2024年1月10日、SEC(米国証券取引委員会)がビットコイン現物ETFの上場を承認しました。このことは暗号資産(仮想通貨)市場にとって大きな進歩であるといわれており、今後さらなる資金の流入が期待できます。
ビットコインETFの上場は、暗号資産に限らずさまざまなメディアで大々的に報道されました。しかし、なぜビットコインETFの承認が大きな意味をもつか、明確に理解できていない人も多いのではないでしょうか。
本記事では、ビットコインETFの概要と承認された経緯、市場にとって重要である理由をまとめました。ぜひ記事を通じてビットコインETFについての理解を深め、ご自身の暗号資産取引に役立ててみてください。
この記事の構成
ビットコインETFの上場とは
2024年1月10日、SECによってビットコインETFの上場が承認されました。この承認により、今後はニューヨークやNASDAQなどの証券取引所で、ビットコインETFを通じてビットコインに投資できるようになります。
承認の前までは、ビットコインの現物へ投資するためには、主に暗号資産取引所の口座が必要でした。口座開設手続きや送金などの煩わしさがありましたが、証券取引所に上場したことで、証券会社を通じての投資が可能となります。
ETFが上場する際は、SECによって審査される必要があります。SECとは「米国証券取引委員会」であり、米国の金融取引の透明性や公正性、投資家保護を目的とする機関です。SECによるETF上場の審査では、投資家が不利益を被らないために厳しい基準を設けています。
ビットコインETFの承認は、ビットコインが一定の基準を満たした金融商品として受け入れられたことを意味します。2014年頃から何度も申請が行われていましたが、この度ようやく実現しました。ビットコインETFを求める投資家からの資金が流入することで、さらなる発展が期待されています。
ビットコイン先物ETFとビットコイン現物ETFの違い
ビットコインETFには「先物ETF」「現物ETF」の2種類があります。今回承認されたのは現物ETFであり、先物ETFは2021年10月にすでにCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)で上場済みです。
先物ETFも、現物ETFと同様にSECによって上場の審査が行われました。ビットコイン先物ETFが承認された際、SECは「NYSE アーカなどの証券取引所が、CMEビットコイン先物市場と監視協定を結んでいる」ことを根拠として許可したと説明しています。
先物ETFは、投資対象となるビットコイン先物の価格が毎月末に失効して、新しい契約に置き換わる仕組みです。先物とは将来の取引を行うための契約で期日が決められており、毎月の買い替えが発生します。
しかし、買い替え時にはコストが高くなりがちです。なぜなら先物市場では、期日が近い契約が期日が先の契約よりも、低い価格で取引される現象(コンタンゴ)がよくあるためです。また、ビットコインは将来的に値上がりすると予想されていることも、価格が乖離する一つの原因となります。
上記の理由によってコストが増加し、ETFのパフォーマンスに大きな影響を与えることが、以前より指摘されてきました。
一方で現物ETFでは、こうした現象は発生しません。なぜならビットコインの現物価格には、先物のように期日が存在しないためです。
取引コストを削減できる現物ETFによって、今後は個人投資家の資金を集めやすくなると考えられます。上場発表後はすでにETFの手数料引き下げ合戦も始まり、取引が活発になっているようです。
なぜビットコインETFは今まで拒否され続けてきたのか
SECがビットコインETFの承認を拒否してきた理由には、主に以下3つがあります。
- 不透明性
- 市場規模の小ささ
- 価格操作のリスク
不透明性とは、ビットコイン取引の匿名性が高い点を指します。ビットコインは匿名のアドレスを利用するため名前と口座が紐づいておらず、誰がいくら持っているかわかりません。こうした仕組みを悪用し、犯罪での送金やマネーロンダリングにも使われる恐れがあります。
また、他の金融商品と比較して、時価総額が低く市場規模が小さいことも挙げられます。時価総額は全世界の株式で約1京5,000兆円、ゴールドで約2,000兆円であることに対し、ビットコインは2021年9月にようやく約100兆円を超えた程度です。他と比較するとまだ小さな市場であり、投資家も多くありませんでした。
さらに時価総額が小さいことで、価格操作もされやすくなります。一般的に時価総額が低いほど、価格を不当につり上げる・下げることが容易です。不当な価格操作が投資家の心理を煽り、不利益を被るケースも出てきます。
上記の理由により、SECは暗号資産黎明期から約10年にわたり、ビットコインETFの承認を拒否してきました。今回の承認は、古くからの投資家にとって待ち望まれていた出来事であり、暗号資産が従来の金融市場へ統合されるための第一歩といえます。
ビットコインETFとアルトコイン訴訟の関係
ビットコインETFを審査するSECは、61種類のアルトコインを(有価)証券であるのにも関わらず無断で販売したとして、バイナンスやコインベースに対して訴訟を行っています。
証券と指摘されているアルトコインは、具体的には以下の通りです。
- ソラナ
- カルダノ
- ポリゴン
- コスモス
- ダッシュ
この中には、ビットコインとイーサリアムは含まれません。
SECが証券かどうかを判別する際には「ハウェイテスト」と呼ばれる基準を設けています。具体的な基準は以下の4つです。
- 投資家が資金を提供する
- 投資先からの利益が期待できる
- 投資先が共同事業である
- 投資家が事業の運営に関与せず利益を得られる
これらすべての条件が合致する場合は、証券と認定される可能性が高くなります。ただし、必ずしもハウェイテストの結果だけがすべてを左右するわけではなく、他にも基準があります。
今後アルトコインETFが上場する可能性がありますが、まずは訴訟問題の解決が先決です。訴訟問題が解決しない限りは、アルトコインETFは承認されない可能性が高いと考えられます。
ビットコインETFが重要な理由
