今回の記事は、ERCトークンの内容を簡単に理解したいという方に役立つ内容になっています。おそらくERCトークンのことを、イーサリアムブロックチェーン上のトークンに関する規定のようなものというイメージだけで捉えていて、仕組みや特徴があやふやな方が多いのではないでしょうか。
ここでは、そもそもERCやトークンとは何かという説明から始めて、代表的なERCトークンについての基礎情報を解説していきます。
この記事の構成
ERCトークンとは
ERCはEthereum Request for Commentsの略称で、イーサリアムベースで発行できるトークンの技術仕様を文書化したものです。
トークンは直訳すると「しるし」とか「象徴」という意味ですが、暗号資産の世界ではブロックチェーン上で発行されたデジタル通貨や認証コードという意味合いで使われています。
一般的にイーサリアムブロックチェーン上で使用されるトークンを、ERCトークンと呼びます。トークンをデジタル通貨としてとらえるとき、同類の言葉にコインというものがありますが、両者の違いを知っておいた方がいいでしょう。
コインとトークンの違い
「コイン」と「トークン」を同じ意味にとらえている人が多いですが、両者には明確な違いがあります。
「コイン」は独自のブロックチェーン上で発行される暗号資産(仮想通貨)のことです。例えばビットコインのブロックチェーンではBTC(ビットコイン)というコインが利用され、イーサリアムのブロックチェーンではETH(イーサ)というコインが利用されています。
以下、暗号資産の分野に限定して、お話をすると、「トークン」には、専用のブロックチェーンがありません。イーサリアムブロックチェーンが登場したときから、スマートコントラクトという技術を利用して様々なアプリケーションを開発できるようになりました。
それらのアプリ内で作成されたデジタル通貨がトークンです。つまり、専用ブロックチェーンを持っているデジタル通貨が「コイン」、第三者のブロックチェーン上で作成されたデジタル通貨が「トークン」になります。
ERC規格誕生の背景
イーサリアムブロックチェーンには、新機能の提案やプロセス案などを規定する標準規格があります。それが2015年10月に作成されたイーサリアム改善提案(Ethereum Improvement Proposals)、略してEIPです。
EIPは技術仕様に関する変更案も包含されており、改良や追加機能のカテゴリごとにいくつかの種類に分かれています。そのうちのひとつが、前述のERC(Ethereum Request for Comments)です。
もう少し具体的に言えば、ERCはイーサリアムブロックチェーン上にトークンを導入する時に使われるスマートコントラクトの規格です。その規格の内容によって発行可能なトークンの仕様が決まります。これがERCトークンと呼ばれる所以です。
ERCトークン規格の種類と特徴
ERC20ということばを聞いた人がいるかもしれません。たとえば、ERC20のように、ERCトークンの後ろに付随する数字は、Github(ソフトウェア開発プロジェクトのためのソースコード管理サービス)で規格提案された通し番号です。
イーサリアムブロックチェーン上で作成されるトークンは、このERCの基準に従わなければなりません。その基準がどのようなものか、番号の若いものから一つずつ順番に見ていきましょう。
ERC20
ERC20はイーサリアムブロックチェーンと互換性を持つトークンを作るための規格です。オープンソースで公開されているため、誰でもそのソースを利用可能であり、ERC20にもとづくトークンを作ることができます。それらは独自トークンと呼ばれ、イーサリアムブロック上で流通させることが可能です。
ERC20は各トークンの核となる機能を標準化したもので、ファンジブル トークン(Fungible Token)とも呼ばれ代替性トークンを意味します。つまり、この規格をもとに作られたトークンは、すべて互換性をもつと覚えておきましょう。
ERC20はICO(トークンを利用した資金調達)が活発となった2017年に広く採用されました。2022年6月現在において、ERC20によって作られたトークンの数は50万種類を超えるとも言われ、もっとも利用されているトークン規格となっています。
ERC20誕生前はトークンも存在せず、各ブロックチェーンで発行されたコインに互換性がありませんでした。
そのため、種類の異なるコインを換金するには、暗号資産取引所で一旦法定通貨に戻してから別のコインを購入する必要があり、種類の異なるコインを管理するには複数のウォレットが必要でした。
