2023年3月21日に日本酒業界で世界初となる事業、和魂プロジェクト「酒輪」において、NFTデジタルラベルを有するプレミア日本酒の販売が始まりました。
Crypto決済限定での日本酒の販売は前例がなく、世界中のどこにいても専用のマーケットプレイス上にて決済が可能です。
Crypto決済による日本酒販売は、製造元にとっても多大なメリットが存在します。そして、この「酒輪」の今後の動向は日本酒だけではなく、国内の伝統産業へと展開できる可能性を秘めています。
今回の記事では、そんな日本酒業界において新たな可能性を創造する「酒輪」についての概要と特徴を解説します。そして、日本酒においてNFTを活用するメリットから、その他伝統産業の活性化に繋がる可能性を考察します。
この記事の構成
和魂プロジェクト「酒輪」の概要
まず、「酒輪」に関する概要について確認していきましょう。
以下の3点に分け、それぞれ解説していきます。
- 日本テクノロジーソリューションによるプロジェクト
- Crypto決済での限定販売
- 第一弾は富久錦の長期熟成酒
日本テクノロジーソリューションによるプロジェクト
「酒輪」は日本テクノロジーソリューションが主体となり、酒蔵と共に商品企画から酒造りを進めます。
「酒輪」で販売される日本酒は、パートナーシップを締結しているXクリエーションが開発、運営する「sake.prema.nft」にて販売。ブロックチェーン技術を活用し、酒蔵が市況に左右されることなく、本当につくりたい「渾身の一本」を生み出す酒造りを、消費者と共に実現することを目指します。
日本国内に数多く存在する酒蔵は、2023年現在は全盛期の3分の1程度まで減少してしまいました。その一方で海外評価は高まっており、和食と共に需要が増加しています。
このような背景を元に立ち上げられた「酒輪」は、日本酒の美味しさと文化を世界に発信し、日本酒ブランドの価値と認知向上を目指すのです。
Crypto決済での限定販売
Xクリエーションが開発、運営する「sake.prema.nft」をプラットフォームとして販売される日本酒は、全てがCrypto決済での販売となります。
対応する通貨はEthereum、Polygon(MATIC)、Avalancheに対応しており、日本円での決済はできません。このようにCrypto決済に限定した販売手法は、日本酒業界において初の事例となります。
第一弾は富久錦の長期熟成酒
これから様々なプレミア日本酒の販売が予定されている「酒輪」ですが、第一弾として抜擢された銘柄は富久錦の長期熟成酒。
兵庫県加西市の蔵に蔵を構える富久錦では、阪神淡路大震災が起きた1995年の純米大吟醸を0度〜4度で長期熟成させていました。
2025年で30年熟成になるというタイミングで、パッケージをリニューアルした上で「酒輪」での販売が決定したのです。
価格は日本円換算で約30万と高額です。しかし、同様に阪神淡路大震災の被害を奇跡的に逃れた沢の鶴のタンクが24年熟成で販売された際、1本15万円という設定でした。
この事例を考えると、価格設定の面では妥当だといえるかもしれません。
「酒輪」サービスの特徴
「酒輪」のサービスは、基本的に以下の流れに沿って進められます。
- 商品開発
- NFTデジタルラベル販売
- 顧客がNFTを購入
- 日本酒の完成を待つ
- 完成した日本酒を貯蔵
- 顧客が任意のタイミングで届けてもらう
これまでの日本酒とは全く異なった概念を持ってすすめられるこのサービスには、酒蔵と顧客にとって様々なメリットがあります。
その特徴、メリットをそれぞれ解説していきましょう。
予約による蔵元リスクゼロ
まず、NFTラベルを販売した後に酒造りを開始することから、酒蔵としては予め資金を入手した状態で造りを開始できます。さらに、完成した日本酒も販売先が確定しているため、過剰在庫や廃棄などのリスクを排除できるのです。
また、蔵で長期間保管が必要になる熟成酒などでは、確実に販売できる保証が無いにも関わらず、保管費用が発生してしまいます。そのような場合でも、先行予約と決済が済んでいることから、安心した長期保管が可能になるでしょう。
直送による環境配慮
従来は酒蔵から卸問屋、そして酒屋などの量販店へと輸送が行われていましたが、「酒輪」では購入者に対して酒蔵から直接商品を送付します。
無駄な輸送が発生しないので二酸化炭素などの排出や無駄な物流を抑えられます。
NFTによる価値創造
従来の日本酒では不可能である、NFTによる付加価値を創造できます。
これまでも人気のプレミア酒であれば、ラベルや空き瓶に対しても一定の価格が付けられる事例はありました。
同様に数量が限定されたNFTによるデジタルラベルを所有することで、新しい価値が生み出されるでしょう。また、ホルダーを対象とした得点の付与、イベントの開催など、従来とは違った形で付加価値を付けられるはずです。
NFTラベルの転売が可能
お酒を飲み終わってもNFTデジタルラベルは残り続けますので、NFTとして二次流通が可能です。
これはお酒が届く前でも可能であり、例えば熟成期間を待っている期間の間に、その熟成酒を受け取れる権利としてNFTの売買ができるのです。
従来、酒蔵と消費者の接点は小売店や飲食店でのイベント、もしくはWebサイトに留まっていましたが、世界中の顧客とNFTを介した接点が生まれるでしょう。
NFTを日本酒産業で活用するメリット
それでは日本酒造りから販売においてNFTを活用することで、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。
こちらでは、最も大きなメリットとして以下の3点を解説します。
- 海外市場で人気の高い「古酒」への対応
- NFTによる偽造の防止
- 国を超えた決済方式
海外市場で人気の高い「古酒」への対応
