ブロックチェーンの世界では、ウォレットアドレスの取引履歴や資産額がすべて公開されています。この情報に価値を見出した概念が、「トークングラフ」です。プライバシー保護の風潮が高まる中で、トークングラフは次世代のビッグデータとして期待を集めています。このトークングラフの登場によって、現代のマーケティング手法は一変するかもしれません。
本記事ではトークングラフの特徴について焦点を当てつつ、マーケティングへの活用事例を紹介します。
この記事の構成
ブロックチェーンにおけるトークングラフとは？
トークングラフは、ブロックチェーン登場とともに注目を集めている新たな概念です。現状ではほとんど普及していないものの、今後のビジネスにおいて大きな可能性を秘めています。このトークングラフには、以下の特徴があります。
所有するデジタルデータから持ち主の属性を判定する手法
トークングラフとは、ウォレットアドレスから読み取れるウォレット所有者の属性を指します。ブロックチェーンでは、ウォレットアドレスごとの取引履歴や保有資産といった情報がすべて公開されており、誰であっても閲覧が可能です。
この取引のデータが長期間にわたって蓄積された場合、ウォレットごとに所有者の特性や傾向が現れます。これこそが、「トークングラフ」。例えば、高級ジュエリーブランドが発行したNFTを多数保有しているアカウントがあれば、ウォレットの所有者は高所得の女性だと推定できます。加えて入手ルートや発行期間が限られたNFTを持っていた場合には、所有者の属性をさらに詳細に特定できます。
このようにトークングラフを活用すると、ブロックチェーン上の記録のみでユーザーの分析が可能です。将来的に大衆層にまでブロックチェーン取引が普及すれば、社会全体でより解像度の高いトークングラフが形成されます。このトークングラフこそ、今後のビジネスで重要な価値を持つと予測されています。
NFTやトークンの普及により登場した新しい概念
トークングラフは、ブロックチェーンの普及によって登場した新たな概念です。Web3における商取引では、氏名や年齢といった個人情報は必要ありません。取引は匿名で実行されるため、従来型の顧客情報に基づくマーケティングは不可能です。
その一方で、ウォレットアドレスに紐付いた取引履歴や資産額の情報は、全世界へ包み隠さず公開されています。このブロックチェーンに刻まれたデータの活用が可能だとして、トークングラフという概念が誕生しました。
マーケティングへの活用が期待されている
Web3時代の到来によって、トークングラフのマーケティングへの活用が期待されています。ブロックチェーンの登場によって、あらゆる人物の膨大な取引データが可視化されました。このブロックチェーンに刻まれた情報は、ビッグデータとして大きな価値を持ちます。
現状ではまだマーケティング手法として確立されていないものの、トークングラフの活用方法についてさまざまな検討が進められています。
トークングラフが注目される理由
プライバシー保護に対する社会意識の高まりによって、大手テック企業によるユーザー情報の収集が困難な環境になりました。そこで代替手段として注目を集めているのが、トークングラフです。以下の理由によって、トークングラフはテック企業の間で脚光を浴びています。
プライバシー規制が強化されたから
プライバシー保護の風潮が世界各国で高まりを見せたため、個人情報の収集を必要としないトークングラフに注目が集まりました。
インターネット社会における従来のマーケティング手法では、利用者から集めた情報が不可欠です。なぜなら企業は個人情報を分析して、各ユーザーに最適な広告を配信しているからです。
具体的には、以下の情報が活用されてきました。
- インタレストグラフ・・・ホームページの閲覧履歴や検索履歴
- ソーシャルグラフ・・・SNS上の交友関係
しかし世界的にプライバシー保護の機運が高まっており、個人情報の収集に制限がかかり始めています。そこで、プライバシー保護を重視した手法としてトークングラフに関心が集まっています。トークングラフであれば、氏名や住所といった個人情報が含まれません。今後もプライバシー規制の影響を受けづらいと予測されるため、トークングラフの活用が模索されています。
人々の行動履歴が可視化されるから
トークングラフを用いれば、社会の動きをつぶさに観察できます。従来の世の中では、企業が独自に顧客情報を集めて分析していました。しかし会社や業界を超えた情報共有ができず、得られる知見は限られていました。民間企業のほかに、政府による統計情報も公表されてはいるものの、リアルタイムのデータは得られません。このように情報化社会となった現代でも、人々の行動履歴をすべて可視化するのは困難です。
一方でトークングラフであれば、人々の行動に関して詳細な情報を集められます。世界中から膨大なデータを収集できるうえに、リアルタイムの分析も可能です。企業や国の枠を超えて横断的にデータを分析できるため、新たに出現したビッグデータとして注目を集めています。
誰でもデータにアクセスできるから
トークングラフは、誰であっても平等に活用できます。従来のビッグデータは、GAFAなどの大手テック企業のみが独占的に利用していました。この専有された個人情報こそが、GAFAにおける強大な影響力の源泉です。
しかしトークングラフの分野では、誰もが平等にデータにアクセスできます。なぜならブロックチェーンに刻まれた情報は、広く一般に公開されているためです。よって、個人や小規模の事業者であっても、トークングラフを活用したマーケティングが可能になります。
ブロックチェーン上で生じたデータが共有財産として活用できるため、誰にとってもビジネスチャンスがあります。
