Menu

ビジネスでブロックチェーンが効果を発揮する局面とは?検討時の注意事項や現状について解説

解説系記事

DeFiやNFTブームのように、昨今のweb3ではブロックチェーンの投機的な側面ばかりに注目が集まります。その反面で、ブロックチェーンの技術的な革新性にはそれほどスポットライトが当たりません。しかしブロックチェーンの真価は、この技術面にこそ存在します。特にビジネスシーンにおいてブロックチェーンが活用されれば、業務効率を大幅に改善できると期待されています。

それでは、もしブロックチェーン技術をビジネスに導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。この記事では、ビジネスにおけるブロックチェーン導入の意義やユースケースを紹介します。

ビジネス分野でのブロックチェーン導入に向けた機運の高まり

多くの企業が、ビジネスシーンへのブロックチェーン導入に向けて研究・開発を進めています。web3参入への潮流は次第に強くなっており、大手企業も続々と名乗りを上げ始めました。

市況の沈静化により技術的な側面に焦点が集まる

web3への投機的な資金流入が一段落し、ブロックチェーン本来の技術的な価値を見直す風潮が訪れています。

2022年以降、仮想通貨(暗号資産)やNFTの取引相場は低迷を続けています。加えて世界的な政策金利の上昇が、web3市況の悪化に拍車をかけました。結果として短期トレードを目的とした投資家層が離脱し、web3業界は落ち着きを取り戻しました。

投機的な話題が去ったことで、あらためて見直されたのがブロックチェーンの「技術面における革新性」です。特に「スマートコントラクト」を始めとするブロックチェーン固有の技術には、ビジネスの在り方をも変革する可能性が秘められています。そのため従来の主役であった個人愛好家だけでなく、大手企業もブロックチェーンへの参入を検討し始めました。

日系の大手企業によるweb3開発が本格化

日本においても、大手企業によるweb3参入が続々と発表されています。例えば、NTTドコモや三菱UFJ信託銀行など、業界を代表する会社も名乗りを挙げました。ブロックチェーン技術を用いた事業展開について模索されており、各社による開発が進行中です。

これらのブロックチェーンサービスは業務システムの基盤として開発されているため、将来的に業界全体へ波及する可能性も。このように日本企業でも、ビジネスの現場へのブロックチェーン導入が本格的に検討されています。

ビジネスにおいてブロックチェーンが効果を発揮する場面

ブロックチェーンは、業務のあらゆる課題を解決できる訳ではありません。従ってブロックチェーンの特性と業務内容を鑑み、導入の可否を判断する必要があります。ここでは、ブロックチェーンの特性を発揮しやすい場面について紹介します。

事業者間で情報を正確に共有したいとき

複数の企業をまたいで正確な情報共有をしたい場合に、ブロックチェーンは効果を発揮します。ブロックチェーンは単一のサーバーでは成り立たず、いくつものノードの組み合わせによって真価を発揮します。このノードを各企業に設置すれば、企業間での迅速な情報共有が可能です。

ブロックチェーンではそれぞれのノードが協調して、正確な記録が共有されます。そのため、情報の食い違いや転記ミスの心配がありません。加えてデータの改ざんができないため、記録の正当性も保証されます。

事業者間で自動的に手続きを進めたいとき

企業間をまたぐ手続きを自動で正確に進めたい場合に、ブロックチェーンは有効です。ブロックチェーンには「スマートコントラクト」と呼ばれる契約の自動執行プログラムが存在します。このスマートコントラクトを活用すると、他社との自動取引も可能です。

例えば港湾において貨物船へ燃料補給をする際に、スマートコントラクトを用いると以下の事務作業を自動化できます。

  • 港湾会社と船舶企業との間での燃料補給量の情報共有
  • 港湾会社から船舶会社への燃料代の請求
  • 船舶会社から港湾会社への燃料代の支払い

たとえ複数の寄港地を経た場合でも、ブロックチェーンにより関係者全員が正確な数値データを共有できます。もちろん、従来の電子メールや書面による事務作業も必要ありません。事業者の間で共有されたデータを元に自動で決済まで完了するため、業務の効率化が可能です。

加えてブロックチェーンを用いると、資金効率が改善します。スマートコントラクトでは月末締めの一括請求ではなく、1回の給油ごとに支払いが実行されます。迅速な入金が可能であり、企業の資金繰り改善にも有効です。

