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チケットのNFT化でライブ市場はどう変わる?

解説系記事

ライブイベントのチケット販売は、従来は紙ベースのチケットが主流でしたが、近年はオンライン上でのチケット販売も一般的になってきています。

スマートフォンの画面に表示したQRコードを使って入場する手法は定着しつつあり、紙のチケットを発行する必要がないのでコスト削減にもなりますし、利用者も「チケットを持ち歩く必要がない」「紛失するリスクが低い」といったメリットがあります。

2022年はブロックチェーン技術を用いたNFTが広く認知された年でした。NFTは「チケット発行」にも導入されて話題となっています。NFTチケットは、ブロックチェーン上に記録されるデジタルアセットで、ライブイベントにおけるチケットの発行や転売を管理することができます。チケットの偽造や不正転売などの問題が解決されるだけでなく、チケットに新たな価値を付与することができます。

本記事では、NFTチケットの導入によってライブ市場がどのように変わるかについて解説します。

レコチョクが日本初のNFTチケットソリューションを提供開始

デジタルデータは本来的に複製が可能ですが、NFTはデータの所有者を証明することができることからアートやイラストをNFT化して販売することが可能になりました。

しかし、NFTが持つ可能性はアートにはとどまらず、多彩な分野での利用が期待されており、そのひとつとして「ライブチケット」が注目されています。チケットのNFT化によって現在のチケット販売が抱えている多くの問題を解決できると推測されています。

ここでは、レコチョクが提供開始した「NFTチケットソリューション」を取り上げて、NFTチケットについて解説します。

NFTチケットとは

引用元:レコチョク

レコチョクは音楽配信サービスとして知られていますが、タワーレコードと提携して「Eggs」という新人アーティストの活動を支援するプラットフォームを展開するなど、音楽を発信するサイドとリスナーサイドをつなぐ事業にも積極的に参入してます。

2023年3月16日、レコチョクはNFTを使ったチケットの発券・販売から入場の管理や顧客管理までを総合的に実施する「レコチョクチケット」を2023年3月23日に提供開始すると発表しました。

レコチョクが開始する「NFTチケット」は、ブロックチェーン上に構築されたNFT管理システムです。システム上で発券されたNFTチケットは、ブロックチェーン技術によって不正な偽造や転売を防止して二次流通をコントロールすることが可能です。

NFTチケットの券面には、NFTを動的に変化させることのできる「ダイナミックNFT」という方式が採用されています。紙のチケットでは、たとえば「半券」という方式によって「このチケットはすでに使用されたこと」を証明しますが、ダイナミックNFTでは入場後には券面がQRコードから独自のデザインに切り替わるようになっています。こうした発券・入場管理は日本初の取り組みです。

従来のチケットと何が違う?

インターネット上で発券されるチケットについては、すでにQRコードを使ったチケット販売がイープラスなどで実施されていますし、映画館やスポーツ観戦のチケットでも導入されています。

レコチョクが導入するNFTチケットでは、「チケットそのものがNFT」ですので、QRコードチケットのような電子チケットとして取り扱うことができるだけでなく、紙チケットのように自由なデザインを採用することができます。ブロックチェーン技術によって不正な偽造や転売を防止することも可能です。

券面がNFTでQRコード以外の部分を自由なデザインにできるので、所有者が持っててうれしくなるような付加価値を感じてもらえるチケットを作成することができます。

引用元:Youtube「レコチョクチケット」紹介動画

レコチョクによる紹介動画では、QRコードを読み取った後に券面が熊のイラストに切り替わっています。

この仕様によって、来場の証明がより魅力的になりますし、さらにゲーム性を持たせることもできます。プレゼント企画や、ライブが終わった後にアーティストがメッセージや動画を送付することもできます。イベント主催者からライブの情報を発信することも可能になります。

チケット所有者だけの特別な体験を提供することによって、アーティストとファンの関係強化やコミュニケーションにも活用できます。

レコチョクNFTチケットチケットの特徴

2023年3月16日に発表されたレコチョクのプレスリリースによると、「レコチョクNFTチケット」には以下のような特徴があります。

  • ブロックチェーン上に独自の管理システムを構築し、チケットの発行から転送までをフルサポート
  • ユーザーはわざわざ暗号資産(仮想通貨)を買う必要がなく、日本円などの法定通貨で購入できる
  • ダイナミックNFT技術によって、入場後に券面のデザインが変化する
  • イベントが終わった後も参加の証明として保管できる
  • イベント後もNFTチケット保有者限定の体験を提供できる
  • ブロックチェーン技術を採用しているため、不正な偽造や転売を防止でき、二次流通を追跡することができる

