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戦争や金融危機とビットコインの関係

解説系記事

特定の国家や銀行に依存しない特徴を持つビットコインは、戦争や金融危機の際に話題になることがあります。過去の有事の際には、ビットコインの価格に大きな変動が見られたことも少なくありませんでした。

本記事では戦争や金融危機があった際、ビットコインに何が起こったか、暗号資産市場全体にどのような影響を与えたかを解説していきます。

戦争や金融危機とビットコインの関係性

ビットコインは「デジタルゴールド」とも呼ばれ、リスクヘッジ資産としての側面があります。「有事の金」という言葉があるようにリスクヘッジ資産としては金(ゴールド)が有名ですが、ビットコインとの間にはいくつか共通点があります。

具体的な共通点は以下の通りです。

  • 経済的な価値を持つ
  • 国が発行する法定通貨ではない
  • 偽造ができない
  • 採掘コストが高い
  • 全体の供給量が決まっている

ビットコインには上記の点に加えて「迅速に送金できる」「決済手段として普及している」などの特徴があります。戦争や金融危機によって自国の通貨に対して不信感が生じた際に、逃避先としてビットコインが買われるのは自然な流れといえるでしょう。

次の見出しでは、戦争や金融危機がなぜビットコインに影響を与えるか、さらに詳しく解説していきます。

戦争や金融危機がビットコインに影響を与える3つの理由

戦争や金融危機がビットコインに影響を与える理由として、以下の3つが考えられます。

  • 法定通貨の価値が大きく変動する
  • インフレの懸念
  • マネーロンダリングの要素

それぞれ詳しく見ていきましょう。

法定通貨の価値が大きく変動する

戦争を理由に国の経済活動に影響が出た際や景況の悪化、国債の利払いの停止や返還できない(デフォルト)など、国の信頼が損なわれ法定通貨の価値が下落した際には、ビットコインが買われ上昇する傾向があります。

保有している法定通貨の価値が下落することが分かった場合に、多くの人が「他の資産に両替して価値を保存したい」と考えるのは自然な流れです。その両替先として、法定通貨と切り離された存在であるビットコインや金など、リスクを回避できる資産が選ばれることがあります。

ビットコインや金を求める需要が大きくなると、必然的に価格も上昇します。近年は市場が複雑化し、戦争や金融危機が発生した際に必ずしもビットコイン価格は上昇しなくなってきていますが、一般的に法定通貨が別の対象へ両替されやすい傾向があることは頭に入れておくといいでしょう。

インフレの懸念

戦争が勃発するとガソリンやガスなどの供給に影響が出て、世界的にインフレ(ものの価格が上昇し続ける状態)することがあります。そして、インフレがビットコイン価格に影響を及ぼすことも少なくありません。

例えば、インフレが続き100円で買えていたものが200円になってしまうと、2倍以上のお金を支払わないと入手できなくなり、1円あたりの価値が下落します。法定通貨を持っていても価値が下がってしまうため、ビットコインや金などの資産に両替されます。

また戦争以外でも市場に回るお金のバランスが崩壊し、インフレが発生したことがあります。過去にジンバブエ政府がお金を擦りすぎて年間で数千万%を超えるインフレが発生した際には、ジンバブエ国内のビットコインの売買金額が市場価格と大幅にずれる事態が起こりました。

世界的に物価が高騰している2023年に、ビットコイン価格が上昇しています。インフレはビットコイン価格にさまざまな影響を与えていると考えられます。

マネーロンダリングの要素

テロリストへの資金協力の懸念による金融機関のスクリーニングや、経済制裁により海外送金ができなくなるなど、戦争が勃発するとお金の動きが大きく制限されます。そうした際に、マネーロンダリング(資金洗浄)の手段としてビットコインが用いられることがあります。

ビットコインの送金は、規則性のない英数字が羅列されたアドレスを元に行われます。アドレスだけを見ると匿名性が高いようにも思えますが、IPアドレスやモバイル端末の位置情報、取引履歴などから、ある程度個人に関する情報を割り出せるとされています。

