「NFTと農業のコラボレーションってどういうもの?」
「NFTを使用して、農業や農家を活性化させる方法があるの?」
「NFTや農業に関連する記事でMetagriというワードを目にするけど、どういったものなの?」
「NFTを活用した新たな産地直送ECの仕組みを教えて!」
今回は、このような疑問を解決する記事です。
最近のコロナ禍やオンライン化に伴い、これまでの農業組合や卸売業者に依存する購買システムではない、産地直送ECの需要が高まっています。さらに、この仕組みにNFTを絡めて、農家を支援することで農業を活性化しようという活動があります。
本記事ではこのような動きやNFTに興味があり、積極的に取り入れたいと考える農家の人たちや、農業に興味があり、今後参画を検討している若い人たちや企業に向けて、最新のNFT技術と農業とのコレボレーション事例を紹介します。
農家の高齢化・跡継ぎ問題に警鐘が鳴らされるようになった昨今。本記事を読むことで、NFTを通じて農業を活性化することにより、未来へと持続可能な農業を構築しようとする取り組みの概要を把握できます。さらに、NFT農業ビジネスに参画するヒントを獲得できますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の構成
農業とNFTとのコラボは難しい?
NFTはデジタルコンテンツの所有権と唯一性の保証に活用されますが、農業は完全にデジタル化できない業界です。農産物を生み出すために、土地、水、太陽光を利用し、物理的に農産物を運搬し、販売する必要があるからです。したがって、農業にNFTを直接利用することは困難です。デジタル世界とフィジカルな農業を何らかの方法で結びつける必要があります。
例えば、農地の所有権情報をデジタル管理し、NFTによって唯一性を証明することができます。また、仮想現実(オンラインゲームやメタバースなど)で消費者が農業を体験し、そのアクションによってデジタル農産物を収穫すると、NFTとして所有権を得ることができ、そのNFTを貨幣や物々交換のように交換する仕組みを作ることができます。
次の章では、そんな農業の世界とNFTとをうまく結び付けたMetagri研究所の例を中心に解説します。
NFTで農業のイメージを一新!?Metagriを紹介
みなさん、Metagriという言葉をご存知でしょうか?NFTと農業にある程度知見がある人になっては馴染みのあるワードかもしれません。Metagriとは「Meta(超越)」と「Agriculture(農業)」を組み合わせた造語です。Metagri研究所は、持続可能な農業の実現に取り組む「株式会社農場人」が運営する農業ブランディングサービスです。農業とNFTを組み合わせたさまざまな事業モデルを実験するため、2022年3月に当初5名からスタートしました。2023年1月現在では350名を超える人々がMetagri研究所のコミュニティに参加。”農業の常識を超越する”をキーフレーズに農家の事業支援を手がけています。
これまでの農業のイメージと儲からない理由
農業のイメージは、豊作貧乏、米価下落、3K(きつい・汚い・かっこ悪い)などネガティブなものがあふれています。一般的に農業は儲からないと思われているのは、人間にとって不可欠な食糧を生産するため、価格が低く抑えられているからです。そのため、農業に参入する人は非常に稀有な存在でした。
農業が儲からない理由として、生活必需品である農作物の価格をある程度一定に抑える「国の方針」や、一般的な作物を大量に作ることが求められている点が挙げられます。市場に出回る作物の量によって単価は上下するため、豊作にもかかわらず、時には収入が二束三文になることがあります。農家がみんな豊作だと、資本主義の中では単価が下がり、「豊作貧乏」と呼ばれる農業が抱える大きな課題となっています。そのため、「売る努力」をしている人は少なく、稼げている農家もわずかです。
NFTを用いた”儲かる農業”の実現方法とMetagriの取り組み
そこで、「儲かる農業」を実現するためには、〝食べる〟以外の「付加価値」を提供することが重要になります。売り方を工夫することで顧客を喜ばせるような、サービス業としての農業。そのためのアプローチのひとつが「NFT」であると考えられます。
NFTは、まだ発展途上の技術ですが、農業に持ち込むことで、既存の枠にとらわれない創造的なアイデアが生まれる可能性があります。そのアイデアを元に新しいサービスや販売方法を考えることで、農業に付加価値を提供し、儲かる農業を実現できるかもしれません。
Metagri研究所では、全国各地の農家と連携して、NFTに関連した新たなプロジェクトを設立し、農家や農業を支援しています。具体的には、「特別購入権」をNFTで発行するというアイデアが挙げられます。これは、市場に出回らない希少な農作物の購入権を持つ人だけが特定のコミュニティや特設購入サイトにアクセスできるようにするもので、もちろんこの権利を転売することもできます。しかし株主優待のように、数年間保持している人には特別なサービスを提供するというような長期保有を促す仕組みもあり、これによってコアファン育成を図っています。
