WEB3の世界において、コレクタブルNFTは自らの帰属意識を表明するアイテムです。コレクターは自身の持つ作品に愛着を抱き、プロジェクトメンバーの一員としてファンウダーを支援します。実際にNFTプロジェクトの多くは、NFT所有者を中心とした熱狂的なコミュニティに支えられて成長しました。このようなNFTのコミュニティ文化をマーケティングにも応用しようと、さまざまな企業が試行錯誤を続けています。そこで注目を集めているのが、NFTを用いたファンマーケティングです。
今後ブロックチェーンが一般利用者にまで普及すると、NFTを活用したファンマーケティングがより身近な手法になるかもしれません。この記事では、NFTを用いたファンマーケティングの特徴や注意点に焦点を当てつつ、ビジネスでの実例を紹介します。
この記事の構成
NFTを活用したファンマーケティングとは?
NFTを用いたファンマーケティングとは、WEB3コミュニティの結束力を活かしてビジネスを展開する手法です。黎明期の途上であり確立された手法はないものの、新たなマーケティング戦略として期待されています。このNFTを活用したファンマーケティング手法には、以下の特徴があります。
NFTを通じてファンを育成するマーケティング手法
WEB3型のマーケティングでは、NFTを駆使して顧客ロイヤルティを高めます。
WEB3プロジェクトにおいては、見ず知らずの人々が共通のNFTを話題にして交流を深めています。これらの人々が集う空間が、オンライン上のNFTコミュニティです。NFTコミュニティの原動力は仲間たちの間に生じる「盛り上がり」であり、この熱量の大きさによってプロジェクトが拡大しています。
このようなNFT文化が持つ「仲間意識」や「熱量」を取り入れたビジネス手法が、NFTによるファンマーケティングです。顧客ロイヤルティ向上のために、NFTを介してファンと一体感を醸成する戦略です。
NFTの活用方法として注目を集めている
NFTは、マーケティングツールにも活用できます。NFTには株式だけでなく、会員証やSNSアイコン、投票券といった機能も。加えてブロックチェーン上で所有者の取引履歴を参照できるため、購入回数や初回取引日といった顧客データも得られます。他にも、イベントごとに記念のNFTを配布すれば、ファンにとっての勲章として機能します。
このように、NFTへさまざまな機能を付与できるため、従来のファンクラブ会員証よりも便利です。NFT所有者限定のコミュニティへ招待したり、現実社会でクーポンとして利用したりなど、ファンマーケティングを展開する上で幅広い用途があります。
NFTを活用したファンマーケティングのメリット
NFTブームに伴い、さまざまな企業でファンマーケティングへのNFTの活用が検討されています。ここでは、NFTを用いてマーケティング施策を展開した場合のメリットを紹介します。
ファンの存在や貢献度を可視化しやすい
NFTを活用すると、ファンとの関係性や貢献度を可視化できます。なぜなら企業は、NFTの保管先ウォレットの情報を参照できるからです。取引の回数や初回購入日のデータを簡単に閲覧できるため、自社のロイヤルカスタマーを容易に発見できます。
従来のビジネスでは、企業は自社のファンを正確には把握できませんでした。例えばプロ野球の場合では、球団側はファンクラブに加入している顧客としか繋がりを持てません。そのため、一般客として球場に足を運んだファンに対するマーケティングが困難でした。
これに対してブロックチェーンを導入した場合、来場者への記念トークンの配布によって、容易に顧客リストを入手できます。来場回数や初回の来場日まで特定できるので、ウォレットアドレスに対するマーケティングが可能です。
プロセスエコノミーに合致しやすい
プロセスエコノミーと相性が良い点も、NFTのメリットです。NFTプロジェクトの文化では、運営者と参加者が支え合って目標に向かいます。どのプロジェクトも未完成の状態でスタートし、途中経過をメンバー間で共有しながら全員で作り上げていきます。このような風土が生まれる理由は、NFT保有者もステークホルダーの一員であるためです。
このように、NFTコミュニティにはプロセスエコノミーを支援する文化があります。よって企業が商品の開発段階から顧客を巻き込む際に、NFTは有効に機能します。
運営者との距離感が近い
運営者との距離感が近い点も、NFTのメリットです。NFTコミュニティでは、運営者と参加者が対等に交流できます。コミュニティ内で運営者が参加者に対して理念や今後のビジョンを共有する機会も多いため、ファンからのエンゲージメント向上の機会増加に寄与します。
また、NFTコミュニティが閉鎖的な空間である点も魅力です。従来型のSNSよりクローズドな空間で顧客と交流できるため、自社のファンになりやすい特徴があります。
外国市場にも進出しやすい