海外で主に飲まれるお酒の多くは、ワインやウイスキーに代表されるように長年熟成させるほど美味しくなり、価値も上がっていく傾向にあります。
対して、日本酒は基本的に製造から1年以内に消費される商品がほとんどであるため、海外市場での価値が付きにくくなっているのです。
また、多くの酒蔵において熟成酒の数は豊富ではありません。
これから熟成酒を育てる場合にも、長年に渡り酒を保管する費用など、長期的な資金調達が課題となるのです。
この時、NFTによるデジタルラベルを事前に販売することで、酒蔵は熟成酒の製造段階から資金を手に入れられます。
さらに、熟成後の販売先も確約されているため、在庫リスクとも無縁になります。
海外市場へ向け長期熟成酒の魅力をアピールをはじめ、今後日本酒の価値を高めていくためにNFTは大きな力を発揮すると考えられるでしょう。
NFTによる偽造の防止
日本酒の熟成にかかる期間は、数年から数十年にもなるでしょう。
数十年もの期間、商品を受け取る権利を物理的に管理し続けることは蔵元としても難しい上に、顧客としても紛失のリスクがあります。
NFTであれば長期保有も容易であり、管理も難しくないことから安心して所有できるでしょう。
さらに偽造のリスクも低いことから、購入者に対して確実な商品の受け渡しが実現できるはずです。
国を超えた決済方式
Crypto決済であれば、世界中全ての顧客が両替することなく購入可能となります。
そのため、その時々の為替手数料を考慮することなく、気軽に支払いができるでしょう。
現在、越境ECにおいてCrypto決済を実施しているサイトは少数派ですが、今後広がっていく可能性は十分にあるはずです。
国内外の市場に向け販売する場合、Crypto決済は大きなメリットがあるといえるでしょう。
NFTの活用は伝統産業活性化に繋がる
今回の記事では、そんな日本酒業界において新たな可能性を創造する「酒輪」についての概要と特徴を解説します。そして、日本酒においてNFTを活用するメリットから、その他伝統産業の活性化に繋がる可能性を考察します。
「酒輪」は日本酒業界において、本格的にNFTとCrypto決済を活用した事例として注目を集めています。
そして、このプロジェクトは2023年3月末に開始したばかりということもあり、その動向には大きな期待が寄せられているといえるでしょう。
日本酒は伝統産業ともいえる、長きに渡る歴史を持っており、日本の文化とも深い関わりを持っています。
そのため、「酒輪」の事例は日本のその他伝統産業にも展開でき、市場の活性化や海外への販路拡大に繋げることが可能かもしれません。
越境EC実績は右肩上がり
2023年4月現在、国外へと販路を広げる越境ECの業績は大躍進を続けています。
昨年度の越境ECの市場規模は約3,700億円(前年比:109%)と伸長しており、今後もさらに伸び続けると考えられています。
越境ECのメリットとして、為替変動の影響を受けるという点があげられますが、Crypto決済であれば前述したとおり世界中のどの国でも平等に支払いが完了できます。
これは販売者と購入者の両方に大きなメリットがあるといえます。
少しずつインバウンド需要も戻りつつありますが、海外顧客が訪れにくい地方の商品なども、EC経由で販売することで世界に向けその魅力をアピールできるでしょう。
製造の時間と手間を理解してもらう
「酒輪」では日本酒の製造から熟成に必要な期間を待つ前に、商品を受け取る権利としてNFTが販売される予定です。
そのため、NFTを購入してから手元に届くまでの「時間」自体も、商品の魅力として付加価値になるといえるでしょう。
これは日本酒だけではなく、その他の伝統産業にも応用できるはずです。
例えば、焼き物を原料の時点から販売し、顧客の要望に応じた作品を提供するなどが考えられるかもしれません。
さらに年数を大きいもので例えるとすれば、10年後に伐採される予定である木々の時点でNFTを販売し、木材として収穫後に顧客の要望に応じた作品を提供するなども可能かもしれません。
原料の時点で商品を予約購入し、「待つという付加価値」を提示することで、伝統産業の手間暇を理解してもらうことにも繋がるのではないでしょうか。
資金を事前調達できる
先に触れたように、「酒輪」では、日本酒を長期熟成するための保管費用などを、NFTの販売を通して製造時点から確保できます。
商品代金を事前にもらうことで、リスクを最小限に抑えながら商品を製造できることは、事業の運営面で大きなメリットになります。
事前の資金調達、販路の確約が同時に達成できるという点で、他産業へと展開する価値の有るシステムだといえるのではないでしょうか。
「酒輪」プロジェクトは日本酒の新市場を創造する
世界初、Crypto決済で販売される日本酒プロジェクトである「酒輪」は、今後日本酒の新しい市場を開拓していくことが期待されます。
海外需要が高く、価値の付きやすい古酒ですが、従来は酒蔵のリスクなどが伴うことから安定した供給が難しい状態にありました。
しかし、NFTデジタルラベル発行によって、事前の資金確保、さらに数量が確約されることで、これまでの問題点を一気に解決できたといえます。
このビジネスモデルは、日本酒に限らず海外で人気の高い日本の各種伝統産業への展開も十分に考えられるでしょう。
当然、日本酒以外の長期熟成が求められるお酒、例えばウイスキーやワイン、焼酎などの酒類への展開も可能です。
まだ開始から間もない「酒輪」ですが、今後の動向に大きな期待が寄せられます。
NFTを活用した事業はまだまだ発展途上ですが、この先間違いなく大きく広がっていくといえるでしょう。
今のうちからプロジェクトを立ち上げノウハウを蓄積させることは、今後業界内での立ち位置にポジティブな影響を与えるかもしれません。
本記事の内容を参考に、ご自身の事業に展開できるポイントが見つかれば幸いです。