代替不可能なデジタルデータを意味する「NFT(Non-Fungible Token)」は、2021年のデジタルアート高額落札をきっかけに、世界的に注目されることとなりました。
デジタルを所有するというこれまでになかった概念をもたらしたNFTは画像データだけではなく、動画や音声といった様々なジャンルで活用されています。
そして2023年現在、国内外において数多くのコレクションが発表され続けています。
その中には注目を集め成功を収めたと言われるものもあれば、コレクションの売れ行きが良くなく、苦戦しているように感じられるものも存在しています。
ここ最近では自動車メーカーのポルシェがNFTコレクションを開始しましたが、思うような結果が出せずに発行を停止した事例もあります。
それでは、NFTプロジェクトの明暗を分けるポイントはどのような部分にあるのでしょうか。
本記事では、日本国内においてNFTプロジェクトを展開するための重要ポイントとして、LLAC(Live Like A Cat)を参考に考察していきます。
この記事の構成
国内NFTコレクションLLAC(Live Like A Cat)とは?
LLACとは2022年12月28日に第1回販売を開始した、日本国内のプロジェクトです。
「働き方への不安」や「たいくつな日常からの脱却」、「性別による役割の強要」といった、人間社会が作り上げた概念を見直すことを提案しており、猫のように自由な生活を実行するためのOSを謳っています。
「猫のように生きる」をコンセプトとして展開される国産ジェネラティブプロジェクトの取引高は476ETHにものぼり、第1回販売時の売上は日本国内のNFTアート売上ランキング1位を獲得。2023年現在、日本国内において最も注目を集めているコレクションといえるでしょう。
まずはLLAC運営の背景について詳しい内容を確認するとともに、NFTコレクションの展開にあたって重要なポイントを確認していきます。
フリーランスの学校の運営者がファウンダー
NFTプロジェクトを立ち上げた人物や団体を「ファウンダー」と呼ぶことが一般的。そして、LLACのファウンダーはしゅうへい氏という人物です。
しゅうへい氏は「フリーランスの学校」というサロンを運営しており、企業に属さずに生活するスキルを教え続けています。
そして「企業に属さずに生活したい」というサロンの目標がそのまま、「猫のように生きる」というLLACのコンセプトにも活かされているといえるでしょう。
このように、元々影響力と認知度が高い人物がファウンダーとなることで、NFT立ち上げ時点で一定数の顧客を確保できます。さらにファウンダーの考え、人柄が色濃く出たコンセプトなどによって、共感を呼ぶことも重要になってくると考えられるでしょう。
SNSで人気のクリエイターがデザイン
NFTアートのリードデザイナーは、「猫型クリエイター」を名乗る猫森うむ子氏。Twitterのフォロワー数は6万人を超えており、元々猫を中心したイラストや図解で人気を博していました。
オリジナルキャラクターである「うむねこ」シリーズでは7万いいねを記録しており、Amazonとの公式コラボも継続して実施。さらにAmazon PayのPROキャラクターにも起用されるなど、日本国内で大注目のアーティストです。
このようにNFTアートのデザイン、さらにはデザイナー自体もある程度話題になることが重要となります。新規で展開されるコレクションの中には、注目を集める他コレクションに寄せたと思われるものも少なくありません。有名デザイナーによる独創性の高いアートをNFT化させるという点も、重要な要素の1つとなるでしょう。
AL対象者を目視で厳選
NFTを販売する際、「AL(Allow List)」と呼ばれる優先購入権を発行することが可能です。
通常のコレクションであればTwitterやDiscordへの登録や、特定のNFTを保有しているユーザーに対してALを発行します。そして、ALを獲得したユーザーは優先的にコレクションを手に入れることができます。
LLACはこのAL対象者を自動で行うのではなく、全て手作業による目視で厳選して行ったといいます。
その理由は、LLACが「投機」の対象として購入されることを防ぐためです。購入後、価格が上がったタイミングで直ぐに売却するユーザーを、LLAC運営は良しとしていません。
コレクションに愛着があり、大切に扱ってくれるユーザーだけが購入してほしいという考えから、AL対象者を厳選しました。つまり、「単にコレクションが売れれば良い」という訳ではなく、販売後のコレクションの動きも想定した状態でスタートされました。
「LLAC」から考察するNFTのプロジェクト成功のポイント
ここまで、LLACに関する基本情報を確認してきました。その中でも、NFTコレクション運営にあたって重要と考えられるポイントは以下の内容があげられました。
- ファウンダーの影響力
- NFTアートのデザイン力
- コレクション運営の計画性
ここからはLLACの運営を更に深堀りしていくと共に、その内容からNFTプロジェクトを成功させるためのポイントを考察していきます。
