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作品が高額落札!NFTアーティスト「Beeple」とは何者か?

解説系記事

ブロックチェーン技術を用いてデジタルアートを保存して、この世に1つしかないNFTコンテンツを作り出す「NFTアート」は2019年頃から注目を集めるようになり、2021年には日本でも大きな話題となりました。

その年、NFTアートの落札では、ネットで「Beeple」の名前で活動しているアーティスト「Mike Winkelmann」氏の「Everydays-The First 5000 Days」が約75億円という価格で落札されました。NFTアートでの落札価格としてはトップです。日本でも「NFTアートはすごいらしい」という認識を定着させるのに役立ちました。

引用元:Christie’s

この記事では、NFTアートでの落札ランキングで第1位となった作品を生み出した「Beeple」とは何者か、どのような作品を発表しているのかをご紹介します。

Beepleはどのようなアーティストか?

ビジュアルアーティストが出発点

引用元:Wikimedia

「Beeple」ことマイケル・ヴィンケルマン氏は1981年生まれ。アメリカのウィスコンシン州で育ち、2003年にパデュー大学コンピュータサイエンス学部を卒業しています。

グラフィックデザイナーとして企業のウェブサイトのデザインをするというのがキャリアの始まりです。作品としてのアートは普通の絵を描くというものでしたが、その後、Cinema 4DやOctaneなどのプログラムで作成したデジタルアートに移行していきます。

やがてビジュアルデザイナーとして頭角を現すようになり、MTV VMAやスーパーボウルなどのライブイベントを手がける企業でフリーランスのプロジェクトを行っていました。アリアナ・グランデ、ジャスティン・ビーバー、チャイルディッシュ・ガンビーノ、ニッキー・ミナージュ、シャキーラといったパフォーミングアーティストのコンサートビジュアルを制作しています。クライアントにはイーロン・マスクのSpaceXやAppleなどがいます。

作風は「ポップな社会風刺」

デジタルアーティストとしての「Beeple」の持ち味は、政治的・社会的なメッセージです。

2007年から開始した「Everydays」シリーズにも良く現れていますが、個人と社会の間に立ち現れる「違和感」「疑問」をシリアスに表現するのではなく、ポップカルチャーからの影響を受けたコミカルなアートで表現するのがBeepleの特徴です。

引用元:Beeple

コミカルでファンタジックでありながら「ディストピア的な未来像」を描くことが多く、そこにはシニカルな視点が感じられます。

引用元:Beeple

Everydaysシリーズなどの作品には、良く知られた人物や大衆文化で有名なものなどがモチーフとして登場します。「ポップな社会風刺」というのが持ち味で、皮肉の効いたパンチのある作品が数多く見られます。

「毎日作品を発表する」「社会や大衆文化を取り上げる」「コミカル」「社会風刺」という特徴は、ちょうど日本の新聞に良くある「4コママンガ」を思わせます。

アメリカやヨーロッパの新聞でも、社会風刺の効いた「1コママンガ」は良く見られるものです。Beepleが毎日作品を淡々と発表していく様子はまるで新聞の4コママンガのようで、クスッと笑えて同時に考えさせられる作品群には知的な刺激が満ちています。

「Everydays」シリーズを2007年5月1日から開始

NFTアートで最高落札額を記録した「Everydays: The First 5000 Days」はその名前の通り、「Everydays」シリーズの初日から5000日目までを1枚にまとめたものです。

Beepleが毎日作品を制作して発表するという「Everydays」シリーズを開始したのは2007年5月1日です。

このプロジェクトは、1年間毎日休むことなく絵を描き続けた「トム・ジャッド」というアーティストから触発されたものとBeepleは語っています。しかしこちらは1年に留まらず、現在も続行している最中であり、Beepleのホームページの「Everydays」には何日目なのかが大きく示されています。

引用元:Beeple

2021年7月22日は5561日目でした。休むことなく連続5000日以上も発表しつづけています。Beepleによると、結婚式の日や子供の誕生日といった記念日や都合の悪い日でも作品を完成させて発表しているとのことです。

2012年には「Adobe Illustrator」、2015年には「Cinema 4D」など1年に1つの技術や媒体にフォーカスしています。2022年は14年目にあたり、「ROUND14」として作品が発表され続けています。

「ROUND11」の2018年、まだ「オークションで高額落札」といった話題のアーティストになる前に、BeepleはインタビューでEverydaysプロジェクトについて語りました。

それによると、プロジェクトの主な目標は「絵の上達」だったそうで、「絵をもっと上手く描きたかった。1年間描いたらかなり上達した」とのことで、このプロジェクトによって新しいテクニックを学ぶことができ、継続的に上達していくための強力な方法であると感じたとも言っています。

Everydaysシリーズは毎日作品を発表するプロジェクトですが、これはBeeple本人の変化の記録でもあります。ネット上でも「毎日やったらこれだけ上達した」という記録は興味をそそり、人気が出ます。

