ここ最近の暗号資産(仮想通貨)業界では、DePIN(分散型物理インフラネットワーク)というワードがトレンドになりつつあります。DePINとは、世界中のユーザーが分散的に構築・維持をするインフラネットワークを指す言葉です。
この記事では、そもそもDePINとは?といった概要や、その特徴・仕組みについて詳しく解説していきます。また、注目を集めるDePIN関連のプロジェクトもいくつかご紹介していくので、DePINへの理解を深めていきたい方はぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
DePIN(分散型物理インフラネットワーク)とは?
DePINとは、「Decentralized Physical Infrastructure Network」の略語であり、現在の暗号資産業界で注目されている分野です。日本語では「分散型物理インフラネットワーク」と訳され、個人・企業を含む世界中のユーザーが分散的に作り上げるインフラネットワークを意味します。
通常、インフラネットワークを作り上げる場合、特定の企業や団体などが中央集権的に構築することが一般的です。例えば、世界中で利用されている地図アプリのGoogleマップは、Google社によって構築・運営されています。
一方、DePINでは特定の運営者のみがインフラを構築するのではなく、世界中のユーザーが協力・分担してインフラを作り上げていきます。また、ユーザーはパーミッションレス(誰からの許可も必要とせず)に、インフラ構築を行うコミュニティに参加できる点もDePINの特徴だといえるでしょう。
DePINという名称の誕生経緯
画像引用:分散型物理インフラストラクチャ ネットワーク (DePIN) とは何ですか?
現在、DePINという名称が一般的に使われていますが、これは暗号資産リサーチ会社Messari(メッサーリ)が2022年11月に実施した、Twitterアンケートの結果によって定着したとされています。
Web3 physical infrastructure needs a name!
Often referred to as Proof of Physical Work (PoPw), Token Incentivized Physical Networks (TIPIN), EdgeFi, or Decentralized Physical Infrastructure Networks (DePIN), crypto has yet to reach a consensus.
Vote below, or add a suggestion⬇️
— Messari (@MessariCrypto) November 5, 2022
過去には、「MachineFi」や「PoPW(Proof of Physical Work)」「TIPIN(Token Incentivized Physical Networks)」などの名称が使われていた時期もあるようですが、現在は「DePIN」の名称で業界のコンセンサスが得られているといえるでしょう。
2022年11月に共通の名称が決まったことからわかるように、DePINはまだ歴史の浅い分野であることは間違いありません。
DePIN(分散型物理インフラネットワーク)の特徴・仕組み
ここでは、DePINの特徴や仕組みについて、より詳しくご紹介していきます。以下の項目に沿って、それぞれ確認していきましょう。
- 暗号資産でユーザーに報酬を配布
- インフラの構築・維持コストを大幅に削減
- すでに数多くのDePIN関連プロジェクトが誕生
暗号資産でユーザーに報酬を配布
DePINの大きな特徴・仕組みとして、暗号資産でユーザーに報酬を配布することが挙げられるでしょう。
各プロジェクトに参加するユーザーは、インフラネットワークの構築・維持に貢献した見返りとして、暗号資産を獲得できます。プロジェクトによって報酬配布の仕組みは異なりますが、一般的にインフラ構築に大きな貢献をしたユーザーには、より多くの報酬が配布される形となります。
つまり、「インフラネットワークの構築・維持に貢献すると暗号資産がもらえる」というインセンティブを設定することで、ユーザーが自主的にプロジェクトに参加する仕組みを導入しています。
インフラの構築・維持コストを大幅に削減
DePINは、インフラの構築・維持にかかるコストを大幅に削減できる特徴も持っています。前述の通り、DePINは暗号資産をインセンティブとすることで、世界中のユーザーがインフラ構築に参加する仕組みとなっています。
そのため、従来のように特定の運営企業がインフラ構築のために膨大なコストを投入する必要がありません。プロジェクトに参加するユーザーが作業を分担してくれるため、低コストでインフラを作り上げることが可能です。
この仕組みにより、多くのコストが必要なインフラ分野への参入障壁を大きく下げ、数多くの企業・団体の参入を促すと考えられます。多くの資金を背景にしてインフラ構築を担っている大企業の寡占・独占を改善できる可能性があるでしょう。
