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今話題のTornado Cash(トルネード・キャッシュ)とは?特徴やマネーロンダリングに使用される危険性などを徹底解説

解説系記事

ここ最近の暗号資産(仮想通貨)業界において、大きな話題となっているのがTornado Cash(トルネード・キャッシュ)です。

2022年8月12日、オランダの捜査機関がTornado CashのソフトウェアエンジニアであるAlexey Pertsev氏を逮捕したことは業界でも衝撃のニュースとして受け止められ、様々な業界関係者も批判の声を上げています。

そこでこの記事では、そもそもTornado Cashとはどのような内容のサービスなのか?という基礎知識から、今回の一連の事件の概要をわかりやすくまとめていきます。

また、Tornado Cashの規制問題によって今後考えられる影響や懸念点などもご紹介していくので、詳しく確認していきましょう。

この記事の構成

Tornado Cash(トルネード・キャッシュ)とは?

画像引用元:Introducing Private Transactions On Ethereum NOW!

まずは、Tornado Cashの概要や特徴についてご紹介していきます。

まだTornado Cashとはどういう内容のサービスなのか把握していないという方は、ぜひ詳しく確認してみてください。

イーサリアムブロックチェーン上で開発されている分散型ミキシングサービス

Tornado Cashとは、2019年に正式にリリースされた、イーサリアムブロックチェーン上で開発されている分散型ミキシングサービスの1つです。

ミキシングサービスとは、ブロックチェーン上で行われる複数の取引を一つに混ぜ合わせることで、個別の取引内容をわかりにくくするプライバシー保護を目的としたサービスとなっています。

ただし、Tornado Cashでは複数の取引を混ぜ合わせるのではなく、トークンの送受信者を追跡できるオンチェーンリンクを完全に切断することでプライバシーを守っているという特徴を持っています。

他にもZcashやMoneroをはじめとしたプライバシー保護を目的にしているプロジェクトは存在していましたが、これらはあくまで独自のブロックチェーン上でしか適用できなかったことから、ユーザー数や需要も多いイーサリアム上にてTornado Cashの開発が行われたと考えられます。

また、Tornado Cashは中央集権的リスクを排除している特徴もあるため、よりユーザーの匿名性やプライバシーを保護できるサービスと言えるでしょう。

ゼロ知識証明を活用した「zk-SNARK」によってトークンの送受信者を匿名化している

Tornado Cashがユーザーのプライバシーを保護できている技術の背景には、ゼロ知識証明を活用した「zk-SNARK」というテクノロジーがあります。

ゼロ知識証明を簡潔に解説すると、「自分がある秘密や情報を持っていることを、その内容を明かさずとも証明することができる技術」と言うことができます。

「zk-SNARK」とは、ゼロ知識証明をブロックチェーンに活用したテクノロジーとなっており、これを利用することで通常はブロックチェーンエクスプローラーで追跡できる「トークンの送受信者」などを匿名化し、確認できないようにすることが可能です。

TORNというガバナンストークンを発行している

Tornado Cashの最後の特徴として、TORNというガバナンストークンを発行していることも挙げられるでしょう。

ガバナンストークンとは、その名前の通り組織のガバナンス(管理・統治)の機能を持つトークンとなっており、保有者はコミュニティが意思決定をする際に投票を行うことができる権利が付与されます。

つまり、Tornado Cashのサービス内容の変更や改善などが行われる際には、TORNのトークン保有者によってその是非を決める投票が行われるということになります。

また、Tornado Cashのネットワーク上にイーサリアムなどのトークンを預け入れた方には、このTORNが配布されるという仕組みも採用されています。

Tornado Cash(トルネード・キャッシュ)の規制問題の概要やその後の流れ

次に、今回のTornado Cashの規制問題や、開発者の逮捕といった一連の事件を時系列でまとめていきます。

また、そもそもなぜTornado Cashがアメリカ当局によって規制されることになったのか?という背景を知るためにも、これまでのTornado Cashの使用事例についても解説していきます。

これまでのTornado Cash(トルネード・キャッシュ)の使用事例

今回起こったTornado Cashの規制問題への理解を深めるためにも、まずはTornado Cashがどのような用途で使用されてきたのかを確認していきましょう。

結論から言うと、Tornado Cashはトークンの送受信者を秘匿化できるという特徴から、ハッカーなどによってマネーロンダリング(資金洗浄)を目的に悪用されてきたことは間違いありません。

2022年3月、北朝鮮のハッカー集団「Lazarus(ラザルス)」によって、世界で最も有名なNFTゲームであるAxie Infinity(アクシー・インフィニティ)が約6億2,500万ドルものハッキング被害を受けていますが、その資金洗浄においてTornado Cashが使用されています。

また、2022年6月に発生したHarmonyのブリッジサービスであるHorizon Bridgeからも1億ドル以上のハッキング被害が発生し、Tornado Cashによって資金洗浄が行われました。

Tornado Cash側でも、こういったマネーロンダリング目的で使用されている事態を重く受け止め、2022年4月、アメリカ財務省によってブラックリスト化されたウォレットアドレスの使用を制限するためにチェイナリシス社のスクリーニングツールの導入などを行っています。

