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映画業界におけるNFT活用の現状

解説系記事

2021年にブームとなったNFTは、ビジュアルアートの分野をはじめとして音楽、スポーツ、イベント、伝統工芸などさまざまな分野で活用され、その幅は徐々に広がり多様化してきています。映画業界もNFTの大きな流れの影響を受けており、近年徐々に活用事例が増えてきています。本記事では、映画界にNFTが取り入れられた最初の事例を紹介したのち、国内外の映画作品やプロジェクトにおけるNFT活用の事例を挙げ、「映画×NFT」の現状を概観します。

NFT映画の先駆け

NFTは2021年に世界的にブームとなりましたが、同年に映画界でNFTが活用された初期の主だった事例もいくつか挙げることができます。ここでは「NFT×映画」の先駆けと言える重要な事例をあげてその内容を見ていきます。

「クロード・ランズマン:ショアの亡霊」

クロード・ランズマンは、ホロコーストを扱った9時間半に渡るドキュメンタリー映画の大作「Shoah(ショア)」(1985年)で知られるフランスの映画監督です。彼がこの作品を制作するために行った12時間の旅を探るドキュメンタリー短編映画「クロード・ランズマン:ショアの亡霊」の本編が、2021年3月にNFTとしてリリースされました。英国の映画監督アダム・ベンジンによって制作されたこの映画は、第88回アカデミー賞の短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた、世界的に高い評価を獲得している作品です。本作はNFTとしてリリースされた、最初のアカデミー賞ノミネート作品として位置付けられています。

FOXが1億ドルをNFT事業に投入

2021年6月には、アメリカの大手映像制作会社フォックス・エンターテインメントが、NFT事業に1億ドル(約110億円)規模のクリエイター向けファンドを設立することを発表しました。この発表に先立ち、フォックスは5月にブロックチェーン・クリエイティブ・ラボの設立とNFTスタジオの開設を発表しており、既存のコンテンツを活用してNFTを制作する計画を明かしていました。ブロックチェーン・クリエイティブ・ラボは、フォックス傘下の制作スタジオであるベントーボックス・エンターテインメントと共同で運営されており、同社が制作した古代ギリシア神話の世界を舞台にしたコメディーアニメ「Krapopolis(クラポポリス)」において初めてNFTが活用されました。

映画界に大きな影響力のある大手映像制作会社であるフォックスがNFTに参入し、多額の資金を投入しているという事実は、映画界においてNFTが無視できない存在となり始めたということを示唆しています。

MARVELが公式NFTを販売

また、2021年6月には世界のポップカルチャーを牽引し続けるアメリカの巨大企業であるマーベル・エンターテインメントが、NFTマーケットプレイスVeVe(べべ)にて公式NFTを販売することを発表しました。同年の8月にはマーベル初のNFTとして、「Modern Marvel Series 1」と称するコレクションがリリースされ、スパイダーマンのデジタルフィギュアが発売されました。このフィギュアにはポーズが5種類あり、それぞれ販売数が異なっています。このNFTはVeVeの公式アプリで入手することができ、このシリーズは今後も続いていく予定となっています。マーベルは今後も、映画に登場するキャラクターたちをモチーフとした3DフィギュアやデジタルコミックなどをNFTとして販売していくと明かしています。

海外映画とNFT

前章で見た通り、2021年には欧米の映画界を中心にNFTを活用したプロジェクトが登場し始め、大手映像制作会社が参入を表明し多額の資金を投入したことで、映画界においてNFTがますます存在感を増しました。本章では、海外の映画作品に関する比較的最近のNFTプロジェクトを挙げて解説していきます。

ロード・オブ・ザ・リング

ハリウッドの大手スタジオ「ワーナー・ブラザーズ」が、名作映画シリーズである「ロード・オブ・ザ・リング」のNFTを2022年10月21日に発売しました。このNFTのセットは「The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring Web3 Movie Experience」と題され、ワーナーがブロックチェーン企業「Eluvio」と提携したことによって実現しました。