大企業による寡占・独占の改善は、適切な市場競争を促進する効果もあると考えられます。市場競争が働くことで、サービスの内容が改善されたり、価格競争が起きたりするなど、ユーザーにとってより使いやすいインフラネットワークが作り上げられるといえるでしょう。
すでに数多くのDePIN関連プロジェクトが誕生
そんなDePINですが、すでに数多くの関連プロジェクトが誕生しています。下記の画像は、暗号資産リサーチ会社のMessariが公式Twitterにて投稿した、DePIN関連プロジェクトを分類したセクターマップです。
画像引用:Messari公式Twitter
2023年7月時点で、MessariはDePIN関連プロジェクトを大きく以下の7種類に分類しており、多様なプロジェクトが開発されていることがわかります。
- Wireless Network(ワイヤレスネットワーク)
- Geospatial Network(地理空間ネットワーク)
- Mobility Network(自動車ネットワーク)
- Energy Network(エネルギーネットワーク)
- Storage Network(データ保管ネットワーク)
- Compute Network(計算ネットワーク)
- Bandwidth Network(帯域幅ネットワーク)
また、暗号資産価格追跡サイトであるCoinGecko(コインゲッコー)では、60種類以上ものDePIN関連プロジェクトのトークンを確認できます。DePINへの注目がさらに高まることで、今後も新しいプロジェクトが登場してくると考えられるでしょう。
DePIN関連の主要プロジェクト
様々なDePIN関連プロジェクトが登場していますが、その中でも注目を集めるものとして、以下などが挙げられます。それぞれ順番にご紹介していきます。
- Filecoin(ファイルコイン)
- Helium(ヘリウム)
- Hivemapper(ハイブマッパー)
Filecoin(ファイルコイン)
画像引用:Filecoin公式サイト
Filecoin(ファイルコイン)は、分散型ストレージネットワークの構築を目的としているDePINプロジェクトです。ユーザーは、Filecoinのネットワークにストレージを提供し、プロジェクトに貢献することで、独自トークンのFILを報酬として獲得できます。
2017年にICO(Initial Coin Offering)を実施し、2020年にメインネットをリリースするなど、比較的歴史の長いプロジェクトとして知られています。しかし、2023年5月17日には米SEC(証券取引委員会)によってFILが有価証券と判断されるなど、様々な側面で注目を集めている状況です。
関連記事:ファイルコイン (FIL)は有価証券?暗号資産の新たな局面を解説
Helium(ヘリウム)
画像引用:Helium公式サイト
Helium(ヘリウム)は、分散型のワイヤレスネットワークを構築しているDePIN関連プロジェクトです。コミュニティに参加するユーザーは、自宅や事務所などでWiFiホットスポットを運用し、インターネットに接続できるエリアカバレッジを広げることで、Heliumのトークンを報酬として獲得できます。
大手VC(ベンチャーキャピタル)のa16zから出資を受けていることや、アメリカ大手通信会社のT-Mobileと提携したサービス展開を発表するなど、大きな注目を集めるプロジェクトとなっています。
Hivemapper(ハイブマッパー)
画像引用:Hivemapper公式サイト
Hivemapper(ハイブマッパー)は、分散型の世界地図の構築を目指しているマッピングプロジェクトです。ユーザーは自家用車などに専用のカメラを設置し、路面の画像を取得してマップ作りに貢献すると、報酬としてHONEYトークンを入手できます。
SNS上などでは「Web3.0版のGoogleマップ」とも呼ばれており、リリースから約1年で全世界の10%分ものマップ作成に成功しています。日本でもHivemapperによるマップ作成が進行しており、例えば千葉県についてはすでに99%ものエリアの地図作成が完了しているようです。
DePIN(分散型物理インフラネットワーク)の特徴や仕組みまとめ
今回の記事では、DePIN(分散型物理インフラネットワーク)の概要や仕組み、主要プロジェクトなどについて解説してきました。
ご紹介した通り、DePINとは「Decentralized Physical Infrastructure Network」の略語であり、世界中のユーザーが分散的に構築・維持するインフラネットワークを指す言葉です。現在の暗号資産業界で注目されている分野となっており、今後さらに発展していくことが予想されています。
しかし、まだ新しい分野であり、本当に分散的にインフラネットワークを構築できるのか、わからない部分も多い状況です。また、ブロックチェーンを活用してインフラを構築するため、ハッキングなどによる被害が発生する可能性も否定できません。
今後、DePINがインフラ業界にどのような影響を与えていくのか、注目していく必要があるでしょう。