現在、暗号資産(仮想通貨)市場が大きな広がりを見せていますが、それに伴い各国政府が発行を検討しているCBDC(中央銀行デジタル通貨)というものが大きな注目を集めています。
通貨の決済・管理などを効率化できるとされるCBDCですが、そもそもどのような特徴を持つ通貨なのでしょうか?
この記事では、CBDCの概要や特徴、導入するメリット・デメリットなどをできる限りわかりやすく解説していきます。
また、CBDCと暗号資産の違いや、世界主要国によるCBDCの開発・導入の動向などもご紹介していくので、気になる方はぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?概要や特徴をわかりやすく解説
まずは、CBDCとはどのようなものなのか?という基本情報をご紹介していきます。
「CBDCという言葉は聞いたことがあるけど、どういうものかわからない」という方は、詳しく確認していきましょう。
国の中央銀行が発行・管理するデジタルの中央銀行通貨
CBDCとは、国家の中央銀行が発行・管理を行うデジタルの中央銀行通貨です。
正式名称は「Central Bank Digital Currency」となっており、日本語では「中央銀行デジタル通貨」と呼ばれています。
日本銀行の公式ホームページによると、CBDCは以下の3つの要件を満たすものとされています。
- デジタル化されていること
- 円などの法定通貨建てであること
- 中央銀行の債務として発行されること
上記の要件を見ると少し難しく感じますが、現在使用している紙幣や硬貨ではなく「デジタル化された米ドルや日本円」と理解しておけば現段階では問題ありません。
CBDCはまだ開発の途中であり、各国政府も導入を検討し始めた段階であるため、明確な定義は今後変わっていく可能性があるでしょう。
CBDCは2019年以降に急速に議論が加速してきた経緯がある
そんなCBDCですが、2019年以降、世界各国の政府で急速に導入に関する議論が加速してきた経緯があります。
その大きな理由として、Facebook(現Meta社)が発表した暗号資産「Libra(現Diem)」の存在が大きかったとされています。
画像引用元:Diem Association
Libraとは、2019年6月にFacebookが構想を発表したステーブルコインであり、米ドルや日本円、ユーロなど複数の法定通貨の価格に連動する通貨バスケット型の暗号資産です。
Libraの構想が発表された当時は世界的にも大きな注目を集め、グローバルで利用されるステーブルコインになると期待されていました。
しかし、すでに何十億人というユーザーを持つFacebookがバスケット型ステーブルコインを発行することに対し、各国政府は自国通貨からの資金流出を懸念して規制を行います。結果的に計画は頓挫し、2022年2月にFacebookはプロジェクトからの撤退を表明しました。
この流れから分かるように、各国の政府はFacebookのLibraが既存の法定通貨に取って代わる懸念を持っていたと考えられるでしょう。
国際決済銀行(BIS)は、2020年に発行した年次レポートでこの通説を否定していますが、Libraの存在がCBDCの議論に拍車をかけたことは間違いない事実だと思われます。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)を導入するメリット・デメリット
次に、現在考えられているCBDCを導入するメリット・デメリットについて解説していきます。
なぜCBDC導入の検討が各国政府で積極的に行われているのか知りたい方は、詳しくチェックしていきましょう。
メリット1:通貨の送金や給付を迅速に行うことができる
CBDCのメリットとして、やはり通貨の送金や給付を迅速に行えることが挙げられます。
2020年から全世界で新型コロナウイルスが流行していますが、賃金補償の一環として、各国の政府は国民に対して現金給付を行う政策を進めています。
通常、現金給付を行う際には金融機関を通じて行われますが、仲介業者を挟むことで手続きの遅延や、余分な手数料が発生してしまうことは避けられません。
しかし、CBDCであれば政府(中央銀行)から国民に直接給付ができるようになると言われており、手続きの迅速化を図ることができるとされています。
メリット2:国家が経済状況をより詳細に把握できる
CBDCには、国家が自国の経済状況をより詳細に把握できるというメリットもあります。
現在、PaypayやLINE Payをはじめとした電子決済サービスが大きく普及し、日々莫大な金額がこれらのサービスで決済されていますが、各国政府はこういった電子マネーの動きを正確に把握できていないと言われています。
しかし、CBDCが普及することで詳細なマネーサプライを把握することが可能となり、そのときの経済状況にあわせた最適な金融政策ができるようになるでしょう。
