日本最大級のフリマアプリを運営する「メルカリ」は、近年暗号資産(仮想通貨)分野にも注力しています。
メルカリのフィンテック(暗号資産・NFT)事業では、メルカリの100%出資会社である「メルコイン」が展開を進めています。2021年12月にはプロ野球のコンテンツを提供する「パシフィック・リーグ マーケティング」と共に、NFT事業へ本格参入することを発表し話題となりました。
それから1年が経過し、事業の進捗はどうなっているのでしょうか。
本記事では、メルカリのフィンテック事業の主な発表や最新情報をまとめていきます。メガベンチャーであるメルカリが、設立後どのような活動を行ったか、何を目指しているか、ぜひチェックしてみてください。
この記事の構成
結論、メルカリのNFT事業は成功しているのか?
暗号資産事業を行う「株式会社メルコイン」は設立から2年弱、NFT事業発表から1年が経過しました。まだ短い年月しか経っておらず、成功か失敗かを判断することは困難ですが、プレスリリースや決算資料を読む限りでは、苦戦しているように感じられます。
現時点の収益事業として確認できるのは「パ・リーグ6球団とのNFT事業」のみです。NFTの売れ行きまでは分かりませんが、おそらく売り上げは多くないことでしょう。単体では赤字が出ていると考えられます。
また、メルコインからNFT事業について新たな発表がされていない点も気になります。2022年は街を歩いて稼ぐ「Move to Earn」や「NFT × 広告」「NFT × アニメ」などが流行し、幅広い用途でNFTが用いられるようになりました。
しかし、メルコインからそうしたことに関連する発表はありませんでした。主には暗号資産交換業への登録を行い、自社エコシステム拡大への足元を固める年となった印象です。
メルコインが関わるフィンテックには、多くの企業が参入を表明しています。メルカリのマーケットプレイスという大きな顧客基盤を活かし、今後どのように競合と対抗し、事業を拡大していくかに注目が集まります。
メルカリのNFT事業 これまでの動き
ここでは、メルカリのNFT・暗号資産事業について、今までの活動内容をまとめていきます。
- 2021年4月:株式会社メルコイン設立
- 2021年8月:株式会社Bassetがメルカリグループへ参画
- 2021年12月:プロ野球12球団とNFT事業で提携を発表
- 2022年4月:メルコインが暗号資産交換業の登録
- 2022年11月:メルカリ Fintech事業戦略発表会 2022を開催
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2021年4月:株式会社メルコイン設立
暗号資産事業を行う「株式会社メルコイン」は、メルカリの100%出資子会社として2021年4月に設立されました。
メルカリは主要事業である不用品売買ができるマーケットプレイス以外にも、フィンテックにも注力しています。フィンテック領域を扱う子会社は「メルペイ」と「メルコイン」の2つです。
メルペイはQRコードや電子決済事業、メルコインは暗号資産やブロックチェーンに関する事業を行う会社です。これらの事業は主要事業との関連性が深く、メルカリの売上をメルペイの残高にチャージできる、ビットコインを購入できる、資産運用、NFT購入など、多くのシナジー効果が期待できると考えられます。
メルカリは、メルコインについて、マーケットプレイス(フリマアプリ)、メルペイに次ぐ柱となるように、事業展開していくことを発表しています。
2021年8月:株式会社Bassetがメルカリグループへ参画
株式会社Bassetは、ブロックチェーンの調査・分析ツールの提供や、フィンテックのコンプライアンスを推進する活動を行う会社です。2021年4月にはビットコインの取引情報の分析や追跡ができるツール「Basset Explorer」の提供を開始し、リアルタイムでの取引監視や不自然な取引の自動検出を実現した実績があります。
暗号資産取引所としての事業を始めるメルコインと、Bassetの持つノウハウを融合することによって、より安全で安心できるサービスを提供できるとして、今回の参画に至ったようです。
今年1月には、国税庁によってNFTに関するガイドラインが発表されるなど、暗号資産に関連する法整備が急ピッチで行われています。Bassetとの提携により最新のコンプライアンスに則った、安心して利用できるサービスが提供されることでしょう。
2021年12月:パ・リーグ6球団とNFT事業で提携を発表
メルカリは、「(パーソル パ・リーグTV公式)PacificLeagueTV」のYouTubeチャンネルや、会員専用サイト「パーソル パ・リーグTV」を運営する「パシフィックリーグ マーケティング株式会社(以後PLM)」と提携を発表しています。
新型コロナにより、プロ野球の観客数は「1,000万人→300万人」へと減少し、PLMは球場外でもファンとの関わりを持つことができないかを模索しました。そうした中、ファンの中には好きなプロ野球選手や球団のグッズをコレクションする人が多くいることに着目し、NFTは親和性が高いとして提携が実現したようです。
