近年、創作者に無断で作品がNFT化される事例が多く発生しています。
OpenSeaやRaribleなどのNFTプラットフォームでは、事前審査不要で誰でも匿名で出品することが可能です。そのため、作品をインターネット上で公開している場合、コピーして創作者を装って出品するようなことも簡単にできてしまいます。
NFTはあくまで「トークン」の所有権を証明するものであり、紐づいた作品の所有権や著作権を証明するものではありません。そのため、NFT作品を購入していたとしても、特別に許されていない限りは、安易にSNSのプロフィール写真や商用の利用などはできないということになります。
現在各プラットフォームでは、無断出品対策として人的確認や不正コピー防止システムを導入していますが、まだ根絶するには至っていません。今後も同様のことが発生する可能性があります。
本記事では、創作者に無断でNFT化された作品の出品事例や、その対処法、NFT作品を持つ際の注意点などを解説していきます。
この記事の構成
作品を無断でNFT化された4つの事例
引用:https://pixabay.com/photos/earth-fire-water-world-frigates-2635273/
ここでは、創作者に無断でNFT化された事例を、4つ紹介していきます。
- VRoid用ヘアプリセット
- wacca氏のイラスト
- ロイス・ヴァン・バーレ(Lois van Baarle)氏のイラスト
- verylonganimalsのドット絵
それぞれの事例を詳しく見ていきましょう。
VRoid用ヘアプリセット
VRoid用ヘアプリセットとは、3Dキャラクター用にヘアスタイルを設定したデータファイルのことです。
「BOOTH」という創作データの総合マーケットでのみ出品していましたが、ある時にOpenSeaでの無断出品を発見したようです。無断転載された「みとう」さんは、明確な規約違反を指摘していますが、2023年2月現在出品されたままになっており、取引が行われた形跡もあります。
こうした事例に対して、OpenSea側では対処できていないことがわかります。
wacca氏のイラスト
wacca氏は、日常の風景をノスタルジックなタッチで描くイラストレーターです。
この方もOpenSeaでの無断出品を発見し、削除を要請したところ「ガス代を払っている」「売れたら50%を支払う」など、勝手な物言いをされたようです。
現在OpenSeaでは該当ページがなくなっているため、出品者やプラットフォームによって削除が行われたと考えられます。
ロイス・ヴァン・バーレ(Lois van Baarle)氏のイラスト
ロイス・ヴァン・バーレ氏とは、Twitterのフォロワー数41万人を超える著名なデジタルアーティストです。オンライン上では「Loish」と名乗っており、力強く独創的なタッチに特徴があります。
この方もOpenSea上で自身の作品132点の無断出品を発見し、「画像がオリジナルかどうかは最低限しか確認していない」として、プラットフォームを批判しました。
ツイート前は「Loish」と検索すると多数のNFTが見つかったようですが、現時点で該当の作品は確認できません。ツイートをきっかけに、多くの無断出品の削除が行われたようです。
verylonganimalsのドット絵
verylonganimalsとは顔の長いさまざまな動物のドット絵で、可愛らしいデザインが特徴です。今回は創作者ではなく、間違って購入してしまった方によって、偽物の出品が明らかになりました。
この方は「偽物を買わないようにする」という気持ちはありましたが、判断力が落ちた深夜に間違って購入オファーを出してしまったようです。購入後に「volume traded(取引ボリューム)」や「owners(所有者数)」が少なすぎることに気づき、偽物と発覚しました。
現在OpenSeaで「verylonganimals」で検索すると、多くがヒットします。今後NFTを購入する方は「item(アイテム数)」「owners(所有者数)」「floor price(作品の最低価格)」は必ず確認するようにしましょう。
作品を無断でNFT化されづらくするための3つの対策
続いて、自分が出品者となる際に、無断でNFT化されないようにするための対策を3つ紹介します。
- アカウントに権威性を持たせる
- 作品ページに無断使用時の注意書きを書く