メリット3:取引履歴が残るためマネーロンダリングなどを防止できる
CBDCはデジタルの法定通貨であるため、誰が・いつ・どのような取引を行ったのかという履歴を残すことが可能です。
そのため、マネーロンダリングを未然に防ぐことができるとされており、各国が導入を検討する一つの理由となっています。
CBDCが本格的に普及すれば、現在よりも犯罪組織への資金流入を防止できるようになるかもしれません。
メリット4:紙幣や硬貨の製造コストを削減できる
CBDCの最後のメリットとして、紙幣や硬貨の製造コストを削減できることが挙げられるでしょう。
普段何気なく利用している紙幣・硬貨ですが、その製造・管理・廃棄には莫大なコストがかかっています。
また、コンビニエンスストアをはじめとした現金を扱う小売店では、レジでの現金管理にも人件費などのコストが発生しています。
現金がCBDCへと置き換われば、経済全体で大きなコスト削減ができると言われています。
デメリット1:非常に高いセキュリティレベルが必要になる
CBDCのデメリットとして挙げられるのは、非常に高いセキュリティレベルが必要になることです。
CBDCはデジタル通貨であるため、ハッキングやサイバー攻撃を仕掛け、資産を奪おうとするハッカーは確実に存在すると考えられます。
また、先ほどご紹介した通り、CBDCでの過去の取引履歴は全て記録されているため、個人のプライバシー保護の観点からも、強力なセキュリティ対策は必須と言えるでしょう。
デメリット2:事業者側にはCBDCの対応コストが発生する
CBDCのデメリットとして、事業者側にはCBDC決済などに対応するコストが発生すると考えられます。
例えば小売店であれば、CBDCでの決済手続きをスタッフに教育する人件費や、何か専用の端末を設置する費用が発生するかもしれません。
もちろん実用化が進まない限り正確なことはわかりませんが、導入初期には何かしらの対応コストが発生することは間違いないでしょう。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)と暗号資産の3つの違い
ここでは、CBDCと暗号資産の違いを以下の3つのポイントから解説していきます。
- 通貨の発行体の違い
- 価格変動(ボラティリティ)の違い
- 通貨の発行量の違い
それぞれ順番に確認していきましょう。
通貨の発行体の違い
CBDCと暗号資産の違いとして、まず通貨の発行体が異なるという点が挙げられます。
CBDCは、これまでのドルや円などの法定通貨と同様に、アメリカや日本といった国家の中央銀行が発行する形になります。
しかし、暗号資産は国家によって発行されたものではなく、あるプロジェクトの運営会社や、暗号資産取引所など一民間企業が発行を行っているケースが多いです。
また、ビットコインのようにDAO(自律分散型組織)と呼ばれる中央集権的なリーダーがいない、オープンソースのネットワークによって発行・管理されている暗号資産もあり、国家による影響を受けないという特徴を持っています。
価格変動(ボラティリティ)の違い
CBDCと暗号資産には、価格の変動(ボラティリティ)に関する違いもあります。
上記でご紹介した通り、CBDCは国の中央銀行が発行している通貨であるため、通貨の価値を国家が保証しています。
もちろん為替による価格変動はありますが、暗号資産と比較すると価格変動が起きにくい特徴があることは間違いありません。
一方、暗号資産の多くは取引の流動性がまだまだ低く、かつ市場全体が成長段階であるため、価格変動が起きやすい特徴を持っています。
また、米ドルなどの法定通貨にペッグするステーブルコインを除き、資産の裏付けがない点も、価格変動の大きくしている要因の一つと言えるでしょう。
通貨の発行量の違い
CBDCと暗号資産の最後の違いとして、通貨の発行量が挙げられるでしょう。
CBDCは、通常の法定通貨と同じく国の中央銀行が管理しており、そのときの経済状況やインフレ率などにあわせて、通貨の発行量を調節することができます。
反対に言えば、CBDCは上限なく市場に供給することも可能と言えるでしょう。
しかし、ほとんどの暗号資産は発行上限枚数があらかじめ決められており、ビットコインなどは2,100万枚が発行上限となっています。
後からこの発行枚数を変更するのは、コミュニティでの同意が必要になるため非常に難しく、CBDCのように中央銀行の一存で簡単に決めることができないという特徴を持っています。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)の開発や導入に関する世界各国の動向
記事の最後に、CBDCの開発や導入に関する世界各国の動向についてご紹介していきます。
各国によってのCBDCへのスタンスが大きく異なるため、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