NFTは購入ハードルが若干高いと感じる人もいるでしょう。通常は「仮想通貨取引所でイーサリアムなどの通貨を買う→イーサリアムをNFTのマーケットプレイスに送金する→好みのNFTを買う」という流れになりますが、仮想通貨のやり取りをしたことがない人にとっては、とっつきにくいものです。

この点、レコチョクが導入した制度は日本円でも購入できるため、定着しやすいと言えます。

NFTチケットの導入事例

NFTチケットを導入する企業は、レコチョクだけではありません。電気自動車のフォーミュラカーレース「フォーミュラE」など世界で多くの導入事例があります。

ここでは、今後の展開が期待されるNFTチケットの導入事例を紹介します。

Lawson Ticket NFT

引用元:Lawson Ticket NFT

大手コンビニチェーンであるローソンは2022年11月11日、「Lawson Ticket NFT」の導入を発表しました。ローソンチケットで販売するイベントチケットを保管可能な記念チケットNFTとして販売するサービスです。

サービス内容はレコチョクNFTチケットとほぼ同じ仕様で、QRコードを通じて簡単にNFTチケットを受け取ることができます。ライブ会場のリアルな空間で来場者に無料の会場限定NFTの配布を行ったり、会場内でデジタルグッズとして有料のNFTを販売したりできるようになります。

第一弾はローソントラベルが企画する鉄道ツアーで、ツアー内で限定NFT配布を行います。鉄道マニアとNFTは相性が良いと推測したと考えられます。

風男塾やJ-JUNなど韓流アイドルのライブでもNFTチケットを販売する予定です。NFTと相性の良さそうなファン層を想定しているのかもしれません。

ライバーハウスチケット

引用元:LIVER HOUSE TICKET

タレントとして多彩な活動をしている清水國明氏は、2021年にライブ配信サービスの運営会社「ライバーハウス株式会社」を設立しました。同社は2022年10月12日、NFTのチケットによる入場システム「ライバーハウスチケット」の導入を発表しています。

ライバーハウスチケットは、NFTのチケットをスマホのアプリで簡単に購入することができるシステムを提供しており、暗号資産ウォレット付きのアプリでチケットを購入できます。イベント興行主にはNFTの発行のサポートをするとともに、ライバーハウス独自の入場管理システムも提供します。

ライバーハウスは「ライバー」と呼ばれる配信者が配信をしながらイベントのチケットをNFTで販売したり、イベントの販促をライブ配信で行ったりできるライブ配信アプリです。

今後はリアルに入場できるライブでのNFTチケットの販売を予定しています。

NFTチケットでイベントを行うライブハウス

新しい形のライブを目指しているライブハウスでは、実験的・試験的にNFTチケットを導入したイベントを開催しています。

東京都千代田区に本社を置く「OIKOS MUSIC株式会社」は、アーティストとファンとの新しいつながりの形を模索している会社です。同社は、アーティストとファンが共同で音源の権利を保有できるNFTマーケットプレイスを運営しており、アーティストの活動の幅を広げながら、ファンとの新しいコミュニケーションにつながるサービスを提供しています。

OIKOS MUSICは2022年12月5日、ライブハウス「代官山UNIT」でNFTを活用したライブ「GOT OIKOS GET LIVE」を開催しました。

引用元:LIVE STUDHI UNiT

OIKOS MUSICは「OIKOS」というNFTを発行しています。NFTのユーティリティとして、保有するOIKOSの数に応じてチケットや限定グッズなどの特典がつくライブイベントです。

出演するのは「カネコミレン」「群青マキ」といった次世代を期待されているアーティストで、「NFTを活用したライブ」にふさわしいラインナップになっています。

NFTチケットのメリット・デメリット

NFTは2022年に入って急激に浸透しました。主にデジタルアートとして発達してきましたが、アートはNFTの用途のひとつに過ぎません。

今後は多彩な分野で応用されることが期待されています。チケット販売にも大きな影響をもたらすことが推測されます。

ここでは、NFTチケットのメリットとデメリットを解説します。

メリット

  • 転売や詐欺が減る

従来のチケット販売では「転売」が問題となっています。ライブ主催者が様々な対策をしていますが、抜け道も多いため今も根絶されていません。しかし、NFTにすればチケットの販売履歴がすべてブロックチェーン上に記録されます。転売は容易に特定されるため、抑止につながります。

  • チケットの保有価値が増える

従来のチケット販売は、ライブが終われば思い出として残るだけでした。しかし、NFTチケットにすればチケットの販売元やアーティストから特典を配布することができます。グッズ販売やコミュニティの形成など、チケットそのものに価値がつきます。二次販売して利益を得ることも可能です。