Everydaysプロジェクトは、こうした「ドキュメント」になっている点にも注目する必要があります。

「Everydays: The First 5000 Days」の衝撃

クリスティーズにて6934万ドルで落札

BeepleがEverydaysプロジェクトの「最初の5000日」の記録として、それまでの5000枚を1枚にまとめた作品「Everydays-The First 5000 Days」が約6935万ドルで落札されたのは2021年3月12日です。

この「事件」には様々な意味が含まれます。

まず抑えておきたいのは、これが老舗のオークションハウスであるクリスティーズで行われたNFTアートオークションだったという点です。

クリスティーズは200年以上の歴史を誇る著名オークションハウスです。つまり、NFTアートがデジタルの遊びや実験などの域を超えて正当に「作品」として認められたということを意味します。

老舗オークションハウスで実施されたからこそ、落札額は高額になったとも言えます。実際、オークションの視聴者は最大で2200万人にも及んだとされており、「クリスティーズが認めたNFTアート」のオークションはそれだけで注目を集めていたと言えます。

作品を購入したのは「MetaKovan」というペンネームで知られる人で、「Metapurse NFT」というプロジェクトの創設者であるプログラマーの「Vignesh Sundaresan」氏です。Sundaresan氏は「4万2329ETH」で「Everydays-The First 5000 Days」を購入しました。

Sundaresan氏は、高い価値を持つNFT作品といえば「Everydays-The First 5000 Days」以外にないと語っています。というのも、13年分の作業が詰まっており、技術は再現できるしスキルを超えることはあるが、「時間をハックすること」は不可能だからです。

現在において最も価値のある芸術作品であり、王冠(クラウン)とするのにふさわしいとSundaresan氏は語っています。

なぜ超高額で落札されたのか

Beepleの作品がこれほど高い評価を受けた理由はいくつかあります。

ひとつには、Beepleが多くのファンを獲得していてTwitterなどのSNSで総数250万人ものフォロワーを抱えていることです。Beepleのプロジェクト「Everydays」はすでに高い人気がありました。

引用元:Twitter

また、2021年3月にはすでにNFTが爆発的に普及して、デジタルアートの発表・入手・取引の主流となると多くの人が認識するようになったというのも大きな理由でしょう。「デジタルアートとはNFTのことだ」と世界中が理解したとき、Beepleの作品の価値はもっと上がるだろうと考えた人が多くいたために、オークションは加熱したと考えられます。

また、老舗のクリスティーズはBeepleの芸術とNFT技術の両方を正当化する力を持っています。200年以上の歴史があるオークションハウスで、シェイクスピアの肖像画からレオナルド・ダ・ビンチの絵画まで歴史上最も有名な絵画を数多く出品してきたオークションハウスの持つブランドには、揺るぎない信頼があります。

「Everydays-The First 5000 Days」には、ドナルド・トランプやジェフ・ソベスといったポップカルチャーのアイコンとなる人物が登場します。NFTアートの最前線を走ってきたアーティストが5000日にわたって発表した政治的・社会的イラストです。その集大成としてコラージュされた作品には大きな価値があるとオークション参加者に認知されたと考えられます。

NFTアートの分野でBeepleは最前線にいるアーティストとしてすでに認識されており、約75億円という記録的な落札額を生み出したのは当然だったとも言えます。

美術の新しい扉を開いたと評価されている

デジタルアートはすでに1960年代には登場していました。ポップアートの巨人として知られるアンディ・ウォーホールも1980年代にデジタルアートを作成しており、2014年に作品が発見されています。

引用元:huffingtonpost

初期のデジタルアートは、データの所有権や著作権などの権利を担保することが困難でした。

こうした課題を乗り越えたのがNFTアートです。ブロックチェーン技術によって、NFTをデジタルデータと紐付けして所有権や履歴を残すことができるようになりました。作品の正当な権利移転や二次流通も容易です。

ブロックチェーン技術を活用したデジタルデータは2018年頃から急速に発展してきました。とはいっても、これまでの作品発表は、一部のテクノロジー業界・ブロックチェーン業界、トレンドシーカーのなかでの出来事に過ぎません。

Beepleの作品が、クリスティーズでのオークションで高額の落札を記録したことは、ブロックチェーン業界や好事家だけでなく既存のアート業界にとっても、大きな歴史の転換点として振り返られることになると推測されています。

クリスティーズのNFT専門家である「Noah Davis」氏は、Beepleの作品のオークションが今までにない重要性を持つ出来事として記憶されるだろうと語っています。「Beepleの作品を入手することは世界を牽引するデジタルアーティストが作成したブロックチェーンそのものに参加できるという、またとない機会である」としています。

さらに重要なのは、このオークションでETHでの支払いが認められたという点です。歴史あるオークションハウスが暗号資産での決済を受け入れたことの意味は軽くありません。

クリスティーズが暗号資産の領域に足を踏み入れたことは、従来の美術品市場が変化していることと、新しいオーディエンスを開拓していることを物語っています。

Beepleの作品の落札は、美術界で「NFT化したデジタルアートの販売」が定着する偉大な一歩目となる可能性が充分にあります。

Beepleの人気作品

Beepleはデジタルアーティストとして数多くの作品を発表しています。NFTという枠組みを外した部分でも、アート作品としての価値が認められています。社会性・風刺・毒舌を含んだユーモアが感じられる作品群になっています。

