VTuberは「新しいエンタメ」として定着しており、2023年現在、宝鐘マリンや兎田ぺこらなど有名配信者は、登録者が200万人を突破しています。16歳から26歳の「Z世代」のYoutube視聴ランキングでは、VTuberのチャンネルはトップスリーの常連です。
若者を中心に人気を博しているVTuberですが、2022年ごろから、ブロックチェーン技術を活用して新しいVTuberの形を模索する動きが急速に広がっています。NFTはVTuberの個性をアピールし、ファンとのつながりを強化する手段となる可能性があり、注目されています。
NFTの活用によって、VTuber自身に新たな収益源が生まれるとともに、ファンは限定コンテンツの取得などの体験を楽しむことができます。また、VTuber業界が抱える問題を解決する方法としても期待が集まっています。
この記事では2023年のVTuberの立ち位置を紹介し、現在業界が直面している問題にNFTがどのように関わるか、VTuber業界にどういった影響を及ぼすのかを解説します。
この記事の構成
VTuber、2023年の立ち位置
アニメルックのアバターで動画を投稿するというVTuberは、キズナアイの登場で急速に認知が進みました。コロナウィルスによる巣ごもり需要を経た2023年には、大きな経済的インパクトを与えるほどに成長しています。グローバル市場においてもVTuberの知名度は確実に高くなっており、国境を超えて世界中のユーザーとの交流も広がっています。
一方で業界は未成熟な面を残しており、様々な問題が発生しています。まずは、2023年における「VTuberの立ち位置」と、業界が抱えている構造的問題を整理しておきましょう。
VTuberとは
「VTuber」はバーチャルYouTuberの略称で、一般的には以下の要素を満たしている配信者を言います。
2DCGまたは3DCGで描かれたキャラクターをアバターとする
アバターを使って主にYoutubeなどのインターネットメディアで動画投稿や生配信を行う
人間の動きを読み取るモーションキャプチャーを利用することで、リアルタイムでキャラクターにリアクションを取らせる
「バーチャルYouTuber」という言葉は2016年にキズナアイが活動を行うときに名乗ったのが最初と言われています。VTuberの文化は2017年末頃から急速に発展し、「四天王」と呼ばれる人たちが現れ、認知も広がっていきました。
四天王と呼ばれるVTuber
- 電脳少女シロ:2017年8月12日開始
- ミライアカリ:2017年10月開始
- ねこます:2017年11月
- 輝夜月(かぐやるな):2017年12月
引用元:ミライアカリプロジェクト
この頃、「にじさんじ」「ホロライブ」といった事務所が設立され、演者の募集を始めます。スマホやPCで手軽に配信できるという特徴を活かして、ライブ配信を主体とした配信スタイルが確立されていきます。
その後、個人VTuberプロダクションも登場し、VTuber人口は1万人を超えて人気が徐々に分散していく傾向が見られるようになりました。
プロダクションシステムがもたらす弊害
VTuberの歴史はまだ浅いわりに、爆発的なブームになってしまったことから様々な弊害を生んでいます。なかでも問題視されているのがVTuber事務所の「プロダクションシステム」です。
プロダクションは、演者を募集し、合格者にVTuberとしてのアバターを用意して配信環境を整えます。人気を獲得するための戦略を練り上げて高い収益をあげようとします。
プロダクションは配信によって生まれた売上から30%程度を徴収すると言われています。ただ、これは人を扱う事業としては利益を出しすぎではないかと指摘されています。
本来であれば所属タレントとマネージャー、営業という小規模事業として成立していたものが、業界が成長して大きくなるにつれて管理職のなど組織のピラミッドが肥大化して間接的コストが増大しています。
VTuber事務所のピラミッド構造からは他にも多くの問題が発生していることが指摘されています。たとえば、あるVTuber事務所が田舎に本社を置いて賃金をその地域の最低賃金に設定して、全国からリモートワークの募集をしているという事例が報告されています。
引用元:Twitter
また、演者とプロダクションとの意見の対立も多く発生するようになり、四天王の一人であるミライアカリさんは「私と運営さんの価値観のズレ」があることから引退を表明しています。
「本当は続けたかった」という本音をもらしていることから、「VTuberと事務所」という関係性そのものに疑問が持たれています。
