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SECとリップルの法廷闘争とは?暗号資産市場への影響や今後の動向を解説

解説系記事

現状の暗号資産市場は、有価証券のマーケットとは切り離されています。そのため、政府の規制が及ばず、自由な取引環境が実現しました。これにより新たな金融市場が誕生した一方で、詐欺や市況の暴落など投資家が被るリスクも増大しています。

各国の政府は、このような暗号資産マーケットの現状を問題視しています。特に積極的に規制に取り組んでいるのが、アメリカのSEC(証券取引委員会)です。なかでも、SECとリップル社の法廷闘争は、ブロックチェーン業界全体が注目しています。このSECの裁判で争点となっているのが、「暗号資産は有価証券に該当するか否か」です。

未だに各国の法令で明文化されていない問題であり、裁判の行方によってはWeb3業界が大きな転換点を迎えるかもしれません。そこでこの記事では、SECとリップル社の法廷闘争の影響や現状について紹介します。

SECとリップルの判決の争点・概要

SECとリップル社の裁判とは、WEB3業界で注目を集めている法廷闘争の一つです。なぜなら、この裁判の結果がさまざまな銘柄のトークンにも影響を及ぼすからです。ここでは、SECとリップル社の裁判とは何かを紹介します。

「1933年証券法」の違反容疑で、SECがリップル社を提訴

2020年12月23日、SECがリップル社と同社の幹部を相手取り、マンハッタンの連邦地裁へ訴状を提出しました。この訴状の中で、SECは「無登録のトークンを通じて、リップル社が13億ドル以上の資金を調達した」と主張しています。
SECが問題視した点は、以下の2つです。

  • リップル社は、2013年から暗号資産「XRP」をマーケットに上場し、アメリカおよび世界中の投資家から資金を調達している。
  • 投資家に対して、総額約6億ドルのXRPを直接的に販売した。

XRPの発行にあたって、リップル社は「有価証券」としての認可申請をしていません。この事実に対してSECは、「XRPには有価証券と同様の機能があるため、発行にあたって有価証券の認可または登録免除のプロセスを経る必要がある」と糾弾しました。このようなXRPの発行プロセスが、「1933年証券法」に抵触するか否かが争点となっています。

暗号資産は有価証券に該当するのか

今回の論争で最も重要な点は、「暗号資産(トークン)が有価証券に該当するか否か」です。

現状、トークン上場の可否は暗号資産取引所の審査によってのみ決定されます。このような仕組みで運用されている背景には、「暗号資産は有価証券には該当しない」とのWEB3業界関係者たちの認識が存在するからです。

とはいえ、暗号資産には有価証券としての側面があることも否めません。実際に、トークンの発行(ICO)によって運営資金を賄おうとしているプロジェクトもあるからです。加えて、有価証券と同様に、暗号資産を自由に売買できるマーケットも存在します。

現状の暗号資産は有価証券としての要素を持ちながらも上場の審査が緩いため、たびたびトークンの暴落や相場操縦が発生しています。また、政府機関による監視がないため、暗号資産取引所がインサイダー取引の温床にもなりかねません。このように現在の暗号資産マーケットでは、投資家はさまざまなリスクに晒されています。

アメリカにおける「有価証券に該当するか否か」の判断基準として、ハウェイテストという項目が存在します。トークンの証券性を判断する上でも、このハウェイテストに当てはまるか否かが重要です。なお、ハウェイテストに関する詳細は、以下の記事をご覧ください。

暗号資産におけるハウェイテストとは?主要なトークンの証券性について解説

もし、裁判によって「暗号資産が有価証券に該当する」と判断された場合、1933年証券法の手順に則り、SECへ証券の登録届出を申請しなければなりません。また、証券取引所での売買しか認められない事態となり、取引時間に制限が課せられます。判決次第では暗号資産マーケット全体に大きな影響をもたらすため、リップル社の裁判はWEB3業界から注目を集めていました。

SECとリップルの判決の結論

SECの訴えに対して、2023年7月13日に判決が言い渡されました。この司法判断でリップル社に対して有利な展開となったものの、一部ではSECの訴えが認められました。ここでは、裁判所の判決内容を紹介します。

なお、SEC側は控訴の手続きを進めている最中です。そのため上告審の行方によっては、判決が覆る可能性もあります。

取引所で売買されるトークンは有価証券にはあたらない

判決では、暗号資産取引所で不特定多数の投資家に向けて発行されたXRPは、「有価証券には該当しない」との判断が下されました。つまり、「XRPは1933年証券法には抵触しない」との見解が裁判所から示された形です。