しかし、ERC20誕生後は種類の異なるトークンでも、同じ規格を利用したトークン同士であれば互換性があるため、海外の多くの暗号資産取引所では直接換金が可能となっています。
また、種類の異なるトークンを管理する際も、メタマスク(MetaMask)などのようなERC20に対応しているウォレットが一つあれば、事足りるようになりました。これがERC20が最も利用されている理由です。
ERC223
前述のERC20は通常の暗号資産と同様にトークンを送信することが可能ですが、誤ったアドレスに送信した場合、それを元に戻すことができないという課題がありました。
その原因はイーサリアムに、ウォレットアドレスとスマートコントラクトアドレスの2つのアドレスが存在し、ERC20ではそのどちらへも送信が可能なことによります。
通常であればそのようなエラーが発生しても取引を無効化できますが、ERC20に準拠したトークンでは正常な取引が行われないまま承認されてしまいます。
もちろん、そのようなエラーはユーザーによる操作ミスに起因するものであり、通常であれば発生するものではありません。しかし、そのために凍結せざるを得なくなったいわゆる「ゾンビトークン」の額が3.6億円以上もあることから、無視できない課題でした。
これを解決するために開発された規格がERC223です。Token Fallbackという関数を追加することによって、誤送信された場合はトークンが返信されるよう定義されています。
このことよりERC223はERC20の上位互換に位置しますが、ERC20がすでに広く普及していることで、今でもERC20をもとに発行されたトークンが多いのが現状です。
ERC621
ERC621はリファンジブル・トークン(Re-Fungible Token)と呼ばれ、RFTの略称でも知られています。
ERC20ではトークンの供給量を一度しか決めることができませんでした。
これに対してERC621では、「IncreaseSupply」と「DecreaseSupply」という2つの関数が追加されたことにより、トークンの供給量を自在に増減することができます。
ERC621は絵画や楽曲といった著作権をもつアイテムの運用に適している規格で、発行されたトークンを持つ者のみが作品の閲覧権を得られます。それによって、作品の不正利用や音楽や映像などの違法ダウンロード防止に役立ちます。
具体的に説明しますと、例えばアート作品の作者がアートのNFT(後述)を発行し、その閲覧権をRFTで発行したとします。そのアートを観たい人はRFTを購入して閲覧権を得られ、そのアートを観たい人が増えれば増えるほど、アートの価値が高まる仕組みです。
このように、RFTの購入者が増えるとトークンの供給量や価格を調整することによって、作者が利益をコントロールできるのが、ERC621の大きな特徴です。また、閲覧権が不要になったユーザーは、そのトークンを売却して収益を上げることが可能です。
ERC721/ERC721x
ERC721はノン・ファンジブル・トークン(Non-Fungible Token)と呼ばれ、NFTの略称で広く知られている代替不可能なトークンです。
ERC721はイーサリアムブロックチェーンにおける大ヒットNFTゲームである「クリプトキティーズ」の共同創業者・ディーター・シャーリー氏によって提案されました。
ERC721では、各トークンにその所有者の名前や取引記録などの固有なデータを、個別に持たせた点が画期的とされています。アート作品やデジタルミュージック、デジタルファッションなどにNFTを紐付けることにより、権利の所在を明確化することが可能となりました。
他のトークンが代用可能となっているのに対して、ERC721は唯一無二のトークンを生み出すことを目的とされたのが大きな特徴です。
ERC721xはERC721の上位互換としての規格であり、大量のトークンを一括送信する機能を持つものです。これにより、ゲーム時に大量アイテムを移転させる際の、割高な手数料が解消されています。
ERC777
ERC777ではERC20と互換性を持ち、契約の度にトークンを受送信することが可能です。
送信の場合は送信先のアドレスを確認してから実行するため、ERC20で発生するトークンが消えるということも未然に防ぎます。
また、Bytes(バイツk)という転送機能の導入により、送信情報の認識と自動的な受信契約が可能で、転送が発生すると即座に知ることができるため、コントラクトがより簡単で安全になりました。
ERC20の改良版であり、ERC-223よりも多くのデータ取引が可能になりました。
ERC864
ERC864はERC621とERC721の特徴を兼ね備えたトークンです。ERC721の代用不可能なトークンであるNFTを、ERC621のように所有権を分割して運用するトークンになります。
