NFTが日本国内で注目され始めたきっかけの一つに、「NFTアートが高額で売買された」ということがあげられるでしょう。
そのため一時期の暗号資産(仮想通貨)のように、ある種の投機対象として収集している方も少なくないかもしれません。
NFTは売買や交換が可能な唯一無二のデジタルデータであり、現実世界における「せどり」のように購入時との差額によって販売利益を得ることも可能です。
しかし、その際に注意しなければいけないポイントは「税金」でしょう。
NFTに関連して発生した利益は、確定申告が必要な課税対象とみなされるケースがあるのです。
大きく利益を得ているにも関わらず、納税の義務を万が一怠った場合、取り返しのつかないことにもなりかねません。
「知らなかった」では済まされないNFTの税金事情について、現在の日本国内におけるNFTに関する税制、損益計算の方法や海外における状況などから解説します。
これからNFT取引を始めようと思っている方はもちろん、すでに売買をしている方も必見の内容となっておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
そもそもNFTとは
詳しい税金事情に入る前に、そもそもNFTとはどういったものかを解説していきます。
NFTは、「Non Fungible Token」という単語の略称であり、一般的に「非代替性トークン」と略されます。
一般的なデジタルデータは無限にコピー可能であり、さらに改ざんも容易に行うことができます。
しかし、暗号資産にも利用されているブロックチェーン技術を利用して、デジタルデータに唯一無二の価値を持たせることが可能となりました。
このように偽造不可能であり、唯一無二の価値を持つデジタルデータがNFTなのです。
このNFTは2020年を境として、日本国内での認知度は急速に向上しています。
そして2022年10月現在、日本国内におけるNFT認知率は約31%、実際の保有率は約3%という状況となっています。
(参照:MMD研究所調査データ)
今後も更に利用者は伸びると考えられており、益々の発展が期待されている分野なのです。
デジタルデータの唯一性を証明できる技術
前述したように、NFTにはブロックチェーンと呼ばれる技術が根底に存在してます。
ブロックチェーンは、暗号化されたデータブロックの繋がりで構築されたリストであり、それぞれのブロックは前のブロックの「暗号化ハッシュ」を保有しています。
そして、この暗号化ハッシュはデータが改竄されていないことを示す証明書のような役割を持っており、とあるブロックのデータを変更する時にはその後のブロック全てを改変する必要があるのです。
さらに、それぞれのブロックは分散して保管されているため、秘密裏にデータを変更することは極めて困難となります。
このような特性から、ブロックチェーンは暗号資産の公開取引台帳としても利用されているのです。
このブロックチェーンによって、唯一性を証明する鑑定書を紐付けたデジタルデータこそがNFTと呼ばれるものとなります。
つまり現実世界における一点物の絵画や、サイン入りのアイテムのように、デジタルデータに対しても世界で唯一の物だと証明することができるのです。
NFTを活用したサービス
唯一無二のデジタルデータという、これまでになかった新しい概念であるNFTですが、すでに様々なサービスにおいて活用されています。
その中でも最も有名であり、イメージしやすいものは絵画を中心としたアート産業でしょう。
アーティストにとってNFTを活用することはメリットが大きく、従来の流通経路に加えて、直接的に購入者と繋がりながら経済活動を行うことが可能となります。
もちろんNFTはアート業界だけではなく、以下のような業界においても活発に活用されています。
- 金融
- 不動産
- チケット販売
- ゲーム
- スポーツ
- ファッション
まだまだ発展途上の技術であるため、これからも活用の場が増えていくことが見込まれています。
NFTに対する税制度を2022年に国が発表
日本国内においてNFTに注目が集まり、頻繁に取引が行われ始めたのが2020年ですが、新たな技術に対してこれまで法整備が追いついていない状況にありました。
そんな中、2022年4月に国税庁は「NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係」という内容を公表しました。
NFTの取り扱いについては、この公表で初めて暗号資産に対する租税解釈が出されたことになりますが、主に所得税の課税関係についての内容となっています。
記載概要については、以下の通りです。