しかし、取引情報を匿名化するミキシングサービスや、ダッシュとジーキャッシュなど、アドレスが追跡されづらい暗号資産も存在しており、近年のマネーロンダリングの手口は巧妙化しています。

マネーロンダリングという負の要素により、短期的にはビットコインの価格上昇につながるケースもあるかもしれません。しかし、暗号資産業界全体のイメージが悪化するため、長期的にはマイナスの影響を与えると考えられます。

過去に戦争や金融危機が発生した際のビットコインの値動き

ここでは、過去に戦争や金融危機が発生した際のビットコインの値動きについて紹介していきます。具体的には以下の通りです。

2013年3月:キプロス危機
2015年8月:チャイナショック
2016年6月:英国のEU離脱(ブレクジット)
2018年10月:世界同時株安
2020年3月:新型コロナのパンデミック
2021年8月:アフガニスタン通貨危機
2022年2月:ロシアのウクライナ侵攻
2023年10月:イスラエル・ガザ戦争

それぞれ詳しく解説していきます。

2013年3月:キプロス危機

キプロス危機とは、2013年3月にヨーロッパのキプロス共和国で起こった金融危機のことです。2008年に誕生し2011年頃から取引され始めたビットコインが、リスクヘッジ資産として初めて注目されたともいえる出来事です。

キプロス危機は、ギリシャ国債がデフォルトしたことに起因します。当時キプロス国内の多くの銀行はギリシャの国債を保有していましたが、不良債権化したことで業績が悪化しました。

金融危機に陥ったキプロスをEUは支援したものの、同時に銀行預金への課税を求め、引き出しの制限や海外送金規制も行いました。この出来事を機に法定通貨への信頼が落ちた代わりに、政府や国から規制の受けないビットコインに資金が流れ、2013年3月から5月までの間では「1BTC=約5,500円→約1万2,000円」まで上昇しています。

当時はビットコインの認知度は低かったものの、キプロス危機を機に新たなリスクヘッジ資産として、投資家を中心に注目されるようになりました。

2015年8月:チャイナショック

チャイナショックとは、2015年8月に中国の中央銀行が、米ドルに対して人民元の基準値を大幅に切り下げたことを発端とする出来事です。人民元が大幅安になったことで世界同時株安が発生し、NYダウは1日で1,000ドルを超える下落を記録した一方で、ビットコインは2015年末にかけて倍近い価格に上昇しました。

チャイナショックは中国の政策や米国の利上げにより沈静化し、ビットコインが再び注目を浴びる機会となりました。この時点でもまだビットコインを知る人は少なかったですが、日本国内でも暗号資産取引所の設立が進み、少しずつ普及をし始めます。

2016年6月:英国のEU離脱(ブレクジット)

英国のEU離脱(ブレクジット)とは、主に移民の問題を原因として、英国がEUからの離脱を宣言した問題のことです。2016年6月に英国国民による投票が行われ、当初はEUへの残留で落ち着くと考えられていましたが、世論調査で賛成派が多いことが報告される度に、英ポンドを中心に大きな値動きがありました。

結果的に英国のEU離脱は決定しましたが、法定通貨の大幅な変動があったことで信用不安が発生しビットコインが買われました。2016年6月から年末にかけて「1BTC=約6万円→8万円」まで上昇しています。

2018年10月:世界同時株安

2018年10月の世界同時株安とは、NYダウを中心として世界中の株価が暴落した出来事のことです。理由としては、米国の金利上昇や相場の過熱感が原因として考えられています。

当時ビットコインはリスクヘッジ資産と多くの人が認識しており、世界同時株安のような大きな変動があった際には上昇するという相関関係が見込まれていました。しかし、2018年10月の世界同時株安時には、ビットコインは株価と同様に下落する動きを見せるようになります。

