資産の送金・受取に関するトラベルルール対応のお知らせ
参照2:【重要】暗号資産の送金・受取に関するトラベルルール対応の詳細について ※6/1追記
参照3:【トラベルルール】暗号資産の送金・受取に関する詳細について

bitFlyer(ビットフライヤー)

画像引用元:bitFlyer

bitFlyerでは、以下のような形でトラベルルールに対応しています。

採用する情報通知システム

TRUST

トラベルルール対応開始日

2023年5月30日(火)15:00頃〜

対象となるユーザー

bitFlyerで暗号資産の預入・送付をするすべての法人・個人

暗号資産を送金できる取引所

bitFlyerでは、日本および通知対象国に拠点を置く、「TRUST」を採用している取引所に送金できます。また、通知対象国以外の取引所や、MetaMaskやLedgerなどのプライベートウォレットへの送金も可能です。

ただし、「TRUST」を採用する取引所であっても、TRUST非対応の暗号資産は送付できません。bitFlyerで取り扱いしている、TRUSTに対応した送金可能な暗号資産は以下の通りです。

  • BTC
  • ETH
  • BAT
  • LINK
  • MATIC
  • MKR
  • SHIB
  • PLT

以下の画像は、bitFlyerからの送金可否をまとめた表となります。

画像引用元:トラベルルール導入に伴う当社の対応について

また、bitFlyerが提示している通知対象国は、以下の通りです。

画像引用元:トラベルルール導入に伴う当社の対応について

その他補足事項

bitFlyerは、ユーザーの利便性を考慮し、TRUST以外の情報通知システムに切り替える可能性があるとしています。今後、異なる情報通知システムを採用した際には、取り扱い方法が大きく変更される可能性があるでしょう。

参照1:トラベルルール導入に伴う当社の対応について
参照2:トラベルルール導入後に暗号資産が送付可能なケースは何ですか?

GMOコイン

画像引用元:GMOコイン

GMOコインのトラベルルールへの対応は、以下の通りです。

採用する情報通知システム

Sygna Alliance

トラベルルール対応開始日

2023年5月31日(水)12:00〜

対象となるユーザー

GMOコインで暗号資産の預入、送付を行う全てのユーザー

暗号資産を送金できる取引所

GMOコイン公式サイトでは、以下の取引所に暗号資産を送金できると記載しています。

1. Sygna Hub(またはSygna Bridge)を利用する以下の国内暗号資産交換業者

〜中略〜

2. 金融庁が指定する国・地域に属しない外国暗号資産交換業者

〜中略〜

3. Metamaskなどのプライベートウォレット

引用元:トラベルルール対応についてのお知らせ

基本的にはSygna Allianceを採用した国内取引所か、金融庁が指定する国・地域に属していない取引所であれば送金できます。また、MetaMaskなどの個人ウォレットへの送金も可能です。

しかし、Sygna Allianceを採用していても、金融庁が指定する国・地域の取引所には送金できないので、注意してください。2023年6月5日現在、金融庁が指定する国・地域は以下の通りです。

3.金融庁が指定する以下の20の国・地域に所在する外国暗号資産交換業者

  • アメリカ合衆国
  • アルバニア
  • イスラエル
  • カナダ
  • ケイマン諸島
  • ジブラルタル
  • シンガポール
  • スイス
  • セルビア
  • 大韓民国
  • ドイツ
  • バハマ
  • バミューダ諸島
  • フィリピン
  • ベネズエラ
  • 香港
  • マレーシア
  • モーリシャス
  • リヒテンシュタイン
  • ルクセンブルク

引用元:トラベルルールについてよくあるご質問

その他補足事項

他の取引所からGMOコインに暗号資産を送金する際の注意点として、以下が記載されています。

・当社による送付元情報の確認結果によっては、暗号資産の口座への反映をお断りする場合がございます。また、暗号資産の性質上、反映をお断りした場合でも暗号資産の返送はできかねますので、あらかじめご了承ください。

引用元:トラベルルール対応についてのお知らせ

上記の通り、送金元から通知される情報によっては、口座への反映を行わないとしています。また、どういった性質を指しているのかは不明ですが、「暗号資産の性質上、返送はできない」と注意喚起しています。

送金元の情報に不審な点がなければ、問題にはならないと考えられます。しかし、しっかりとした対応方針が示されるまで、GMOコインへの送金は控えた方がよいかもしれません。

参照1:トラベルルール対応についてのお知らせ
参照2:トラベルルールについてよくあるご質問
参照3:トラベルルールの対応(暗号資産送付時の受取人情報登録)について教えてください
参照4:【重要】トラベルルール対応に関する追加のお知らせ