PLMの公式サイトからは「パ・リーグ Exciting Moments」という専用サイトへ飛ぶことができます。2023年1月25日現在、専用サイト内では、選手が活躍した場面にフォーカスしたオリジナルNFT動画が、5,000円程度で販売されていました。
動画には販売期間や最大供給量が設定されており、限定性を持たせることでユーザーの購入意欲を刺激する仕組みになっています。
現時点で確認できるメルコインの収益事業は、このNFT事業のみです。メルコインは、今後ブロックチェーンを活用した新たなサービスの提供や、購入者によるコミュニティ化を行う意向を示しています。
2022年4月:メルコインが暗号資産交換業の登録
メルコインは、暗号資産交換業としての登録を行っています。暗号資産交換業の登録は、国内でビットコインなどの暗号資産取引サービスを提供する際に必要になるもので、2023年1月25日現在では、合計31社の登録があります。
メルコインは、メルカリの売り上げ金やメルペイの残高で、暗号資産の購入や資産運用ができるようにするとしています。予定では、2023年内に機能が実装されるようです。
2022年12月:メルカリ Fintech事業戦略発表会 2022を開催
メルカリは、マスコミや取引のあるパートナー企業に向けて、「メルカリ Fintech事業戦略発表会 2022」を開催しました。
メルカリは事業基盤強化のため、今年1月に経営体制の見直しを行っています。従来のマーケットプレイス事業に加えてフィンテック事業にも注力し、2022年内にもいくつかの動きがありました。この発表会は、1年の動きを社外に示すための機会と捉えていいでしょう。
暗号資産に関連する発表は、以下の通りです。
- 売上金をデジタルアセットへ交換する体験への拡大
- 累計4,800万人超の顧客基盤を活用したエコシステムの拡大
「売上金をデジタルアセットへ交換する体験への拡大」については、見出し「2022年4月:メルコインが暗号資産交換業の登録」で紹介した内容が主となります。
また「累計4,800万人超の顧客基盤を活用したエコシステムの拡大」については、次の「メルカリのエコシステム拡大」の見出しで詳しく解説します。
メルカリのNFT事業 今後の動き
次にメルカリのNFT事業について、今後の動きを紹介していきます。
- NFT事業の拡大
- メルカリのエコシステム拡大
- 暗号資産メルコインの今後は不明
それぞれ詳しく見ていきましょう。
NFT事業の拡大
NFT事業の拡大は、メルコインがもっとも注力しているといえるでしょう。現時点で確認できるのは「パ・リーグ6球団(PLM)とのNFT事業」のみですが、今後は「ビットコインの売買→メルカリでNFTマーケットプレイスの運営」への展開が予想されます。
2022年の決算資料を見ると、フィンテックの事業方針は「メルカリグループの特徴を活かした、暗号資産を活用した利便性の高いサービスの提供」と「ブロックチェーン技術を活かしたサービスの開発、提供」の2つです。表現がおおまかで具体的な言及はありませんが、マーケットプレイスの安定した基盤を活かして、フィンテックへの展開をさらに進めていくと考えられます。
また、NFT事業では、新たな媒体との提携があるかもしれません。現時点ではめぼしい情報は見つかりませんが、2023年以降に世の中を驚かすような発表を期待したいですね。
メルカリのエコシステム拡大
エコシステムとは、各社のサービスや製品がつながり循環することで成立するシステム全体のことです。メルカリには累計4,800万人のユーザーがおり、大きなエコシステムを形成できる基盤があります。
メルカリのエコシステムは、大きく2つに分けられます。
- ①マーケットプレイスのエコシステム
フリマアプリ⇄メルカリShops - ②フィンテックのエコシステム
メルペイ⇄メルコイン
「フィンテックのエコシステム」では、メルペイの顧客をメルコインと連携する、メルペイの残高を暗号資産に両替して運用、NFTの決済など、幅広い事業展開が考えられます。
最終的に「マーケットプレイスのエコシステム」と「フィンテックのエコシステム」の連携が進めば、日本でも類を見ない巨大なエコシステムが形成されることでしょう。
暗号資産メルコインの今後については不明
2019年に、メルカリ社内限定の売買に利用できる「暗号資産メルコイン」を社員に付与し、実証実験を行いながら実用化を進めている、というインタビュー記事が発表されました。
また、2021年に株式会社メルコインが設立された際、こちらはあくまで噂レベルですが、暗号資産メルコインがリリースされ上場するのではないか、という話がありました。
さまざまな憶測が飛び交ったものの、ここ1年はメルカリ側から暗号資産メルコインに対しての言及はなく、下火になっていると予想されます。しばらくはメルカリから新たな暗号資産のリリースはないと考えていいでしょう。
まとめ
メルカリのNFT事業は、2021年12月以降に目新しい発表は行われていません。NFT自体は日本で少しずつ普及し始めているものの、事業として成立させていくことに苦戦しているように感じられます。
メルコインの今年の動きを振り返ると、現在はメルカリのエコシステム拡大に注力していると考えられます。マーケットプレイスで抱えるユーザーをどのように自社のサービスに落とし込んでいくか、今後の動きに注目していきましょう。