Arweaveは、中央集権的な管理者に依存することなくデータを永続的に保管できる分散型のストレージサービスです。
私たちが日々取り扱うドキュメントやアプリケーションなどのデータは「ストレージ」と呼ばれる場所に保存されています。
そして最近、特定の企業や組織がこのストレージを管理していることがプライバシー保護などの観点から問題視されています。
この記事では、既存のストレージサービスが抱えるこの課題をArweaveがどのように解消し、管理者に依存することなく永続的なデータ保管を可能にしているかを解説します。
この記事の構成
分散型ストレージとは
デジタル社会に生きる私たちは、様々なデータを日常的に取り扱っています。
テキスト、音声、スライド、動画など多様な媒体がありますが、これらを保存する場所がストレージです。
分散型ストレージについて理解を深めるために、従来から存在するストレージの仕組みとその問題点について解説します。
ストレージとは
本来のストレージとは、パソコン上のデータを長期間保管しておくための補助的な記憶装置を指します。
外付けハードディスクやDVD、CDなどがこれに該当します。
また昨今ではパソコンの性能向上に伴い、パソコン自体にデータを保存できる「内部ストレージ」の容量も拡大してきました。
誰もが当たり前のように使っているスマホにも、スマホ自体にデータを保存する内部ストレージがあります。
画像や動画をスマホに大量に保存した結果、「ストレージの空き容量が不足しているためデータを保存できません」といったメッセージを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
扱うデータ量の増加に伴い、内部ストレージや外付けストレージでのデータ保管が困難になってきたことで生まれたのが、オンラインストレージやクラウドストレージと呼ばれる技術です。
Google DriveやOneDrive、iCloudなどのサービスがこれに該当します。
クラウド上のデータ保存領域を用いてデータを保存することができ、サービスによっては有料課金をすることで、物理的なストレージでは実現できないほど膨大な量のデータ保管が可能になります。
オンラインストレージの問題点
物理的なスペースを必要とせずに大容量のデータ保存を実現したオンラインストレージ。しかし、この仕組みには重要な問題があります。
それは、このサービス自体が非常に中央集権的に運営されている点です。
オンラインストレージを用いたデータ保存の仕組みにおいて、データはクラウド上に保存されることになります。
これはつまり、特定の企業が管理するサーバーに保存することに他なりません。
たとえばGoogle Driveの場合、Google Drive上に保存したデータはGoogleが管理しているサーバーに保存されることになります。
私たちが扱っているはずのデータがすべて「Googleの手のひらの上に存在している」ことになります。
このように、特定の企業や組織などの管理者が一括してデータを管理しているという点において、オンラインストレージのサービスは中央集権的であると言えます。
そして、この状況にはいくつかの問題があります。
1つめが、データ消失のリスクです。
オンラインストレージでは、データは企業が管理する一か所(多くとも数か所)のサーバーに保存されています。
仮にそのサーバーがハッキングにあったり、火災など物理的な被害にあったりすると、そこに保存されているすべてのデータが消失してしまう可能性があります。
2つめが、管理者によるデータ閲覧、改ざん、悪用のリスクです。
データを保存している企業の内部に悪意を持った人間がいた場合、保存データの中身を勝手に閲覧したり、場合によっては改ざん、悪用される可能性もあります。
3つめが、データ保存にかかるコストです。
オンラインストレージも、その容量は無限大にあるわけではありません。
データ量が増加すれば空き容量も増やさなければなりませんが、それには膨大なコストがかかります。
また、保存データが増えるほど維持管理のコストも増えるため、データ利用量の増加に伴って負担する費用も際限なく増加していきます。
分散型ストレージとは
中央集権的に運営されているオンラインストレージの問題点を解決しうる新たなストレージサービスとして誕生したのが分散型ストレージです。
分散型ストレージは、特定の企業や組織が管理するサーバーにデータを保存する代わりに、ネットワーク参加者のパソコンやスマホの空き容量を利用してデータを保存する仕組みになっています。
分散型ストレージでは管理者に依存することなく分散的にデータを保管することで、従来のオンラインストレージが抱えていた問題点を以下のように解決できます。
まず1つめのデータ消失のリスクですが、分散型ストレージではデータの保管場所が一か所に集中していないため、ハッキングや災害等でデータが消失する危険性は下がります。
保存場所が一か所に集中している場合、たった1つのサーバーがハッキング被害に遭うことですべてのデータが盗み取られる可能性があります。
災害も同様で、そのサーバーが被害に遭えば保存されているすべてのデータが消失するかもしれません。
一方、分散型ストレージの場合は、データの保存が世界中のネットワーク参加者の端末の空き容量を用いて行われているため、特定のサーバーを狙うようなハッキングはできません。
また、すべてのネットワーク参加者の端末が同時に災害にあうようなこともないでしょう。
このようにデータを分散して保存しておくことで、すべてのデータが破損・消失することをを回避できます。
次に管理者によるデータの閲覧や悪用ですが、そもそもオンラインストレージサービスと違い、分散型ストレージのネットワークには権力が集中するような管理者が存在しません。
したがって、管理者による悪用等は起こらない仕組みになっています。
最後にデータ保存のコストについて。
個人・企業とも各々の端末の空きストレージを限界まで使っているケースは少ないため、世界中のネットワーク参加者の空きストレージの容量を合わせればコストをかけずに新たな空き容量を用意できます。
ネットワーク参加者が利用しているパソコン、スマホなど物理的な端末が破損する可能性は残りますが、データを複数箇所に保管することで回避できます。
Arweaveの特徴
引用元:Arweave
