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ChatGPTで知られるOpenAI社が開発を進める「Worldcoin」プロジェクトとは?

解説系記事

引用:https://worldcoin.org/blog/announcements/introducing-world-app

2023年前半に、人間のように自然な会話ができるChatGPTが一気に普及しました。ChatGPTはOpenAI社が提供するAIサービスであり、将来的には事務や社内管理など多くのホワイトカラー業務がAIに代用されると予想されています。

OpenAI社のCEOであるサム・アルトマン氏は、AI以外にもさまざまなプロジェクトを進めており、その中の一つである「Worldcoin」が話題です。2023年7月下旬には本格始動の発表と共に、暗号資産(仮想通貨)のワールドコイン(WLD)もリリースされました。

本記事では、Worldcoinプロジェクトの概要と現状、将来性について詳しく解説していきます。

「Worldcoin」の概要

引用:https://worldcoin.org/world-id

Worldcoinは本格稼働が発表されたばかりであり、まだすべてが明らかになっていません。現時点で分かっている概要は以下の通りです。

  • 人類を労働から解放しベーシックインカム導入を目指す
  • 人間の虹彩をスキャンしてAIと識別
  • 個人の判別が容易になり利便性とセキュリティが向上

それぞれ詳しく解説していきます。

人類を労働から解放しベーシックインカム導入を目指す

現在存在する仕事の多くはAIに代替されると予想されています。仕事を失うことは収入を失うことを意味し「AIが自分の仕事を奪うかもしれない」と考えている人も少なくありません。

AIの脅威を感じる人も多い中で、OpenAI社CEOのサム・アルトマン氏は暗号資産ワールドコインをリリースし、本格的にベーシックインカムの導入を目指すことを発表しました。ベーシックインカムとは、すべての人に対して一定金額が付与される社会保障制度のことです。

ワールドコインは他の暗号資産と同様に自由に売買することができ、World IDを発行した人に対して定期的に付与される予定です。アルトマン氏は、ChatGPTというAIにより人類を労働から解放し、ワールドコインによるベーシックインカムを導入することを目標としています。

人間の虹彩をスキャンしWorld IDの発行を行う

World IDとは一人一人に発行されるアカウントのことです。発行するためには「オーブ(Orb)」と呼ばれる銀色の球体をしたハードウェアで自身の虹彩をスキャンし、本物の人間と認証される必要があります。

虹彩とは人間の瞳の中にある光を調整する部分のことで、瞳孔(黒目)の外側にあり、光を調整する機能を持ちます。虹彩の模様は指紋と同様に一人一人異なるため、偽装することができません。

虹彩は生体認証技術の一つとして実用化が進んでいます。生体認証技術には他にも「指紋認証」「静脈認証」「顔認証」がありますが、虹彩を用いた認証技術は他人受入率が低く、もっとも安全な方法として知られています。

World IDの目的は、虹彩を元にしてインターネット上で実際の人間としての証明を可能にすることです。

個人の判別が容易になり利便性とセキュリティが向上

虹彩認証のメリットは、精度が高いことだけではありません。

大きなメリットとして、パスワードを入力する必要がなくなることが挙げられます。通常、インターネットサービス利用時は、セキュリティの観点から複雑なパスワードの登録を求められることがありますが、自分自身の体の一部を持ってログインを行うWorld IDでは、その必要はありません。

また、人間であることを証明するためのログインテストであるCAPTCHAへ費やす時間が減少することも挙げられます。近年CAPTCHAは複雑化していて、毎日テストを解くために人類の200年〜500年もの時間が費やされているという試算もあります。ログインを急いでいるのに、CAPTCHAに妨害され不快な思いをしたことがある人も少なくないはずです。

AIが普及した世界では、不正な証明書を作成したり、膨大なアカウントを取得することも容易になるでしょう。虹彩認証が普及することで、複数アカウントや偽のIDを使用して大量のアクセスを送り妨害を行うSybil攻撃の防止にも期待できます。

「Worldcoin」プロジェクトの進捗

引用:https://worldcoin.org/world-app

ここでは、Worldcoinプロジェクトの進捗を紹介していきます。

  • 現在200万人が虹彩をスキャン済み
  • 「人間の目玉をカタログ化すべきでない」という批判的な意見も
  • 日本でも2023年7月末からスキャンを開始
  • Worldcoinはバイナンスやバイビットで購入可能

プロジェクトの開始時期は2021年の10月頃であり、ChatGPTが普及する前から進んでいました。そして2023年7月下旬に本格稼働が発表された後には、さまざまな動きが起こっています。

それぞれ詳しく見ていきましょう。

200万人が虹彩をスキャン済み

まだWorldcoinプロジェクトの認知度の低かった2023年5月時点で、世界30カ国以上で200万人の虹彩のスキャンが完了していました。これは、大々的なマーケティングが行われていない中での数字であり、Worldcoinプロジェクトへの期待感が伺えます。

すでにWorld Appというウォレットアプリがリリースされており、決済や送金に利用できるようになる予定です。現時点ではイーサリアムとビットコインのみの対応ですが、将来的にさまざまなアルトコインが採用されることを予定しています。

今後はWorld Appを通じてベーシックインカムの配布が行われるようになると考えられます。

「人間の目玉をカタログ化すべきでない」という批判的な意見も

生体認証と暗号資産、という組み合わせに拒絶感を感じた人も少なくありません。元アメリカ国家安全保障局(NSA)職員のエドワード・スノーデン氏は、サム・アルトマン氏のツイートに対して「目玉をカタログ化するべきでない」と引用リツイートを行い批判しました。