1 いわゆるNFT(非代替性トークン)やFT(代替性トークン)が、暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるものである場合、そのNFTやFTを用いた取引については、所得税の課税対象となります。
※ 財産的価値を有する資産と交換できないNFTやFTを用いた取引については、所得税の課税対象となりません。
2 所得税の課税対象となる場合の所得区分は、概ね次のとおりです。
(1) 役務提供などにより、NFTやFTを取得した場合
・ 役務提供の対価として、NFTやFTを取得した場合は、事業所得、給与所得または雑所得に区分されます。
・ 臨時・偶発的にNFTやFTを取得した場合は、一時所得に区分されます。
・ 上記以外の場合は、雑所得に区分されます。
(2) NFTやFTを譲渡した場合
・ 譲渡したNFTやFTが、譲渡所得の基因となる資産に該当する場合(その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められる場合)は、譲渡所得に区分されます。
(注)NFTやFTの譲渡が、営利を目的として継続的に行われている場合は、譲渡所得ではなく、雑所得または事業所得に区分されます。
・ 譲渡したNFTやFTが、譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合は、雑所得(規模等によっては事業所得)に区分されます。
(引用:NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係)
つまり、暗号資産といった資産と交換できる場合は「所得税の課税対象」になるということです。
そしてNFTの取得方法によって、所得区分が変更されるということが明記されています。
またNFTを譲渡して利益が発生した場合にも、譲渡所得として課税対象になりますので注意しなければいけないでしょう。
内容については今後も公表されることが考えられますので、常に最新の情報を確認するように心がける必要があります。
NFTの損益計算はどうする?
2022年4月に初めて国税庁より、NFTに関する公表があったことは前述した通りです。
基本的に課税の対象となりますので、NFTの取引を行う場合には内容を良く確認しておく必要があるでしょう。
ここからは、以下の内容にそってNFTの税金面について解説してきます、
- NFT取引で利益が発生するタイミング
- NFTの損益計算の方法
- NFTの損益計算をする上で記録したい情報
NFT取引で利益が発生するタイミング
NFT取引において、課税対象となる利益が発生するタイミングとして主に以下の方法があげられます。
- NFTを購入
- 購入したNFTを売却
- 作成したNFTの販売
1つ目の購入については、暗号資産による支払い時において、その暗号資産を譲渡したという扱いになる場合を指します。
例えば1ETHを10万円で購入し、数年後1ETHが40万円に値上がりしていたとします。
そのタイミングで、1ETHを支払いNFTアートを購入したとき、ETHの価格上昇分に対する含み益が30万円発生したこととなるのです。
そして、その30万円が課税対象となります。
2つ目の売却は、最も多いパターンになるかもしれません。
こちらは単純に購入時から比較した、売却時との価格差がそのまま利益となります。
そして3つ目のNFTの販売は、自身がクリエイターとして作成したものを販売した時に発生する利益を指します。
NFTといったデジタル上の取引になるので、イメージしにくい点があるかもしれませんが、現実世界での物販のように、「NFTが移動した時の差額により利益が発生する」と考えると分かりやすいでしょう。
NFTの損益計算の方法
NFTの損益計算について、購入後の売却の場合には以下の計算式で割り出すことができます。
「NFT売却価格 − 売却するNFTの取得原価」
しかし、その他の損益計算については自身で記録を管理した上で、原価計算や利益の計算を行う必要があります。
さらにNFT取引においては、暗号資産による取引も同時に行うことになるため、暗号資産によって発生した所得も計算しなければいけません。
暗号資産取引に関しては取引所にて履歴を確認できますので、それらを参考に国税庁から公表されているエクセル等で計算しましょう。
NFTの損益計算をする上で記録したい情報
正確な損益計算を行うためには、以下の情報を小まめに記録することをオススメします。
- NFT購入時の年月日
- 購入時の価格
- 売却時の価格
- 取引した暗号資産名
- 取引した暗号資産の数量
- 取引で発生した手数料