- リリース時に特典をつける
それぞれ、具体的に解説していきます。
アカウントに権威性を持たせる
アカウントは購入前に多くの人の目に触れます。記載する情報はなるべく充実させ、自分のSNSと出品アカウント相互にリンクを貼るなどして、購入者が判別しやすくするための施策を行うといいでしょう。
作品の購入実績と所有者の数が増え始めれば、アカウントとしての信憑性も増していきます。
まずはアカウント周りを充実させ、良いサイクルを作ることを目指していきましょう。
作品ページに無断使用時の注意書きを書く
影響力としては大きくないですが、無断使用時の罰金や法的措置を検討する文面を書いておくことは、ある程度有効と考えられます。
NFTマーケットプレイスは匿名で手軽に利用でき、罪の意識なく無断出品をしてしまう人も少なくありません。そうした人が出品前に注意書きを見れば、手を止めるきっかけになることもあるでしょう。
リリース時に特典をつける
自分のアカウントからNFTを購入した際には購入者IDなどを発行し、限定コミュニティへの参加権やエアドロップの特典をつけることも有効です。こうした特典は、ユーザーへのメリットになると同時に無断出品の防止にもつながるでしょう。
作品のリリース発表や特典の詳細をPRする際は、SNSやブログなどを用いて行うことが必要と考えられます。
作品を無断でNFT化された際の対処法
引用:https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/OjSG0E_qcbo
次に、自分の作品が無断でNFT化されていた時の対処法を紹介していきます。
- 出品者へ連絡を行う
- プラットフォームへ削除依頼を出す
- 法的措置
それぞれ詳しく見ていきましょう。
出品者へ連絡を行う
まずは、出品者に連絡する方法を考えましょう。有名なNFTマーケットプレイスであるRaribleには、DM(メッセンジャー)機能が実装されており、出品者に直接メッセージを送ることが可能です。
しかし、DM機能がないマーケットプレイスで連絡を取るのは困難といえます。SNSのDM機能を使う方法がありますが、無断出品者がアカウントを公開している可能性は低いので、あまり現実的ではないでしょう。
プラットフォームへ削除依頼を出す
次に自分の作品が無断出品されていることをプラットフォーム側に主張し、削除してもらう方法が挙げられます。
OpenSeaでは、各作品の右上「Report(報告)」から連絡できたり、無断出品者に関する専用フォームを用意しています。原則英語での対応になるので、苦手な方はGoogle翻訳などのツールを利用するといいでしょう。
OpenSea側も無断出品には厳しく対処しているようで、インターネット上では1日以内に削除が完了した情報を確認できました。こちらに削除依頼を出すことは、有効な手段であると考えられます。
また、規約の中には著作権代理人の連絡先も記載されているので、合わせて利用してみてください。
法的措置
上記2つの手段を講じても改善が見られない場合は、法的措置を検討する段階に入ります。「NFT 弁護士」などと検索すると何件もヒットするので、お近くの事務所があれば一度話を聞いてみるのもいいでしょう。
しかし、出品者が海外にいる、被害額が少額であるなど、対応が難しいケースもあります。まずは「出品者へ連絡」「プラットフォームへ削除依頼」の2つの方法を取ることが先決といえます。
NFT購入時の4つの注意点
次に、NFTの購入者として注意すべき点を4つ紹介していきます。
- NFTの売買や有償譲渡には税金がかかる
- 購入元が信頼できるかどうか
- NFTを購入しても使用権や著作権は手に入らないことがある
- ハッキングリスク
NFTについて正しい知識を身につけた上で、購入に進みましょう。
NFTの売買や有償譲渡には税金がかかる
NFTは暗号資産(仮想通貨)同様にデジタル資産の一つとして見なされます。暗号資産で利益を得たときと同じように、NFTでも税金がかかることは覚えておきましょう。
2023年1月に国税局は「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」というガイドラインを発表し、以下のような記載をしています。
デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐づけたNFTを譲渡したことにより得た利益は、所得税の課税対象となります。