Vtuberのファン心理とは
VTuberとファンとの関係は、従来のアイドル業界やアニメ業界などとも違っており、独特の文化を形成しています。一言で表現すると「ファンのエンゲージメントが高い」というのがVTuberの特徴です。
VTuberが活動を通じて得る収入の主要な手段は生配信で視聴者から「投げ銭」を受け取る「スーパーチャット」です。グローバルのYoutubeのチャンネルでの投げ銭の金額を集計しているサイトの報告によると、スーパーチャットで得た収益の上位を日本のVTuberが独占しています。
VTuberは他のタレント業と違ってファンと配信者は友人や仲間によるサークル活動に近い感覚です。ステージで歌う憧れの存在を仰ぎ見るのではなく、目線は同じ高さです。人気VTuberとファンは「精神的には家族」という強い関係性で結ばれます。だからこそ、迷いなく投げ銭をすることができるのです。投げ銭は購買・お布施・チップではなく「家族を支える仕送り」に近い感覚です。
京都精華大学と神奈川大学が共同で研究した結果によると、「VTuberに惹かれる理由」について、出現頻度の高い第2位は「人」に関する記述で、「容姿だけではなく人の本質が見える」「本人ではない形でネットに出ることで、よりその人の本質や人生が見られる」といった回答が得られています。
引用元:インターネットを介するコンテンツにおける関係性マーケティングの検討
ミライアカリさんは引退するにあたって、「動画は毎回きっちりと台本があった」「私はコンテンツの企画には関わることができない」「私はただの人形だった」と語っています。
VTuber自身もファンも「その人の素の部分」を魅力と感じています。それにも関わらず、プロダクションとタレントの縦社会が足かせとなって、双方の望む形とは逆の方向へ発展しようとしているというのが、今のVTuber業界の姿の一端といえます。
NFTの導入がVTuber業界にもらたすもの
引用元:ksonONAIR
VTuberは配信環境とアバターさえあれば「誰にでもできる仕事」で、良い意味でのアマチュアリズム精神が宿っています。タレントでもプロフェッショナルでもない人がアバターを借りて自由にやりたいことをやるというのが、本来のVTuberの姿でしょう。
ところが、実際に起こったのはプロダクションによるオーバーコントロールで、活動に制限がかかっているというのが現状です。
新しいエンタメだけに従来的な「事務所とタレント」という芸能界の悪癖を引き継いでいるように見えるのは残念としか言いようがありません。
ところが、近年こういった問題を克服するために「VTuberの活動にNFTを導入してVTuberとファンをつなごう」という動きが見えてきました。元来「ネット上に存在するタレント」であるためweb3との相性は悪いはずもなく、今後の展開に注目が集まっています。
中央集権化の打破
引用元:A.I.Channnel
現在のVTuber業界では、プロダクションが力を持ち、「上に吸い上げる」構造が出来上がってしまっているという指摘がタレントやクリエイターから数多くあがっています。
「VTuberがアバターを使って配信する」「配信を観て友人や家族のような思いで投げ銭をする」というのがVTuberの基本的な活動です。その意味ではタレントとファンはフラットな関係であり、「組織化」「プロダクション化」との相性はそもそも良くありません。
3D配信や企業コラボなど組織が大きいからこそ可能なことも多くありますが、ファンが望んでいるのは「一緒に作り上げるコンテンツ」です。自分で発見したタレントを応援し、自分たちで育てる。家族や友達を応援する感覚で投げ銭してあげるというのが、ファンが望む姿です。
こういった業界では、中央集権的・web2的なやり方よりも発信者と受信者がフラットな関係になるweb3的な手法のほうが適しています。業界でも、そのように考える人たちが2022年末から増えてきました。
VTuberとWeb3は相乗効果が高い
VTuberは2Dや3Dのアバターを使って配信をするYouTuberで、視聴者からは二次元キャラクターが実際の人のようなリアクションをしているように見えます。いわば「二次元キャラクターが自分の発言に反応してくれる」わけです。そのため、ファンは大変な熱量を持ってVTuberを応援しています。VTuberの登場は、「固定的でかつ熱量が高いファンを獲得できる二次元コンテンツ」が誕生したことを意味すると言えます。
引用元:Marine Ch.