利便性と引き換えに中央集権的なデータ保存・管理の構造を生み出してしまったオンラインストレージに対し、現在様々な分散型ストレージサービスが誕生しています。
Arweaveもその1つです。ここからはArweaveの特徴について解説します。
創業から現在までの経緯
Arweaveは2017年8月にArchainとして発表され、その後2018年2月にArweaveにリブランディング、2018年6月に正式にローンチしました。
Arweaveの創設者は、ケント大学で博士号を取得したSam Williams氏とWilliam Jones氏です。
2019年にはArweaveネットワーク上の最初のアプリケーションとしてPermawebと呼ばれるレイヤーがリリースされ、分散型のウェブサイトやウェブサービスを構築できるようになりました。
2020年1月にはARCA DAOが発足し、非中央集権化が進みました。その後、6月にはスマートコントラクトの実行環境をプロトタイプとしてリリース。
2020年後半から2021年にかけてはイーサリアムキラーと呼ばれるブロックチェーンが注目を集めたこともあり、Arweaveはこれらのブロックチェーンとの連携を進めました。
また、2020年末から2021年にかけてNFTが盛り上がりを見せる中、NFTのデータの保存先として特定のサーバーや中央集権型のオンラインストレージサービスに依存しない分散型ストレージの利用が進みました。
この環境下でArweaveにも期待が寄せられており、Andreessen Horowitz、Union Square Ventures、Coinbase Venturesといった有名ベンチャーキャピタルがArweaveに出資しています。
Arweaveの全体像
ここからはArweaveの技術的な特徴について解説します。
上記の図はArweaveの全体像です。
図の最下部に記載されているARWEAVEは、データストレージを提供するネットワークそのものを指します。
ここではBlockweaveと呼ばれる独自のブロックチェーンのような台帳システムでデータを管理しています。
その上にあるのがPermawebと呼ばれるレイヤーです。このPermawebがArweaveのネットワークを支えるメインの技術になっています。
Permawebはデータを保存する場所、つまりストレージとして機能しています。
「Permanent(永久の)+Web」の名の通り、このレイヤーに保存されたデータは分散化して永続的に保管され、誰かが勝手に変更したり消滅させたりすることはできません。
コンテンツの保存について
次に、Arweaveにおけるコンテンツ保存の仕組みについて解説します。
Arweaveでは誰でもコンテンツを保存したり、あるいは逆に自らのストレージスペースを提供したりできます。
コンテンツを保存したい人は、1GBあたり約7.3ドルの料金を前払いすることで、最低でも200年間に渡りデータを保存することができます。
データ保存期間に制約自体はありますが、最低でも200年という人間の寿命を遥かに超えた年数に渡って保存が可能なため、実質的には永続的な保管ができると言えます。
また、料金がサブスクリプション型ではなく前払い型になっていることも、将来のコストを考える必要がないという点においてユーザー側の大きなメリットになります。
Arweaveは、過去のストレージ価格の動きをもとに、データ保管にかかるコストは将来的に下がっていくと予想しています。
そこで、最初に多めの代金を受け取ることで、ゆくゆくは下がっていくであろう将来のデータ保管のコストをまかなえると考えています。
Permawebにコンテンツを保存したい人は、前払いの料金をArweaveのネイティブトークンであるARで支払います。
利用者が支払ったARは、Arweaveの開発者に対する報酬支払いの他、ストレージスペースの提供者にあたるマイナーへの報酬支払いにも用いられます。
つまりユーザー視点で見れば、保存領域の貸し出しを行うことで報酬を得ることができる仕組みになっています。
セキュリティの高さ
システムのセキュリティが高いことも大きな特徴です。
Arweaveのネットワーク部分に用いられているBlockweaveは、他のブロックチェーンと同じように改ざんが不可能な技術です。
データが改ざんされないセキュリティの高さゆえに、 Arweaveは学術論文や研究データ、報道資料などの重要データの保管に適しています。
最低200年という超長期の保存期間も相まって、安心してデータを預けることができます。
SmartWeave
ArweaveにはSmartWeaveと呼ばれるスマートコントラクトが構築されています。
SmartWeaveでは、ARトークンを使用することで開発者はJavaScriptなど一般的なプログラミング言語を用い、あらゆるタイプのスマートコントラクトアプリケーションを構築できます。
SmartWeaveの特徴の1つが「遅延評価」と呼ばれるシステムです。
従来のスマートコントラクトでは、ネットワークに参加しているすべての端末がそれぞれトランザクションを実行し、承認作業を行っていました。
一方、SmartWeaveではネットワークに参加している端末にトランザクションを実行させることはありません。
スマートコントラクトの実行処理の負荷を、ネットワークに参加している端末ではなくユーザー個人のコンピュータに分散させています。
このシステムを遅延評価といい、バリデータがスマートコントラクトの作業を行わないことで、送金処理等で発生するガス代の抑制に成功しています。
その結果、Arweaveのネットワークを低コストで利用することが可能になり、ユーザーの利便性向上につながっています。
Arweaveの今後の展望まとめ
Arweaveは中央集権的な管理者を必要としない分散型ストレージサービスの一種です。
オンラインストレージサービスが持つ問題点を解消し、ネットワーク参加者の空きストレージを活用することで分散的なデータ管理の仕組みを実現しています。
前払いの料金支払いやSmartWeaveにおけるガス代の抑制など、コスト面でユーザーにとって使いやすい環境も整備されています。
分散型ストレージには他にも種類はありますが、NFTの盛り上がりなどを受けて注目を集めているのがArweaveです。
興味が湧いた方は、データを永続的に保管する場としてぜひ活用してみてください。