Twitterの創業者であるジャック・ドーシーは、以前より「Web5」を提唱していましたが、最近になりにわかに注目されてきました。
今回はWeb3のおさらいと、Web3との違いなどを紹介しながらWeb5について解説していきます。
この記事の構成
Web3をおさらい
Web3は日本以外の諸外国では数多くの事業がスタートしていますが、日本でも政治の場で議論され、国をあげて推進していく政策が発表されるようになり、ようやくスタート地点に到達しました。
一方でWeb3についての定義が曖昧で、様々な意見が飛び交い混乱してきているのも事実です。
そこで、改めてWeb3とはどういったものなのか、代表的な項目をあげてみます。
- ブロックチェーンの活用
- 大手企業など管理者への依存からの脱却(Decentralized)
- 個人情報を自らが管理する
特に2つ目のDecentralized、つまり管理者不在の「非中央集権」が最も注目されており、その結果、自らの個人情報は自分自身で管理できるようになるというシステムです。
しかし、最近はこの非中央集権について見解が変わってきています。
政府がWeb3についての取組を発表すると、大手企業が早速Web3への取組を発表しました。
いくつかの例を紹介します。
- 電通グループ企業の電通ジャパンネットワークによる、Web3領域のビジネスを推進するグループ横断組織「web3 clib」を発足
引用:https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000804.html - 大日本印刷がエンターテイメント領域でのファン構築を目指すため、ブロックチェーンを活用したファンエコノミーサービスを展開している株式会社Gaudiyと業務提携
引用元:https://www.dnp.co.jp/news/detail/10161974_1587.html - 株式会社コナミがWeb3、メタバース開発人材の募集を開始
引用:https://www.konami.com/games/corporate/ja/news/release/20221013/ - 株式会社NTTドコモがWeb3の普及に取り組むためアスターネットワークと提携
引用元:https://www.docomo.ne.jp/info/news_release/2022/10/31_00.html
これらの他にも株式会社メンバーズが開始した「Web3.0Business Initiative Lab」の取組に大手企業16社が参加することを発表しました。
引用元:https://www.members.co.jp/company/news/2022/1019.html
個々の解説は省略しますが、今年の9月以降だけでもこれだけ多くの発表がありました。
これら大手企業の参加について、「中央集権的である」という意見があがっていますが、一方でスタートはWeb2で、やがて非中集権的なWeb3となっていくだろうとの意見や、Web2.5であるという呼び方も出てきました。
このあたりが今後どのような展開になっていくかは注目すべきポイントになることでしょう。
Web5の特徴と理念
Web5を端的に説明すると「自分のIDや個人情報を管理する分散型IDネットワークのプラットフォームの構築を目指す世界」です。
詳しく解説していきます。
「Block」の子会社「TBD」により開発
2022年5月、ジャック・ドーシーがCEOを務める「Block」の子会社であり、Web5の開発を手掛ける「TBD」が具体的な構築計画を発表しました。
その第一弾の発表が、同年9月28日ステーブルコインの「USDC」を運営・管理する「CIRCLE」と提携です。
これにより世界規模において、デジタル通貨を主流にした金融アプリケーションの構築を目指します。
その最初のステップとして、国境を超えた送金とステーブルコインを保有できるセルフカストディ・ウォレット(取引所などに依存せず自分自身で管理するウォレット)をサポートしていく予定です。
Web2+Web3=Web5
現在私たちが使用しているインターネットの世界で一番苦労しているのは、Webサービス毎に設定するID情報の「アカウント」と「パスワード」の管理です。
Googleアカウントなどに紐づけて登録できるサービスもあるとは言え、新たにアカウントを作成するサービスも多く、その都度新規登録の手間が発生します。
サイトによってはIDをメールアドレスではなく、別のIDの設定を求められるなど、膨大な数のアカウントを用意し覚える必要があります。
先述している通り、これらのID情報はWeb2ではサイトの所有者(管理者)が保有していますが、自らの手で管理していこうというのがWeb3の考え方です。
TBDの公式ページによると、IDや個人情報を自分自身で保管できる「IDレイヤー」を提供することにより、IDを自己所有しデータを自ら制御する分散型プラットフォームがWeb5であるとしています。
このように、TBDはこのWeb3の考え方であるIDの管理について具体的な方法を示すことにより、Web5の役割を明確に表現しました。
Web5が実現すると「DID(Decentralized ID:分散型ID(分散型識別子))」を提供することになり、ログイン不要で異なるアプリケーション間をシームレスに移動できることが可能になります。
なお、Web5の名前の由来として、Web2の利便性を取り入れて、しかも個人情報を自ら制御するWeb3の理念も取り入れていることから、Web2+Web3=Web5と呼んでいると説明しています。
(引用元:https://developer.tbd.website/blog/what-is-web5/)
Web3との違い
どちらもブロックチェーン技術を活用した分散化ネットワークのシステムを構築するという点は同じですが、決定的な違いは「トークン」の有無になります。
Web3はビジネス、もしくはそれに相当する目的での活用のため、「トークン」を利用して運営されます。
一方Web5はビットコインブロックチェーンを使用したIDに特化した分散型ネットワークを構築し、自身のIDや個人情報を自己管理することの実現を目指しているため、トークンの利用は想定していません。
ジャック・ドーシーが批判するWeb3の問題点
ジャック・ドーシーは以前よりWeb3に対して痛烈な批判を繰り返し行っています。