デジタル資産に希少性を付与したいとき

デジタル資産に希少性を加えたい場合にも、ブロックチェーン技術は有効です。従来のデジタルデータは複製が容易であったため、希少価値を持ちませんでした。これに対してブロックチェーンのNFT技術を活用すると、デジタル上の資産にも希少価値を付与できます。

これにより、数量限定のデジタル画像や音楽コンテンツの販売も可能です。ほかにも、ゲーム内のアイテムに希少価値を付与するなど、デジタルコンテンツを実物の資産のように扱えます。

自社ブランドのファンと繋がりを持ちたいとき

自社の顧客と関係性を築きたい場合に、ブロックチェーン技術は最適です。なぜなら、自社が販売したアイテムの保有者を直接的に確認できるからです。特に、不特定多数の消費者に届けられるIP(知的財産)の分野で効果を発揮します。

例えば漫画やアニメの場合、版権元の企業は最終消費者である購入者と直接的な繋がりを持てません。なぜなら書店や出版社を仲介してコンテンツが届けられるため、版権元は顧客と接する機会を得られないからです。しかしブロックチェーンを活用すると、自社が発行したNFTを持つ顧客も簡単に見つけ出せます。これにより版権元が顧客リストを入手できるため、マーケティング活動において有効に機能します。

自社にブロックチェーンを導入する際の確認事項

自社事業へブロックチェーン導入にあたっては、事前に考慮すべき項目が存在します。リスク低減のために、あらかじめ懸念点について確認しましょう。

ブロックチェーン以外で問題を解決する術はないか

自社の課題解決を目指す際に、ブロックチェーン導入にばかり固執してはいけません。ブロックチェーンは注目すべき新技術ではあるものの、導入には一定のコストや労力を要します。加えて自社の環境次第では、ブロックチェーンの特徴を十分に活かせないかもしれません。

そこで幅広い選択肢を視野に入れつつ、ブロックチェーンが自社にとって最適な手段なのかを考えましょう。

自社が取り組むべきレイヤーは適切か

ブロックチェーン導入にあたって、自社が取り組むべき領域は適正なのかを確認しましょう。ブロックチェーン導入といっても、その施策内容は企業ごとに異なります。例えば、以下の選択肢が考えられます。

  • プラットフォームを一から設計・開発する
  • 既存のプラットフォーム上に、自社のアプリを展開する
  • web3企業が展開するサービスを自社へ導入する
  • web3企業に対して、IPなどの資産を貸し出す

ブロックチェーン導入の際は、どのレイヤーまでを自社で手掛けるべきか決めておかねばなりません。

自社でシステム基盤の開発から取り組んだ場合、膨大な時間と労力がかかってしまいます。そこで既存のブロックチェーンを活用したり、web3企業に業務委託をするなどリソースを有効に活用しましょう。

中央集権と自律分散のバランスをどう取るか

ブロックチェーンを導入する際には、「権力の分散化」をどのレベルまで許容するか決めなければなりません。ブロックチェーンは、主に以下の2種類に分類できます。

中央集権型

(プライベートチェーン)

自立分散型

(パブリックチェーン)

特徴 特定の参加者のみが参加できる 誰もが自由に参加できる
長所 ・自社の意向を反映しやすい

・拡張性が高い

・強固なシステムが構築されている

・海外市場への進出が容易

短所 ・閉鎖的な環境になりやすい ・プライバシーを守りづらい

・外部からの情勢に左右されやすい

web3の理念では、自律分散型のパブリックチェーンが理想とされています。しかし自社のコントロールが及ばない範囲が多く、ビジネス用途には必ずしも適合しません。これに対して、プライベートチェーンでは自社の決定権が強くシステムの管理が容易です。

このように、自社の影響が及ぶ範囲はブロックチェーンによって異なります。従って、自社に適した権力バランスを事前に考慮しておく必要があります。

日本法令の懸念点はないか

ブロックチェーン導入にあたって、日本法令へ抵触しないか確認しましょう。web3領域の法体系は未整備の状態であり、不確定要素も多数存在します。加えてパブリックコメントなどによって、政府の方針が突如として変わる可能性も。特にトークン発行や売買の場面では、現行の日本法令に抵触する可能性も否めません。

そのためブロックチェーン導入にあたっては、これら法令面への抵触リスクがないか十分に審査する必要があります。

事業者全体にとって費用対効果があるか

採算性を判断する際には、自社だけでなく参画する事業者全体のコストメリットを考慮しましょう。ブロックチェーン導入には多額のコストが発生するため、自社だけに限定すると費用対効果が合いません。しかしブロックチェーン導入の場面では、自社だけでなく他社にまでコストメリットが波及します。よって費用対効果を考慮する際も、参加者全体のコストメリットを考慮して判断しなければなりません。

