NFTは2021年に急速に認知が広がり、多くの人が購入して自分なりの楽しみ方を見つけつつある状況です。日本でもNFTクリエイターが増えており、インフルエンサーがNFTの面白さや楽しさを発信しています。
ただ、気にはなっているものの、NFTを買うところまで至らない人も多くいます。NFTに興味はあるが購入まで至らない大きな要因のひとつは「購入方法が面倒」ということでしょう。「暗号資産(仮想通貨)の取引所に登録して暗号資産を購入して、さらにウォレットを用意して資金を移動させてマーケットプレイスで購入」というのは、いかにも面倒です。
「参加したいけど面倒」というのはNFTだけでなくweb3全体が持っているデメリットで、通販サイトや動画サイトを利用するような気軽さがないところにweb3の問題点があります。
NFTやweb3に関わる人たちもハードルを低くするよう努力していますが、いまひとつユーザーには伝わっていないのが現状です。
こうしたなか、VISAと並ぶ世界的な決済ブランドであるMastercardが、複数のNFT電子市場で「カード決済」を可能にすると発表しました。Mastercardは「楽天カード」や「セゾンカード」など日本で人気のあるカード会社で導入されているブランドです。
この記事では、Mastercardがどのような戦略で「NFT市場」に参入したのかを詳しく説明し、Mastercardが持っている今後のNFTへの見通しを解説します。
この記事の構成
MastercardでNFTが買える時代へ
Mastercardは日本でもお馴染みのクレジットカードブランドです。世界的にも「VISAとMastercardが2大決済ブランド」という認識は定着しています。
VISAとMastercardはどちらも「決済機能をクレジットカードに付与する」ことを主な事業としており、自社ではカードを発行しません。日本では三井住友カードをはじめ、楽天カードやセゾンカードなど大手のカード会社でMastercardブランドを選択することができ、申し込めばMastercardの決済機能を利用できます。
Mastercardはコンタクトレス決済機能を早くから導入するなど進取の気性に富んだ会社です。NFT市場に将来性を見出しており、積極的な姿勢を見せています。
MastercardがNFTマーケットプレイスで利用可能に
Mastercardは2022年6月9日、web3に決済ネットワークを導入したと発表しました。複数のNFTマーケットプレイスでの決済にクレジットカードやデビットカードの使用が可能になりました。これにより、暗号資産を購入することなくカードを使って直接NFTを購入することができます。
Mastercardの発表によると、同社は1年以上にわたって自社のカード決済ネットワークを拡大してNFTに対応する準備をしてきたとのことです。Mastercardのユーザーは世界に29億人もいると言われており、今回の措置は「大規模のユーザーがカードで直接NFTが購入できるようになった」ことを意味します。NFT市場にとっては大きなインパクトでしょう。
今まではNFTを購入するには以下のようなプロセスを踏む必要がありました。
- コインチェックやビットフライヤーなどの暗号資産取引所に口座を開設する
- 銀行から取引所の口座に資金を移動させる
- イーサリアムなどの暗号資産を購入する
- 購入した暗号資産をウォレットに移す
- ウォレットとマーケットプレイスを連携させる
- マーケットプレイスで販売されているNFTを購入する
普段使っているクレジットカードによってNFTを購入できるなら、以上のような過程は必要なくなり、通販サイトで書籍を買う程度の手軽さでNFTを買えます。
Mastercardは「マーケットプレイスとカード決済の統合によってNFTのエコシステムの成長が期待できる。イノベーションが起こってさらに多くのユーザーを獲得し続けるための手助けとなる」と語っています。
消費者の動向を反映した選択だった
Mastercardは世界初の生体認証機能付きカードを発行したり、非接触決済を早くから導入したりするなど、「新しい事業」に前向きな企業です。消費者の動向を分析して時代を先取りする傾向を持っています。
Mastercardがカード決済によるNFT購入を可能にしたのは、2022年1月のコインベースとの提携が最初です。コインベースのユーザーは保有しているMastercardで直接NFTを購入できるようになりました。
Mastercardが自社のカード決済機能をNFTのエコシステムへ拡大させる決断をしたのは、同社が行ったユーザーの意識調査の結果によるものと言われています。
40ヶ国・3万5,000人を対象にしたアンケートでは、回答者のうち45%がNFTを購入したことがあるか、購入を検討していると答えていることが判明しています。
引用元:NFT News Today
調査の対象となったユーザーのうち50%が「NFTを買う方法として柔軟な選択肢があれば良い」と回答しています。
このほどのMastercardの決断は、ユーザーの消費動向を見て機敏に動いた結果と言えるでしょう。新しい事業に積極的に取り組む同社の方針がうかがえます。
どのNFTマーケットプレイスで使えるか?