その一方で、NFTという新しいデジタルアセットが誕生しました。デジタルデータでありながら「本物のデータの所有者が誰なのかが明確なデータ」です。デジタルデータをNFT化すればマーケットプレイス上で販売もできますし、二次流通もできます。
NFTの大きなメリットは誰にでも作成できて販売することができるというだけでなく、この「二次流通」にあります。NFTの購入者が第三者に再販売したときに、その売上の一部がクリエイターに還元されます。従来のイラストや美術の販売システムでは、クリエイターは基本的に「納品した制作物に対して100%買い切り」でした。ところが、NFTで使われている二次流通におけるロイヤリティの仕組みによって、購入者がNFTを流通させる限り、継続的に儲けが出ます。
NFTには購入者にも「デジタルアセットを自分だけのものにできる」というメリットもありますが、実際にはロイヤリティによって創作側のほうにメリットが高い仕組みです。そのため、クリエイターを応援したいという心理とマッチします。
こうして考えると、VTuber×NFTという発想は決して奇抜なものではなく、むしろ自然な形とも言えるでしょう。熱量の高いファンへNFTを販売し、クリエイターへの還元もできるというシステムは、VTuberの活動を後押しする可能性が充分にあります。
新たな収益構造の創出
VTuberがNFTを活用することは大きな意味を持ちます。NFTによって新たな収入源を確保することができ、大手プロダクションに依存しない活動を保証できる可能性があるからです。
VTuberはマーケティング的に見ると「エンゲージメントの高い」コンテンツです。たとえばVTuberの持っている画像や音楽、音声などをNFTとしてトークン化して限定コンテンツや特典を提供することができます。ファンは限定コンテンツを入手するためにNFTを購入して、より高い熱量でVTuberの活動をサポートするでしょう。
NFTによって収益を出すには、広告もスポンサーも必要ありません。組織による上意下達の構造から自由になるのでVTuber自身のクリエイティビティを充分に発揮できるでしょう。
NFTは国際的に通用するマーケットプレイスで販売されます。そのため、海外のファンとのつながりも強化できる可能性もあります。VTuberは日本だけでなく海外でも人気が高く、熱狂的なファンも数多くいます。NFTは、こういったファンが支えとなってクリエイターに還元するシステムになり得ます。VTuberのNFT活用には高いポテンシャルがあると言えるでしょう。
NFT導入で注目されるVTuberプロジェクト
VTuberが手掛けるNFTプロジェクトはすでに多くの事例があります。たとえば、キズナアイさんは「Metaani」とコラボしたアートプロジェクトを立ち上げています。
この企画はあくまで「キズナアイのグッズ」という扱いです。今注目されているのは、「VTuberというIPそのものの立ち上げにweb3が関わる」というプロジェクトです。
新しい創造的なVTuberの未来を模索するプロジェクトを3つ紹介しましょう。
「web3×VTuber」を掲げるVhigh!
引用元:Vhigh!