HUMAN ONE

「HUMAN ONE」は「Everydays」に次いでBeeple作品として有名な作品です。

宇宙服を着た人物がディストピア世界を歩き回るという作品で、背景が変わる環境を淡々と歩く様子は物語性を感じさせます。

背景は決して明るいものではなく、暗い夜や夕暮れです。建物が廃墟と化して荒れ果てた街はSF作品を思わせ、宇宙服の人間が歩く姿は「探検」とも「捜索」とも受け取れます。

HUMAN ONEは大きな注目を集め、約32億円という高額な価格で落札されています。

映像には刻々と変わる環境が映し出されますが、Beepleは生涯を通して、この作品に映像を追加していく予定です。

引用元:OpenSea

Beepleは、HUMAN ONEという作品は「物理的にもNFT的にもシームレスに映像を変化させることができ、この作品のメッセージと意味は私の人生の中で進化し続ける」と語っています。実際、OpenSeaの「HUMAN ONE」のページで変化していく様子を見ることができます。

従来のアート作品は完成した瞬間に時間が止まりますが、この作品は更新することができるので、時間の経過とともに新しい意味を付与できるとBeepleは紹介しています。

Ocean Front

「Ocean front」は「Everydays」シリーズの一部として公開されたNFTアートです。環境変動の問題を語ることを目的として作成されました。

海の上に置かれたトレーラーや輸送用コンテナの上に大きな木がそびえて立っています。「together we can solve this」(環境問題を共に解決できる)というキャプションが付いています。

引用元:Nifty Gateway

「Ocean front」は2021年3月23日、暗号資産トロン(TRX)の創業者であるジャスティン・サン氏が600万ドル(約6.5億円)で落札しました。サン氏については「Everydays: The First 5000 Days」のオークションに参加していたが、購入できなかったとの報道があります。

サン氏が参加したNFTオークション「Carbon Drop」では気候変動への意識を高めることを目的に、Beepleなど8名のデジタルアーティストが制作したNFTアートが出品されていました。

オークションは全体で約7.2億円を集め、アメリカの環境問題に取り組む非営利団体「オープンアース財団」に寄付されました。

Beepleはこの作品のオークションにより、「2021年に高額で落札されたトップ10作品」のうち4つを占めることになりました。1位「Everydays-The First 5000 Days」、第2位「HUMAN ONE」、第3位「Crossroads」、第5位「Ocean front」です。

引用元:Twitter

Beepleはニュース専門放送局の「Fox News」で「Everydays-The First 5000 Days」の落札価格について、「正直なところ、バブルだと思う」と語っています。

Crossroads

「Crossroads」という作品は2020年のアメリカ大統領選挙の際に発表された作品です。作品には、人が往来する道路の端っこにドナルド・トランプを思わせる巨大な人間が横たわっています。

選挙の結果に応じて、映像が変化するようになっており注目を集めました。結果的にバイデン候補が勝利したため、Crossroadsは大衆から嘲笑を浴びた後のトランプ元大統領が横たわった映像に変化しています。

引用元:CROSSROADS by Beeple

Crossroadsはニフティ・ゲートウェイで660万ドルで落札されています。

ENDGAME

「ENDGAME」は大ヒットしたマーベル映画「アベンジャーズシリーズ」の「エンドゲーム」をモチーフにした作品です。裸のトランプ元大統領が市民と警察の戦いを足元にしてサムズアップしている映像です。

「Everydays」シリーズの一部で、映画の設定から考えると「数の少ない」警察がヒーローで、市民は白人ばかりであることから「白人至上主義者」を現していると推測できます。

引用元:Beeple

まとめ

今回はNFTアートとして最高額で落札された作品「Everydays-The First 5000 Days」を制作したBeepleというデジタルアーティストを紹介しました。

最後にこの記事をまとめていきます。

  • 「Beeple」は1981年生まれのマイケル・ヴィンケルマン氏。
  • 多くの有名クライアントを持つデジタルアーティスト。
  • 政治的・社会的なメッセージをコミカルなアートで表現する作風。
  • 毎日作品を発表する「Everydays」シリーズを休むことなく続けている。
  • 「Everydays」シリーズの最初の5000日をコラージュした作品がクリスティーズで6934万ドルで落札された。
  • すでにNFTアーティストとして有名であったこと、老舗のオークションハウスで取り扱われたことが高額落札の要因。
  • 「HUMAN ONE」や「Crossroads」など他にも有名な作品がある。

NFTアートの最前線に立っているBeepleの活動に注目しましょう。

Spritz

Spritz

Web3領域を専門とするライター。DeFiやNFT分野への投資経験をもとに、クリプトに関する記事を発信しています。これまでに執筆した暗号資産に関する記事は70本以上。特に関心の強い分野は、セキュリティトークンです。ブロックチェーンによってもたらされる社会変革に焦点を当て、初心者にもわかりやすい記事を心がけています。
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