Mastercardはすでにアメリカ・ナスダック市場の暗号資産取引所「コインベース(Coinbase)」と提携しています。コインベースがオープンベータ版を2022年5月に公開したマーケットプレイス「CoinbaseNFT」でのクレジットカード決済を実現しています。
今回の決済導入によりMastercardでNFTが購入可能になったマーケットプレイスは以下の通りです。
- イミュータブルエックス(Immutable X)
- キャンディーデジタル(Candy Digital)
- ザ・サンドボックス(The Sandbox)
- ミンタブル(Mintable)
- スプリング(Spring)
- ニフティゲートウェイ(Nifty Gateway)
発表によると、Mastercardによる決済導入はムーンペイとの連携により行われます。ムーンペイはOpenSeaとも提携していますので、OpenSeaでもMastercardによる決済が可能です。
NFTユーザーは歓迎している
Mastercard決済によるNFT購入が可能になった措置をNFTユーザーは歓迎しています。NFTアートの購入やSTEPNのような「to Earn」ゲームを始めるにあたって大きなハードルになるのが「暗号資産の入手」だからです。
暗号資産に触れたことのない人にとっては、取引所に口座を開設するところから始めて、OpenSeaなどのマーケットプレイスでNFTを購入するまでの一連の流れは難解に感じる人が多いでしょう。手間も時間もかかりますし、送金のリスクもあるため、高いネットリテラシーが要求されます。
ガス代を節約するためにPolygonネットワークのNFTを買うとなると、さらに難解になります。Amazonや楽天市場などの通販サイトで買い物をするくらいしかネット取引の経験がない人にとってNFT購入は難解で面倒と言えます。
両替・送金に関する手間をなくさないとNFTやto Earnアプリは一部のファンにしか普及しません。
Mastercardによる決済で簡単にNFTを購入できれば、「to Earn」の世界の活性化にもつながることが推測されます。「to Earn」は初心者・新規参入者がいなければサービスを継続することができないからです。
STEPNやAgletなどを始めるにあたって最初にアイテムを揃えるときにクレジットカードで決済できて、稼いだコインを利確するときもクレジットカード経由で口座振り込みという流れが実現すれば、参入ハードルはぐっと下がります。
引用元:Twitter
NFTユーザー、ゲームユーザーにとっては大歓迎の措置でしょう。
MastercardのNFT戦略
MastercardはNFTやメタバース関連事業に積極的な企業で、「プライスレス」というキャッチコピーを「NFT形式の音楽ファイル」「NFTアート」で使うことを意図する申請書を米国特許商標庁に提出しています。
引用元:Twitter
Mastercardは将来的にNFTやメタバースで商標を活用する可能性があり、NFT事業に取り組み始めています。
ここでは、MastercardのNFT戦略について解説します。
NFT購入プロセスの簡略化
Mastercardはザ・サンドボックスなど複数のNFTマーケットプレイスでNFTをカード決済で購入できるようにしましたが、ここにはMastercardの戦略が感じられます。
Mastercardはweb3事業に将来性を見出しており、いち早く参入することで先行者利益を狙っていると考えられます。NFT、web3の市場拡大を見越したうえでのNFT事業参入です。
Mastercardは公式にも「NFTの購入プロセスを簡単かつ安全にする必要がある」と述べており、「ユーザーがストレスを感じることなく欲しいものを手にする」ようになることを望んでいます。
NFTには潜在的な顧客基盤が世界中に広がっているとMastercardは考えており、「暗号通貨を経由することなく、好きなマーケットプレイスで好きなNFTを購入できる」ようになれば、ますますカード利用が拡大すると期待していると推測できます。
「誰もがNFTを購入しやすくするため」というプレスリリース