「Vhigh!」は、VTuberをNFTとトークンで設計するという野心的なプロジェクトです。
公式サイトでは、未来のVTuber事業を創出するビジョンが語られています。VTuberなどのバーチャルタレントを中心とする活動を「中央集権型から分散型へと革新する」ことを目標としています。
「Vhigh!」が掲げるミッションは以下のようなものです。
- クリエイターに正当な収益をもたらしながら、より自由度の高い活動にチャレンジできる環境を整える
- クリエイターもファンも参加してオープンで相互作用が起きやすい自立分散型のコミュニティを目指す
- 「Vhigh!」からスターを生み出して高い価値のあるIPを創出し、コミュニティを成長させる
- クリエイターが稼いだ収益を100%還元する
- メタバースを主戦場と考え、自由な創造力を存分に発揮できる場として活用する
- 誰もが参加できるコミュニティを実現し、新しいコンテンツを創造する土台とする
Vhighの活動に対してNFTホルダーやファンが貢献を可視化できるシステムをNFTとトークンを使って設計します。
テレビ東京の「ChatGPT×NFT」によるIP創出
引用元:いしとほし
テレビ東京は、シンガポールを拠点にGameFiプラットフォーム事業を展開する「Digital Entertainment Asset」社と共同で、生成AI・ChatGPTとNFTを活用した新規IPプロジェクト「いしとほしプロジェクト」を開発します。
VTuberは通常、個人または企業がVTuberの外見をアバターとして設定し、どのような配信を行うのかを決めて活動しています。「いしとほし」プロジェクトは、「原石からスターを生み出す」ことを目標としており、VTuberの性格やプロフィールをユーザーとともに作っていきます。
プロジェクトでは「鉱物」「星」をテーマに7人のVTuberを開発します。「プロデューサーNFT」を購入したユーザーがプロデューサーとしての権利を獲得して、用意されたページでChatGPTを使ってキャラクターの性格やプロフィールを作ります。
キャラクターはYoutube番組を配信するだけでなく、テレビ東京の番組と連動した企画も予定されています。
テレビ東京は独自の視点から制作した番組作りに定評があり、アニメなどのコンテンツビジネスにも実績があります。「DEA」社との提携は2022年11月に実現したもので、2023年7月にはVTuber業界に参入というスピード感は頼もしいといえます。
「PINES」によるVTuberDAO
引用元:VTuberDAO公式PV
web3に特化したマーケティング会社「PINES」は、NFTホルダーで結成するDAOによってVTuberをプロデュースするプロジェクト「VTuberDAO」を2022年8月にリリースしています。
VTuberDAOは分散型の自律した組織として、透明度の高いルールに基づいてユーザーが意見を交わしながらVTuberを創出していきます。
DAO参加者は、配信者のオーディションに参加・投票する権利を持ち、具体的なプロデュースやマネージメント業務へ参加することができます。また、配信者と直接交流することのできる会議に参加し、VTuber専用チャンネルへのアクセスパスを保有します。
ユーザーは「自分たちで作ったVTuber」という思いで応援することができますし、コミュニティがあることで配信者も安心して番組を作ることができるでしょう。
引用元:Twitter
VTuber活動に必要な様々な決定事項に関わることができるため、意欲的な組織となることが推測されます。
まとめ
新しいエンタメ産業として注目されているVTuber業界で、NFT導入の動きが見られることを解説しました。最後にこの記事をまとめます。
- VTuberはキズナアイが登場した2016年から急速な発展を遂げた
- プロダクションとタレントのピラミッド構造がVTuberの活動を制限しているという問題が発生している
- VTuberのファンはエンゲージメントが高く、VTuberに惹かれる理由として「人の素の部分」を挙げている
- VTuberは本来的に「ファンとタレントのフラットな構造」が適しており、NFTを活用してweb3組織でVTuberを育てるという機運が生まれている
- VTuberがNFTを活用することで、新しい収益構造が創出される可能性がある
- VTuberをNFTとトークンで設計する「Vhigh!」や、ChatGPTとNFTによってIP創出を目指す「いしとほし」プロジェクト、NFTホルダーで結成するDAOによってVTuberをプロデュースする「VTuberDAO」などのプロジェクトが立ち上がっている
VTuberは新しい文化であるだけに成長スピードも速く、NFTの導入によって大きな躍進を遂げる可能性があります。今後の動向が注目されます。