もちろん、Tornado Cashはポジティブな目的でも使用されており、その一つとしてウクライナへの寄付での利用が挙げられるでしょう。

実際、Tornado Cashを使用することで寄付を受け取ったウォレットアドレスをロシア政府に把握されることがないため、プライバシー上のメリットがあることは間違いありません。

イーサリアムの共同創設者の一人であるVitalik Buterin氏も、受取人のプライバシーを保護するためにTornado Cashを使用してウクライナへ寄付を行った旨をTwitterで発言しています。

どうしてもマネーロンダリングなどのネガティブな側面が注目されがちですが、Tornado Cashは必ずしも悪い目的ばかりで使用されてきたわけではないことは知っておいてください。

2022年8月8日にアメリカ財務省外国資産管理局(OFAC)が全面使用禁止を発表

今回のTornado Cashの規制問題の発端は、2022年8月8日にアメリカ財務省外国資産管理局(OFAC)によってTornado Cashの全面使用禁止が突然発表されたことが始まりとなっています。

米財務省は8月8日、暗号資産(仮想通貨)ミキシングサービス「トルネード・キャッシュ」(Tronado Cash)を全面的に禁止した。あらゆるアメリカ人がこのオープンソースプロトコルとのやり取りを禁じられており、暗号資産の世界に広範な影響をもたらすだろう。

引用元:トルネード・キャッシュ使用禁止令で波紋広がる

この規制の背景には、先ほどご紹介したマネーロンダリングを目的としてTornado Cashが使用されていることが理由となっており、それを防ぐためにアメリカ当局はプロトコルの使用自体を違法化しました。

しかし、これには様々な批判の声が業界関係者から上がっており、アメリカのシンクタンクであるCoin Center(コインセンター)は、今回の突然の規制は合衆国憲法に違反している可能性があることを指摘しています。

USDCを発行するCircle社は関わりのあるウォレットアドレスをブラックリスト化

画像引用元:Circle | USDC Stablecoin, Payments & Treasury Infrastructure

アメリカ当局による発表を受けてすぐ、USDCを発行するCircle社はTornado Cashに関わりのあるアドレスのブラックリスト化を行っています。

ステーブルコインのUSDコイン(USDC)を手がけるサークル(Circle)は禁止令を受けて直ちに、取引履歴にトルネードとの関わりが見つかった38のアドレスを禁止。他のプラットフォームや企業も、禁止を実行しているようだ。

引用元:トルネード・キャッシュ使用禁止令で波紋広がる

反対に、時価総額1位のステーブルコインUSDTを発行するTether社は、Tornado Cashに関わりのあったアドレスの凍結を自発的には行わないことを発表しました。

ここ最近では、USDTからUSDCへとユーザーが移行する動きが顕著でしたが、今回の件でUSDCに対する中央集権的なリスクを懸念する声が広がっています。

2022年8月12日にはオランダ当局がTornado Cash(トルネード・キャッシュ)の開発者を逮捕

2022年8月12日には、オランダ当局がTornado CashのエンジニアであるAlexey Pertsev氏を逮捕し、さらに大きな話題を呼びました。

オランダの捜査機関「Fiscal Information and Investigation Service(FIOD)」は12日、暗号資産(仮想通貨)ミキシングサービス「Tornado Cash(トルネードキャッシュ)」で犯罪収益の流れを追跡することを困難にし、マネーロンダリングを助長したという容疑で、29歳の男を逮捕したと発表した。

発表では名前まで明かされていないが、逮捕されたのはソフトウェアエンジニアのAlexey Pertsev容疑者と見られる。CoinPostの提携メディア「The Block」によると容疑者の妻が、夫が逮捕されたことを認めているという。FIDOは今回の発表で、トルネードキャッシュは米国で制裁対象にもなっていると説明した。

引用元:オランダの捜査機関、Tornado Cash関与の開発者を逮捕 業界の反応は

この逮捕劇の背景には、前述のアメリカ政府による使用禁止令が大きな影響を与えたと考えられています。

しかし、この逮捕にも大きな批判が集まっており、逮捕されたAlexey Pertsev氏はあくまでもTornado Cashのコードを書いただけであり、資金洗浄など悪用したのはハッカーであることは事実でしょう。

また、逮捕が起こる前月の2022年7月8日、Tornado Cashは完全にオープンソース化され、誰もが開発に参加できる状態であったことも批判の声を強める要因の一つとなっています。

MakerDAO(メイカーダオ)がUSDCを担保資産から除外することを示唆

先ほどのCircle社によるアドレス凍結の対応を受け、ステーブルコインDAIを発行するMakerDAO(メイカーダオ)はUSDCを担保資産から除外することを示唆しました。

DeFi(分散型金融)プロジェクト「MakerDAO」の共同創設者Rune Christensen氏は11日、公式Discordチャンネルで、ステーブルコイン「ダイ(DAI)」の担保資産から「USDC」を除外することを検討する考えを示した。

USDCが、中央集権型の米ドルステーブルコインであることを懸念。この考えの背景には、米財務省が仮想通貨ミキシングサービス「Tornado Cash」を制裁対象に指定した経緯がある。財務省の発表を受けて、USDCの発行元である米サークル社らは、制裁リストにあるアドレスをブラックリスト化するなどの対応を行なった。

引用元:MakerDAO共同創設者、DAIの担保資産からUSDCを除外する考え示す

理由としては、やはりUSDCの中央集権的なリスクを嫌ったものとされています。

このようにTornado Cashの一件をきっかけとして、様々なプロジェクトに大きな影響を与えていることがよくわかるのではないでしょうか?