Mastercardは2022年1月18日、公式ホームページに「誰もがNFTを購入しやすくするため」というコメント記事を発表しています。
同社のデジタル部門の責任者のひとりである「Raj Dhamodharan」氏が寄稿したこの記事には以下のような内容が記載されています。
- eコマースサイトでTシャツを買うくらい気軽にNFTを買えるようにすべきである。
- 暗号通貨の愛好家が行っている購入プロセスは単純でも直感的でもない。
- NFTはすべての人の手に渡るべきだ。
- NFTの利用が拡大することでクリエイターを支援できる
- NFTはコレクターだけのものでなく、多くの分野で活用できるものだ。
- Mastercardの顧客が安全にNFTを購入できるようにするため、NFTのクレジットカード決済に踏み切った。
MastercardはNFTへ期待を寄せていることが分かります。
他社との差別化を狙っているとの見方
Mastercardは2021年から暗号資産やNFTといったデジタル関連の取り組みを拡大させています。2022年にはアメリカの大手暗号資産取引所のコインベースとの提携を実現し、マーケットプレイス「コインベースNFT」での支払いにクレジットカード決済の導入を目指すと公表していました。
メタバース関連の商標はすでに15件が申請されており、web3やメタバース業界に進出する足固めをしています。
クレジットカード決済ブランドの競合では、VISAはNFTコレクションの代表格である「Crypto Punks」を購入可能にしており、アートや音楽などのNFT事業を拡大するための支援プラン「VISA Creator Program」を開始しています。
American Expressも3月に商標登録を申請し、NFTマーケットプレイスや暗号資産サービスの提供、メタバースでの旅行代理店サービスを計画していることが明らかになっています。
多くの決済ブランドがメタバース・web3・NFT事業に参加を表明するなか、Mastercardは他社との差別化を狙って「NFTマーケットプレイスでの決済利用」へと踏み切ったと考えられます。
Mastercardとweb3との深い関係
すでに述べたように、Mastercardはweb3関連事業に積極的に参入する姿勢を持っていることは明らかです。
Mastercardはweb3関連事業と提携・連携を強化しており、今後は「web3で利用されるメインカードをMastercardブランドにする」ことを狙っていると推測されています。
今までのMastercardとweb3関連事業との提携の経緯を追いつつ、今後のMastercardの戦略の見通しを解説します。
コインベースとの提携
引用元:Coinbase
コインベース(Coinbase)は2012年にアメリカで設立され、世界最大級の株式市場「NASDAQ」に上場している大手の暗号資産取引所です。
コインベースは「世界中で経済的自由を高めていく」ことをミッションとしており、多くのクリエイターが自分の仕事から正当な利益を得られるシステムとしてのNFTに大きな期待を寄せています。
同社は2022年1月、「多くの人がNFT取引に参加できる環境を提供する」ことを理念に「Coinbase NFT」というマーケットプレイスをローンチしました。Coinbase NFTにも「自由なクリエイティビティを実現する」という意図があります。
コインベースはマーケットプレイスのローンチとほぼ同時にMastercardとの提携を発表しています。提携の目的は「誰にでも簡単にNFT取引ができるようにする」ことで、Mastercardの持っている理念とも合致します。
コインベースはMastercardとの提携によって、「NFT購入時の悩みやわかりにくさを解決し、NFTの購入で多くの支払いの選択肢を与える」ことが可能になったと説明しています。
暗号資産関連企業との提携
Mastercardは暗号資産関連企業と次々に提携・買収を行っており、「暗号資産ユーザーがメインカードとしてMastercardを選択する」という流れを作ろうとしています。