NFTを活用した新たな産地直送ECの仕組み
ここでは、Metagri研究所のNFTを活用した新たな産地直送ECの仕組みを紹介します。
昨今はスマートフォンの普及と新型コロナウイルス感染症の影響により、農家から直接野菜や果物を購入する需要が高まっています。この需要を背景に、産地直送ECプラットフォーム(産直EC)の利用者数が急速に増加しています。農業協同組合や卸売業者に依存することなく自分で価格を決定することができるため、農家にとっては大きなメリットがあります。こうした直接販売の実現により、年間の売り上げが大幅に伸びたという事例もあります。
しかしながら、産直ECを利用する際には、手数料がかかるだけでなく、出品ページの維持管理や顧客対応などが必要となり、農家にとっては大変な負担となる場合があります。特に、「家族農業」といった限られた人材で運営されている場合には、生産だけでなく販売までを一手に引き受けることが難しい状況も考えられます。下記の表ではそうした産直ECを通じた農作物の販売におけるメリットとデメリットをまとめました。
メリット | デメリット |
価格を自ら設定可能 | ECサービス利用手数料が必要 |
市場より高単価で販売可能 | 個別配送手配に時間と費用が必要 |
想いを直接顧客へ伝達可能 | ECサイトの出品ページ作成に時間が必要 |
顧客の生の声を聞くことが可能 | SNSやネットでの宣伝活動の負担大 |
採れたてで新鮮な農作物を発送可能 | 農家同士の競争 |
農業協同組合が取り扱わない規格外の商品も、
工夫次第で販売可能 |
農作物の在庫管理の負担大 |
全国どこへでも販売可能 |
近年、産直ECを利用する農家が増えるにつれ、競合が激化し、同じ農作物でも価格競争が起こることがあります。現在の市場では、単に産直ECに出品するだけでは、簡単に収益を上げることはできません。
そこで、Metagri研究所では、NFTを利用した新しい仕組みを構築しました。この仕組みは、農作物とNFTをセットで販売することで、農作物の付加価値を高めることを目的としています。例えば、スイカを20個限定で販売し、通常1玉3,000円のところを、NFTとセットで一玉1万円という高額な価格設定にすることで、顧客に対して特別感を与え、農作物の付加価値を高めることができます。
一方で、NFTの二次流通市場で購入した人たちには、農作物をセットで提供しているわけではありません。このような人たちにNFTを保有する特別感を感じてもらうために、NFTユーティリティの設計に力を注いでいます。具体的には、NFTホルダー向けに観光農園チケットNFTを提供したり、Discordのホルダー限定チャンネルでNFTの勉強会を実施したりしています。このようなNFTの仕組みによる付加価値の創造が、同様に農業・農家の資金調達方法であるクラウドファンディングとの明確な違いといえるのではないでしょうか。
さらにMetagriは、「Metagri-Marche」と呼ばれるDiscord上のマルシェ出店サービスを運営しています。農家がDiscord上に自らの店(マルシェ)を持ち、田植え体験イベント情報や新米情報を発信。”生産者と消費者が双方向のコミュニケーションを図れる場” となっています。Metagri-Marcheを通じて、生産者は商品について直接消費者に説明することや、消費者からのフィードバックも得ることができます。このような交流を通じてMetagri-Marcheは新製品の開発や持続可能な農業の実現に貢献しており、将来的には東南アジアの農材など世界中に事業を展開する予定です。
【夕張メロンNFT!?】農業DAOの活用による地域活性化を紹介
ここでは、農業DAOの活用による地域活性化の具体事例を解説します。地元の農産物の販売促進に応用できないか、ぜひ確認して下さい。
NFTと夕張メロンのコラボレーション
MeTown株式会社と北海道夕張市農業協同組合が、Web3プロジェクトチームとして地域と都市の融合を目指す中、夕張メロンNFT(デジタル会員証)の一般販売を2023年1月21日から開始しました。これは、夕張メロンの希少性や高齢化による生産量の減少に対応するため、作り手を支援するファンを増やすために立ち上げられた「デジタルアンバサダープログラム」の一環です。
夕張メロンNFTは数量888個限定で0.07ETH/個で販売されており、1つのNFTには、NFTアーティストによるデジタルアート、夕張メロン引換券(1玉を指定の住所に届けられる権利)、JA夕張市公認夕張メロン「デジタルアンバサダー」になる権利が含まれています。
先行販売では105個が2時間で完売し、夕張メロンの人気の高さが感じられます。夕張メロンファンの方々は、このデジタルアンバサダープログラムに参加し、夕張メロンの魅力を広めることで、地域や作り手を支援することができます。
【いちごも!みかんも!】メロン以外の農作物NFTもあります♪
農業NFTは、メロンだけでなく他の農産物でも活用されています。自治体では、いちごやみかんなどのNFTを作成し、地域の発展に役立てています。以下は、その事例の詳細です。