これらは自身で管理する必要がありますので、確定申告時に情報が曖昧にならないよう小まめに記録しておきましょう。
NFT取引に対する世界の税制度
日本国内におけるNFTに対する税制は、まだまだ定まっていない点も多いです。
それでは、海外各国においてはどのようになっているのでしょうか。
海外の最新状況を確認していれば、日本の今後の動向も予測することができるかもしれません。
インド
インドは2022年に、暗号資産やその他デジタル資産からの所得に対して30%の税金を課すことを決定しました。
この税率は国内最高税率帯に位置しており、暗号資産をNFT売却による損失は、他所得と相殺できないともしています。
しかしインド国内ではデジタル資産からの収入に対し、30%もの課税は高いとの意見も出ています。
それでもNFTや暗号資産を合法化することで、さらなる発展が期待できるとの声も上がっているようです。
イギリス
イギリスは2022年4月、NFTを王立造幣局において作成する指示を出すなど、デジタル資産の可能性を国を挙げて探っています。
一方で税制上の扱いについては、2022年内を目処に検討を進めるとしており、日本同様に完全に定まっていない状況のようです。
しかし、暗号資産に関しては20%の固定税率が設定されており、詐欺事件調査の一環としてNFTが押収された事例もあります。
この案件により英法執行機関として初めて、付加価値税詐欺としてNFTおよび5,000ポンド(約78万円)相当の暗号資産が押収されました。
そして、押収されたNFTに対しては140万ポンド(約2.2億円)以上の付加価値税詐欺の疑いがかけられているようです。
この事例に関わった人たちが故意に脱税していたのかは不明ですが、日本においても税金知識の不足を原因として、似たような事例が発生する可能性は低くないかもしれません。
シンガポール
シンガポールはNFT取引において発生した所得に対し、課税対象になると2022年3月に公表しています。
しかし、キャピタルゲイン税制が無いため、譲渡の際に発生する利益に関しては税金を課さない方針となっています。
つまり、あくまでNFTの取引から収入を得た場合にのみ課税の対象ということです。
そしてシンガポールの所得税率はアジアで最も低い22%となっており、世界中の高所得者にとってのタックスヘイブンとなっています。
このようなことから他国と比較した際、NFTに対する課税は優しいと言えるかもしれません。
NFT取引に関する制度は変わる?今後の展望を予想
日本における暗号資産やNFTに関する税制は累進課税が適応されているため、利益が高くなればなるほど支払う税金は高額になってしまいます。
所得税の最大税率は45%となり、住民税と合わせるとなんと55%にも達してしまいます。
そのため株式などの投資商品と比較した際、税率が高すぎるといった批判の声も上がっています。
このような点から今後、株式等の金融商品同様に「分類課税」となる可能性も0とは言えないでしょう。
実際、国内におけるFX取引において、開始当初の累進課税から現在は分類課税へと改正されています。
さらに現状では3年間の繰越控除が適用されない暗号資産界隈についても、同様にいつ改正されるわかりません。
現在NFTや暗号資産は税制上において不利な面が大きく、国内投資家にとってはまだ魅力的な商品だと判断されていない側面を持っています。
そのため税制が優遇されることで、株式投資をメインにしている投資家もNFTへと資金分散させる可能性はあるでしょう。
そうすれば、日本国内のNFTの界隈はさらに盛り上がり発展していくことも考えられます。
しかし現在のNFTに関する税制は、ようやく2022年4月に国税庁から初めて公表があったことからも分かるようにまだまだ未熟な状態です。
NFTの発展スピードに税制が追いつかない可能性もありえますので、数年後もしくは数十年後に税金徴収が厳格化することもあり得ます。。
その時、ブロックチェーンに紐付いた情報履歴から、取引を遡った税金を徴収されるという可能性も考えられます。
そのため現在の税制に則った上で、専門家の意見を聞きながら正しい確定申告を行う必要があるでしょう。
NFTの税制度が明確に!損益計算を学んで確定申告に備えよう!
日本国内のNFTに関する税制について解説してきました。
暗号資産やNFTはまだまだ新しい技術分野であり、法律の整備が追いついていないと言えるでしょう。
原則として、利益が発生した時には確定申告による納税が義務となっており、万が一申告漏れとなった場合には、延滞税の発生や重加算税が課せられることも十分にありえます。
NFTに携わるのであれば常に最新の税制度を確認しながら、損益計算を学んだ上で確定申告に備えましょう。