NFTを活用すれば、海外のファンにも容易に接触できます。ブロックチェーンの世界には国境がありません。そのため海外に点在するファンに対しても、マーケティングを展開できます。
実際に手塚治虫など、日本を代表するIP(知的財産)コンテンツがNFTとして発行されており、海外コレクターの手に渡っています。従来は海外にいるファンと接点を結ぶのは困難でした。しかしNFTを導入すれば、日本から世界中のファンに対してビジネスを展開できます。
運営資金を集めやすい
海外では、NFTを介した資金調達も積極的に実施されています。海外の大型プロジェクトでは、運営者がジェネラティブのNFTコレクションを販売し、その収益を運営資金に充てています。
同様の仕組みとしてクラウドファンディングが既に存在するものの、国境を越えた資金調達は困難でした。しかしNFTであれば、世界各国のファンからグローバルに出資を募れます。株式発行よりも手軽であるため、NFTプロジェクトにおいて広く普及しています。
なお日本国内では、法規制の観点で資金調達を目的としたNFTの発行はできません。海外プロジェクトと同じスキームは採用できないため、注意が必要です。
NFTを活用したファンマーケティングのデメリット
NFTを用いたファンマーケティングは新たな手法として注目を集める一方で、いくつかの懸念事項も存在します。マーケティング施策を展開する際は、NFTを活用した場合のデメリットについても考慮しなければなりません。
NFTが投機対象になりやすい
ファンのために発行したNFTが、投機の対象としてトレーダーの手に渡ってしまうリスクがあります。投機筋はあらゆるNFTプロジェクトに出現し、利益を得ようと短期売買を繰り返します。結果として、本来のターゲットである顧客にはNFTが届きません。加えて投機筋は目先の利益を目的に意見を発するため、長期的な成長を見守りたいという視点を必要とするファンコミュニティにとっては悪影響です。
投機筋を排除する対策として、過度な利益を期待させないようにしましょう。NFTの含み益ばかりをアピールすると、短期売買を目的とした投資家ばかりが集まってしまいます。そこでNFTによる利益ではなく、自社のビジョンや理念を中心とした発信内容を心がけてください。加えて優良顧客にのみNFTを発行するなど、NFT所有者の選別も有効です。
常にコミュニティへ話題を供給しなければならない
ファンの熱量を維持するために、運営者はコミュニティに対して常に新しい話題を提供しなければなりません。もし運営者からの発信が途絶えるとコミュニティの求心力が低下し、ファンが離れていってしまいかねません。
このためファンコミュニティの運営には、多大なマンパワーが必要です。企業でコミュニティを運営する際は専任の担当者を配置し、ファンに対する話題の提供を続けなければなりません。自社が進めるプロジェクトや将来のビジョンについて小出しに発信を続けて、参加者の興味を引き続けましょう。
運営者側のコントロールが及びにくい
NFTを活用したファンマーケティングでは、運営者によるコントロールが効きにくくなります。ファンコミュニティを運営する上で、NFT保有者の声は無視できません。しかし多方面から寄せられる要望にばかり寄り添うと、自社の理念に沿った舵取りが困難となります。
自社の裁量を維持するために、「重要な意思決定はコアメンバーが行う」などコミュニティ内で中央集権的な権限を残しておく対策が有効。WEB3プロジェクトでは参加者の民意が尊重されるものの、事業を進める上での権限の線引きは明確に定める必要があります。
NFTを活用したファンマーケティングの実例
NFTを活用したマーケティング手法は未だ確立されておらず、さまざまな企業による試行錯誤が続いています。ここでは、NFTを活用したファンマーケティングの成功事例について紹介します。
旧山古志村のNishikigoi NFT
Nishikigoi NFTは、町おこしを目的にしたNFTプロジェクトです。新潟県旧山古志村の有志によって展開されたファンマーケティングの事例であり、地域再生の手法として大きな注目を集めました。
Nishikigoi NFTでは、NFT所有者はインターネット上で「デジタル村民」として地域活性化のプロジェクトに携われます。NFTを「住民票」に見立てて、世界中から地域のファンを呼び込んでいます。旧山古志村を支援したい人がデジタル上で集う試みであり、地理的な制約を超えた町おこしが可能です。
なおNishikigoi NFTの詳細は、以下の記事にて解説をしています。
「Nishikigoi NFTとは?NFT活用で人口800人の限界集落を再興する新たな地域づくりについて解説」
バスケットボールのNBA Top Shot
NBA Top Shotは、NBAバスケットボールリーグで発行されているトレーディングカードをNFTで再現したプロジェクトです。選手ごとの名シーンがNFT化されており、アメリカを中心としてファンによる収集やトレードが活発に行われています。
