会員制ビジネスはコンピューターが登場する以前から行われてきた手法であり、現在でも幅広い業界において活用され続けています。
スマホの普及以降は無料アプリの登録や、各種SNSを利用したメルマガでの訴求、さらには有料での情報提供サービスなど数多くの手法が登場しました。
企業にとっても、顧客を囲い込むことによって安定した売上が見込めることから、会員数を増やす為に様々な手法が行われています。
そうした中で2023年現在、会員権をNFT化する企業が現れはじめました。そして、NFT会員権は従来の会員権とは異なる、新しい価値を創造しています。
今回の記事では、そんなNFT会員権について様々な事例、メリットから注意点について幅広く解説していきます。現在の会員制ビジネスをより強化したい、会員制ビジネスへの参入を考えているといった方にぴったりの内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
NFT会員権とは何か?
ブロックチェーン技術を用いたNFT(Non-Fungible Token)は、デジタルデータの所有権を明確にできる技術です。
そのためNFT会員権は取引から保有まで、全てがデジタル上で処理されます。従来はアプリ、もしくは物理的なカードが必要でしたが、NFTを発行するだけで会員権を作成できるのです。
つまり、デジタルデータ自体を会員権として活用したものが「NFT会員権」です。
一見するとNFT会員証は単なる画像データに感じられるかもしれませんが、裏側にはブロックチェーンに購入履歴、保有者が明確に記録されています。ブロックチェーンは他者による改ざんが非常に困難という特徴を持っていることから、会員権を偽造される心配がありません。
実際、幅広い業界において会員権をNFT化する事例が存在しています。以降でそれらの内容について確認していきましょう。
会員権をNFT化した事例
それでは、実際に会員権をNFT化した事例について確認してみましょう。
こちらでは以下の業界における内容をご紹介しますので、ご自身が導入を想定している業界、もしくは近しい分野を参考にすると良いかもしれません。
- ファンクラブ
- 飲食業界
- オンラインサロン・コミュニティ
- ゴルフ場
- ホテル業界
- 書籍
ファンクラブ
ファンクラブは、アイドルや音楽グループを応援する仕組みとして昔から存在しています。定められた入会金や年会費を支払うことで、チケットの先行発売や、クローズドな情報を入手できるなどの特典を受けられます。
ファンクラブのNFT化については、アイドルグループの「BiSH」メンバーである、セントチヒロ・チッチによるソロプロジェクト「CENT」での事例があります。こちらはオークション形式で販売された業界初の試みでしたが、イーサリアム決済の限定10点が全て完売。落札最高額は50万円にものぼり、その注目度の高さがうかがえました。
NFT化された会員権は転売でき、自身が会員であった履歴はブロックチェーン上に永遠に記録されます。そのためファンとしての熱量、貢献度を会員権を手放した後でも証明できる、新しい体験を創造しているといえるでしょう。
飲食業界
古くから一部の高級な飲食店や、老舗の料亭などでは会員制度を採用していたことから、飲食店と会員制の相性は非常に良いといえます。そのため、飲食業界において会員権をNFT化した事例は数多く存在しています。
例えば、特定のNFT保有者のみを会員とした「CryptoBar」と呼ばれる店舗が、東京を中心に増加傾向にあります。こちらでの決済は日本円ではなく、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)のみ対応していることも特徴です。
他にもNFT保有者にのみ住所を明かすといった、秘匿性の高い飲食店の経営を実施している例もあります。会員のみ利用できることから、通常の飲食店以上に顧客との関係性が形成できる上、実際に肩を並べて話し合うことから新しいイノベーションも期待できるでしょう。
オンラインサロン・コミュニティ
オンラインサロンやコミュニティは、NFTコレクションを展開する上で特典として用意されていることが多くあります。Discord上でのやり取りに参加できる権利や、リアルでのイベントの参加資格にNFT保有が求められるのです。
このような通常NFTコレクションにおける流れとは逆に、新たなサロンやコミュニティを作る際にNFTを会員権として発行するのも効果的でしょう。
例えば、ある日本酒メーカーでは自社製品に関する情報を発信するコミュニティを作成し、一部の情報はNFT会員権を所有しているユーザーのみを対象にしています。通常のサブスクではなくNFTを所有し、譲渡することもできるという点が、コミュニティをより活性化させるでしょう。
ゴルフ業界
ゴルフ場は古くから会員制度を活用している業界ですので、様々な事例が存在しています。
例えば、ゴルフ愛好家がゴルフコースを購入するため、資金集めの目的でNFT会員権を発行した事例があります。そして、そのNFT保有者を対象に喫茶利用や商品の割引、さらにはゴルフイベントへの参加券などを提供しています。