ビットコインが、暗号資産市場にとって重要な理由は以下の通りです。
SECの審査に通過したことがステータスとなる
ビットコインへの投資がしやすくなる
アルトコインへ資金が入りやすくなる
上記3つの理由を、詳しく解説していきます。
SECの審査に通過したことがステータスとなる
SECは投資家が不利益を被ることを防ぐために、ETFの上場に厳しい基準を設けています。そうした審査を通過して、ビットコインが金融商品として認められたことで、一種のステータスを得たといえるでしょう。
SECの審査を通過したETFは規制当局によって適切に監督され、市場での取引がより透明かつ安全に行われます。また、ビットコインETFの上場により、従来の金融機関や機関投資家が暗号資産市場に参入しやすくなり、市場の拡大を促進する効果も期待できます。
ビットコインへの投資がしやすくなる
ビットコインETFが上場したことで、暗号資産取引所に口座を開設しなくても、ビットコインへ投資ができるようになりました。証券取引所を通じて購入できることで資金が流入し、ビットコイン価格への良い影響を与える可能性があります。
現在では多くの投資家によって取引されている、金やプラチナ、原油などのETFも、すべてSECによる審査を経て上場してきました。例えば、1816年にイギリスで取引がスタートし、1974年に先物取引が開始された金のETFが承認されたのは、2004年のことです。
金のETFが上場した後に取引高は大幅に増加し、約20年の間で価格は4倍以上になっています。金とビットコイン、時代背景が違うため同じ道を歩むとは断定できませんが、今まで以上の投資が集まることも十分に期待できるでしょう。
アルトコインへ資金が入りやすくなる
ビットコインETFが承認されたことで、ビットコインだけでなくアルトコインへの資金流入もしやすくなる可能性があります。
一般的に暗号資産市場ではビットコインがもっとも流動性が高く、投資家からの信頼が厚いです。しかし、取引処理に時間がかかり手数料が高騰するといった問題も抱えています。そのため一部の新しい投資家によって、ビットコインよりも価格が低く、高速な取引処理で低い手数料を実現した、成長の余地があるアルトコインへの関心が高まることも考えられるでしょう。
ビットコインETF承認前の値動き
ビットコインETF上場の噂が上がり始めたのは2023年9月頃からで、きっかけはグレースケール社がSECに対して起こした訴訟です。この訴訟で、同社はSECを相手取って「ビットコイン先物ETFを承認している一方で、現物を直接保有するETFは却下し続けている。これは恣意的であり投資家に損害を与えている」と主張しました。
この主張は米連邦高裁に認められ、SECはビットコインETFを承認せざるを得ない状況となりました。この訴訟を皮切りに、ビットコインETFに関する報道が各所で飛び交うようになります。
その後の特徴的な出来事として、10月18日に大手暗号資産メディアのコインテレグラフが「ビットコインETFが承認された」という誤報をツイートしたことが挙げられます。この一件でビットコイン価格は約2,000ドルほど高騰しましたが、後に誤報であったことを公式ページで謝罪しました。
11月以降はさらにビットコインETFに関連する報道が増え始め、期待感から価格は右肩上がりで上昇していきます。そして、2023年末には1月上旬に上場が承認されるという確定的な報道があり、2024年1月10日の正式発表を迎えました。
ビットコインETF承認後の値動き
2024年1月10日に発表された後、一時期は直近の高値を更新するといった強気な動きを見せるもすぐに切り返し、その後約10日間で20%以上下落しました。
この下落の理由としては「事実売り」という見方が強いです。2023年9月からさまざまなメディアが報道していたように、多くの投資家によってビットコインETFの承認は確定的なものと考えられてきました。つまり、市場では織り込み済みであったということです。
そして、承認が確定した時を狙った投資家が大量の決済注文を行い、ビットコインは大きく値を下げたと考えられます。「噂で買って事実で売る」という相場の格言が、まさに具現化された形です。
ビットコインは一時期売りムードが高まり、一時期3万8,000ドル代まで下落しました。その後は値を戻して、2024年2月7日現在は4万3,000ドル付近を推移しています。
イーサリアムETFについて
ビットコインETFが承認された直後から、イーサリアムETFに関する報道が行われるようになりました。イーサリアムは時価総額第2位の暗号資産であり、SECが証券と指摘しているリストにも含まれていないことから、次の承認が期待されています。
すでにブラックロック社やフィデリティ社などの資産運用会社からの申請が行われていますが、SECは「審査には十分な時間が必要」と述べ、延期を表明しています。
JPモルガンのアナリストが「2024年5月までに、SECがイーサリアム現物ETFを承認する確率は50%以下」というレポートを発表しているように、まだ長い時間がかかると考えられます。
ビットコインETFの今後
ビットコインETFの承認は、暗号資産市場にとっては明るいニュースですが、今後短期的な上昇につながるケースは期待しづらいでしょう。なぜなら、ビットコインETFの上場はすでに確定した事実であり、一区切りを迎えたためです。
いつどのタイミングで多額の資金が流入するか現時点では不明であり、長期的な視点が求められます。今後はビットコインETFの上場による市場の変化を見極め、年単位での成長に期待することが重要です。
まとめ
2024年1月10日にビットコインETFが承認され、一定のステータスを得たとともに、さまざまな人が気軽にビットコイン投資へアクセスできるようになりました。今後は「取引所に口座を作るほどではないが、ビットコインに興味があり期待している」という人も、証券会社を通じて投資できるようになります。
しかし、一メディアの誤報で大きな値動きがあったように、暗号資産市場が小規模で未熟な部分があることも忘れてはなりません。ビットコインETFは、このような市場の特性を理解し、長期的な目線での投資が重要となるでしょう。