  • ファンとの接点の増加

NFTはイベントやライブが終わった後も、アーティストからの情報発信や動画配信などに利用することが可能です。ライブに足を運んでくれたファンに対して、一過性のライブ以外に接点を持つことが可能になります。

デメリット

  • 交換・キャンセルができない

NFTチケットは通常のチケットと同様に利用していれば大きなデメリットはありません。ただ、紙のチケットなら簡単に譲渡できますし、交換したりキャンセルしたりするのも可能ですが、NFTチケットではこういった柔軟性はありません。ですが普通の電子チケットも同じことですので、あまり大きなデメリットにはならないでしょう。

  • 手間やリテラシーが必要

チケットだけでなくNFT全体に言えることですが、利用する側に手間やリテラシーが必要となります。たとえば、暗号資産のブロックチェーン上でチケットを買おうとすれば手数料がかかります。また、先程のライブハウスのイベントと同様に、独自のNFTを購入する必要が出てくる可能性もあります。

NFTチケットがライブ市場にもたらす影響

NFTチケットは偽造や不正転売のリスクを軽減することができ、独自の価値を付与することも可能になります。一方で、ユーザーには手間やリテラシーを要求するというデメリットもあります。

ここでは、こうした特徴のあるNFTチケットがライブ市場にもたらす影響について解説します。

情報感度の高い人へのアピール

2022年6月23日に発表された三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「NFTの動向整理」によると、NFTを充分に知っている人は男性で全体の1割前後、女性では数%にとどまっています。購入経験があるのは男性では20代でも10%未満です。

引用元:三菱UFJリサーチ&コンサルティング

NFTはまだ新しい技術で普及率は低いというのが現状です。抵抗感を持っている人も多いこともネット上の議論から推察できます。

これは逆に考えると、NFTに抵抗のない人は新しい技術に興味を持っている人であるとも考えられます。情報感度が高く、新しい分野にチャレンジすることも面倒くさいと思わない人たちがNFTを買ったり売ったりしているという状態であるとも言えるでしょう。

このような人たちは、先進的取り組みや新しい体験に対してポジティブであるため、NFTチケットの導入にも好意的な反応をするかもしれません。NFTチケットは、そういった人たちのみを集客できる可能性があります。実験的な試みとして導入する価値はあるでしょう。

新しい技術への情報感度の高い人たちは、積極的に情報発信をしてくれることも期待できます。こういった人たちがNFTチケットを購入して、体験をSNSでシェアすることでライブハウスのPRにも効果がある可能性があります。思わぬアイデアや新しい視点を取り入れるチャンスにもなるでしょう。

ユーザーのハードルを下げる努力も必要

とはいえ、新しい技術に関心のある人だけを対象にすると、一定の人数しか集まらず、需要が限られてしまう可能性もあります。また、導入コストや技術的な知識が必要であることから、一部のライブハウスや音楽事業者しか導入できないという問題もあります。

NFTチケットには、転売対策やファンとの接点を増やせるという点で大きな将来性があります。ユーザーの利用ハードルを下げながら、浸透させていく必要があります。

QRコードを使ったチケット販売はすでに定着しつつあります。生活にかかわる多くの部分をスマートフォンで済ませるという世代やファン層に上手にアピールしながらNFTチケットの導入を進めていく必要があるでしょう。

まとめ

ライブイベントのチケットのNFT化の導入事例と、NFTチケットのメリットやデメリット、今後のライブ市場への影響について解説しました。最後にこの記事をまとめます。

  • NFTチケットは日本ではレコチョクが提供を開始している
  • NFTチケットは発行から転送まで管理でき、イベント終了後も保有者限定の体験を提供できる
  • 「Lawson Ticket NFT」や「ライバーハウスチケット」などが提供を開始しており、先進的なライブハウスでも導入されている
  • NFTチケットには転売対策や保有価値の増加、ファンとの接点の増加などのメリットがある
  • NFTチケットには交換やキャンセルができず、利用者に手間やリテラシーを要求するというデメリットがある
  • NFTチケットには情報感度の高い人へアピールできることや、オープンマインドな人を集客できるというメリットもある
  • ただ、新しい技術であるため、ユーザーの利用ハードルを下げる努力が必要になってくる

NFTチケットは高い将来性のある分野です。今後多くのライブやイベントで導入される可能性があるので、ライブ市場にどのような影響があるか注目しましょう。

Spritz

Spritz

Web3領域を専門とするライター。DeFiやNFT分野への投資経験をもとに、クリプトに関する記事を発信しています。これまでに執筆した暗号資産に関する記事は70本以上。特に関心の強い分野は、セキュリティトークンです。ブロックチェーンによってもたらされる社会変革に焦点を当て、初心者にもわかりやすい記事を心がけています。
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