彼の意見は「Web3は出資しているVC(ベンチャーキャピタル)や投資家が恩恵を受けているだけで、管理者が企業からVCなどへ変更しただけでWeb2となんら変わりない」
との意見を持ち、VCや投資家たちと壮絶なやり取りを繰り返しており、2021年12月20日には「Web3は別のラベルを貼った中央集権的存在だ」とtweetし、多くのフォロワーを解除しました。
(引用元:https://twitter.com/jack/status/1473139010197508098?s=20&t=4nAVXawxDDmkufEGy6k1zA)
この時解除されたのは、a16zの共同創業者であるマーク・アンドリーセン、コインベースCEOのブライアン・アームストロング、ジェミニの共同創業者であるタイラー・ウィンクルボスなどの大物たちも含まれています。
なお、マーク・アンドリーセンはフォロー解除された後、ジャック・ドーシーをブロックし、対立が激化していきます。
ジャック・ドーシーはこのようにWeb3の問題点をあげて、本来あるべき姿の分散型ネットワークであるWeb5の開発に力を注いでいきます。
そしてTBDのWeb5の発表に伴い「インターネットに対する最も重要な貢献になるだろう。チームを誇りに思う。」とtweetし、文末に「RIP web3 VCs(web3 VC、安らかに眠れ)」の文言も追加し投稿しました。
(引用元:https://twitter.com/jack/status/1535314738078486533?s=20&t=OtowMuYZP2hAPOCtR4pZgw)
ビットコインブロックチェーン基盤での開発
Web5の開発を手掛ける「TBD」は「ION」と言われるビットコインブロックチェーン上で動くDIDネットワークを開発しました。
IONの特徴は以下の3点です。
- 分散型
- ビットコインブロックチェーンのレイヤー2として動き、オープンソースでパーミッションレスなネットワーク
- スケーラブル
- 拡張性を考慮して設計されており、ネットワーク全体で1秒あたり数千というDIDの操作が可能
- 検閲と改ざんの回避
- ION DIDは非アクティブ化(DIDの解除)は所有者のみが行えるため、本人以外のいかなる者からの権利侵害から保護される
Web5の構成要素
改めてWeb5をまとめると「自身のIDや個人情報をブロックチェーンによる分散型ネットワークで自ら管理できる」ということです。
TBDはWeb5を構成する要素として3つをあげています。
- DID(Decentralized identifires:分散型識別子)
- VC(Verifiable Credentials:検証可能な証明書)
- DWN(Decentralized Web Node:分散型ウェブノード)
(引用元:https://developer.tbd.website/blog/what-is-web5)
ここからそれぞれを解説していきます。
DID(Decentralized identifires:分散型識別子)
先述したようにWeb5を開発するTBDではIONというビットコインブロックチェーンを活用したネットワークを開発しました。
自分のID情報を自ら所有し管理することを実現しただけでなく、半永久的に保存され、活用されることが可能になり、自分のデータの正当性をいつでも証明することができます。
VC(Verifiable Credentials:検証可能な証明書)
個人の資格情報をWeb上に登録させ、Self-Soveregin identity SDK(自己主権型ID開発ツール)とも呼ばれる第三者への検証可能な証明書とすることを可能にします。
具体的な例をあげて解説します。
- Aさんの運転免許証は、Aさんが車を運転する資格があることを証明できる
- Aさんの大学の卒業証明書は、大学を卒業しているという教育レベルを証明できる
- Aさんのパスポートはその国の政府が発行しており、該当国の国に在籍していることを証明できる
つまり、これらの証明書はAさんを証明していることになります。
上記のような証明書をデジタル上で保管し管理することにより、自らの証明をいつでも簡単に行うことができます。
例えば、Aさんがあるサービスを使用する時に自身について証明する必要がある場合、サイト側は上記のような証明書を閲覧することにより、Aさんを信頼することが可能になります。
このように個人の資格情報などを用いて、本人の証明を可能にする技術がVCです。
DWN(Decentralized Web Nodes:分散型ウェブノード)
DWNの特徴は使用するアプリケーションからデータを分離し、独自の個人データストアのみでデータをホスト(保管作業や管理)することができます。
これによりスマートフォンやPCなど、どこからでもホストすることを可能になり、全てのデータが同期されるようになります。
さらにTBDは、ユーザーの中には利便性のためにベンダーによるホストを望む可能性も視野に入れており、プライベートデータを暗号化できる設計を設けており、プライバシーを維持できるとしています。
(引用元:https://developer.tbd.website/blog/what-is-web5)
ウォレット
ここまで、DIDの保存や管理などについて説明してきましたが、このままではプログラミングスキルが必要など、個人で操作するのはとても困難なサービスとなってしまいます。
そこで、TBDではDIDを管理するウォレットを開発しています。
このウォレットにはDWNに格納されているデータ、DID情報の他、検証可能な資格情報など、あらゆる個人情報を保存、管理することができます。
さらに、アカウント登録が必要なサービスに接続する際にはこのウォレットへのアクセス権を付与させるだけで完結できるようになり、面倒なアカウント登録などが不要になります。
(引用元:https://developer.tbd.website/blog/what-is-web5)
ロードマップ
TBDでのロードマップは以下の通りです。
(引用元:https://developer.tbd.website/blog/web5-roadmap)
現在はマイルストーン1にあたり、Web5の公式発表をした段階です。
2023年になると本格的に始動し、同年の第4四半期にはウォレットアプリのβ版が完成する予定です。
まとめ
Web5が実現すると日常のWebサービスへのアクセスが容易になるだけでなく、旅行などにおける手続きなども簡略化されると期待されており、幅広い活用への可能性に注目が集まっています。