NFTセットの内容は、2001年に公開された「ロード・オブ・ザ・リング」のエクステンデッド版の4K UHDバージョン、8時間以上に及ぶ特典映像、画像ギャラリー、映画に登場する3つのロケーションが体験できるARコレクターズアイテムなどとなっています。3つの異なるロケーションの一つがランダムで含まれる「Mystery Edition」が10,000点、3つのロケーション全てとボーナス画像が付属する「Epic Edition」が999点の、合計10,999点の2種類のNFTとなっており、「Mystery Edition」が30ドル、「Epic Edition」が100ドルで販売されました。

ハリウッド系の映画本編がNFTとして発売されるのはこの事例が初めてですが、「MOVIE VERSE」というウェブサイトが公開されていることからも、今後もさまざまな映画作品でNFTが活用されると予想されています。

ソー:ラブ&サンダー

ディズニーはアメリカの上場企業である「シネマーク」と提携して、マーベルの新作映画「ソー:ラブ&サンダー」のNFTを2022年7月にリリースしました。「ソー:ラブ&サンダー」は、マーベルの人気キャラクターが多数登場する世界的に人気の高い作品で、2022年の大ヒット映画の一つとしても数えられます。このNFTは、シネマークが運営するロイヤリティ・プログラム「Cinemark Movie Rewards」のメンバーがシネマークのウェブサイト上でゲームをプレイすると、1,000個発行されたNFTのうちの1つ入手できる仕組みになっています。NFTはこのために特別にデザインされたデジタルアートで、ファンには嬉しい特典となっています。

パルプ・フィクション

数々のヒット映画を生み出している映画監督クエンティン・タランティーノは、1994年に公開された映画「パルプ・フィクション」の7つの未公開シーンをNFTとして発売することを2021年11月に発表しました。1つ目のNFTのオークションは2022年1月17日から1月31日にかけて開催され、100万ドル(約1億4,000万円)強で落札されるという結果となりました。

しかしアメリカの映画制作会社ミラマックスはこれを著作権侵害であるとして提訴し、裁判問題に発展するという事態となりました。映画の権利はミラマックスが保有しており、タランティーノ監督は脚本を出版する権利を有していますが、NFTはその範疇に入らないとミラマックスが主張したことで裁判に発展。同社はタランティーノ監督にNFTの販売停止を求めましたが、監督は計画を進め続けていました。2022年9月にはようやく両者の和解が成立し、「NFTの可能性を含めて今後のプロジェクトで互いに協力することに合意した」という共同声明が出されました。

この一連の出来事からは、映画の未公開シーンの新しい楽しみ方を提供したと同時に、NFTの権利問題の難しさとリテラシーの問題が浮き彫りになりました。

国内映画とNFT

映画業界のNFTムーブメントは主に欧米を中心に展開され始めましたが、国内の映画業界もその流れを無視しているわけではありません。本章では国内の映画作品におけるNFTプロジェクトの具体的な事例を見ていきます。

軍艦少年

2022年3月1日より、エクシア・デジタル・アセット株式会社が軍艦島のデジタルデータをNFTとして販売し、売上の一部を軍艦島の保全費用として長崎市に寄付するプラットフォームの運営を開始しました。

このプロジェクトは漫画家・柳内大樹氏が描いた漫画『軍艦少年』の、2021年12月に公開された実写映画『軍艦少年』のロケで撮影された画像をNFTにしたものです。撮影は長崎県・長崎市協力のもと立ち入り禁止区域で行われたため、映画自体が廃墟と化した現在の軍艦島の姿を映す文化的価値の高いものとなっており、NFTにはその貴重な立ち入り禁止区域の画像も含まれています。

NFTは専用のプラットフォームで販売されており、売上金の一部は軍艦島の保全費用として長崎市に寄付されます。

オッドタクシー

2021年4月よりテレビで放送され話題となったアニメ「オッドタクシー」のキャラクターを配したデジタルトレーディングカードNFTの販売とマーケットサービスが2022年3月に開始されました。アニメの内容を新しい視点で描いた映画「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」が同年4月に全国の劇場で公開されましたが、このプロジェクトは映画公開に先駆けて行われました。