これまでは代用不可能なトークンの保有者は一人に限定されていましたが、ERC864によって他の誰かと共有することが可能になりました。
ERC884
ERC884は、アメリカ合衆国のデラウェア州の会社法に基づいて導入されたトークンです。デラウェア州はアメリカで2番目に小さな州ですが、1900年代始めより法人設立に最適な州としての地位を維持し続けており、現在デラウェア州を設立準拠地とする企業数は100万社にも及んでいます。
そういった背景が、株式をトークン化するための規格であるERC884が当州で誕生した理由です。これによりブロックチェーン上での資金調達が可能となり、トークンの保有には身分証明の必要があるなど、社会的信用がある人間のみが利用できる仕組みですので健全な運用が期待されています。
ERC948
ERC948はイーサリアムブロックチェーンにおいて、月額の定期支払や定期購入などのいわゆるサブスクリプションモデルを実現するために誕生したトークン規格です。
一般的なサブスクリプション型サービスは、B2Cの形で企業が顧客のクレジットカード情報を預かったり、銀行を介して定期引き落としを契約することで実現されます。
しかし、分散型アプリケーションでは中央集権的な管理者を置かないため、サブスクリプション型サービスを行うには継続課金の実現が困難でした。
その壁を解消したのがERC948です。ユーザーのウォレットから継続的に決済を行い、いつでもその契約の停止やキャンセルができるサブスクリプションモデルを可能にしました。
しかし、利用者の残高不足やブロックチェーン上にサブスクリプションサービスがあまりないことから、現在のところ使用頻度はあまり高くないようです。
ERC998
ERC998はコンポーザル・ノン・ファンジブル・トークンズ(Composable Non-Fungible Tokens)と呼ばれ、ERC721をベースとして開発されたトークンにERC20トークンを付加してパッケージ化できる規格です。
代替不可能なトークンという点でERC721に似ていますが、代替不可能なだけでなくトークンを組み合わせることが可能な点が大きな特徴です。
これによって仮想通貨ゲームなどで、複数のアイテムを一つのトークンとして送信できるようになり、手数料の削減やスムーズなやり取りが可能になりました。
ERC1068
ERC1068は、資金調達のためのトークン規格です。P2P融資、クラウドファンディングなどにおける貸し借りをスムーズに遂行させることが目的であり、中央集権的なシステムのような仲介業者を必要としません。
ローンに応じた資金調達、募集額の受け入れ、支払い期日における返済及び貸し手による投資回収のための機能が搭載されています。
ERC1068を利用するとウォレットを通じて誰でも貸し借りを行うことが可能となり、またローン申請もわずか数分で事足ります。さらに取引の履歴も確認できるので、資金の流れも透明性が保障されるようになりました。
ERC1070
ERC1070はStandard Bounties(標準特典)とも呼ばれており、ERC20トークンやイーサリアムで支払う際に特別な報奨金を作るためのトークン規格です。
スムーズな資金管理が目的であり、尚且つ仕事のアウトプットに対する評価検索の効率化も図れます。特典の提供、資金の流れや口コミを効率的に把握できることが大きな特徴となっています。
ERC1155
ERC1155は代替性トークン(FungibleToken)であるERC20と、非代替性トークン(Non-FungibleToken)であるERC721の規格の特徴を合わせ持った、ハイブリットな規格です。
暗号資産ゲームでの利用が一般的で、これにより複数のアイテムを一括で送信することが可能なだけでなく、一度の送信で複数ユーザーへ送ることもでき、時間とガス代の節約に役立ちます。
今までのERC20やERC721などの規格では1つのコントラクトでは1つのトークンの作成と管理しかできませんでした。
しかし、ERC1155では1つのコントラクトで複数のトークンを扱うことができ、この特徴が今までのトークン規格と大きく異なる点と言えます。
ERCトークン規格・まとめ
本記事では、ERC規格とはどういうものか、そして、それぞれのERCトークンのポイントを見てきました。今までERCトークンの規格がよくわからなかったという人の理解が深まれば嬉しく思います。
ERC規格はイーサリアムの発展と共に、これからも増えていくでしょう。それが、トークンの利便性をさらに進化させ、今後の暗号資産全体の発展につながるのは間違いないと思います。今回の記事をもとに、ERCに関する情報を関心をもって追って頂ければ幸いです。