エコシステムに衰退の兆しはないか

ブロックチェーン導入の際には、エコシステムに衰退の兆しがないか確認しましょう。パブリックチェーンを採用する場合には、今後もエコシステムが存続するか否かを慎重に判断する必要があります。特に新興ブロックチェーンの場合は、ハッキングや利用者の減少など多くのリスクが考えられます。

ブロックチェーンを選定する際は、イーサリアムのように一定の実績とユーザー数を持つシステムを選びましょう。

ビジネスにおけるブロックチェーンのユースケース

さまざまな業界で、ブロックチェーン導入が検討されています。ここでは、ブロックチェーンの特性を活かしたユースケースについて紹介します。

貿易・通関

ブロックチェーン技術によって、貿易における通関手続きの効率化が可能です。通関では多くの書類が必要であり、国境を越えて各国の担当者と情報共有をしなければなりません。従来は、これらの書類手続きをメールや郵送によって進めていました。

一方でブロックチェーンでは、システム上の操作のみで情報共有や手続きが可能です。船荷証券や銀行保証状といった証書もNFT化できるため、各国の担当者へ瞬時に受け渡しができます。このようにブロックチェーン導入によって、手続きの迅速化や作業ミスの低減を実現できます。

有価証券取引

金融業界では、ブロックチェーンによる有価証券取引の研究が進んでいます。従来の証券取引は、主に証券取引所を介した売買が主流でした。しかし取引所への上場にはコストがかかるため、時価総額の小さな案件は取り扱えませんでした。

しかしNFTの技術を応用すると、低コストで手軽に証券を発行できます。マーケットでの取引に加えて個人取引も可能であり、流動性が大幅に向上します。ブロックチェーンでは証券の小口化にもコストが掛からないため、個人投資家のような新たな顧客層の開拓にも寄与します。

地方自治

地方自治体では、地域通貨の発行にブロックチェーンが検討されています。暗号資産の技術を応用すると、地域限定のデジタル通貨を簡単に発行できます。このデジタル通貨は、補助金やクーポンとして交付が可能です。

従来の電子マネーと異なるブロックチェーンのメリットは、迅速に給付できる点。スマートコントラクトを用いれば、補助金の申請からデジタル通貨の交付までをスピーディーに実施できます。このように給付における事務作業の負荷を軽減できるため、ブロックチェーンは効果的です。

この他にも公文書や証明書の管理において、ブロックチェーン導入が検討されています。

メーカー

ブロックチェーンは、メーカーのサプライチェーン管理にも効果を発揮します。企業の垣根を越えて取引履歴の追跡が可能なため、製品の品質管理に活用できます。またブロックチェーンの記録は書き換えができないため、産地偽装や検査データの改ざんを防止する上でも有効です。

加えてメーカーでは、CO2排出権取引への応用が検討されています。ブロックチェーンならば企業ごとのCO2排出量が透明化される上に、排出権の取引も容易です。そのため、CO2排出権取引のプラットフォームとしてブロックチェーンの研究が進められています。

エンターテイメント

エンターテイメントの分野では、IP(知的財産)コンテンツのNFT化が可能です。音楽や画像、ゲーム内アイテムなどのデジタルコンテンツをNFT化すると、オンライン上で新たな商品を展開できます。これらのNFTアイテムは簡単に売買ができるため、オークションやトレードも可能です。

IPにおけるブロックチェーンのメリットは、原作者が版権手数料を得やすい点です。従来の中古品市場では、CDや漫画が売買されても原作者には収益が還元されません。しかしNFT技術を用いると、転売の際にも取引額の一部を版権元へ還元できます。

このようにクリエイターへのメリットが大きいため、エンターテイメント業界でブロックチェーンは注目を集めています。

ビジネス分野におけるブロックチェーン導入の今後

本記事では、ビジネス分野におけるブロックチェーン導入の注意点やユースケースを解説しました。現状では実用化まで進んでいる事例は少ないものの、さまざまな企業でブロックチェーンの研究・開発が進行中です。よって今後数年のうちに、多くの業界でブロックチェーンを活用したサービスが登場するでしょう。

今回の記事を参考に、自社ビジネスへのブロックチェーン導入を検討してみてください。

段巴亜

dan

Author