ハウェイテストによる評価で重要となるのが、出資者と証券の発行人との間で直接的な取引が発生しているか否かです。この観点で判定した場合、「暗号資産取引所での売買ではリップル社と投資家の間で取引が発生していない」と見なされました。

暗号資産取引所では、トークン売買がプログラムにより自動で執行されます。つまりXRPの買い手は、誰からトークンを購入したのか把握できません。同様に、売主側も誰にXRPを売却したのかは分かりません。このような理由から、「リップル社と投資家の間には、投資契約が存在しない」と結論付けられました。

この司法判断はSECの訴えを退けるものであり、リップル社にとって有利な展開となりました。

特定の投資家向けに発行したトークンは有価証券に該当する

暗号資産取引所で売買されるXRPは「証券性が認められない」と判断されました。その一方で、リップル社が機関投資家向けに販売したトークンは「有価証券に該当する」との結論が下されています。

リップル社は、機関投資家に対して直接的にXRPを販売していました。この売買で得られた資金は、XRPのエコシステム拡張を支えてきました。もしエコシステム全体の価値が高まった場合には、機関投資家の保有するXRPも資産価値が上昇します。

ハウェイテストでは以下の4項目を総合的に考慮し、「有価証券に該当するか否か」の判定が行われます。

  • 資金を集める目的であるか否か
  • 共同事業からの収益であるか否か
  • 利益を期待して行われるか否か
  • 発起人や第三者の努力に依存しているか否か

これらの基準に沿って裁判所が判定した結果、「機関投資家は見返りを求めてXRPを購入した」と結論付けられました。このことから、1933年証券法の第5条「無登録の投資契約の募集及び販売」に抵触すると言い渡されています。

このように、暗号資産取引所を介さないトークン取引では、SECの主張が認められた結果となりました。

トークンの証券性が問題となっている事案

リップル社とSECによる法廷闘争の影響は、XRPトークンだけに留まりません。もし、「暗号資産が有価証券に該当する」との判決が下された場合、ほぼすべての暗号資産銘柄が方針転換を迫られるからです。実際にSECは、リップル社の他にもWEB3企業に対して訴訟を起こしています。リップル社とSECの係争は、これらの裁判の行方を左右すると考えられます。ここでは、SECが抱える他の事案について紹介しましょう。

Binance

2023年6月5日にSECは、大手の暗号資産取引所「Binance」とその創業者であるChangpeng Zhao氏を1933年証券法違反の疑いで提訴しました。SECは、13の項目でBinanceが法律に抵触していると主張しています。代表的な提訴内容は、次の通りです。

  • 無許可のトークンを提供した疑い
  • 顧客資産が適正に管理されていない疑い
  • 取引ボリュームを意図的に水増ししている疑い
  • 無許可のレンディングサービスを提供した疑い

SECは、特に無許可で取引所サービスをアメリカ人向けに提供した点について、問題視しています。

Coinbase

Binanceを提訴した翌日に、SECは暗号資産取引所「Coinbase」も提訴に踏み切っています。

SECが特に問題視したのは、Coinbaseのステーキングサービスです。このステーキングサービスが公的機関の許可を得ず提供されたため、「有価証券の規制に抵触している」と見なされました。

2021年に、Coinbaseの株式上場がSECによって認められました。しかしSECは、「事業におけるすべての正当性を認めたわけではない」とのスタンスを貫いています。「Coinbaseは過去から1933年証券法に抵触するリスクを認識していた」と主張し、法廷で追及するとのことです。

アルトコイン

SECがやり玉に挙げたのは、暗号資産取引所だけではありません。BinanceやCoinbaseを追及する訴状の中で、アルトコインの存在も問題視されていました。

SECが言及したアルトコインのなかで、代表的な銘柄は次の通りです。

  • ソラナ(SOL)
  • カルダノ(ADA)
  • ポリゴン(MATIC)
  • サンドボックス(SAND)

これらの銘柄は、無許可で発行された有価証券だと指摘されています。SECから直々に提訴されたわけではないものの、BinanceやCoinbaseの裁判次第では影響を受ける可能性があります。

SECとリップル社における法廷闘争のまとめ

本記事では、SECとリップル社の法廷闘争について解説しました。最後に、2023年7月13日に下された判決の要点をまとめます。

  • 暗号資産取引所で売買されたXRPは、有価証券に該当しない
  • リップル社が機関投資家へ直接販売したトークンは、有価証券に該当する

リップル社にとって有利な判決が示されたものの、まだ裁判は確定していません。SECは控訴の姿勢を示しており、今後の展開が注目されます。またSECは、他の暗号資産取引所に対しても訴訟を行いました。これらの裁判は、暗号資産マーケットの行方に大きな影響を及ぼすため、今後の動向に注目しましょう。

段巴亜

dan

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