Menu

なぜステーブルコインと法定通貨のペッグは外れるのか?仕組みや過去の事件を詳しく解説

比較系記事 解説系記事

年々、ステーブルコインの市場は成長を続けています。2020年初めは1兆円にも満たない規模でしたが、2022年末には20兆円を超えています。

この20兆円という額は、暗号資産(仮想通貨)市場全体の15%〜20%ほどの数字です。大きな額がステーブルコインとしてプールされている状況であり、不具合が発生した場合に市場へ与える影響は少なくありません。

2022年5月には、法定通貨とのペッグが外れた(デペッグ)ことで、市場全体が大混乱に陥った「テラ事件」が発生しました。市場が大きくなり新たな銘柄も誕生している中で、こうした事件は今後も発生する可能性があります。

本記事では、ステーブルコインと法定通貨のペッグが外れる理由や、仕組みとメリット・デメリットなどをまとめました。

ステーブルコインの価値を維持するための担保

ステーブルコインは、価値を安定させるために必ず担保にしているものがあります。

主な担保のパターンは、以下の4つです。

  • 法定通貨担保型
  • 暗号資産担保型
  • コモディティ担保型
  • 無担保(アルゴリズム型)

法定通貨型とは、発行したステーブルコインに対して、同数以上のドルやユーロなどの法定通貨を持つことで価値を維持します。テザーやUSDコインがこの仕組みを採用しています。

暗号資産担保型とは、イーサリアムなどの暗号資産を担保にする形です。代表的な暗号資産には、ダイやサイ、sUSDなどがあります。暗号資産はボラティリティが大きいため、通常は数十%以上余計に担保を入れることが必要です。

コモディティ担保型では、金や銀などのコモディティ商品を担保にします。このパターンはジパングコインやテザー・ゴールドなどと価格が連動するような仕組みをもった暗号資産に多いです。

最後に無担保(アルゴリズム型)では、名前の通り担保となるものを持ちません。その代わりに調整役となる暗号資産との裁定取引(基準より高い場合は発行、安い場合は市場から減らす)を行うことで、価格を調整します。

ステーブルコインのペッグが外れる理由

ステーブルコインのペッグが外れる理由は「調整できないほどの売りが殺到するため」です。

ステーブルコインは、理論上は法定通貨などと同等になるように作られている暗号資産です。しかし、ほとんどのステーブルコインが1ドルを下回った経験があることが示すように、対応できる量には限界があります。

不信感は、ステーブルコインの運営元や仕組みに対しての懸念、預けている銀行の倒産など、さまざまな理由によって生まれます。ステーブルコインを持つ以上、ペッグが外れる可能性を排除することはできません。

多くのステーブルコインは、ペッグが外れても最終的に1ドル付近にまで戻りました。しかし、中には元の水準まで戻すことが難しく、再起が困難なものも存在します。

ステーブルコインを購入する前に、仕組みや過去の出来事を知り、そのリスクを理解するようにしましょう。

主要なステーブルコインの仕組み

ここでは、時価総額ランキング上位にランクインしている、もしくはランクインしていたステーブルコインの概要を解説します。

  • テザー
  • USDコイン
  • バイナンスUSD
  • テラ
  • ダイ

それぞれ詳しく見ていきましょう。

テザー

テザーは現在時価総額3位の暗号資産で、ステーブルコインの代表格ともいえる存在です。多くの海外取引所の通貨ペアとして採用されており、一部では品物の支払い方法としても利用できます。

テザーは米国に本社を構えるテザー社が発行をしている、中央集権的な暗号資産です。担保には、現金、社債、ローンなどで構成される準備金を用意していると公表しています。

同社は四半期ごとに保証報告書を提示しており、常に100%以上の準備金があると主張しています。しかし、中央集権的な色が強い仕組みであり、発行元となるブロックチェーンも存在しないため、その透明性は高くありません。

以前、発行済みのテザーに対して、十分な準備金を用意していなかったとして疑惑をかけられたことがありました。これが「テザー疑惑」であり、市場全体に大きな不安をもたらしました。テザー疑惑については、記事の後半で詳しく解説します。

USDコイン

USDコインは、暗号資産事業を行うサークル社と大手海外取引所のコインベースによって運営されるステーブルコインです。テザーと並ぶ知名度を誇り、時価総額では現在第5位にランクインしています。

発行は、イーサリアムをベースにしてERC-20のルールに基づいて行われています。そのため、運営元は中央集権的な組織であるものの、発行スキーム自体は透明性が高いとして知られている暗号資産です。