豊富な販売数と低価格での売出し
LLACの作品数は全体で「22,222点」存在しており、この点数は通常のNFTコレクションと比較しても非常に多くなっています。
一例として2023年2月時点での、日本国内NFTコレクション取引量ランキング上位の作品数を確認してみましょう。
- Murakami.Flowers Official(10,043点)
- DenDekaDen Genesis Omikuji(756点)
- Kiyoshi’s Seeds Project(60点)
- NEOSTACKEY(1,650点)
- Tokyo Mongz Hills Club OFFICIAL(10,000点)
世界的に有名な「CryptoPunks」や「BAYC」でも10,000点であることから、LLACの22,222点がどれだけ豊富なのかがお分かりいただけるはずです。
作品数が少ない場合、消費者心理として「自分の分は無いかも…」と購入自体を諦めてしまうかもしれません。しかし22,222点という作品数は、現在NFTを購入する人口と比較しても潤沢だと言えるはずです。
さらに1作品辺りの価格を0.001ETH(販売時の日本円で約300円)と、低価格で販売させました。このことによって、これまでNFTに興味が無かった層や高価で購入できなかった層を取り込めたと考えられます。
つまり、「売り切れの心配が少ない」ことに加え「試しに購入しやすい価格設定」が、現在NFTプロジェクト立ち上げ時には有効だと言えるでしょう。
数時間での完売によって話題性を煽る
LLACは第1回販売で22,222作品全てを販売した訳ではなく、この時販売された数量は全体の約4割のみに留まります。
残りの数量は運営が引き続き保有し、複数回に渡って販売を継続していくとしています。
このように販売数量を限定することで、短時間で完売することに繋がります。これは大きな話題となり、次回販売はより注目を浴びることに繋がるでしょう。
万が一売れ残ってしまうとユーザーからは「人気のないコレクションなのかな?」と思われてしまうはず。しかし即完売というインパクトは、コレクションのブランド力を高める効果が期待できます。
事前のPRも重要ですが、販売量の調節によってコレクション自体の話題性を煽ることは重要だといえるでしょう。
強力なコミュニティの存在
LLACは独自の無料コミュニティを運営しています。Discord上で活動していますが、基本的には誰もが自由に参加することが可能です。
コミュニティ内では単純に猫が好きな人達との交流や、NFTに関する情報交換がユーザー同士で行われています。さらにLLAC作品の制作過程を知ることができ、アイデアや企画、さらにはマーケティングに参加することもできます。
またファウンダーのしゅうへい氏が運営する「フリーランスの学校」と連動したコーナーもあり、様々な活動ができる場となっています。
このように誰もが楽しめるコミュニティが運営されていますが、LLACコレクションのホルダーは配布されるアイテムやサービスを優先的に受けられるなどの特典が用意されています。
このように、単にNFTコレクションを販売するだけではなく、保有しているユーザー同士で交流できる場を提供することは重要と考えられます。さらにコレクションに興味はあるが、まだ購入していない顧客も取り込めるかもしれません。
リアルグッズとの連動「またたび屋」
NFTはデジタルデータですので、基本的には画面上でしか確認できません。
しかしLLACは「またたび屋」というオンラインショップを運営しており、そこでは様々なグッズが販売されています。
グッズは当然LLACコレクションにちなんだデザインとなっており、ステッカーやキャンバスパネル、手ぬぐいなど幅広い商品が取り扱われています。
商品は前述したコミュニティ内で企画されているので、ユーザーの声を直接ヒアリングしていることが大きな強みだと言えるでしょう。
デジタル空間でしか確認できないNFTアートを、現実世界でも楽しめるリアルグッズはファンの所有欲を満たすために効果的。普段からアイテムを身につけることで、コレクションに対する愛着も一層強くなることが考えられます。
NFTを保有することでのメリットを打ち出す
従来のNFTは「投機」の対象として扱われていた側面が強いですが、LLACでは低価格の販売、豊富な作品数からも「保有」することに重きをおいていると考えられます。これはALを目視で確認するなど、悪質なユーザーを排除しようとする行動からも推察できるでしょう。
さらに活発なコミュニティを運営し、LLACコレクションのホルダーには優先的にサービスを受けられるなどの付加価値を提供しています。このように、NFTを単に購入して終了するのではなく、保有することでのメリットを打ち出す重要性があると言えます。
また、「投機」として扱われることを避けてはいますが、ユーザー心理として保有しているコレクションが値下がりすることは、好ましいことではないでしょう。そのため長期的なコレクションの展望を打ち出し、魅力ある作品へと成長させることも必要です。
ナラティブマーケティングがポイントか?
