2016年にブロックチェーン技術が主流となり、翌年にはビットコインが当時の最高値である2万ドルを記録すると、起業家やビジョナリーたちは、暗号資産の巨匠であるサトシ・ナカモトの分散化のビジョンをできるだけ多くの実世界のアプリケーションに活用しようと躍起になりました。
そして、イノベーションのリストは、一見無限のようです。IBMはブロックチェーンに全面的に取り組み、企業向けのブロックチェーンベースのアプリケーションの開発を加速させるプログラムを開始。サクラメント・キングスは、イーサリアムをマイニングした最初のNBAチームとなりました。ウォルマートでさえ、サプライチェーンに透明性をもたらし、食中毒の発生を減らすためにブロックチェーンセンターを採用することに関心を示したほど。明らかに、世界中の人々がブロックチェーンのアプリケーションを理解するだけでなく、拡大することに興奮していたのです。
2022年になると、非代替性トークン（NFT）がフィンテックで、これまでで最も大きな発展を遂げ、新しい形の取引、接続、およびグローバルな相互支援が可能になったことは明らかです。
NFTの登場により、イノベーションはデジタル不滅のものになりましたが、NFTはまだコンピュータコード、すなわちデータに過ぎないことを忘れてはなりません。すなわち、どのような取引であっても、NFTを利用することで、その取引に生命と正当性を与える条件を明確に定める必要性がなくなるわけではないのです。
このため、NFTを扱う際には、従来の契約法が依然として適用されます。実際、企業、アーティスト、購入希望者を含むすべての関係者が、基本的な取引においてNFTがどのような役割を担っているかを理解することが重要なのです。
この記事の構成
現実の物体をNFTとして販売する方法
有効な契約と見なされるためには、当事者間の取引において、（1）申し出、（2）検討、（3）受諾、（4）相互同意、または意気投合するという4つの重要な要素が存在する必要があります。
「検討」は、当事者間で価値の交換が行われる取引において、すべての当事者が何らかの「利害関係」が生じるため、上記の4つの要素の中で最も重要であると言えるでしょう。
では、私たちの業界がNFTを通じて現実の物品の売買をどのように行ってきたかをよりよく把握するために、現実の契約が今も支配している方法を示すいくつかの例を考えてみましょう。
不動産手続きのスピードアップ
現物の不動産がNFTとして販売されていますが、注目すべきは、不動産そのものがNFTではないこと。むしろ、所有権やデータは物理的に不動産に紐付いており、法人を通して譲渡されるのです。
不動産にNFTを活用すると、仲介者がスマートコントラクトに代わり、取引がオンチェーンで記録されるため、確かに不動産購入のプロセスはスピードアップします。しかし、NFTによる不動産売却の基礎となる条件や、NFTを通じた売却の条件を定めるために、従来の契約は依然として必要です。
最終的に、従来の不動産契約の必要性は、各州の記録官事務所にその取引を登録するなど、米国の既存の規制の枠組みを遵守することで正当な手続きとしてみなされるのです。
Propyが重視するNFT取引の完全性の確保
実在する不動産の取引プラットフォームであるPropyは、不動産所有権をNFTとして表現するための技術的・法的メカニズムにより、不動産業界において大きな存在感を示しています。具体的には、所有権をデジタルで移転する方法を開発し、同時にKYCプロセスを導入して本人の名前と身元を確認します。不動産の所有権を個人から合同会社にあたる米国法人に切り替え、NFT経由でその合同会社の所有権を直接譲渡することが可能になります。
Propyは、独自のKYCプロセスを通じて、あるデジタルウォレットから別のデジタルウォレットに資産を移転するプロトコルを開発。同時に個人名を収集してバックグラウンドチェックを行い、取引の整合性を確保し、関係者全員の身元を確認するのです。
Propyが米国初のNFT売却を実行
売却が完了すると（フィアット、暗号、またはNFTによって）、その不動産の所有権は自動的にLLCとその所有者に移転します。その後、購入の記録はブロックチェーン上に置かれ、法的文書へのアクセス、買い手のコスト削減、購入プロセスの合理化を実現。