スノーデン氏の批判は、プライバシーを侵害する暗号資産を作るという試みに見えたことに起因します。現にアルトマン氏のツイートは、プロジェクト発足当初に行われたものであり、断片的な情報しか発表されていませんでした。

Worldcoinプロジェクトの全貌が説明されていれば、また違った意見が出ていたと考えられます。

日本でも2023年7月末からスキャンを開始

Worldcoinプロジェクトの本格始動が発表された直後の2023年7月24日、日本でもオーブを用いた虹彩スキャンの予約が始まりました。東京都内の数カ所で対応していましたが、すでに枠は埋まってしまい、現在は予約できなくなっています。

スキャンをした人には、暗号資産ワールドコインが25WLD(約8,000円)分配布されます。そして、今後はベーシックインカムとして定期的に配布される予定です。

スキャンを行い暗号資産ワールドコインを入手するためには、World Appをインストールしておく必要があります。興味のある方は、予約が再開した時に備えて準備しておくといいでしょう。

Worldcoinはバイナンスやバイビットで購入可能

暗号資産ワールドコインは2023年7月24日にリリースされ、バイナンスやバイビット、オーケーエックスなどの海外取引所で取り扱いが始まりました。リリース当初の「1WLD=1.86ドル(約260円)」から一気に「1WLD=3.13ドル(約438円)」まで上昇しましたが、その後急落し現在は「1WLD=2.31ドル(約323円)」ほどとなっています。

Worldcoinの総発行量は100億枚であり、そのうち80億枚は世界中で無償で配布される予定です。今後は日本以外の国でも虹彩のスキャンが予定されており、世界的に話題となり急騰する展開があるかもしれません。

「Worldcoin」プロジェクトの注意点

引用:https://worldcoin.org/privacy

スタートダッシュが成功したともいえるWorldcoinプロジェクトですが、以下の注意点も存在します。

  • セキュリティ面での懸念
  • AI時代を見据えた取り組みであり、本格化するのはまだ先になる可能性
  • 暗号資産ワールドコイン(WLD)の用途が不明

ChatGPTという名前や「労働からの解放」「ベーシックインカム」など聞こえがいい言葉を見るだけでなく、注意点を踏まえた上で自分の情報を提供すべきか、投資すべきかを判断するようにしましょう。

セキュリティ面での懸念

自身の虹彩に関する情報をOpenAI社が保有することによる、セキュリティ面での懸念が考えられます。虹彩認証は便利で精度の高い方法ですが、同時に情報が流出したときのリスクとも隣り合わせともいえます。

Worldcoinが本格始動した7月25日には、イーサリアム創設者の一人であるヴィタリック・ブテリン氏は、以下4つの懸念を表明しました。

  • プライバシー
  • アクセシビリティ
  • 中央集権化
  • セキュリティ

ブテリン氏は、誰かの虹彩をスキャンするとその人がWorld IDを保有しているかわかる可能性がある、オーブの安全性は十分に保たれているかが不明、スマートフォンのハッキングにより虹彩の盗難が起こることなどを指摘しています。

同時に現時点でこうした懸念点には完璧な解決策はないと述べながらも、取り組みを一方的に批判するわけではなく、生体認証の手段の発展を楽しみにしていることを付け加えています。

AI時代を見据えた取り組みであり、本格導入されるのはまだ先になる可能性

AIはすでにさまざまな場面で導入されている一方で、まだ人間の手を介する必要がある作業も多く存在します。虹彩をスキャンして個人を特定するという方法は、時代に先駆けた取り組みであり、一般的に利用できるようになるまで数年以上の時間がかかる可能性もあるでしょう。

近年は個人情報を分散化して管理する動きがありますが、Worldcoinプロジェクトは現時点で中央集権的な体制のように見えます。World ID発行による金銭的なリスクはないですが、本当に自身の情報を提供していいのかを見極める必要があります。

暗号資産ワールドコイン(WLD)の用途は不明

暗号資産ワールドコインは、ベーシックインカムとして支給されることだけが分かっている状況で、具体的な用途は不明です。現在「1WLD=2.31ドル(約323円)」ほどの価格ですが、これはChatGPTを提供するOpenAI社による期待感だけが先行して買われているという見方もできます。

将来的にどこまで買われるのか、どのタイミングで大きく売られるかはわかりません。また、アップデートが遅れる、システムに欠陥が見つかるなど、重大な不具合が発生する可能性もあります。暗号資産に投資する際は、価格が急落し最悪の場合は無価値になる可能性があることも理解しておかねばなりません。

まとめ

Worldcoinプロジェクトの本格始動が発表されてから、日本国内で虹彩のスキャンが始まり大きな注目を集めています。ChatGPTで認知度が向上したOpenAI社のプロジェクトであることの期待も相まって、暗号資産ワールドコインも買われています。

ただ、現時点でワールドコインの用途が不透明であることや、個人情報の管理体制が中央集権的であることは懸念点として残ります。虹彩認証は便利で安全性に優れた方法ですが、万が一流出した場合には、悪用されるリスクがあることも頭に入れておくようにしましょう。

S.G

SG

月間100万PV超えの投資情報サイトや、ニュースサイトなど、暗号資産に関する記事を数多く執筆するフリーランスのライター。自身も2016年から暗号資産投資を行なっており、日進月歩の進化を遂げる暗号資産業界を常に追ってきた。ライター歴は3年で「文章で読者をワクワクさせ、行動に移させる」をモットーに執筆を行う。東南アジア在住、海外留学の経験があり、英語の翻訳記事も得意にしている。
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