日本国内で注目を浴びるLLACの運営状況から、NFTコレクション運営を成功させるポイントを考察してきました。
その内容は主に以下の通りとなります。
- ファウンダーの影響力
- NFTアートのデザイン力
- コレクション運営の計画性
- NFT初心者でも手が出しやすい環境
- 活発なコミュニティの運営
- リアルグッズとの連動
- NFTを保有することのメリットを提示
LLACが成功を収めた要因は、これらの要素が合わさったからだといえるでしょう。
もちろんこの内容は、今後NFTを購入する人口が増えていき、取り巻く環境が変わるにつれて変化していくかもしれません。
しかし、一貫して変わらないと考えられるポイントがあります。
それは「コミュニティ」の形成です。
SNSの影響力が増加し、消費者のニーズが多様化している現代において注目されているマーケティング手法に「ナラティブマーケティング」があります。
「ナラティブ」とは物語や語り手といったニュアンスを指す言葉であり、特定のアイテムを使用するユーザー自身に焦点を当てた展開を「ナラティブマーケティング」と呼びます。
この方法の一例として、特定の商品を作り上げた創業者の話ではなく、ユーザーがその商品を使用して得られる生活の変化などを提示するなどがあげられます。つまり、これまでのような企業からユーザーへの一方通行ではなく、双方のコミュニケーションが重要であるという概念が「ナラティブマーケティング」です。
そしてこの交流の場に、コミュニティは欠かせないものとなります。
LLACでの事例ではコミュニティに参加したユーザーが企画に参加し、リアルグッズの作成などに携わっていました。この方法は運営者とユーザーが二人三脚で進めることから、相乗効果によって素晴らしい作品やイベントが生まれることが考えられます。
そして、グッズ作成など、成功した企画に参加したユーザーにも注目が集まり、そこから新たなプロジェクトやイベントが広がっていくこともあるでしょう。
このように、ユーザーが中心となりプロジェクトを展開していくことが、これからNFT運営を成功させる上で重要だと考えられます。
短期的なNFT販売ではなく保有していることでのメリットを提示するためにも、強力なコミュニティ形成は必要不可欠だと言えるでしょう。
特定のジャンルに興味のあるユーザーが集まる重要性
LLACでは「猫」を中心として、その見た目の可愛さや生き方に共感するユーザーが集まっています。そしてそのコミュニティ自体がマーケティングの役割を担い、NFTコレクションをより活発化させています。
従来、ブランドを認知させる方法はテレビCMに代表されるマスマーケティングが中心でした。
しかし現在ではこの役割をコミュニティによって、安価で代用することができます。LLACに共感するユーザーが集まり、各自がSNSで発信する。これだけで十分なブランド認知へと繋がることが考えられるからです。
熱量の高いコミュニティが形成できれば自然と周囲からも注目され、NFTプロジェクト自体のブランド力向上も期待できます。
そういった意味でも、強力なコミュニティ形成がNFT運営の成功には欠かせないといえるでしょう。
NFTは単なるデジタルデータの保有に留まらない
NFTはデジタルアートが高額で取引されたことをきっかけに注目を集めました。
しかし2023年現在では、単にNFTというデジタルデータを保有するだけではなく、その先の付加価値を提示する必要があるといえます。
本記事で参考にしたLLACで確認できたように、活発なコミュニティでの企画への参加や優先的なサービス提供などがその付加価値となります。
そしてコミュニティを健全な場にするため、LLACは悪質なユーザーを排除することを目的にALを目視で確認するといった対策を講じていました。
このようにNFTの販売を目的とすることなく、保有したユーザーへのメリットを第一に考え、その理念が伝わった結果、LLACは注目を浴び成功を収めたといえるかもしれません。
もちろん成功のためには、ファウンダーの影響力やデザインも重要な要素となります。しかしそれ以上に、NFTを保有することによる付加価値の提供が重視されているのではないでしょうか。
これからNFTコレクションを展開しようと考える場合には、ユーザー目線に立った企画、コミュニティの提供が必須となります。運営とユーザーが共同で育てていくNFTコレクションが、これからは求められていくといえるかもしれません。