2021年にMastercardが行った企業買収や提携の代表的事例として以下のようなものが挙げられます。
- 暗号資産取引所「Gemini(ジェミナイ)」と提携して暗号資産報酬機能付きクレジットカードを発行
- 暗号資産・ブロックチェーンデータ分析企業「CipherTrace(サイファートレース)」の買収
- アジア太平洋地域の暗号資産関連企業「Amber」「Bitkub」「CoinJar」の3社と提携
ジェミナイとの提携では、クレジットカードを支払いで使うことでリアルタイムで暗号資産報酬が付与されます。食事なら最大3%、食料品なら最大2%といった具合です。
多くの企業との提携・買収によって、「Mastercard加盟店で顧客が暗号資産関連サービスを使える」ようにしていく計画です。
このほどのNFTマーケットプレイスとの連携もこういった戦略の一環と言えます。
デジタル資産関連サービス企業との連携
MastercardのNFT関連事業への参入に関して注目すべき動きとして、デジタル資産関連サービス企業「Bakkt(バックト)」との提携が挙げられます。
Bakkt社との連携によって、Mastercardのユーザーは以下のような暗号資産関連サービスを受けることができます。
- 暗号資産の売買
- 暗号資産の保有
- 暗号資産独自のロイヤリティ機能
- 暗号資産対応のデビットカードの発行
つまり、Mastercardを1枚持ってさえいれば、ビットコインの売買もできますし、ウォレットに保管することもでき、またステーキング報酬なども受け取れます。現在の暗号資産ユーザーや投資家、NFTコレクターにとっても利便性は高まります。
こうした動きは確実に日本でも展開されることが推測されます。
「クレジットカードの廃止」も視野に
Mastercardの野望はとどまることがなく、「将来的にクレジットカードそのものをなくす」ことを視野に入れています。
同社は、「ユーザーがカードを使うことなく顔や指紋によって店舗で支払いをする」というテストをブラジルで行っています。
このテストは顔認証や指紋認証などの生体認証方法をメタバースでのビジネスに使用するためのものです。仮想世界ではユーザーがオンラインで仕事をして遊んで買い物をします。こういった世界では、リアルな形で存在するクレジットカードでは十分ではないとMastercardは考えています。
Mastercardが目指している新しい技術では、「スキャナーに手をかざす」「カメラに向かって顔を向ける」ことによって取引が完了できるようになります。
同社の掲げる新技術は、最終的にメタバースの重要な構成要素となると期待されています。デジタルな未来世界で、カードを使わずに生体認証で決済をするという技術は「インフラの重要な一部になる」と同社は主張しています。
Mastercardは米国特許商標庁に15件のNFT・メタバース関連商標を申請しましたが、この出願では「メタバースでの支払い処理」「仮想世界でのイベントでのMastercardの名称追加」などの計画が明らかにされています。
Mastercardは「新しいものが好き」な企業のひとつで、今後もメタバースやNFT関連で提携や買収などを実施していくことが推測されます。
まとめ
MastercardがクレジットカードでNFTを購入できるように複数のマーケットプレイスと提携したことについて解説しました。
最後にこの記事をまとめます。
- Mastercardは2022年6月9日、ザ・サンドボックスなど複数のマーケットプレイスでNFTをクレジットカード決済できるようにすると発表した
- NFTユーザーは、今までの煩雑な手続きを経ることなくNFTが買えるので歓迎している
- MastercardはNFTの購入プロセスを簡単かつ安全にする必要があると公式で発表している
- Mastercardは暗号資産・web3・NFTに将来性を見出しており、多くの企業と連携を進めている
- Mastercardはメタバース空間で生体認証によって決済できるようにする将来を描いている
Mastercardは新しい事業に前向きで、web3に積極的に取り組む姿勢を明らかにしています。今後の動きに注目しましょう。