去年7月に公表されたUSDコインの準備金557億ドルの詳細は、421億ドルの米国短期国債と136億ドルの現金でした。しかし、未監査で提出されており、信頼性にはやや不安が残ります。

2023年3月には、大部分の現金を預金していたシリコンバレー銀行が破綻し、一時USDコインのペッグが外れた事件が起こりました。すぐに事態は収束したものの、多くの暗号資産投資家に対して不安を与えました。この事件についても、記事の後半で解説します。

バイナンスUSD

バイナンスUSDは、大手暗号資産取引所のバイナンスと暗号資産関連サービスを提供するPaxos社が共同で運営しています。イーサリアムのブロックチェーン上で発行されており、ニューヨーク州金融サービス局の承認と規制により、消費者保護(米国人のみ)が行われます。

現在は時価総額第12位ですが、もともとは常にトップ10に入る暗号資産でした。トップ10から外れた理由は、ニューヨーク州金融サービス局によって発行停止命令を受けたことや、バイナンスからの流出を起こしていたことが考えられます。

取引所の名前がつくステーブルコインということもあり、暗号資産ユーザーからの信頼感がなくなっている様子が感じ取れます。

テラ

テラはテラフォームラボ社が運営しています。担保を取らない無担保(アルゴリズム)型であり、高いステーキング利率を提供する、人気の暗号資産でした。テラは2022年5月に大暴落した際に開発が中断され、現在は別のブロックチェーンを立ち上げて再建が進んでいます。

テラには、一次トークンにテラUSD(現在はテラクラシックUSDに改名)などのステーブルコイン、二次トークンにはルナがあり、価格が不安定になった際には、それぞれの数量を調整していました。例えば、テラUSDが安くなりすぎた場合は、テラを利用して市場の流通量を減らし価格を上げる、というような形です。

テラの崩壊によって多くの暗号資産が暴落しました。この事件は、暗号資産冬の時代といわれる2022年を象徴するものとして、今もなお語られています。

ダイ

ダイは、MakerプロトコルとMakerDAO(自律分散型組織)によって運営されるステーブルコインです。イーサリアムのブロックチェーン上で発行される暗号資産であり、中央集権的な組織が存在しないため、透明性が高いといわれています。

ダイは暗号資産を担保としており、誰でも発行することができます。暗号資産ごとに最低担保率が決められており、原則ダイの発行量以上の預け入れ(100%超)を求められます。もし、最低担保率を下回ってしまった場合は、追加での入金を要請されますが、従わなかった場合は強制清算されてしまう仕組みです。

daistats.comでは、現在担保としてどの暗号資産が、どれほどの割合で預けられているかを確認することが可能です。

ダイはGMOコインやビットバンクなどの国内取引所で購入できます。比較的価格は安定しており、日本円でステーブルコインを購入したい方にはおすすめです。

ステーブルコインのメリット

ここでは、ステーブルコインのメリットを3つ紹介していきます。

  • 暗号資産取引所で取引に使える
  • ステーキングができる
  • 送金が早い

法定通貨としての価値を持ちながら、法定通貨にはない複数のメリットを享受できます。

暗号資産取引所で取引に使える

テザーやUSDコインなど時価総額の高いステーブルコインは、多くの海外取引所で通貨ペアとして採用されています。バイナンスUSDのように、特定のステーブルコインで取引することで、手数料が優遇されることもあります。

また、ステーブルコインには、価値の保存機能としての側面もあります。ステーブルコインを持つことで、幅広い用途に利用できるでしょう。

ステーキングができる

ステーキングとは、自分が持っている暗号資産を、ブロックチェーンや取引所に貸し出すことで配当がもらえるサービスです。特に、長期でステーブルコインを保有する予定の人にはおすすめです。

日本円の定期預金の利率は高くても0.1%程度ですが、ステーキングでは10%近い配当を獲得できることもあります。ステーブルコインにはリスクがありますが、それを差し引いてでもメリットを感じる人は、ぜひ運用してみてください。

送金が早い

ステーブルコインは、国境を跨いで即座に送金することができます。

従来の方法のように、銀行へ法定通貨を預け、長い時間をかけて送金する必要はありません。インターネットにつながったスマートフォンを用意し、ステーブルコインを購入して送金すれば世界中に届けられます。

ステーブルコインのデメリット

続いて、ステーブルコインのデメリットを2つ紹介します。

  • デペッグが発生している
  • 規制リスクがある

それぞれ詳しくみていきましょう。

デペッグが発生している

ステーブルコインは、理論上法定通貨などと価格が連動するように作られています。しかし、これはあくまで理論上であり、十分な準備金を用意できていない場合や取引が集中した際には、デペッグが発生する可能性があります。

