2021年という年は、日本はもちろん世界中においてNFTが大きく発展した、まさにNFT元年とも言える1年でした。
それまでNFTという単語を知らなかった層にも認知が広がり、実際の売買もおこなう人口が急増しました。
しかし、大手企業もNFTに参入するなど、この先も一層発展が期待されるNFTですが、新しい技術であるために、抱えている問題も少なくありません。
本記事ではそんなNFTについての問題点や、解決が必要な課題を解説します。
ぜひ最後までご覧になり、NFTに関する理解を深めていただけますと幸いです。
この記事の構成
NFT技術とはそもそも何なのか?
2022年8月現在、暗号資産(仮想通貨)の登場から10年以上が経過しています。
当初は懐疑的な目で見られていた暗号資産ですが、ビットコインだけではなく多くの暗号資産が続々と登場し、現在では売買をおこなうことに対して疑う人は少なくなってきました。
暗号資産の技術の根底には、取引の記録を多数の参加者に分散して保持させるという仕組みである、「ブロックチェーン」と呼ばれる技術が使われています。
このブロックチェーンを、デジタルコンテンツである画像や音楽等に流用した技術が「NFT」と呼ばれるものなのです。
つまり、暗号資産がブロックチェーンを利用した資産の台帳であることに対し、NFTはブロックチェーンを利用したデジタルコンテンツデータであると言えるでしょう。
1点注意するべきことは、NFTはデジタルコンテンツ自体を取引するのではなく、デジタルコンテンツの「保証書データ」を取引するということです。
こうした技術の背景から、2021年頃を境としてNFTは徐々にブームとなっていきました。
NFTの市場規模
2021年に注目を集めたNFTですが、これからさらに市場を拡大していくと考えられています。
2021年の世界全体でのNFT取引金額は176.9億ドル(約2兆4千億円)であり、この金額は2020年の8,250万ドル(約110億円)の215倍という急成長でした。
(参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング NFTの動向整理)
NFT作品の平均価格も大きく値上がりを続けており、年々注目を浴びると同時に幅広い分野で市場を広げていくでしょう。
そして現在から5年後の2027年にかけて、年間成長の平均は35%にもなり、市場規模は現在の4倍にまで成長することが予測されています。
(参考:【世界調査レポート】NFT市場規模の今後を予測)
なぜNFTが注目されるのか
NFTが世界的に注目されるきっかけとなった出来事は、主に2つが挙げられます。
1つ目は、デジタルアーティストのピープル氏が発表した「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」というNFT作品が、約6,934万ドル(約90億円)という価格で落札されたことです。
老舗オークションハウスにおいて、デジタルアートが高額落札されたというニュースは世界中を驚かせ、NFTが注目を集めるきっかけとなりました。
そして2つ目は、Twitter創業者のジャック・ドーシー氏が初めてツイートした内容がコンテンツNFTとして出品され、約291万ドル(日本円で約4億円)という価格で落札されたことです。
このように、これまで無限にコピーができて価値を見いだせなかったデジタルコンテンツに、高値が付いたという点が注目を浴びるきっかけとなりました。
そして、徐々に「購入したデジタルコンテンツは唯一無二のものとして所有できる」という認識が広がっていき、様々な分野での活用が期待されているのです。
NFTが有する問題や課題6選
これまでは所有するという概念がなかったデジタルデータを、現実世界に存在する様々な物同様に、NFT技術によって所有を証明できるようになりました。
すでに日本国内においても、NFTを活用したサービスやコンテンツが多数登場しています。
しかし、NFTは新しい技術であるが故に、この先解決が必要な問題や課題を抱えていることも事実なのです。
ここからはそんな課題について、代表的なものを6つ紹介していきます。
- 法律の整備が追いついていない
- ガス代と呼ばれる手数料
- 処理速度の遅さ
- パスワードの管理
- 環境への負荷
- 詐欺などの被害
①法律の整備が追いついていない
2021年に急成長した技術ですので、定義やルールについてはまだ日本国内において、法的に定められていない状態にあります。
暗号資産については、「資金決済法」という法律で財産的価値と定義されており、第1条では利用者の保護が名文化されています。
”第一条 この法律は、資金決済に関するサービスの適切な実施を確保し、その利用者等を保護するとともに、当該サービスの提供の促進を図るため、前払式支払手段の発行、銀行等以外の者が行う為替取引、暗号資産の交換等及び銀行等の間で生じた為替取引に係る債権債務の清算について、登録その他の必要な措置を講じ、もって資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することを目的とする。(引用元:平成二十一年法律第五十九号資金決済に関する法律)”
しかし、NFTは上記の資金決済法には該当していないのです。
また所有についても、「物」を対象とした法律しかありませんので、NFTというデータの所有は本的根拠が明確ではありません。