2018年は暗号資産バブルが弾け、ビットコイン含む多くの暗号資産が停滞した時期でもありました。暗号資産の認知度は上がったものの、市場は複雑化し予想しづらい値動きをするようになります。

2020年3月:新型コロナのパンデミック

2020年3月に新型コロナが世界的に流行したことで、過去数十年間でも類を見ない世界的な株安が発生しました。3月中旬には日経平均は連日1,000円を超える下げ幅を記録しています。

ビットコインも株につられるように、3月上旬から中旬にかけて「1BTC=96万円→60万円」の30%を超える下落を記録しました。その後は政府の介入により多くの金融資産はV字回復を果たし、ビットコインも2020年5月には「1BTC=100万円」まで上昇しています。

2021年8月:アフガニスタン通貨危機

アフガニスタン通貨危機とは、2021年8月にアフガニスタンの自国通貨が暴落した出来事のことです。

アフガニスタンは2020年2月まで米国が支配しており、当時はアフガニと呼ばれる通貨と米ドルが流通していました。しかし、米国が撤退しタリバンが支配した後は米ドルの供給が途絶え、さらには政情不安などからアフガニも暴落しました。結果的に逃避先としてビットコインが買われ、Googleトレンドでも過去最高レベルまで関心度合いが上昇しています。

アフガニスタン通貨危機が発生した2021年8月に、ビットコイン価格は大きな上昇を記録しています。しかし、この上昇は先物ETF承認やNFT、DeFi人気が後押ししたと考えられており、アフガニスタン通貨危機との関連は低いという見立てが強いです。

2022年2月:ロシアのウクライナ侵攻

ロシアのウクライナ侵攻とは、かつてのソ連の構成国であったウクライナの方針に、ロシアが反発したことが原因で発生した紛争です。2023年11月現在も続いており、原油や食物の高騰など、全世界にさまざまな影響を及ぼしています。

ロシアのウクライナ侵攻勃発により、2022年2月下旬には両国の通貨が暴落しました。3月始めにはロシアのルーブルとウクライナのフリブナ建てのビットコイン取引高は、3倍前後にまで上昇しています。

しかしビットコインの価格には、まったくといっていいほど影響を与えませんでした。2月下旬から3月上旬の間はほぼ横ばいです。すでに、暗号資産市場には多くの資金が流入しており、戦争が価格に与える影響は小さくなっていることがわかります。

2023年10月:イスラエル・ガザ戦争

イスラエル・ガザ戦争とは、パレスチナを実効支配するハマスが、2023年10月にイスラエルを攻撃したことで勃発した戦争です。両国の衝突によりすでに1万人近い死者が出ており、2023年11月現在も解決に向けた話し合いは進んでおらず、緊張状態が高まっている状況です。

2023年10月中旬以降のビットコイン価格は上昇していますが、理由はETF承認が前進したことにあると考えられています。戦争による影響は軽微であり、イスラエルを支援する米国はハマス関連資産の追跡、凍結、押収を進めていることを公言しています。

まとめ

ビットコインが誕生して数年間は、ゴールドと並ぶリスクヘッジ資産として考えられてきました。戦争や金融危機が発生した際にはビットコインが買われ、数十%を超える上昇を記録したことも少なくありません。

しかし、ここ数年で市場に多くのお金が流入したことで市場が複雑化し、戦争や金融危機との相関関係はなくなりつつあります。そのため、投資家はより緻密な分析と戦略を求められるようになってきていると考えられるでしょう。

S.G

SG

月間100万PV超えの投資情報サイトや、ニュースサイトなど、暗号資産に関する記事を数多く執筆するフリーランスのライター。自身も2016年から暗号資産投資を行なっており、日進月歩の進化を遂げる暗号資産業界を常に追ってきた。ライター歴は3年で「文章で読者をワクワクさせ、行動に移させる」をモットーに執筆を行う。東南アジア在住、海外留学の経験があり、英語の翻訳記事も得意にしている。
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