DMM Bitcoin

画像引用元:DMM Bitcoin

DMM Bitcoinでは、以下のような形でトラベルルールに対応します。

採用する情報通知システム

Sygna Alliance

トラベルルール対応開始日

2023年6月1日(木)〜

対象となるユーザー

DMM Bitcoinで暗号資産の出金、入金を行うすべてのユーザー

暗号資産を送金できる取引所

DMM Bitcoinでは、Sygna Allianceを採用する暗号資産取引所間での入出金ができます。また、暗号資産取引所以外の業者はトラベルルールの適用対象外であるため、入出金が可能です。

もちろん、MetaMaskなどのプライベートウォレットとの入出金は問題なく行えます。

Sygna Alliance非対応の取引所への出金はできませんが、入金は一部認められる可能性があります。ただし、DMM Bitcoin側からユーザーに対してヒアリングが行われるため、入金が反映されるまでに時間がかかる可能性があるでしょう。

参照1:トラベル・ルールへの対応に伴う暗号資産(仮想通貨)の入出金及び送付について
参照2:【更新】トラベル・ルールへの対応に伴う暗号資産出金時の通知義務について
参照3:トラベル・ルールへの対応に伴う暗号資産出金時の通知義務について

bitbank(ビットバンク)

画像引用元:bitbank

bitbankのトラベルルールへの対応は、以下の通りです。

採用する情報通知システム

Sygna Alliance

トラベルルール対応開始日

2023年6月9日(金)〜

対象となるユーザー

bitbankを利用するすべての個人・法人

暗号資産を送金できない取引所

bitbank公式サイトによると、直接送金できない取引所の条件として、以下の2つを掲載しています。

  • ビットバンクとは異なる通知システムを採用している場合
  • 法令等で定められた通知を正確に行えない可能性がある場合

引用元:暗号資産の直接送付ができない暗号資産交換業者

具体的には、以下の3つの取引所へ直接送金できないと記載されています。

  • 株式会社bitFlyer
  • コインチェック株式会社
  • 株式会社Crypto Garage

しかし、上記の条件では「ビットバンクとは異なる通知システムを採用している場合」と記載されています。6月9日のトラベルルールへの対応以降、「TRUST」を採用する取引所がさらにリストに追加されると考えられます。

参照1:トラベルルールについてのよくあるご質問
参照2:トラベルルールとはなんですか
参照3:暗号資産の直接送付ができない暗号資産交換業者

トラベルルールを避けて暗号資産を送金する方法

「TRUST」と「Sygna Alliance」の2つに分かれている暗号資産取引所ですが、トラベルルールを避けて送金する方法は存在しています。ここでは、以下の2つの方法を確認していきましょう。

  • 個人ウォレットを経由する
  • 通知対象国以外の取引所を経由する

個人ウォレットを経由する

MetaMaskやLedgerなどの個人ウォレットに関しては、トラベルルールによる通知義務の対象外です。そのため、一度MetaMaskなどを経由すれば「TRUST」「Sygna Alliance」に関係なく、取引所間の資金移動が可能となります。

例えば、Coincheck(TRUST)からbitbank(Sygna Alliance)に送金したい場合、その間に一度MetaMaskを経由すれば問題なく送金できます。

通知対象国以外の取引所を経由する

通知対象国以外に拠点を置く取引所に関しても、トラベルルールの対象外です。基本的には、通知対象国以外の取引所を経由すれば、自由に取引所間での資金移動ができます。

しかし、トラベルルールの対象外とはいえ、リスク管理のために送金時にウォレット所有者などの情報提供が求められます。リスクがあると判断されれば、送金を止められる可能性も否定できないでしょう。

また、通知対象国以外の取引所への送金は、国内取引所によって対応が異なる可能性があります。送金手続きを行う前に、必ず各取引所のルールを確認してください。

※MetaMaskなどの個人ウォレットや、通知対象国以外の取引所が管理するウォレットは総称して「アンホステッド・ウォレット」と呼ばれています。

トラベルルールによる送金制限まとめ

トラベルルールは、2023年5月末〜6月月初に開始されたばかりの新しいルールです。また、国内取引所によって採用する情報通知システムが違っており、対応方針を確定できていない取引所もあります。

一般ユーザーからするとかなり面倒なルールではありますが、MetaMaskなどの個人ウォレットなどを経由すれば、これまで通り取引所間の資金移動は可能です。そのためトラベルルールの手続きに少しでも不安がある場合は、一度MetaMaskやLedgerなどを経由させるのが得策となるでしょう。

国内取引所による新しい対応方針などが発表され次第、適宜更新していきますので、本記事をブックマークしておくことをおすすめします。

GM

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2017年から仮想通貨投資を開始し、2020年から本格的にweb3.0の世界に参入。現在はフリーランスとして暗号資産やブロックチェーン、NFT、DAOなどweb3.0に関する記事を執筆。NFT HACKでは「初心者にもわかりやすく」をモットーに、読者の方々に有益となる記事の作成を行なっている。
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