トレーディングカードは静止画で楽しむレギュラーカード 26種類、後ろ向きから振り返るレアカード 17種類、動いてしゃべるシークレットカード 13種類で構成されており、「PREMA WALLET」アプリをダウンロードしてウォレットを作成し、「ODD TAXIイン・ザ・カードマーケット」に接続することで入手することができます。またマーケット内では「ODDトークン」を購入することでカードの売買ができ、マーケット内で出品することでユーザー同士で売買をすることも可能です。カードの保有数が多いユーザーはランキングの上位に掲載され、ユーザーの信頼度が一目で分かる工夫もされています。クレジットカードでの購入ができるため、仮想通貨の知識がなくても購入できることから、作品のファンが利用しやすいことでも話題となりました。

雨を告げる漂流団地

「スタジオコロリド」の新作長編アニメ映画「雨を告げる漂流団地」は、株式会社A3によるWeb3事業「Otaku Culture Studio」の第一弾としてコラボNFTプロジェクトが行われました。

「Otaku Culture Studio」とは、日本のアニメ・マンガ・ゲームコンテンツをWeb3.0化し、ファンとクリエイターが共に作品を盛り上げる世界を目指して活動するプロジェクトで、すでに日本発のさまざまなコンテンツを世界に向けて発信しています。「雨を告げる漂流団地」はスタジオコロリドの3作目となる作品で、2022年9月16日よりNetflixにて全世界独占配信、および日本全国でロードショーされました。

NFTは作品に登場するキャラクターのドット絵で、アニメの配信と同時にパブリックセールが開催されました。購入するとARフィギュアを入手できたり、ファンコミュニティやグッズ制作への参加権、Otaku Culture Studioが今後発売するNFTの優先購入権などが付与されます。公式サイトによると、2022年12月現在は一次での販売は完売しており、Openseaで二次流通のアイテムを入手できます。

カラダ探し

女優の橋本環奈が主演を務める映画「カラダ探し」のキービジュアルや作品内のシーンを題材にしたアートがNFTとして販売されました。6人のデジタルアーティストが映画をモチーフとしたアートを制作し、デジタルトレーディングカード専門のNFTマーケットプレイス「HABET(ハビット)」にて販売されました。第1弾として2022年10月に発売されたのは、VRアートの第一人者・せきぐちあいみによる主演の橋本環奈を描いたVR作品「SeachForX」で、10月21日にオークションが開始され、300,000円で落札されました。

第2弾では、TAI、瀬崎百絵、pasoputi、白米、AKANEといった5人のアーティストによるコラボレーション作品が合計10点まとめて販売されました。各アーティストが独自の表現で描いた作品は、映画の世界観やキャストの役柄を表したものとなっています。

映画のシーンをアーティストがNFTアートとして制作して販売するこのプロジェクトは、日本の映画業界では初の試みとなっており、注目を集めています。

まとめ

主にドット絵などのビジュアルアートの分野で盛り上がりを見せているNFTですが、音楽、映像、ロケ地、キャストなど複数の要素で構成される映画という媒体においては、NFTの活用の幅は静止画のアートよりも広いと言えます。映画業界においてNFTは未だ浸透しているとは言い難いですが、一部の関連会社では積極的に取り組んでいることが分かりました。著作権や所有権などの問題はありますが、理想的な活用モデルを蓄積していくことで、映画ファンはよりレアで独占的なコンテンツを享受できるようになり、新しい映画の楽しみ方が生まれていくと思われます。

春眠

shunmin

アート関連の仕事をしながら副業ウェブライターとして活動。NFTコレクション運営においては、企画、マーケティング、コピーライティング、情報発信などを担当。NFTによってアートの世界がどのように変化していくかに興味があり、日々情報を収集している。毎日の読書によるインプットを欠かさず、読みやすい文章で丁寧に執筆することを心がけている。
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