アメリカ
アメリカは、2022年に入ってから本格的にデジタルドルの発行を検討している国です。
2022年1月には、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)によって「Money and Payments: The U.S. Dollar in the Age of Digital Transformation」というレポートが公表され、CBDCを導入するメリットやリスクなどが詳細に発表されました。
また、同年3月にはバイデン大統領が「暗号資産に関する大統領令」に署名し、CBDCの発行に関連する問題点を検討するよう関係省庁に指示をしています。
この背景には中国によるCBDCの積極的な推進があると考えられ、世界における米ドルの地位を奪われないための意図があると言えるでしょう。
中国
中国は、世界で最もCBDCの導入に積極的な国の一つとして知られています。
実際、中国では2020年10月からCBDCの実証実験を行っており、広東省深セン市の住民を中心にデジタル人民元を配布してきました。
2022年9月時点では、15省・23地域でデジタル人民元の実験を行っていますが、中国政府はこれを全省に拡大していく方針を打ち出しています。
中国人民銀行(中央銀行)は、デジタル人民元の実証実験を全国に広げる方針だ。現在は15省・直轄市にある23地域で実験しているが、範一飛副総裁が19日「段階的に全省に拡大させていく」と語った。取引規模を着実に膨らませて、正式発行に向けて浸透を図る。国営新華社傘下の上海証券報が20日、範氏の発言を伝えた。
特に、中国は自国通貨の人民元の国際化や世界の基軸通貨化を目指していると言われているため、今後もCBDC導入のために積極的な取り組みを行っていくと考えられるでしょう。
日本
2022年4月、日本銀行は「CBDCの発行を行う計画が現時点ではないこと」を公式のレポートで発表しています。
この方針は、CBDCの実証実験の第1フェーズ「概念実証フェーズ1」の報告レポートにて記載されていますが、それにあわせて将来的なCBDC発行に対応できるよう、しっかりとした準備を行うとの方向性も示されています。
おそらくですが、無駄に社会的な混乱を招かないよう、CBDCの発行計画がないことを明確に記載しているとも考えられるでしょう。
現在でも現金決済を行う人口が多い日本において、どこまでCBDCの需要が増えるかわかりませんが、今後の動向には注目しておく必要がありそうです。
イギリス
現状、イギリスではCBDCの早急な導入はないものの、将来的な導入を匂わせている状況となっています。
事実、2021年4月には「Central Bank Digital Currency (CBDC)Taskforce」と呼ばれる、イングランド銀行とイギリス財務省によるCBDC研究のための組織が設立されています。
CBDCの導入は時期尚早としつつも、導入によるメリットや懸念点などを検討している段階と言えるでしょう。
EU(欧州連合)
EU(欧州連合)は、将来的にCBDCを導入することが考えられる地域です。
2021年7月、欧州中央銀行(ECB)は将来的なデジタルユーロ導入のための準備を本格的に開始すると発表しており、2026年以降の通貨発行を目指しています。
欧州中央銀行(ECB)は14日、独自の中銀デジタル通貨(CBDC)であるデジタルユーロの発行に向け、本格的な準備を始めると発表した。コロナ危機で現金離れに拍車がかかるなか、中銀として安全なデジタル決済手段の提供を目指す。金融システムが混乱しないように慎重に準備を進めるため、発行は2026年以降となるとみられる。
欧州中央銀行は、導入のための調査に2年間の時間をかけるとしており、実際にデジタルユーロを発行するまでには最低でも5年間の時間を要するとの考えを持っているようです。
しかし、仮に既存の金融システムに大きな影響を及ぼす場合には、発行自体を取りやめる考えもあるなど、あくまで慎重な姿勢は崩していません。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)の特徴や暗号資産との違いまとめ
今回の記事では、世界各国の政府が導入を検討しているデジタル版法定通貨、CBDC(中央銀行デジタル通貨)について解説してきました。
ご紹介したように、CBDCには通貨の送金・給付を迅速に行えるなどのメリットがある一方、セキュリティ面での懸念点があるなど、まだ本格的な導入には時間がかかると考えられます。
また、CBDCは暗号資産と混合されることが多いですが、通貨の発行体や発行上限枚数などいくつかの違いがあることも解説してきました。
各国の政府によって導入へのスタンスは異なっていますが、今後日本でも本格的にCBDCの導入に関する議論が加速していくと考えられるでしょう。