さらに、著作権についてもデジタルコンテンツは認められていますが、NFTの保証書データに対しては曖昧な部分があるなど、議論の余地を多く残しています。
このように、法整備が追いついていない状況ですので、NFTを活用していくためには法律や民法の確認が必要となるのです。
②ガス代と呼ばれる手数料
暗号資産は採掘者(マイナー)と呼ばれる人たちが、採掘(マイニング)をおこない生成されます。
マイナーは採掘競争に勝つことで報酬を得られますので、多くの人や企業がこのマイニングに参加しています。
このことはNFTを売買するために最も多く利用されている、イーサリアムという通貨でも例外ではありません。
そしてNFTを売買する時に、イーサリアムのマイナーに対して報酬として手数料を支払う必要があるのです。
この手数料が非常に高額であることが多く、場合によっては数万円相当にまでなる場合もあります。
結果としてNFTを販売しても、利益が残らないというケースが出てきます。
しかし、今後も暗号資産の値上がりや、NFTを売買する人口が増えるに従い、手数料は増加する傾向にあると考えられています。
販売価格と手数料のバランスが適正にならなければ、より広い層へのNFT普及や活用が難しいのではと懸念されているのです。
③処理速度の遅さ
現在のクレジットカードの決済システムでは、1秒間で数千件の取引を処理できると言われています。
しかし暗号資産を代表するビットコインのシステムでは、1秒間に数件程度の処理しかできません。
その理由は、P2Pネットワークと呼ばれるブロックチェーン特有の通信方式に起因します。
P2Pネットワークとは、個々人が所有する複数のコンピュータを繋げることで、全体としてネットワークを構築するというものです。
そして、P2Pネットワークの場合、処理速度はネットワーク参加者毎の機器スペックに依存してしまいます。
処理速度の向上は、クレジットカードのような中央集権型の管理システムの場合、高スペックのサーバーを置くことで容易に解決出来る問題でした。
しかし、世界中の個人が参加するP2Pネットワークの場合、各個人の機器スペックを向上させることは難しく、結果的に処理速度が遅いままという問題を持っているのです。
現在は処理速度を上げるために、さまざまな技術開発も進んでおり、ビットコイン以外の暗号資産において利用されている例も出てきています。
NFTはブロックチェーン技術を使用していますので、ブロックチェーンの問題はNFTの問題として直接繋がってしまいます。
手数料の問題同様、解決が求められる問題となっているのです。
④パスワードの管理
NFTを売買するために「ウォレット」と呼ばれるデジタル上の財布を使用する必要があります。
しかし、このウォレットを使用するにあたって、非常に長いパスワードを入力しなければいけません。
具体的には12個の英単語の羅列であり、ほとんどの人は記憶することが難しい内容です。
その上、そのパスワードを紛失してしまった場合、保有していた全てのNFTを失ってしまい、ウォレット内の暗号資産も取り出せなくなってしまうのです。
通常のWebサービスであればパスワードを紛失しても、再発行の対応をとってもらえるでしょう。
しかし、NFTに関連するサービスについては完全に自己責任の世界であり、パスワードを紛失しても誰も再発行する権限を持っていないのです。
この問題についても、ウォレット管理を企業がおこなうケースや、パスワードを複数人で管理して紛失に備えるなどの取り組みがされています。
⑤環境への負荷
ブロックチェーン技術を動かすマイニングは、高性能コンピューターを24時間365日フル稼働でマイナーたちがおこなっています。
そのため必要な電力は膨大なものとなります。
再生可能エネルギーが主流ではない現時点においては、マイニングにおける大量の電力使用は、結果として環境に大きな負荷を与えると言わざるを得ません。
そのため、マイニングにおける電力使用を抑えた方法も研究されており、今後のアップデートが期待されています。
⑥詐欺などの被害
デジタル上の取引において、詐欺問題は多発しますがNFTも同様です。
大きく分けて4つのパターンが、NFTにおける詐欺の内容となっています。
フィッシング詐欺:偽サイトへ誘導してクレジットカードやアカウント情報を抜き取る。
ウイルスNFT:詐欺NFTをクリックすることでウォレット情報が抜き取られる。
ウォレット乗っ取り:パスワードを聞き出してウォレット内の暗号資産を抜き取る。
NFT運営の持ち逃げ:NFT購入を呼びかけた後、配当することなく運営が姿を消す。
基本的には不明な宛先からのDMは開封しない、怪しいサイトへアクセスしない、身に覚えのないNFTは触らないなど、基本的な対策で被害を防ぐことが可能です。
しかし、一度被害にあってしまうと取り返すことも難しく、利用者のモラルが問われている状態となっております。
NFTの問題点と課題まとめ
NFTが抱える問題点と課題について解説してきました。
NFTに限らずネット上での新技術については、スタート時点において多くの問題を有することは珍しくありません。
これまで人類が持つことのなかった、デジタル上での資産や作品の保有という非常に新しい概念であるNFTですので、解決すべき問題が多いことは当たり前かもしれません。
しかしこれから多くの分野で活用が期待されており、市場規模も大きくなることが予測されていることは事実です。
少しずつ現在の問題点を解決しながら、NFTのさらなる発展や活用方法に期待しましょう。