他にも、特定のリゾート地に存在しているゴルフ場を利用するためのNFT会員権が発行された事例も存在しています。現在流通している、既存の会員権をNFT化することも十分に考えられますので、今後より一層活発になっていく可能性は高いといえるでしょう。
ホテル業界
ホテル業界においても、古くから会員制度を活用している企業は存在しています。会員制ホテルのメリットは、全国に点在する施設を格安で利用できる上、別荘のように管理する必要がないということでしょう。
従来のホテル会員権を売買する場合、仲介業者を経由して価格交渉を行う必要がありました。さらに、名義変更などの手数料、不動産の移転登記費用、取得税や引取後の年会費など、複雑な手順を踏まなければなりませんでした。
この問題に対して、2023年初頭にスタートした「neut」というリゾート会員権プラットフォームでは、ホテル会員権をNFT化することで、個人間で自由に売買できるようにしました。NFT自体を会員権として扱うため、従来の複雑な手順を必要とすることなく、スピーディーな売買が可能になったのです。現在ではNFTを活用して、伊豆にある一棟貸し切りホテルを利用する権利が販売されています。
他にも一棟単位で数億円する別荘の利用券を、1日単位に分割しNFTとして販売している事例もあります。NFT会員権の所有者同士で実際の不動産を購入するイメージですが、非常に人気が高く既にサービスの拡充が計画されています。
書籍
書籍については、貴重図書の閲覧などに対してある程度の制限がかかることから、それらを読める権利というものは古くから存在していました。しかし、基本的には会員権とは縁が遠い業界に感じられるかもしれません。
フランスの科学雑誌「Science & Vie」は2022年にNFTのメンバーシップを立ち上げ、110枚限定の会員権を発行しました。NFT保有者は編集スタッフとの打ち合わせ、さらに書籍の世界観に関連した特典を獲得できます。
実際は書籍閲覧の権利などではなく、コミュニティに近い存在といえるでしょう。しかし伝統ある書籍、出版業界における事例としては貴重であり、今後はNFT保有者に限定した電子書籍の出版なども考えられるかもしれません。
NFTで会員権を作るメリットについて
事例でも確認してきたように、飲食店やゴルフ場などの業界においては、古くから会員権を利用したビジネスが行われてきました。
現在ではスマホアプリと連動したデジタルな会員権も存在していることから、わざわざNFT化させるメリットを感じられないという方もいらっしゃるかもしれません。
こちらでは、会員権をNFT化することで得られる新しいメリットについてご紹介します。
クローズドな施策が迅速に可能
従来の会員権ではDMによる告知、もしくはアプリ内や各種SNSでの施策案内が中心となっていました。しかしNFT保有者を対象としたコミュニティを形成することで、行動見込みの高い顧客に対して直接営業を実施できます。
そのため、クローズドな顧客に対する施策がこれまで以上のスピード感で実施できるでしょう。さらにコミュニティ内において保有者のリアクションを直接確認することで、本当に求められている施策を的確に把握できるはずです。
コミュニティの一体感が高まる
2023年時点の日本において、NFTを所有している人口は多いとは言えません。だからこそ保有者同士での一体感は高くなる傾向にあります。
通常のアート作品の所有でも活発なコミュニティが形成されることから、「会員」という同じ目的を持った保有者が集まることは、より一体感のある集団になることが考えられるでしょう。
コミュニティの中ではNFT会員権を持っている顧客同士はもちろん、運営側と顧客が直接意見を交わすことも可能となります。さらに、一体感のあるコミュニティを持っていることは、競合他社との明確な差別化に繋がることから、マーケティング面でも優位に働きます。これらの理由からも、NFT会員権の発行は非常にメリットがあるといえるでしょう。
二次流通が容易に可能
NFT会員権は通常のNFTアート同様、容易に二次流通させることが可能です。従来の会員権は持ち主との結びつきが強く、規約やシステム面などの問題から他人への譲渡には複雑な手間が必要でした。
しかしNFT会員権は単なるデジタルデータであるため、所有と譲渡のハードルは非常に低くなっています。さらにお互いのウォレットアドレスが分かっていれば、物理的な距離に関係なく即座に譲渡が可能です。そのため会員の流動が活発になり、クローズドなマーケットでありながら数多くの顧客にアプローチできるでしょう。
NFT会員権の発行方法
NFT会員権を発行するには、Solidity言語を利用したスマートコントラクトの取引ルールを設定する必要があります。スマートコントラクトとは、ある条件を満たした場合にのみ、ブロックチェーン上に設定されたルールに則って、特定のプログラムを実行する仕組みです。
多少の専門知識が必要になることから、現在ではNFT会員権の発行を代理で行うサービスも存在しています。技術面で不安がある場合は、それらのサービスへ発行を依頼しても良いでしょう。