利益の計算式は以下の通りです。
雑所得の金額 = NFTの譲渡収入 ― NFTに係る必要経費
NFTで得た利益は雑所得に分類され、所得額に応じた税率が適用されます。また、保有しているNFTを第三者に転売した場合にも、同様に税金がかかるので注意してください。
購入元が信頼できるかどうか
NFTを購入する際は、公式のアカウントが販売しているものかどうかを確認することが重要です。主に以下の確認方法が考えられます。
- 出品アカウントとSNS等のアカウントが連携しているか
- 検証済みアカウントのマークがついているか(総取引高75ETH以上など、条件を満たすと取得可能)
- item(アイテム数)、owners(所有者数)、floor price(作品の最低価格)、volume traded(総取引額)は適切か
これらの点をすべてチェックすれば、かなりの高確率で偽物やコピー作品の購入を防げるでしょう。
NFTを購入しても使用権や著作権は手に入らないことがある
NFTは、そのトークンの所有権を証明するものであり、使用権や著作権までもが保有者に与えられるものではありません。「作品は自由に使える」「作品を自分のものとして主張できる」など間違った情報を鵜呑みにしないようにしましょう。
NFT購入前に、どこまでの利用が許可されているかを確認するようにしてください。
ハッキングリスク
NFTを購入する際、多くの人はNFTプラットフォームを利用することでしょう。近年はNFTの売買額の増加に伴い、ハッキングされたり、スパムNFTを送られて情報を抜き取られる、などの被害が増えています。
NFTプラットフォームにログインする際は、誰でも利用できるフリーWifiの使用を避け、パスワードを複雑で推測されないものにするなど、セキュリティ対策は入念に行うようにしてください。
また、NFTの送受信や暗号資産の入出金には、メタマスクなどのウォレットを利用します。IDやパスワード、秘密鍵は、人目につきづらいオフラインの場所に保管するようにしましょう。
NFT作品にまつわる2つの注意点
引用:https://pixabay.com/photos/correcting-proof-paper-correction-1870721/
最後にNFT作品に関する2つの注意点を紹介します。
- 無断でSNSのアイコンにしてはいけない
- 二次創作
それぞれ詳しく解説していきます。
無断でSNSのアイコンにしてはいけない
本記事でも解説しているように、NFTはトークンの所有権を証明するものであり、使用権や著作権までは与えられません。それぞれを区別して考える必要があります。
SNSでは、NFTの有名作品をプロフィール写真やアイコンにしている様子が確認できますが、これは創作者によってアイコンとしての使用が許可されているNFT作品を所有している場合のみできることです。無断使用は言語道断ですが、保有していても利用が許されないケースがあるので注意してください。
二次創作
二次創作とは、原作を元にして作られた二次的な作品などのことです。具体的には、漫画や小説、映画、ブランドなどがあります。
代表的な例に、ハイブランドのエルメスの事例があります。この事例では、有名なバッグ「バーキン」を模したデジタルアートにアレンジを加えたものをNFT化し、12万ドル(約1,620万)相当の儲けを出したアーティストに対して訴訟が行われました。裁判所はアーティスト側に損害賠償金を支払うことを命じましたが、控訴する意向を示しており、まだ最終的な結果は出ていません。
NFTだけでなく一般的な作品も含め、二次創作自体が法的にグレーな部分を含んでいます。著作権法の侵害については親告罪であり、創作者からの訴えによっては訴訟問題に発展する可能性もあるので、ルールを確認することが重要です。
ルールがない場合でも、事前に創作者へ必ず尋ねてから公開するようにしましょう。
まとめ
NFTは歴史が浅く、法律の整備やコピー品の監視体制が整っていません。
NFTマーケットプレイスでは、いまだに無断出品が横行しています。現在、問い合わせや監視体制を強化していますが、環境が整備されるのはまだ先になりそうです。
出品者はNFTを無断出品されづらくする、購入者は非公式な作品を買わないようにすることが重要です。ぜひ本記事を参考に、正しいNFT売買と利用を心がけましょう。