(1)いちごNFTは魅力的な特典が盛りだくさん
農業支援組織である「Metagri研究所」と熊本県山都町のいちご農家「なかはた農園」は、2023年1月15日(いちごの日)に、115点限定のNFT『MetagriLabo Ichigo Collection (略称:MLIC)』の販売を開始しました。
MLICを購入すると、次のような特典があります。
- なかはた農園オンラインいちご狩り参加券
- 新たに取り扱う農業NFTの優先購入権
- Metagri研究所の定例セミナー無料参加券
- Metagri研究所の限定チャンネル(Discord)への参加権
MLICを通じてNFT購入者(消費者)となかはた農園(生産者)との新たな関係構築を支援し、なかはた農園の価値を高め、地域の支援に取り組むことを目指しています。Metagri研究所は今後、「農業×ブロックチェーン」をキーワードに、持続可能な農業の実現に向けたDAO(自立分散型組織)の構築を計画しています。
(2)みかんNFTは人気イラストレーターとのコラボレーション
Metagri研究所は、他の自治体と共同でのNFTプロジェクトも実施しています。愛媛県松山市中島出身の人気イラストレーター、田中哲平氏とのスペシャルコラボレーションNFT(1点)が、2023年1月4日〜1月5日にオークション形式で販売されました。田中氏は、ヴァンガード、Z/X、ガンバライジング、デジモンカードゲーム、『氷結系こそ最強です』などの作品で知られるフリーイラストレーターです。
入札者には、田中氏が手がけたデジタルアート「ナカジマどんな」の原画1種類がエアドロップされ、落札者には同じく田中氏の原画3種類と中島で生産されたみかんが提供されます。第1弾の「ナカジマはれひめNFT」が2022年12月22日に販売され、即日完売したことから、今後も「ナカジマみかんNFT」の新商品が続々と販売される予定です。
このプロジェクトではNFTを通じた新しいコミュニティの形成を目指してDAO(自律分散型組織)のコミュニティ運営支援なども手がけており、関係者を広げることで地域活性化を図っています。
【農業の未来は明るい?】中国の農業におけるDAO活用の事例紹介
地域の特産品をNFTとして販売するだけでなく、ブロックチェーン技術を基盤としたDAOを農業で活用することで、地方活性化を目指す企業や自治体も増加しています。しかし、国内においては農業DAOの事例はまだ多くありません。そのため、日本の未来の農業を占う上で、今回は中国企業による農業DAOの事例を紹介します。
中国のVonechain社は、2017年に農産物のトレーサビリティをブロックチェーンで管理するサービスをリリースしました。そして、2022年6月には、中国湖南省の文化・観光プロジェクトを受注し、「ブロックチェーン・Web3による農村振興」を手がけました。このプロジェクトでは、農業以外の観光収入を確保することが目的でした。
Vonechain社は自社開発したDAO構築のためのプラットフォーム「VoneDAO」において、さまざまなWeb3技術を提供し、民泊のプロモーションを手伝うとインセンティブとしてNFTが発行されるなどのサービスを提供しています。今後は、プロモーションやプランニングなどの無形の関わりに対してトークンを発行する計画があり、農業DAOにより農村に関する資産、活動、知的財産がトークン化され、相互に交換可能になることが期待されます。
こうした海外事例を参考にして、国内においても農業DAOの取り組みがどのように進められるかに注目が集まっています。
まとめ【NFTと農業のコラボレーションによる可能性は無限大!】
豊作貧乏、米価下落、3K(きつい・汚い・かっこ悪い)などのネガティブイメージがあり、あまり儲からないとされる農業分野。本記事では、そんな農業にNFTの仕組みを取り入れることで、農家や農業を活性化できるか、また未来へと持続可能な農業を実現できるかという視点で解説しました。NFTに興味がある人や、今後農業に参画を検討している若い人たちや企業の方々にとって、新たな観点を学べたのではないでしょうか。
本記事では、「Metagri研究所のNFTを活用した新たな産地直送ECの仕組み」や「農業DAOによる地域活性化」など、さまざまなNFTと農業のコラボレーションを紹介しました。
実際に、農業とNFTの分野では、まだまだ構想段階のものが多く、具体的なサービスや仕組みは今後のさらなる発展に期待する必要があります。しかし、NFTは新しい技術と概念の創造物です。まだまだ未成熟で成長の余地は計り知れません。農業分野でも、これから新しい活用方法や用途を発掘することが必要です。小さなアイデアに顧客への付加価値を組み合わせることで、大きな市場が生まれる可能性があります。
NFT農業ビジネスに参画を検討されている人や、また既にNFT農業ビジネスを手掛けている人も、本記事で紹介した事例や取り組みをぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。