アメリカ大手取引所のCoinbase(コインベース)が訴訟を支援

アメリカ最大手の取引所として知られるCoinbase(コインベース)が、今回のTornado Cashに関する訴訟を支援することを表明しています。

暗号資産取引所コインベース(Coinbase)が、米国財務省に対するトルネードキャッシュ制裁についての訴訟を支援することを9月8日に発表した。

〜中略〜

原告の主張は「財務省の権限を越えた制裁が行われている」というものだ。具体的には「多くの無実のユーザーが資金を拘束され、プライバシーツールにアクセスできなくなっていること」と「財務省がソフトウェアコードを制裁対象とするのは議会から与えられた権限を越えていること」の二点を制裁の問題点としている。

引用元:コインベース、米財務省のTornado Cash制裁訴訟を支援

今回の訴訟の原告にはCoinbaseの社員も2名含まれており、主に「無実のユーザーの資金凍結とアクセス権限の剥奪」「財務省による権限を超えた制裁」という2点を論争していくとされています。

この訴訟の判決によっては大きく状況が変わってくる可能性もあるため、今後の動向にはしっかりと注目していく必要がありそうです。

Tornado Cash(トルネード・キャッシュ)の規制問題による今後の暗号資産業界への影響

最後に、今回のTornado Cashの規制問題によって考えられる、暗号資産業界への影響などを解説していきます。

裁判の判決によっては他のプロジェクトにも大きな影響を及ぼすことが考えられる

先ほどご紹介したCoinbase(コインベース)が支援する裁判の結果によっては、Tornado Cash以外のプライバシー保護を目的としたプロジェクトにも大きな影響を及ぼすことが考えられます。

もし原告側が敗訴した場合には、匿名性・プライバシーを重視したプロジェクトの開発が行われにくくなると考えられますし、アメリカ当局がより一層の規制に取り組んでくる可能性があります。

場合によっては、アメリカでの暗号資産業界の発展が大きく後退してしまうことも考えられるのでしょう。

逮捕を恐れてサービスが開発されず、業界の発展が進まなくなる可能性がある

その他の影響として、エンジニアが逮捕を恐れてサービスが開発されず、業界の発展が進まなくなるという可能性も考えられます。

今回のTornado Cashのエンジニアの逮捕に関しても、確かにマネーロンダリングができてしまうサービスを作ったという事実はありますが、あくまでそれを悪用したのはハッカー達です。

よくある例え話ですが、まさに「ナイフでの殺人事件の責任を、ナイフを製造した人に追求する」のと同じことをしていると言えるでしょう。

こういった問題が今後も発生することで、業界の発展が進まないだけでなく、アメリカから開発者が流出してしまうことも予想できます。

ただし、政府の立場からするとTornado Cashを規制しない限り、永久にハッカー達にマネーロンダリングのツールとして使用され続けるということも疑いようのない事実です。

前述の通り、北朝鮮のハッカー集団「Lazarus(ラザルス)」は暗号資産のハッキングから莫大な利益を獲得しており、これを防がない限り北朝鮮によるミサイル開発も止まりません。

サービスの開発者側としては到底納得できないことではありますが、政府の立場や安全保障的な観点から考えると、今回の規制はある意味妥当なものだったようにも考えられます。

中央集権的なエンティティに対する懸念がより強くなる

今回のTornado Cashの一連の事件で、より中央集権的なエンティティ(存在)に対する懸念が広まったと言えるでしょう。

特にアメリカ当局からの指示を受けずとも、Tornado Cashと関連があったアドレスを自発的に凍結したCircle社への懸念は強くなったと考えられます。

今後の動向によっては、USDCを利用するユーザーが大きく減少する可能性も考えられるのではないでしょうか?

Tornado Cash(トルネード・キャッシュ)の特徴や今後の動向まとめ

今回の記事では、分散型ミキシングサービスであるTornado Cash(トルネード・キャッシュ)の概要・特徴や、2022年8月から業界での話題となっている規制問題などについて解説してきました。

Tornado Cashは、そのサービスの特徴からマネーロンダリングに悪用されてきたことは紛れもない事実ですが、今回の規制については様々な業界関係者が批判する声明を発表しています。

今後の暗号資産業界において、非常に重要な問題であることは間違いないので、これからの動向や展開には注視していく必要がありそうです。

GM

gm

2017年から仮想通貨投資を開始し、2020年から本格的にweb3.0の世界に参入。現在はフリーランスとして暗号資産やブロックチェーン、NFT、DAOなどweb3.0に関する記事を執筆。NFT HACKでは「初心者にもわかりやすく」をモットーに、読者の方々に有益となる記事の作成を行なっている。
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