過去にも、ステーブルコインに関連する事件は多く発生してきました。時間の経過とともに基準となる価格に戻ることがほとんどですが、中にはテラのように再起不能になってしまったものも存在します。

ステーブルコインを持つ上で、デペッグはもっとも大きいリスクといえるでしょう。

規制リスクがある

ステーブルコインの種類は、年々増え続けています。特性上マネーロンダリングに利用されやすいため、国が強い規制をかける可能性も否定できない状況にあります。

2022年6月、日本では世界に先駆けて、ステーブルコインに関する初めての法律が成立しました。大枠は流通を担う仲介者は登録制にするということで、利用を制限するものではありませんでしたが、今後はユーザー側の法整備も進むと考えられます。

暗号資産取引が盛んな米国で規制が発表された際は、市場に大きな影響を与えることでしょう。

過去にステーブルコインのペッグが外れた事件

最後に、ステーブルコインのペッグが外れたことによって、市場に混乱が起きた事件を3つ紹介します。

2018年10月:テザー疑惑

テザー疑惑は、2017年12月にCFTC(米国商品先物取引委員会)が、テザー社と大手暗号資産取引所のビットフィネックスに対して召喚状を送ったことが発端です。CFTCは召喚状に「テザー社はテザーの裏付けとなるドル資産を十分に保有していない」と記載しており、これをメディアが報じたことで、一気に広がりました。

十分にドル資産を保有していない場合、テザー社は際限なくテザーを発行できることになります。当時はテザーの取り扱いを停止する取引所もあり、一時ペッグが外れる事態もありました。

その後、2018年6月にはテザー社は最終的に第三者機関を通じて、流通量を上回る裏付け資金があることの報告を行い、最終的には1ドル付近まで持ち直しています。

テザー疑惑は過去の事件であり、現在はクリアになってきています。しかし、別で裁判や刑事告発を受けており、信頼を得るためにはまだ時間がかかりそうです。

2022年5月:テラ暴落

テラは無担保(アルゴリズム型)のステーブルコインであり、一次トークンと二次トークンの数量を調整することで価格のバランスを取る暗号資産です。2022年5月9日、テラは一晩にして97%も暴落しました。

この暴落の背景には、アンカープロトコルと呼ばれるステーキングサービスがあったとされています。5月上旬にSNS上で大量の引き出しがあったという噂が広がると共に、大きな不信感も生まれました。その不信感は引き出しを招くだけでなく、二次トークンであるルナも大量に売られています。

売られた際には、もちろんテラのアルゴリズムが働きましたが、あまりの多さに対応することができませんでした。最終的に暗号資産ルナは一晩で97%も下落し、テラUSDは1ドルから5セントほどに落ち着いています。

専門家は、この事件について「そもそも1ドルの価値とみなす根拠はなんなのか?という疑念が発端である。価値のないものでは価値が担保できない」と述べています。

2023年3月:USDコインの担保が引き出し不可に

USDコインは、サークル社と取引所コインベースによって運営される暗号資産です。2023年3月9日、担保となる現金を預けていたシリコンバレー銀行が倒産したことを受け、一時USDコインのペッグが外れる事態が起こりました。

これを受け、暗号資産市場全体が下落したものの、3月26日には地方銀行のFirst-Citizens Bankが買収することを発表しています。その後市場は急回復し、USDコインのペッグも数日後にはほぼ1ドル付近にまで戻りました。

ステーブルコイン自体ではなく、預けている銀行に問題があったことによって、デペッグが起こった事件として知られています。

まとめ

ステーブルコインは、年々新しい銘柄がリリースされてます。今後は銀やプラチナなどのコモディティ商品とペッグされるものも出てくるかもしれません。市場拡大の余地はまだ十分にあります。

ステーブルコインは、暗号資産の中では比較的リスクは低いものの、過去に何度かデペッグも発生しています。法規制が進み各国政府の目も厳しくなる中で、どのような成長を遂げるかに注目していきましょう。

S.G

SG

月間100万PV超えの投資情報サイトや、ニュースサイトなど、暗号資産に関する記事を数多く執筆するフリーランスのライター。自身も2016年から暗号資産投資を行なっており、日進月歩の進化を遂げる暗号資産業界を常に追ってきた。ライター歴は3年で「文章で読者をワクワクさせ、行動に移させる」をモットーに執筆を行う。東南アジア在住、海外留学の経験があり、英語の翻訳記事も得意にしている。
Author