もともとアメリカでは、スポーツ選手のトレーディングカードが人気でした。トレーディングカードによってスポーツとファンが結びついていた歴史もあり、NBA Top Shotでもインターネット上でファンが交流するためのツールとして機能しています。
なおNBA Top Shotの詳細は、以下の記事にて解説をしています。
NBA Top Shotとは?Flowブロックチェーンで開発された大人気NFTトレーディングカードゲームを徹底解説
アディダスのInto the Metaverse
Into the Metaverseは、アパレルブランドのadidasが手掛けたNFTプロジェクトです。このNFTがあれば限定のアパレル商品を購入できるなど、実社会での特典を兼ね備えています。またコミュニティ上にはアディダスのファンが世界中から集っており、ファン同士の交流が生まれています。
Into the Metaverseの展開にあたって注目すべき点は、既存のWEB3ユーザーを上手に取り込んだマーケティング施策です。著名なNFTコレクション「BAYC(The Bored Ape Yacht Club)」の所有者に対して特典を与えたために、WEB3界の有力者を一気に味方に付けました。このBAYCのコミュニティから生じた熱量によって、adidasはWEB3業界において市民権を得ました。
NFTファンマーケティングに参入する際の注意点と対策
WEB3には、独特の慣習や文化が存在します。また新興市場であるため、法令面の整備も追いついていません。このような環境下で自社の施策にNFTを取り入れる場合、いくつか注意すべきポイントが存在します。
事前のマーケティングがプロジェクトの成否に直結する
NFTを活用してファンマーケティングを展開する際は、事前の十分な準備が欠かせません。具体的には、NFTを発行する数ヶ月前からプロモーションやコミュニティ形成を始める必要があります。
ファンマーケティングを展開する上では、「ファンの熱狂」が何よりも欠かせません。この盛り上がりが不十分な状態でプロジェクトを開始すると、話題が生まれないまま失敗に終わってしまいます。このような事態を避けるため、事前にPR活動やコミュニティの育成に十分な時間を投じましょう。
自社の価値観やビジョンを積極的に発信すれば、その内容に共感したファンが次第に集結します。ファンから応援されるような発信内容を心がけて、ファンと共に事業を進めましょう。
WEB3の文化に敬意を示す必要がある
NFTプロジェクトを展開するにあたって、WEB3文化に対して敬意を示さねばなりません。WEB3文化で重視される価値観が、「自律分散」や「利益分配」です。これらの価値観を軽視してマーケティング活動を展開すると、市場からの反発を招きかねません。すなわち自社ブランドにとっては逆風となってしまうのです。
このような理由から、NFTを活用したファンマーケティングでは、自社だけが利益を独占する構造では成功しないといっても過言ではありません。参加者の意見を汲み取り、ファンに対しても利益の一部が還元される仕組みを目指しましょう。
成果が出るまでに長い期間を要する
すぐには成果が現れないため、根気強くマーケティング施策を継続しなければなりません。ファンマーケティングを軌道に乗せるまでには、長い時間を要します。特にファン同士による自発的な交流を生み出すには、数年単位での取り組みが必要です。
よってファンマーケティングの展開には、多大な人的コストが発生します。ファンコミュニティの運営など自動化が難しい領域も多いため、長期的にマンパワーを投じる覚悟が必要です。
金融規制への抵触リスクを認識する
NFTを活用してファンマーケティングを展開する際には、金融規制など法令面への配慮が不可欠です。例えば資金調達を目的としてNFTを発行すると、金融商品取引法に抵触してしまいます。他にも、ランダムに発行されるNFTで過度な博打要素を盛り込むと、賭博罪にあたりかねません。
このように日本でNFT施策を展開する場合には、法規制に対する注意が不可欠。海外で普及している事例であっても、日本の国内法によって水平展開できないケースも存在します。ファンマーケティングにNFTを活用する際には、コンプライアンスチェックを慎重に行いましょう。
NFTを活用したファンマーケティングのまとめ
本記事では、NFTを活用したファンマーケティングの特徴や活用事例について解説しました。NFTを用いたマーケティング施策はまだ登場して間もないため、将来的に市場に受け入れられるか定かではありません。しかしさまざまな企業で試行錯誤が続けられており、大きな可能性を秘めています。
世界的な大手ブランドもファンマーケティングにNFTを活用し始めているため、ぜひ自社の事業への応用を検討してみてください。