NFT会員権発行のポイント
NFT会員権は単純に流通させれば良いという訳ではありません。
こちらでは、重要となる2点のポイントを解説していきます。
通常の会員権と明確に差別化
現在、通常の会員権を利用したビジネスを展開されている場合は、そちらのサービスと明確な違いを打ち出す必要があります。当然ですが、NFT会員権だからこその魅力を訴求し、差別化しなければ新規顧客の獲得に苦労するかもしれません。
具体的には、以下のような差別化が考えられます。
- クローズドイベントの開催
- サービスを受けられる回数を増やす
- NFT会員のみ対象のコミュニティ形成
- 二次流通が容易に可能
- 不正使用を高いレベルで防げる
- メタバース等を利用したバーチャルイベントの開催
クローズドイベントの開催、サービス回数、コミュニティ形成などは、従来の会員権でも実施できたかもしれません。しかし、NFTでしか実現できない強みは数多くあるはずです。
例えば、ホテル業界の一例でも述べたような二次流通の手軽さや、不正利用の防止は魅力的なポイントになることが考えられます。
実際、ゴルフ会員権などでは顧客から預かった会員権のコピーを販売し、購入者を騙す事件などが過去に発生しています。偽造や改ざんが難しいNFTだからこそ、安心して会員権を所有できるメリットを打ち出すことも必要でしょう。
また、NFT会員権保有者を対象としたメタバース空間でのイベント開催なども、将来的には広がっていくかもしれません。
より細かい内容については業界によっても異なりますが、通常の会員権よりも優れている、NFTを保有するメリットがあると顧客に訴求する必要があります。ご自身のビジネスに合った内容を検討してみましょう。
希少価値を高める
NFT会員権はデジタルデータであるため、発行しようと思えばいくらでも発行できます。しかし、あまりにも発行数を多くしてしまえば希少価値と同時に、価格自体も下がってしまいます。
NFT会員権の希少価値が高ければ高いほど、提供側のステータスやサービスも高いものだと考えられます。さらにNFT保有者は高額で第三者に転売できるなど、お互いにとってメリットが大きくなります。
これまで会員権を利用したビジネスを展開している場合は、発行数の想定を立てることは難しくないかもしれません。しかし、これから新規参入を考えている場合、少数の発行数から段階的に進めることがポイントとなるでしょう。
NFT会員権の注意点
従来の会員権では難しい施策が可能になる上、保有者にもメリットが多いNFT会員権ですが、導入する際の注意点も存在しています。
市場規模がまだ大きくない
2022年8月に実施された調査では、日本国内においてNFTを知っている人の割合は約30%、そして保有している割合は3%程度に留まりました。特に多かった層は20代男性ですが、それでも9%であることから、多くの方はまだNFT技術に触れていないと考えられるでしょう。
このようにまだ市場規模が小さいため、NFT会員権を発行したとしても想定よりも顧客が集まらない場合も考えられます。
しかし、NFTが今後段階的に普及していく可能性は高いでしょう。そのためまだ市場が未成熟な段階から参入することで、数年後に先行者優位が働くかもしれません。
市場のバランスと導入する業界の利用者層などを考慮しながら、会員権の発行を検討する必要があります。
詐欺被害の可能性もある
NFTを利用する場合、詐欺被害の可能性があることは覚えておく必要があるでしょう。これは会員権だけではなく、NFTを利用したビジネス全般に共通することです。
例えば、Discord内などのコミュニティにおいてDMを利用した窃盗やウォレットの乗っ取りなどはよくある手口として知られています。
万が一NFT会員権を保有した顧客がこのような被害にあったとしても、運営側である企業から行える対策はありません。注意喚起をしっかりと行いつつ、顧客自身に詐欺対策を強化してもらう必要があるでしょう。
まとめ
NFTを会員制ビジネスに繋げる方法として、様々な業界の事例からメリット、さらには注意点までを解説してきました。
会員権を利用したビジネス自体は、ゴルフ場や飲食店などにおいて古くから行われてきました。しかし、ブロックチェーン技術を利用したNFTを活用することで、従来の会員権では実現できなかった施策が可能になります。
これまでは「サービスを受ける権利」しかなかった会員権ですが、NFT会員権には「コミュニティへの参加」や「容易な二次流通」などが加わります。
現在のビジネスにおいて、顧客との距離感は非常に重要であると考えられます。NFT会員権を発行することで、熱量の高い顧客と密接に意見を交換しながら、サービスをブラッシュアップしていくことも可能でしょう。
NFT会員権は発行側、保有側にもたくさんメリットが存在しています。まだまだ発展途上の市場だからこそ、数年後先行者有利を獲得するために今から挑戦する価値はあるはずです。本記事の内容を参考に、ご自身のビジネスにNFT会員権をどう活用できるか、ご検討いただけますと幸いです。