2017年、Propyは、ウクライナのキーウにあるワンルームマンション（当時、TechCrunchとArrington Capitalの創業者マイケル・アーリントンが所有）で初めて独自のフレームワークをテストし、その後、およそ93000ドル（36ETH）で購入が成立しました。
その年の3月には、フロリダ州ガルフポートにある住宅がオークションにかけられ、654,310ドル（210ETH）で落札され、米国初のNFTによる不動産売却を完了しました。落札後の詳細では、この物件の入札者は、家の所有権を認証するために、オークション参加前に身分証明書とフルネームの提出を求められたが、買い手の同意がない限りそれ以上の情報を共有することができなかったことが明らかにされています。
Propyはいまも、NFTマーケットプレイスを通じてオークションを行っていますが、USDC安定コインを使用しています。実際、不動産取引における制限に特別に対応する必要があるからです。
わたしたちはひとつの船に乗っている
3月、受賞歴のある海軍建築家グレゴリー・マーシャルは、デジタルヨットディーラーのスタートアップCloud Yachtsと共同で世界初のNFTカスタマイズスーパーヨットを開発しました。それは、OpenSeaでmintされ、約1200万米ドルに相当する暗号資産で売却されました。
ヨットの世界ではユニークな、mintされたNFTは単なる芸術を超え、システムや構造に関するすべての技術データがブロックチェーンに記録されており、オーナーはホログラフィックや拡張現実（AR）技術を通じてどこからでも、実際のスケールでヨットのデザインを仮想見学できるようになります。
NFTのmintに伴い、カナダのTactical Custom Boatsは、NFTと物理的に対になるIRLカスタマイズされた33.5m（110フィート）ヨットを、今後3年間かけて建造する作業を行っています。
マーシャル氏によると、Cloud Yachtsは金融取引を行い、暗号化された支払いを適切な関係者に届けます。ヨットが完成したら、Tactical Custom BoatsとCloud Yachtsの両社は、このスーパーヨットの建造過程からのすべてのメタデータを含む別のNFTをmintし、将来の設計に向けたすべてを簡素化すると述べています。
Tactical社のCEOであるTim Charles氏は、複雑な建造プロセスを「単純化」するために、NFTのビジネスモデルを適用することを選択したと述べています。
シボレーのコルベットNFT
6月、シボレーは、ランボルギーニ、マクラーレン、ヒュンダイとは異なるアプローチでNFTに取り組んだ最新の自動車メーカーとなりました。それは、コルベットをテーマにしたNFTをオークションに出品し、そのアートワークからインスピレーションを得た実際のスポーツカーも一緒に提供するものです。
NFTは、アーティストNick Sullo（オンラインでは「xsullo」という別名で活動）が制作したもので、ライムグリーンのシボレーコルベットZ06がサイバーパンクの風景の中を疾走する様子が描かれており、そのアートと同じカラーリングのIRLカスタム塗装の2023コルベットZ06とペアにされています。
そのプロセスは、現実のオークションで見られる従来の契約と大きな違いはありませんでした。たとえば、先月のオークションを管理するシボレーの契約書は、取引条件を定めており、General Motors LLCを筆頭に取引当事者が明記されています。そして、オークションの開催方法、出品物（NFT、アートワーク、シボレー車自体）の説明、一般的な保証の免責事項が並んでいます。
同社によると、先月のオークションの落札者は、Z06の中で唯一この色に塗られた「ミント・グリーン」のコルベットも受け取ることができます。コルベットのVINはバイナリになり、NFTのコーディングと一致し、IRL車両とNFTオークションを永遠に関連付けることになります。
新型Z06シボレーは今夏に生産が開始され、2023年モデルとして一般に販売される予定です。
現実世界の物体とNFTの実態
NFTスペースに参加する人は、NFTがコードに過ぎないことを理解する必要があります。
そのため、NFTの作成、組み込み、関連付けをめぐる取引はすべて、NFTと対になる現実世界の物品に加え、そのNFTをどのように利用するかという取引内容を定めた従来の法的契約によって管理されるべきなのです。