トークングラフのマーケティングへの活用例
トークングラフのマーケティングへの活用について、さまざまな組織で模索が続いています。ここでは、トークングラフを活用したマーケティングの具体例を紹介します。
ゲーム愛好家への新作ゲームのNFTエアドロップ
新作のブロックチェーンゲームを発表する際に、ゲーム愛好家に対するプロモーション活動が可能です。例えば、ゲーム関連のNFTを多数所有しているウォレットの所有者は、ゲームに関心があると推測できます。このウォレットに対して新作ゲームのNFTアイテムを配布すれば、プロモーションの一環として機能するでしょう。
貢献度の高いユーザーに対するNFT授与
トークングラフを活用すれば、ボランティア活動などの社会貢献も可視化できます。例えば、ボランティアに参加した人に向けてNFTを配布すれば、社会に対する貢献度を対外的に証明できます。この他に寄付や募金といった活動の功績も、ブロックチェーン上で証明が可能です。昨今の世の中では、企業の社会貢献が重視されています。そのためトークングラフによる社会貢献活動の可視化は、企業のブランディングにも寄与します。
従来の社会では、ボランティアや募金などの慈善行為は可視化できませんでした。しかしトークングラフを用いれば、誰にでもわかる形で社会への貢献度を証明できます。
所有資産や取引履歴に応じた商品提案
ウォレットアドレスの所有者データに基づいた営業活動も可能です。過去の履歴を分析すれば、ウォレット所有者の資産額や関心のある事柄を把握できるからです。これにより見込み顧客の予算や好みを的確に推測できるようになり、効果的なマーケティングを展開できます。
トークングラフマーケティングにおける将来の予想
現状ではブロックチェーン取引の機会は限定されており、解像度の高いデータは収集できません。しかし将来的に、一般大衆層までがWeb3を利用するようになると、トークングラフはマーケティングのあらゆる場面で活用されるようになります。
現実世界と連動したトークングラフの形成
将来的にブロックチェーン上での取引がさらに普及すれば、現実世界と連動したトークングラフの形成が可能になります。
例えば、特定の店舗でのみ配布されるNFTや映画館の入場記念NFTなど、現実世界での体験によってトークングラフが形成されるでしょう。現実世界での行動が反映されればトークングラフの解像度が上がり、マーケティングにおいて大きな価値を持ち始めます。
NFTのユーティリティ拡充
トークングラフがマーケティングに活用されると、NFTのユーティリティ化が進むでしょう。具体的にはクーポン券や会員証など、NFTに現実社会で役立つ機能が盛り込まれます。
そして自社の顧客に対して、積極的にNFTを配布するようになると予想されます。なぜならNFT配布によって、自社の顧客がどのようなNFTを保有しているか把握できるからです。このトークングラフの傾向がわかれば、見込み顧客に対して効果的にマーケティングを展開できます。
例えば高級百貨店が会員証NFTを顧客向けに発行した場合、顧客ウォレットの特定が可能です。これらのウォレットを分析すると、顧客の好みや傾向を把握できます。もし顧客のなかでビジネス雑誌の特典NFTを持つ人が多いならば、ビジネス雑誌のNFT保有者を見込み顧客として営業を行います。
このように顧客のトークングラフを特定する目的で、NFTのユーティリティ化と顧客への配布が進むでしょう。
業種を超えたトークングラフの活用
将来的には、業種や企業を超えたトークングラフの活用も活発になるでしょう。現状では企業ごとに顧客情報が管理されているため、企業の枠を超えたマーケティングができません。しかしトークングラフの場合は、業種や企業の枠を超えた柔軟な運用が可能です。
例えば旅行会社と鉄道会社のように、業種の異なる2社が共同でキャンペーンを行う場合でも顧客情報を共有する必要はありません。一方の会社が顧客へNFTを送付し、もう一社がNFTの保有状況をブロックチェーン上で確認できれば良いためです。
このように、トークングラフではシステムの連携や情報共有が不要であるため、横断的なマーケティングへの展開が実現できます。
趣味・嗜好に基づくユーザー同士のコミュニティ形成
トークングラフを用いれば、顧客同士のコミュニティ形成も容易になります。従来の会員制コミュニティでは、企業が中心となって顧客情報の管理やプラットフォーム運営をする必要がありました。このような労力やコストが掛かるため、自社のファンが交流する場を手軽には提供できませんでした。
一方でトークングラフでは、NFTの有無のみで顧客の判別が可能です。自社での顧客管理が不要であり、簡単にコミュニティ形成ができます。もちろん企業だけでなく、顧客主催によるファン交流イベントも可能です。例えば、飲食店が利用者向けにNFTを配布すれば、飲食店のファン同士による交流もできるでしょう。このように従来は難しかった顧客同士の繋がりも、個人情報を収集することなく成立します。コミュニティ形成のハードルが下がり、自社のファン層育成に寄与します。
トークングラフマーケティングの今後の動向
本記事では、トークングラフの特徴やマーケティングへの活用事例について解説しました。トークングラフはマーケティングへの応用も可能であり、今後の発展が期待されている分野です。まだマーケティングの手法として十分に確立されていないものの、将来的に大きな可能性を秘めています。
ベンチャー企業を中心にトークングラフを活用したマーケティングの開発が進んでおり、今後の展開が期待されている分野です。ぜひ、トークングラフマーケティングの動向に注目してみてください。
